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第4章
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しおりを挟むロメスの不可解な死を知らされて、その男は考え込むようには俯き、頭を悩ませていた。
その男ーー名をグラジオ。
集まる数人の男たちに囲まれたグラジオとは、とある組織のリーダーである。
鍛え抜かれた肉体に、無骨な鉄の鎧を着込み、顔にはいくつもの傷痕が生々しく残る。
そんなグラジオとは、このダイスボードでそこそこ有名な冒険者の1人であった。
有名な理由として、グラジオは腕が立つ。
少なくとも彼の拠点である地下8階層に於いて、右に出る者はいない。
豪腕のグラジオ、その呼び名を知らない者はまず地下8階層にはいないだろう。
グラジオがリーダーを務める組織の会合が、今まさに地下8階層のとある一室にて行われていた。
週に一度だけの、話し合う内容なんて対してない、そんな会議。
その日もまた、ただの飲みの場として終わる筈だった。
血相を変えた二人組が、訪れるまでは。
「で、犯人は見つかってないのか?」
グラジオが二人組に尋ねる。
二人組はブンブンと首を縦に振っては、正直に答えた。
自分達は別に疚(やま)しい事なんてしていない。仲間割れじゃない。ほんとだ、信じてくれーー
そう言って頭を下げる二人組は一切、嘘などついていなかった。
ただ、グラジオの冷徹な視線が二人組から下げられることはない。
「で、お前らは仲間の亡骸(なきがら)を見捨てて、尚且つ、犯人の情報を一つも探ろうとはせず、2人おめおめ逃げ帰ってきたと、そういうことでいいんだな?」
グラジオの殺気に満ちた眼光を、二人組にぶつける。
二人組は焦っていた。
まさか、グラジオの意にそぐわない事をしてしまったのか?
次に、二人組の、罪の擦(なす)りつけ合いは始まった。
「……ち、違うんですよグラジオ様!?俺はロメスの仇(あだ)を打とうとしたんですが……それをこいつが!」
「は、はぁ!?お前、何ホラ吹いてやがる!違うんですよグラジオ様!?俺は別に、」
醜態を晒している事は、その場にいる誰の目から見ても確かであった。
また、その時のグラジオが何を思い、これから何をしようとしているのかも、彼をよく知る者からすればよく理解できていた。
故に、その場は凍りついていた。
凍てつくような殺気を放つグラジオを前にして、二人組以外は口を挟めないでいたのである。
そして、
「黙れ」
グラジオの呟いた。
呟いて、気だるそうには立ち上がると、ゆっくり二人組の元へと歩み寄っていく。
二人組がグラジオの殺意に気づいた頃、既にグラジオの拳が振り上げられた後にある。
グラジオの拳が、二人組の片割れの頭を一発にて粉砕した。
まるで潰(つぶ)れた果実のようには、中身をぶち撒けて、辺り一帯を赤く染め上げる。
もう一方とて、恐怖に顔を歪ませた次の瞬間にも、グラジオの拳を顔面に一発。
その命は尽き果てた。
頭部を失った二人組の死体が、その男、豪腕のグラジオの危うさを物語る。
この世界のどこに、拳一つで人間の頭を粉砕できる者が存在しようか?
仮に存在したとして、その者は人か、人外(じんがい)か?
その場に居合わせた者は、迷う事なく彼を人外と認めたことだろう。
そして、グラジオを怒らせたらどういうことになるのか、再度肝に命じたのである。
「こいつらは、仲間の死を潔くは割り切って、知らない顔をしてはこうして戻ってきた。しかも、俺が仕留めたダンジョンマスター(階層主)の鍵を無意味な事には使用し、俺を怒らせた。故の死、これは言わば……断罪だ。お前らも覚えておけ。仲間じゃなくなった者に、どのような末路が残されているのか……ゆめゆめ忘れるなよ?」
グラジオは吐き捨てて、部屋を後にした。
その後ろを、我を忘れた数人は追いかけ、付き従う。
これからグラジオが何をしようとしているのか、彼を知る者ならよく理解している。
つまり、グラジオは処刑を始めようとしているのだろう。
恐ろしいのは、これからであるーー
皆は息の詰まる思いでは、グラジオの背を覗いていた。
自分の所有物であった者を壊されてしまった。
その事実を知らされたグラジオの怒りは、頂点へと達しているに違いない。
だったら、その怒りの矛先(ほこさき)にいる者がどうなるかなんて、分かり切ったことである。
「殺す……殺す……殺す……殺す……」
ブツブツと口ずさむグラジオの声が、皆の体を震え上がらせていた。
足は着実に、地下7階層へと向かっている。
処刑が、始まる。
◆◇◆◇
「寝たか……」
ガンスレイブはヒポクリフトの顔を見つめていた。
目を泣き腫らし、今だ目下には涙の雫が垂れる、そんなヒポクリフトの顔を見る。
余程ガンスレイブの言葉が衝撃的だったのだろう。
ヒポクリフトの泣き声は、睡魔に沈めその瞬間まで止むことはなかった。
今は芋虫のようには毛布に包まり、穏やそうな寝顔をガンスレイブに向けている。
「親を殺してしまう人間もいれば、お前のように、親の死を尊ぶ人間もいる。人間とは、実に不思議な生き物だ」
ガンスレイブはヒポクリフトの目下を伝う涙を指先で拭うと、そっと、頭を撫でた。
小さく、柔らかな人の頭。
特にヒポクリフトは、ガンスレイブが見てきた人間の中でも取り分け幼く、また無垢だ。
「脆弱なお前のどこに、このダイスボードに踏み入る覚悟があったのか……それもまた不思議だ」
今まで幾千、幾万の冒険者、人間たちを見てきたガンスレイブでさえ、未だ彼らの行動はよく理解できていない。
虫のような統一意思があるわけでもなく、子孫繁栄を第一に生きているわけではない。
それは感情という、よく理解のできないものに従っているせいであり、彼らは怒ったり、泣いたり、笑ったり、愛し合ったり、やはり理解不能な意思を各々に抱いて、生きている。
全く理解できないとは言わない。
言わないが、理解しようとしてできるようなものではないとは、そう思うガンスレイブ。
「考えても、無駄だと言うのは分かっている。だが、お前達人間を見ては、時々、思ってしまうのだ。もっと分かりやすい生き方をした方が、お前達にとっても幸福なのではないか、とな……」
そんなガンスレイブの投げ掛けに、答えるものはいない。
仮にヒポクリフトが起きていたとて、その投げ掛けに答えることはできなかったことだろう。
ただ言って、ガンスレイブは別に回答が欲しかったわけでない。
ただ内に溜まった人間達に対する疑問が、口から溢れ出してしまったという、だったそれだけの事に過ぎなかったのだ。
この先もずっと、ガンスレイブは一抹の疑問を口に出してしまうことだろう。
またそれに答えてくれる者は、やはりと言っていない事だろう。
今までもそうだったように、これからもその事に変わりはない。
故に、ガンスレイブは考えるのをやめた。
「さて、行くか……」
ガンスレイブはヒポクリフトの残して、一人どこかに向かう。
その先にいる者達とは、人間。
でも、その人間達を、ガンスレイブは人とは思っていない。
言うなれば、それらは虫で、害虫で。
そんな害虫を、ガンスレイブはこの上なく、嫌っていた。
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