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第4章
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しおりを挟むロメスの遺体は直ぐにも発見された。
発見したのは、ロメスの仲間だった者達の2人組。
定時連絡に戻らなかったロメスの様子を確認しに訪れての事であった。
「何が、あったと思う?」
仲間の内の1人(仲間A)が、もう1人(仲間B)に訊ね聞く。
「わからねぇが、只事じゃねぇ殺され方ってことは確かだな」
そう言った仲間Bの目に、身体中から血を吹き出し倒れ伏せるロメスの遺体は映る。
見た感じ、ロメスの体に外傷という外傷は見受けられない。
であるならば、刃物や鈍器による殺傷ではまずない。
「では、死因は魔法の類か……」
仮に魔法だと想定して、その魔法は外傷を一切与えることなくロメスを殺したことになる。
「魔法?おいおい馬鹿言うなよ…」
あり得ないと、仲間Aはすぐ様否定した。
「魔法にしたって、全くの外傷なしに殺せたりするものか。大体、見ろ、このロメスの歪んだ死に顔を…かなり苦しんだ顔してやがる……こりゃあ魔法というよりは、多分、呪術とか、そっち系じゃないのか……」
「呪術だと?」
仲間Bは呆れた表情を作る。
「お前こそ何馬鹿な事を言っている。呪術なんてものが、この世に存在するわけなかろう?それは伝承にしか出てこない禁忌の技だ。よもやそんなものがロメスに使われたと?ふん、馬鹿馬鹿しい…」
「じゃあ何だって言うんだよ?お前は説明できんのかよ!?」
怒鳴る仲間Aに「まぁまぁ落ち着け」とは仲間B。
「とにかく、俺たちだけじゃあ埒が明かない。一先ず、頭(かしら)に報告だ。一旦、上に戻ろう」
「そ、そうは言ったって…ロメスを殺した奴がまだ、この付近にいるかもしれないんだろう?放っておくってのか?」
「仕方ないだろうが、こりゃあ俺たちの手に余る。それに、」
仲間Bは手に持ったそれを、仲間Aへと見せつけて、
「鍵は俺たちが独占してある。今俺たちが鍵を使用したとして、鍵が再生するのはその後だ。猶予はある」
そう言った仲間Bの理屈は、かくも正しい。
というのも、地下階層の鍵とはダンジョンマスター(階層主)と呼ばれる一体の魔物にのみ宿る物とされ、その鍵に二つ目は存在しない。
故に、誰かがダンジョンマスター(階層主)を倒し鍵を手に入れた場合、その誰かが鍵を使用しない限り、新たなダンジョンマスター(階層主)が出現することはないのだった。
次に再生するのは、鍵を使用してから一日か二日経った後になるだろうか。
少なくとも、その間は誰も次の階層に進む事はできないということである。
「そんなに心配するようなことではないさ。確かに、ロメスの死は気がかりだが、全てはこの男が弱くて浅はかだったという、ただそれだけの事だ。だが俺たちは違う…そうだろ?」
仲間Bはニヤリと笑みを零す。
また侮蔑の瞳でロメスの遺体を見下し、唾を吐きかけた。
「醜い豚野郎には、お似合いの死に様さ」
「……まぁ、違いねぇが」
仲間Aと、仲間Bの意見は固まった。
普段から何の役にも立たないロメスの死などどうでもいい、今は俺たちがどうあるべきかーー
そんな薄情とも、最もだと呼べる選択に落ち着き、2人は地下7階層を後にした。
◆◇◆◇
「少し休もうか」
ガンスレイブは地下7階層の一空間で足を止めては、ヒポクリフトに提案する。
「私は別に構いませんが……よろしいのですか?」
「ああ、構わん」
ガンスレイブは了承。
その途端にも、ヒポクリフトは「ふう」と息を漏らし、その場にへたり込んだ。
「助かりました…実はもう、限界だったんです」
歩き疲れましたと、ヒポクリフトは続ける。
「ふん、そうだろうと思った。全く、人間は脆弱が過ぎるのだ」
「そ、そんなぁ……ガンスレイブさんが元気過ぎるんですよ?」
じぃ、とガンスレイブを見るも、やはり平然そうにするは普段通りの獣顔だ。
「何だ、ジロジロと」
「いえ、別に……」
「ふん、変な奴だ」
ガンスレイブは言って、周囲一帯に結界の魔法壁を貼り始めた。
何でもその魔法壁は、ダンジョンを徘徊する魔物から身を守ってくれるらしい。
真実の程は定かではないヒポクリフトではあるが、実際、その魔法壁の貼られている間に魔物の襲撃を受けたことは皆無だ。
どうしてそんな事が出来るのかーー
言って、ガンスレイブだから、とはヒポクリフト。
いつもの如く余計な考えは捨てる。
ヒポクリフトはバックから、毛布を一枚取り出し、包まった。
そして呼吸を落ち着かせ、微睡みがやってくるのを静かに待った。
この時だけは、ヒポクリフトはダイスボードという危険なダンジョンにいるという事実を忘れること事ができる。
