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第三幕
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アマユリについては前述した通りであるが、しかし彼女の巨細をろくすっぽ語らずに話を進めてきた気がしないでもない。ややもすれば、ある人は彼女が厳しく近寄り難い、気骨稜稜とした女性に映ったかもしれないし、ある人は渺然たる雪原に素っ裸にむかれて、ぽつねんとたたずむ表象を体感すること請け合いの、その凍てる眼差しに大興奮したかもしれない。
とまれ物語を語る上で、彼女個人についての情報を出し渋ることは不徳であり、終盤までひた隠しにしておいた超絶した能力をもってして万事解決をはかるのはあまりぞっとしない。しかし、これではまるで私に卓抜した先見の明があるみたいだが、そうではない。
私は四次元的な霊的な存在を、極楽浄土あるいは阿鼻地獄へ導くという使命に準ずる神だ。ただそれだけである。然るがゆえに、予知能力の類は具していないので悪しからず。もっとも、他に能力がないわけではない。七天神——神ならではの特筆すべき個々人の特異な能力を逐次紹介する次第である。
すでに私こと語り手こと霊神のカラクラについて、手短にさらりと流すように説明をしたけれど、仔細の解明は機宜を見計らい、改めて述べることにする。目下アマユリの件の叙説が先決であろう。私のことはそのうち、年齢やらスリーサイズやら趣味嗜好やらを赤裸々に唐突に、次回ないし一週間後かそのあたりに暴かれることが必定とされているゆえ、安心立命に日々を過ごされると良い。
さてアマユリである。
彼女とはたいへん長い付き合いである。しかし、およそ彼女は自身のことをあまり他神に打ち明けぬかたむきがあるため、情報の収集はきっと骨が折れるぞ、と思ったのでザハク殿の手をお借りした。ザハク殿は案の定はじめは渋る顔を見せたが、大量の綿菓子を献上してやると、あたかも忠犬のごとく従順になった。そのクルミ型の大きな瞳はけいけいと輝き、口端からよだれを溢している様はどだい最高神のそれではない。綿菓子のたっぷり詰まった袋を欣然として抱きしめる彼女は、たといどんな願いだろうと、「うむ、よかろう!」の二つ返事で叶えてしまいそうな感があった。
かような(チョロい) ザハク殿を此度起用したのは、アマユリがザハク殿に対して効果的であるということを知っていたからだった。アマユリは冷淡に見えて、その実世話焼きであった。ことザハク殿には煮詰めた砂糖のように甘々である。
何にまれアマユリがザハク殿の悪徳を叱るや、食卓にザハク殿の嫌いな食べ物を必ずひとつは用意するよう命ずるや、本当は膝上に乗せて頰ずりしたいくらい溺しているのに素直になれず、素気無い態度を呈してしまうなど、すべては愛情の裏返しである。
なにゆえ我々がアマユリの内情を知悉しているのかといえば、それは彼女が毎夜のようにつけている日記の内容を見た、ということに他ならない。
公表しよう。
ただしアマユリの名誉と我々の身の保全のため、内容の一部のみを抜粋し、ここだけに揮毫することを許して欲しい。しかしご寛恕いただかなくとも、もとより多くを語るつもりはない。ともすると、索漠とした天界の最果てにて、百年の孤独を託つのは御免である。喧伝したのはミーネだ、裁かれるのはミーネただ一人でじゅうぶんなのだ、既往のザハク殿のように容貌峭刻となり、顔中涙でしとどになるのが厭だ。
私は重い筆をとった。
『本日の夕餉はザハク殿の大好きな豆腐ハンバーグでした。可愛らしい小さな手でお箸を上手に使い、パクパクと幸せそうに食べるザハク殿を私が食べてしまいたいくらい可愛い——
私は筆を置いた。名状し難い漠とした不安が、胸奥の底にむらむらと湧き上がるのを感じたからである。動悸がする。私には無理だ、荷が重すぎる。
仕方がないので、ザハク殿から賜った『アマユリの秘密ノート』を紐解くとしよう。大量の綿菓子の返礼が、この一冊の大学ノートであった。無駄に達筆に認められている。しかし表紙に「アマユリの」とか「秘密」などと書くのはやめていただきたい。かてて加えて、ご丁寧に自分の名前を下部に書くのはいかがなものか。
万感の思いで開巻劈頭閲するや、私はあまりの恐ろしさにそのノートを、脊髄反射のごとき速さで閉じてしまった。
私は逃げた。懐柔に懐柔を施した人物がいたのだ。
迂闊だった。
私がザハク殿の動向を閑却したがゆえの帰結だ。嗚呼、もう他人の内実をあばくのは止そう。当座は下界にさまよえる魂を成仏させまくるに専念するとしよう。とまれこうまれ、私はたまゆらの間上界には帰らないと識れ。では、さらば!
