ゾンビを作り出した天才科学者がゾンビだらけの異世界を救う

たろたろぬ

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一章

ソン村脱出②

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「バカ! 身をかがめなさい!! 死にたいの!?」

 思わず立ち上がった俺にこいつが注意する。
 こいつの声の方が大きくて危なっかしい。


「あ、ああすまない」


 俺はすっと気が抜けたように腰を落とし、顔の汗をぬぐう。


「見つかったらどうなるか、見てなさい」
「あ、危ない」


 ちょうどゾンビが振り向いた時、ゾンビの横を走って通り抜けようと男が駆けだした。


「はっ、はっ、はっ、この村さえ出れれああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー」



 男の奇声。そして天に舞う血しぶき。
 ゾンビが素早く振り返り、男の腕をひっかく。それはもはやひっかくというレベルではない。
 もぐ。そう言った方が正しい。
 男の腕が宙に舞い、無情にも地面にたたきつけられる。


「う、うでがああぁぁぁぁーー。お、おい、やめろ。来るな。くるなあああぁぁぁぁぁぁーーーーー」



 くちゃくちゃ、くちゃくちゃ。
 男肉をむさぼりだすゾンビ。
 男の声はだんだんと小さくなっていき、とうとうなくなった。


「う、うそだろ…………………………。なんて力してやがる。こんな力持ってなかったはずだ。本当にこいつらは俺が開発していた…………………………ゾンビなのか?」
「開発? よくわかりませんが、奴らは音に敏感で、さらに視力もかなりたけていて、集団行動に徹しています」


 視力がいい? 集団行動? 
 違う。俺が知っているゾンビとてんで違う。俺たちの世界でゾンビは視力がない。そして脳は完全に機能していないため、集団行動なんてのは不可能なはずだ。
 俺の知っているゾンビとは違うのか?


「こっちです。食べるのに夢中になっているときは安全です。村を抜ければきっと馬車が待っているはずです。さっ、おいていかれる前に、早く」


 俺はうなづき、こいつについていく。
 こいつの言った通り、ゾンビはこちらを見向きもせず、食事に夢中だ。


「さあもうすぐ村の出口です。もうすぐ」

 ちょうど村の出口が見えたところ。そして村の出口から少し離れた先、小さく何かが見える。きっと脱出用の馬車だろう。
 少々気が抜けた瞬間だった。注意がそれた。俺は気づけなかった。


「あああーーー」


 隣から聞こえてくる低い声。
 しまった。
 そう思ったときにはもう遅い。ゾンビの腕はもう振り上げられている。


 ……………………死んだか。
 そう心の中で思った。別に悔いはない。



「あきらめちゃダメっ!!」


 そう発せられた後、俺の体は強い衝撃を受け、地面に叩きつけられる。
 そして俺が襲われていたと思しき場所にこいつ、 ミリーの姿がある。
 

「きゃああぁぁぁぁぁぁあぁあああーーーーー」


 天をも切り裂かんばかりの悲鳴。
 倒れる、ミリー。


 そして、ミリーは声にはならないまでも、俺に何かを伝えようとしている。
 なんだ、なんて言っているんだ。



「………………に、げ……………て」
「うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ、くそがああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー」



 俺は今日初めて、ゾンビに立ち向かった。
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