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第一冊 鈴原 双葉
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窓の外で葉桜がさわさわとゆれる。
「あなたの名前を教えてくれませんか?」
少女はソファに座ったまま可愛らしい笑顔で僕にそう言った。
時を逆戻ることその日の早朝。僕 鈴原 双葉(すずはら ふたば)は自分のクラスの教室にいた。この高校に入って約2ヶ月。まだ中学生っぽさが抜けていないクラスメイトといざこざがあり、今僕は、クラスに友達がいない。
でも、この状況を僕は良いと思っている。なんせ僕の至福のひとときである読書を妨害されないからだ。
クラスの人たちは休み時間に友達とトイレに行ったり、意味もない会話をしたり、昼休みにはご飯を食べたり、放課後にはカラオケに行ったりしているようだけど、どれひとつとして、僕には有益に思えない。
本を読んでいる方がよっぽどましだ。中には何のために学校に来ているのか危ぶまれるのに、呑気に遊び呆けている生徒もいる。…頭がいたくなってきた。
今までの思考を消して読書に集中する。その本の世界に入り込んで…というところで声をかけられた。
机を挟んで真っ正面に一人の女の子が立っていた。彼女は相沢 勇子(あいさわ ゆうこ)、僕の幼馴染みだ。同じ高校だが、クラスは別。
勇子は茶色に染めた長い前髪をかきあげて呆れ顔でこっちを睨んできた。
「な、なに?勇子」
「おはよーって何回も何回も言ったのに気づかないなんて…」
「えっ、あ、おはよう。」全然気付かなかった。
「はぁー、おはよう双葉…」
呆れたように勇子は言った。そして続けて
「そんなんじゃ、一生彼女なんて無理ね」
僕も一生恋とやらと縁を持ちたくない。
「彼女作る気無いから。つくる意味分かんないし」
事実を言っただけなのに、呆れたように溜め息をつく勇子。続けて言う。
「意味分かんないって…あんたね、高校生にもなれば思うもんよ?何となく付き合うのよ」
「何となくって…」と言いかけたところで、僕は反論をやめた。もちろん反論しても良いのだが、ここで論争をしていたら至福の時間が削がれてしまう。
それが幼馴染みとの会話であっても一刻も早く終わらせたいのだ。
返答をしない僕を見て、諦めたようにまた溜め息をつき、勇子は教室を出ていこうとする。しかし、ドアの前で立ち止まり振り返って僕を見た。「まだ何か用?」と尋ねると、
「神楽(かぐら)先輩が昼休み中庭に来いって言ってたわよ」
昼休み
教室で一人でご飯を食べた後、クラス中の孤独の昼食を嘲笑う視線を浴びながら、さっさと中庭に向かう。
僕を呼び出した神楽先輩は、中学時代の勇子のバレー部の先輩である。僕とも少しだが交友がある人で、今回の呼び出しもあの先輩の事だから、告白とかではないだろうと考えていた。
またなんか無茶な頼みだろうなと思いながら歩いていると、中庭についた。中庭にはちょっとした噴水があり、その噴水の近くに先輩はいた。
顔が整った美人で、制服もちゃんと着こなす。その美しさゆえに、彼女のクラスにとどまらず他クラスにもモテモテ。たまにストーカーまがいもいるようで、その対策として僕を彼氏がわりに使うこともしばしばある。
先輩が僕に気づき、おいでおいでと手招きする。
他の人からすれば羨ましく思うだろう。だが、以前ストーカー対策で一緒に帰ったときに襲われて大怪我をしそうにも関わらず、先輩は気にもとめなかった。そんな身からすればこれほど恐ろしいものはないがとりあえず近くに行くことにする。
「悪いわね、昼休みにわざわざ来てもらって」
「いえ。むしろクラスは居づらいので。」
そう。と言うと先輩はブレザーの胸ポケットから鍵を取って、差し出してきた。
「これは?」
「呼び出した理由よ」
この鍵が呼び出した理由?どういうことなのか…と思っていると先輩が校舎の一室を指差した。
その部屋は校舎の一階にあり、カーテンが閉まっていてその隙間からものが積んであるのが見えた。ふと、あんな部屋あったのかと思った。
「その鍵はあの部屋の鍵なのよ。」
「…で、あの部屋がどうかしたんですか?」
「あら?この学校の七不思議、知らないの?」
「初めて聞きましたけど…」
「まあいいわ。とにかく、あの部屋調べてくれる?」
