ウルフマン -迷宮ダンジョン攻略の冒険譚-

泥水すする

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第3章

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 かくして、その封印の儀、もとい、ゴーストの殲滅は完了した。
 肉塊と化した魔物達の死屍累々の中で、荒い息を上げるヒポクリフトは脱力し、腰を落とす。
「や、やったの?」
 それは単なる独り言。
 別に誰かの同意を求めたかったわけではない。
 それなのに、ズシズシと重い体を揺らして歩み戻ってくる獣顔は「ああ」と答えて、緑色に染まった掌を見ていた。
「まさか、ゴーストの正体が魔物だったとはな……」
「あ、あれは魔物、だったんですか?」
 驚愕そうに、ヒポクリフトは口を開ける。
「ああ。あれは太古に存在した、イービル・アイという魔物だ。だが、いくら姿形がイービル・アイであったとて、あのような能力はなかった筈だ……何者かが、力を与えてに決まっている」
 何者か、ガンスレイブは語気を強めて、繰り返す呟いた。
 心当たりがあるような、ないような、そんな風ではある。
 多分、薄々はその何者かについて、勘付いているのだろうなーー
 ここまでガンスレイブを見てきたヒポクリフトには、その事が我がごとのようには分かっていた。
 また、ガンスレイブがその事について話し事も無いだろうとは。
「誰、なんでしょう……そんなことができるのって……」
 惚(とぼ)けた口振りで、ヒポクリフトは尋ねてみる。
 どうせ無駄だろうが、せめて聞いておくぐらいならーー
 そうは思う、ヒポクリフトであった。
 そんなヒポクリフトの予感とは、かくも的中する。
 ガンスレイブがヒポクリフトに視線を重ねたそのすぐ後にも、明後日の方向へと、視線を逸らして。
 でた、隠し事をする時の顔だーー
「さぁな?」
 平坦な物言い。
 ほらねーー
 ヒポクリフトは、クスリと口元を緩め、笑った。
「そんなことよりもだ、ヒポクリフトよ、これを返しておく」
 そう言って差し出したガンスレイブの手に、魔浄石は握られる。
 先ほどの眩い閃光はとうに失せきった、そんな水晶玉。
「あれ?何とも、ない?」
「ああ。封印の供物として使用するつもりだったが、何とかそうせずに、済んだ」
 ガンスレイブは言った後、「助かった」とは語尾に取って付けたかのような感謝の言葉を付け加える。
 全く素直ではない。
 でも、それがガンスレイブさんだーー
 ヒポクリフトは微笑み、魔浄石を手に取った。



 最近、一層にガンスレイブの事が分かって気がするヒポクリフト。
 ただ言って、それは最近のガンスレイブの事だけでしかない。
 昔のガンスレイブがどんな存在で、どのような歩みをしてきたのかは未だ謎のままである。
 今わかっている事で言えば、どうやらずっと一人だったわけじゃないという事。
 それは、バードの存在が証明していた。
 また、ガンスレイブが大事そうには抱え込むその遺体の人物もガンスレイブにとって大事な存在であったのだろうーー
 ヒポクリフトの眼に、どこかいつもと雰囲気の異なるガンスレイブの寂しげな横顔は映る。
「アルビダよ……やっと、お前を救い出す事ができた」
 ガンスレイブの言葉が、虚しく響く。
 返事はない。
 アルビダが以前のように、ガンスレイブに優しく笑いかけてくることはもう二度とはない。
 ただ記憶の中でしか、アルビダは笑わない。
 分かってる、それでもーー
 ガンスレイブはアルビダの体をそっと抱きしめると、その冷たい体に、祝福の魔法を施していた。
 祝福の魔法といっても、死者を救済することのできる魔法なんかでは到底ない。
 死者が醜く朽ちて行くその前に、魔力の、その微量子である魔素に変換させ、浄化させる魔法。
 ただのそれだけ。
 それでも、施さないよりマシである。
 少なくともこの時のガンスレイブは、そう思っていた。
 アルビダに出会う前のガンスレイブなら見て見ぬ振りをして去っていくだろう、そんな場面に於いて。
 ガンスレイブは死者を弔う。
 何故か?
 アルビダの体が、キラキラと光輝いていく。
 また小さな光の粒子となって、分解されていく。
「アルビダよ。安らかに眠れ……お前の魂はずっと、俺と共にある」
 やはり返事はない。
 あるわけない。あってはならない。
 死者が口を聞いたりするものか分かっている。
 でも、それでも奇跡があるのなら、アルビダよ、最後に、何か言ってはくれまいかーー
「……奇跡か。よもやこの俺が、そんなものに期待を抱くなんてな」
 ガンスレイブは乾いた声で言って、微笑む。
 アルビダの体が完全に消滅していく間はずっと、そうして微笑んだまま。
 そして、いよいよ消えてなくなっていく前の、
 そんな刹那の事であった。
 ガンスレイブは、誰かの囁き声を聞いた。
『私といて、楽しかった?』
 誰かの声。
 もしかしたら、それはガンスレイブの聞き間違いであるかのしれない。
 普通に考えれば、そうに違いない。
 ガンスレイブの悲壮感が生んだ、幻聴の類い。
 ただ、ガンスレイブはそれでも構わないと、去りゆく粒子に、そっと、呟いた。
「ああ、そうだな。楽しかったよ……」
 返事はもちろん、なかった。


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