そう、安堵できるのだ。
安堵を齎(もたら)してくれる存在こそ、ガンスレイブ他ならない。
ガンスレイブが見守られている安心感とは、自宅の暖かいベッドの上で寝ている時と同様の安らぎに等しい。
ヒポクリフトはゆっくりと目を瞑る。
今日はどんな夢を見るのだろうかと、静かに待っていた、
刹那。
「そろそろだな」
突然、ガンスレイブがそんな事を口にした。
いきなりの事でついて行けてないヒポクリフトとは、目を丸くさせ疑問に思う。
「…そろそろ、ですか?」
「ああ、俺とお前の歩みも、次の階層で終わる」
ガンスレイブは平たい物言いを浮かべる。
ああ、そういうことかーー
「そうですね……ガンスレイブさん、本当にここまで、ありがとうございました」
「礼には及ばない。それに、俺が言い出したことだ」
俺が言い出した、確かにそう言ったガンスレイブの言葉は正しい。
ただ言って、そこにガンスレイブにとってのメリットがあったかと言えば、そうではない。
契約で仕方なく、なんて言ってはいるが、その契約自体、一体どこまでが本当か分かったもんじゃない。
故にヒポクリフトは、ガンスレイブに感謝する他なかった。
「…それでも、助けられたのは事実です。ほんと、ご迷惑ばかりかけて申し訳ありませんでした」
ペコリと頭を下げて、ガンスレイブに微笑みかける。
せめて何かお礼ぐらいさせて欲しい、ヒポクリフトはそんな思いで一杯だった。
ただ言って、ガンスレイブは動じない。
勝手にしろとはその白けた瞳と、ぶっきら棒な態度では語るのみ。いつものガンスレイブ。
何ら変哲もないガンスレイブ。獣顔の、そんな頼もしい姿。
「時にヒポクリフトよ、お前と俺が一緒に歩んで、どれくらいの月日が経っているか知っているか?」
「そう言えば…考えた事ありませんでしたね……」
「何となくでいいから、答えてみろ」
「うーん……数週間、言えてそれぐらいのものでしょうか?」
ヒポクリフトはハッキリとしない口振りで、曖昧な答え。
その答えに、ガンスレイブは「やはりか」と一言。
続けて、
「ダイスボードにいればいるほど、時間の感覚とは狂っていくものだ。それが地上にいた人間であれば尚更に……一年、と言われても、実感などあるまい?」
「一年?何が、一年、なのですか?」
「お前と俺が、共に過ごした時間だ。地下4階層から、今俺達のいる地下7階層までで、少なくとも一年の月日が経過したと、そう言っている」
「!?」
じっとりと、ヒポクリフトのこめかみに、冷ややかな汗の雫は滴る。
「冗談、ですか?」
「俺が冗談を言うように見えるか?」
「いえ、全く」
ヒポクリフトは即答した。
「だろうな。大体、俺は冗談は嫌いだ」
「それにしたってですよ……一年って、話を少し盛っているとしか、考えられません」
「…認めたくないようだな。だが、お前だってこのダイスボードで過ごして分かった筈だ。この場所では、嘘のような出来事が、当たり前のように成り得てしまう。時間の流れもその一つだ。ここは陽も当たらないし、時間を確認できるようなものは何もない。故に、今が朝か夜かを分からないし、知る手段もない。加えて、ダイスボードでの日々は困難でしかない」
実際、今のお前は疲れ果ているーー
ガンスレイブは疲弊しきった様子のヒポクリフトを流し見ては、つくづくそう思っていた。
時間感覚の喪失と、ダイスボードという危険な場所に於ける緊張感と、そして疲労感。
その全てが、ヒポクリフトから時間という概念そのものを、奪い去ってしまっていた。
その結果が今で、
「つまりだ、お前の時間の流れに対する認識が、とうの昔に狂っていたという、ただ其れだけのことだ」
「……そんな」
ヒポクリフトの表情は暗い。余程のショックだったのか、毛布に顔を埋(うず)め、嗚咽を殺しては啜り泣く。
そんなのって、あんまりだよ。だってそれじゃあ、私がこのダイスボードに来た意味ってーー
ガンスレイブを手前、口には出さない。
ただそれでも、押し寄せる悲しみだけはどうする事も出来ずに、ヒポクリフトはただ、泣いていた。
「……確か、余命幾ばくの母親がいると言っていたな?」
「……」
ヒポクリフトは埋めた顔はそのままに、無言で、コクンと、頷いた。
「心中は察する。だが、仮に奇跡(ゴッドブレス)がこのダイスボードにあったにしてもだ、その対価が決して生易しいものでないと、覚悟しておく必要があった筈だ。それを怠った結果が今だ。まだ生きているだけ、お前はマシな方だぞ」
ガンスレイブはツラツラと述べて「それに」と言葉を紡ぐ。
「時期にその心配も、終わる……」
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