「は?!何で僕が?」
「あなたの名前を教えてくれませんか?」
少女はソファに座ったまま可愛らしい笑顔で僕にそう言った。
時を逆戻ることその日の早朝。僕 鈴原 双葉(すずはら ふたば)は自分のクラスの教室にいた。この高校に入って約2ヶ月。まだ中学生っぽさが抜けていないクラスメイトといざこざがあり、今僕は、クラスに友達がいない。
でも、この状況を僕は良いと思っている。なんせ僕の至福のひとときである読書を妨害されないからだ。
クラスの人たちは休み時間に友達とトイレに行ったり、意味もない会話をしたり、昼休みにはご飯を食べたり、放課後にはカラオケに行ったりしているようだけど、どれひとつとして、僕には有益に思えない。
本を読んでいる方がよっぽどましだ。中には何のために学校に来ているのか危ぶまれるのに、呑気に遊び呆けている生徒もいる。…頭がいたくなってきた。
今までの思考を消して読書に集中する。その本の世界に入り込んで…というところで声をかけられた。
机を挟んで真っ正面に一人の女の子が立っていた。彼女は相沢 勇子(あいさわ ゆうこ)、僕の幼馴染みだ。同じ高校だが、クラスは別。
勇子は茶色に染めた長い前髪をかきあげて呆れ顔でこっちを睨んできた。
「な、なに?勇子」
「おはよーって何回も何回も言ったのに気づかないなんて…」
「えっ、あ、おはよう。」全然気付かなかった。
「はぁー、おはよう双葉…」
呆れたように勇子は言った。そして続けて
「そんなんじゃ、一生彼女なんて無理ね」
僕も一生恋とやらと縁を持ちたくない。
「彼女作る気無いから。つくる意味分かんないし」
事実を言っただけなのに、呆れたように溜め息をつく勇子。続けて言う。
「意味分かんないって…あんたね、高校生にもなれば思うもんよ?何となく付き合うのよ」
「何となくって…」と言いかけたところで、僕は反論をやめた。もちろん反論しても良いのだが、ここで論争をしていたら至福の時間が削がれてしまう。
それが幼馴染みとの会話であっても一刻も早く終わらせたいのだ。
返答をしない僕を見て、諦めたようにまた溜め息をつき、勇子は教室を出ていこうとする。しかし、ドアの前で立ち止まり振り返って僕を見た。「まだ何か用?」と尋ねると、
「神楽(かぐら)先輩が昼休み中庭に来いって言ってたわよ」
昼休み
教室で一人でご飯を食べた後、クラス中の孤独の昼食を嘲笑う視線を浴びながら、さっさと中庭に向かう。
僕を呼び出した神楽先輩は、中学時代の勇子のバレー部の先輩である。僕とも少しだが交友がある人で、今回の呼び出しもあの先輩の事だから、告白とかではないだろうと考えていた。
またなんか無茶な頼みだろうなと思いながら歩いていると、中庭についた。中庭にはちょっとした噴水があり、その噴水の近くに先輩はいた。
顔が整った美人で、制服もちゃんと着こなす。その美しさゆえに、彼女のクラスにとどまらず他クラスにもモテモテ。たまにストーカーまがいもいるようで、その対策として僕を彼氏がわりに使うこともしばしばある。
先輩が僕に気づき、おいでおいでと手招きする。
他の人からすれば羨ましく思うだろう。だが、以前ストーカー対策で一緒に帰ったときに襲われて大怪我をしそうにも関わらず、先輩は気にもとめなかった。そんな身からすればこれほど恐ろしいものはないがとりあえず近くに行くことにする。
「悪いわね、昼休みにわざわざ来てもらって」
「いえ。むしろクラスは居づらいので。」
そう。と言うと先輩はブレザーの胸ポケットから鍵を取って、差し出してきた。
「これは?」
「呼び出した理由よ」
この鍵が呼び出した理由?どういうことなのか…と思っていると先輩が校舎の一室を指差した。
その部屋は校舎の一階にあり、カーテンが閉まっていてその隙間からものが積んであるのが見えた。ふと、あんな部屋あったのかと思った。
「その鍵はあの部屋の鍵なのよ。」
「…で、あの部屋がどうかしたんですか?」
「あら?この学校の七不思議、知らないの?」
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「まあいいわ。とにかく、あの部屋調べてくれる?」
「は?!何で僕が?」
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