——その後、茶室のちゃぶ台の上にあった『アマユリの秘密ノート』を何かなしに開いたチカが卒倒し、駆けつけたミーネもそれを見たのち、身も凍るほどの怖気の自家中毒によって死にかけ、ラウラが彼女たちを介抱する傍、ヴォルトラが例のノートを滅却した。そして、鷹揚な調子でやってきたジエンダが彼女たちの機微に触れるや、アマユリを呼ぶとカラクラに代わり、一同が満腔の謝意を表して事なきを得た。
カラクラは逃げ果せること能わず、わずか三日の内にアマユリによって捕縛された。累を及ぼしたカラクラは責任をとり、一月の間ザハク殿に近侍するという屈辱的な罰が課された。しかしノートに何が認めてあったかを、三者三様断固として言わなかった。
ザハク殿は終始不思議そうな顔をしていた。
$
私が美しき白虎の白尾を踏みふみ、しかるべき報復を受けて幾星霜——あるとき、虚誕妄説をう呑みにしたザハク殿の頓珍漢が炸裂した。
そう、彼女がひとつの世界を勝手に生み出してしまった日である。そして現下、アマユリが事もあろうに直々に下界へ赴き、トラックの運転手である男の手を取り人道をせっせと歩いている。
私たちはザハク殿の創った『のぞき穴』を覗き込み、事の様子を戦々恐々たる心持ちでのぞんでいた。人道の路傍には酔客や塵芥が散乱し、道ゆく人々をどだい人間とは思えぬかしずい麗人の、花のかんばせに酒精の酔いとは懸隔ことなる陶酔が支配した。要は、アマユリの美貌にみんな心を奪われていた。
「どこへ連れて行くつもりなんだろう」ミーネは言った。
「すご~い! ユリユリモテモテ~」チカはひとしく瞳の奥にハートが拍動している愚人達の頭を指で数えながら言った。
運転手の男の狐疑を宿した眼差しが、アマユリの瑰麗たる背姿を追いかけている。
当然である。
突如として現れた美女が、有無を言わさず強引に先導するのだから、当惑するのも無理はない。ザハク殿による時の流れを著しく遅緩させる力をアマユリが解き、彼のいっとう望まぬ殺人の阻止を担ったのだろう。お節介焼きの彼女のことだからきっと、ザハク殿に代わって非礼を詫び、便宜をはかるための落ち着ける場所を探しているに違いない。
しかしなにゆえザハク殿は轢殺をさせようなどという、かくも厳酷な仕打ちをあろうことか愛重すべきトラックの運転手に与えんとしたのだろうか。異世界へ招くにつけても、その工程を踏む必要は果たしてあっただろうか。私はザハク殿に問うた。
「ザハク殿、お尋ねしたい事があります」
「なんじゃ」
彼女はジエンダの膝上でふんぞり返った。私とザハク殿は、のぞき穴をへだてて対面する形である。
「なぜ運転手さんにあのようなことを?」
「あれか、あれはなあ......」
ザハク殿は顎を引き腕を組んだ。
「どんな奴か試してやったのじゃ、うん」
「試した?」
「そうじゃ。誰でも良いわけではないからな、わしがふさわしいと判断した者のみをあちらの世界へ送ってやる」
「と言いますと?」
ザハク殿は眉宇をひそめ、そして深くため息を吐いた。
「平気な顔をして人を殺すような物騒な人間を、わしが選ぶはずがなかろう。もしあの男があの場ではばかりなく轢殺しようものなら、わしが彼奴を殺しておったところじゃ」
「なるほどね、ザハク殿の方が物騒ね」
とラウラが言った。
ヴォルトラが背後からラウラの口を塞いだ。
「それでは、あの男はザハク殿のお眼鏡にかなったということでしょうか」
私は尋ねた。
「左様......、と言いたいところだが、アレは単純にわしの興味本意じゃ。先も言ったが、わしはヤツの皮の下に秘匿する玄奥思想を暴きたい。ただ、それだけじゃ」
それに、とザハク殿は続けた。
「見てくれは悪くないしの。他にもいろいろ楽しめそうじゃ」
くすくすと狡智的な笑みを浮かべる。
限りなく無邪気に近い邪悪が彼女である。彼女を興がらせたのが運の尽きだ、と私は憐憫の念を運転手の男に感じてならない。実は怪異のひとつとして人口に膾炙されている神隠しの正体は、もっぱらザハク殿であるというとんでもない統計がある。もはや人さらいである。
神に憑かれる理由は三つ。神を怒らせるか、神に見初められるか、神の悪戯のいずれかである。いわんやこの度はふたつ目とみっつ目の理由とが半分だろう。それにしても懲りないお方だ、のちのちアマユリの愛の仕置きが待ち受けていることは自明の理ではないか。そんなに罰を受けたいか。裁く役儀に倦んでしまって、とうとう自分が裁かれたくなったのか。
いかん、これではザハク殿が弩級の変態、あるいはただのお馬鹿さんとして天界に名を馳せることになる。威厳もヘッタクレもない。せめて事態の悪化を防ぐため、ザハク殿が下界へ行くことだけは阻止せねば!
私は叫んだ。
「ザハク殿!」
返事はなかった。あたりを見回すと、皆はきまりが悪そうに視線をそらす。やがてジエンダの膝元に目を凝らしたけれど、形の良い脚に茄子色の着物が纏っているばかりであった。
「ザハク殿は?」
「え、えっとね......ついさっき、穴の中へ飛び込んで行ったけど......」
ジエンダはしどろもどろに答えた。私は焦慮の念に駆られた。
「いけないわ! はやく連れ戻さないと!」
矢庭に穴の中を覗き込んだ。私は口許をハッと抑えた。
まずい、どうしよう。
ザハク殿が、車に轢かれている。
とまれ物語を語る上で、彼女個人についての情報を出し渋ることは不徳であり、終盤までひた隠しにしておいた超絶した能力をもってして万事解決をはかるのはあまりぞっとしない。しかし、これではまるで私に卓抜した先見の明があるみたいだが、そうではない。
私は四次元的な霊的な存在を、極楽浄土あるいは阿鼻地獄へ導くという使命に準ずる神だ。ただそれだけである。然るがゆえに、予知能力の類は具していないので悪しからず。もっとも、他に能力がないわけではない。七天神——神ならではの特筆すべき個々人の特異な能力を逐次紹介する次第である。
すでに私こと語り手こと霊神のカラクラについて、手短にさらりと流すように説明をしたけれど、仔細の解明は機宜を見計らい、改めて述べることにする。目下アマユリの件の叙説が先決であろう。私のことはそのうち、年齢やらスリーサイズやら趣味嗜好やらを赤裸々に唐突に、次回ないし一週間後かそのあたりに暴かれることが必定とされているゆえ、安心立命に日々を過ごされると良い。
さてアマユリである。
彼女とはたいへん長い付き合いである。しかし、およそ彼女は自身のことをあまり他神に打ち明けぬかたむきがあるため、情報の収集はきっと骨が折れるぞ、と思ったのでザハク殿の手をお借りした。ザハク殿は案の定はじめは渋る顔を見せたが、大量の綿菓子を献上してやると、あたかも忠犬のごとく従順になった。そのクルミ型の大きな瞳はけいけいと輝き、口端からよだれを溢している様はどだい最高神のそれではない。綿菓子のたっぷり詰まった袋を欣然として抱きしめる彼女は、たといどんな願いだろうと、「うむ、よかろう!」の二つ返事で叶えてしまいそうな感があった。
かような(チョロい) ザハク殿を此度起用したのは、アマユリがザハク殿に対して効果的であるということを知っていたからだった。アマユリは冷淡に見えて、その実世話焼きであった。ことザハク殿には煮詰めた砂糖のように甘々である。
何にまれアマユリがザハク殿の悪徳を叱るや、食卓にザハク殿の嫌いな食べ物を必ずひとつは用意するよう命ずるや、本当は膝上に乗せて頰ずりしたいくらい溺しているのに素直になれず、素気無い態度を呈してしまうなど、すべては愛情の裏返しである。
なにゆえ我々がアマユリの内情を知悉しているのかといえば、それは彼女が毎夜のようにつけている日記の内容を見た、ということに他ならない。
公表しよう。
ただしアマユリの名誉と我々の身の保全のため、内容の一部のみを抜粋し、ここだけに揮毫することを許して欲しい。しかしご寛恕いただかなくとも、もとより多くを語るつもりはない。ともすると、索漠とした天界の最果てにて、百年の孤独を託つのは御免である。喧伝したのはミーネだ、裁かれるのはミーネただ一人でじゅうぶんなのだ、既往のザハク殿のように容貌峭刻となり、顔中涙でしとどになるのが厭だ。
私は重い筆をとった。
『本日の夕餉はザハク殿の大好きな豆腐ハンバーグでした。可愛らしい小さな手でお箸を上手に使い、パクパクと幸せそうに食べるザハク殿を私が食べてしまいたいくらい可愛い——
私は筆を置いた。名状し難い漠とした不安が、胸奥の底にむらむらと湧き上がるのを感じたからである。動悸がする。私には無理だ、荷が重すぎる。
仕方がないので、ザハク殿から賜った『アマユリの秘密ノート』を紐解くとしよう。大量の綿菓子の返礼が、この一冊の大学ノートであった。無駄に達筆に認められている。しかし表紙に「アマユリの」とか「秘密」などと書くのはやめていただきたい。かてて加えて、ご丁寧に自分の名前を下部に書くのはいかがなものか。
万感の思いで開巻劈頭閲するや、私はあまりの恐ろしさにそのノートを、脊髄反射のごとき速さで閉じてしまった。
私は逃げた。懐柔に懐柔を施した人物がいたのだ。
迂闊だった。
私がザハク殿の動向を閑却したがゆえの帰結だ。嗚呼、もう他人の内実をあばくのは止そう。当座は下界にさまよえる魂を成仏させまくるに専念するとしよう。とまれこうまれ、私はたまゆらの間上界には帰らないと識れ。では、さらば!
——その後、茶室のちゃぶ台の上にあった『アマユリの秘密ノート』を何かなしに開いたチカが卒倒し、駆けつけたミーネもそれを見たのち、身も凍るほどの怖気の自家中毒によって死にかけ、ラウラが彼女たちを介抱する傍、ヴォルトラが例のノートを滅却した。そして、鷹揚な調子でやってきたジエンダが彼女たちの機微に触れるや、アマユリを呼ぶとカラクラに代わり、一同が満腔の謝意を表して事なきを得た。
カラクラは逃げ果せること能わず、わずか三日の内にアマユリによって捕縛された。累を及ぼしたカラクラは責任をとり、一月の間ザハク殿に近侍するという屈辱的な罰が課された。しかしノートに何が認めてあったかを、三者三様断固として言わなかった。
ザハク殿は終始不思議そうな顔をしていた。
$
私が美しき白虎の白尾を踏みふみ、しかるべき報復を受けて幾星霜——あるとき、虚誕妄説をう呑みにしたザハク殿の頓珍漢が炸裂した。
そう、彼女がひとつの世界を勝手に生み出してしまった日である。そして現下、アマユリが事もあろうに直々に下界へ赴き、トラックの運転手である男の手を取り人道をせっせと歩いている。
私たちはザハク殿の創った『のぞき穴』を覗き込み、事の様子を戦々恐々たる心持ちでのぞんでいた。人道の路傍には酔客や塵芥が散乱し、道ゆく人々をどだい人間とは思えぬかしずい麗人の、花のかんばせに酒精の酔いとは懸隔ことなる陶酔が支配した。要は、アマユリの美貌にみんな心を奪われていた。
「どこへ連れて行くつもりなんだろう」ミーネは言った。
「すご~い! ユリユリモテモテ~」チカはひとしく瞳の奥にハートが拍動している愚人達の頭を指で数えながら言った。
運転手の男の狐疑を宿した眼差しが、アマユリの瑰麗たる背姿を追いかけている。
当然である。
突如として現れた美女が、有無を言わさず強引に先導するのだから、当惑するのも無理はない。ザハク殿による時の流れを著しく遅緩させる力をアマユリが解き、彼のいっとう望まぬ殺人の阻止を担ったのだろう。お節介焼きの彼女のことだからきっと、ザハク殿に代わって非礼を詫び、便宜をはかるための落ち着ける場所を探しているに違いない。
しかしなにゆえザハク殿は轢殺をさせようなどという、かくも厳酷な仕打ちをあろうことか愛重すべきトラックの運転手に与えんとしたのだろうか。異世界へ招くにつけても、その工程を踏む必要は果たしてあっただろうか。私はザハク殿に問うた。
「ザハク殿、お尋ねしたい事があります」
「なんじゃ」
彼女はジエンダの膝上でふんぞり返った。私とザハク殿は、のぞき穴をへだてて対面する形である。
「なぜ運転手さんにあのようなことを?」
「あれか、あれはなあ......」
ザハク殿は顎を引き腕を組んだ。
「どんな奴か試してやったのじゃ、うん」
「試した?」
「そうじゃ。誰でも良いわけではないからな、わしがふさわしいと判断した者のみをあちらの世界へ送ってやる」
「と言いますと?」
ザハク殿は眉宇をひそめ、そして深くため息を吐いた。
「平気な顔をして人を殺すような物騒な人間を、わしが選ぶはずがなかろう。もしあの男があの場ではばかりなく轢殺しようものなら、わしが彼奴を殺しておったところじゃ」
「なるほどね、ザハク殿の方が物騒ね」
とラウラが言った。
ヴォルトラが背後からラウラの口を塞いだ。
「それでは、あの男はザハク殿のお眼鏡にかなったということでしょうか」
私は尋ねた。
「左様......、と言いたいところだが、アレは単純にわしの興味本意じゃ。先も言ったが、わしはヤツの皮の下に秘匿する玄奥思想を暴きたい。ただ、それだけじゃ」
それに、とザハク殿は続けた。
「見てくれは悪くないしの。他にもいろいろ楽しめそうじゃ」
くすくすと狡智的な笑みを浮かべる。
限りなく無邪気に近い邪悪が彼女である。彼女を興がらせたのが運の尽きだ、と私は憐憫の念を運転手の男に感じてならない。実は怪異のひとつとして人口に膾炙されている神隠しの正体は、もっぱらザハク殿であるというとんでもない統計がある。もはや人さらいである。
神に憑かれる理由は三つ。神を怒らせるか、神に見初められるか、神の悪戯のいずれかである。いわんやこの度はふたつ目とみっつ目の理由とが半分だろう。それにしても懲りないお方だ、のちのちアマユリの愛の仕置きが待ち受けていることは自明の理ではないか。そんなに罰を受けたいか。裁く役儀に倦んでしまって、とうとう自分が裁かれたくなったのか。
いかん、これではザハク殿が弩級の変態、あるいはただのお馬鹿さんとして天界に名を馳せることになる。威厳もヘッタクレもない。せめて事態の悪化を防ぐため、ザハク殿が下界へ行くことだけは阻止せねば!
私は叫んだ。
「ザハク殿!」
返事はなかった。あたりを見回すと、皆はきまりが悪そうに視線をそらす。やがてジエンダの膝元に目を凝らしたけれど、形の良い脚に茄子色の着物が纏っているばかりであった。
「ザハク殿は?」
「え、えっとね......ついさっき、穴の中へ飛び込んで行ったけど......」
ジエンダはしどろもどろに答えた。私は焦慮の念に駆られた。
「いけないわ! はやく連れ戻さないと!」
矢庭に穴の中を覗き込んだ。私は口許をハッと抑えた。
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ザハク殿が、車に轢かれている。
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