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第4話 人々の思惑
しおりを挟む「いつから気づいてたんだ?」
「顔が同じなのよ?」
「髪型違うし、俺は分からなかったけど。」
「私が生まれる少し前に亡くなったって聞いたことあるの。」
「へー。」
「母がよく言ってたわ、ミナと兄は顔が同じだって。」
「なら、感動の再開だろ?どうして長はお前に告げなかったんだ?」
「分からない。」
「俺だったら嬉しさのあまり言うけどな…。」
違う。言わなかったのは長なりの優しさなのだろう。
死んだ人間は記憶を失うことが多い。
しかし、兄は全て覚えていたはずだ。
その記憶を私に話さなかったのは、酷すぎる死だったから。
私は1度、亡くなっているはずの兄とあったことがあった。
兄だと確信できたのは、自分と瓜二つの顔だったから。
そして、私はそこで死んだのだ。
ハルの持っていた、スナイパー用の銃で…。
死ぬ直前に見えた兄の顔は殺意に満ちていた。
side OSA
俺の目の前で妹が死んでいく。
妹の背後には銃を持っている男が無邪気に笑っていた。
「許さない。」
俺の妹を殺したこの男を、殺す。
でも人間とは不思議な生き物で人生における新たな分岐ができ、一方ではハルが死に、もう一方ではハルは生き続け未来へ繋がるという出来事が起こるらしかった。
その分岐は幾重にも連なり、まるでハルが生き返って存在しているように思えた。
俺はそれらの分岐に存在しているハルを何度も何度も殺してきた。
それは、ほとんど無意識にも近く、ハルを殺すために自分がここにいると錯覚するほどだ。
俺はハルを殺し続けると共に情報収集も手掛けていた。
調べていくうちにとある真実に行き当たった。
ハルの所持していた十字架とスナイパー用の銃は、現在ここの死者をまとめている長の特別な力で変化させたものだったのだ。
長に詰めよった結果、長は暇つぶしに持たせたのだと白状した。
例えどんな答えであっても許せなかったとは思うが、暇つぶしに妹を殺された俺の怒りは測りきれないものだった。
その日から数日かけて、俺はそこにいた死者を殺して回った。
長だけを殺せばすむ話なのだが、長殺しは大罪であるため俺も死ななければならない。
それを回避するため、ここに存在していた死者を皆殺しにする必要があったのだ。
そしてその日から俺は長となり、この死者の地を治めることになった。
暫くすると、俺の妹であるミナがここ、死者の地に現れたことは予想外の出来事だった。
出会えたことの嬉しさのあまり声を掛けようと試みたが、死者の多くは記憶をなくしている。
ミナの死の記憶を呼び起こすことは躊躇われた。
俺は長としてミナを自分の従者として指名することで安全を守ってきた。
それなのに、ミナは自分を殺したハルを庇い自らの命を投げ出した。
いくらミナだからとはいっても掟を守ってもらわなければこの地の秩序がなくなってしまう。
(だからと言っても、どうしてミナが死ぬ理由には値しない。)
目の前で息絶えていく少年を見て言う。
「お前の犯した罪は、消えない。」
何度、俺の手から妹を奪う?
何度、奪えばお前は満足なんだ?
* * * * *
私はこの死者の地で唯一成長しなかった。
私がここに来てから手にかけたハルでさえもう大人になっているというのに。
「私は相変わらず、5歳の姿のまま。」
そう呟くと悲しくなる。
まるで自分だけ、時間が止まった中にいるように思えた。
「仕事を投げ出して何をしているかと思えば…何かあったのか?」
「長、どうして私は成長しないんですか?」
「……思い残したことでもあるんじゃないか?」
なるほど、その思考には行きつかなかった。
「思い残したこと、か…。」
「まあ、焦らなくてもお前には無限に時間がある。ゆっくり解決すればいい。」
「…はい。」
そう言い残すと長は立ち去る。
「…おにいちゃん。」
長には聞き取れないくらいの小さな声で呟いてみる。
私には、生前の記憶が残っていた。
しかし長は、気づいていないだろう。
「逆、だったりして…。」
思い残したことがある人が成長するのではないか。
そうなると、私以外の人は思い残したことがあるということになるが…。
「まあ、いいか。」
そう思い、慌てて長の後を追う。
(少なくとも今、考えるべきじゃない。)
* * * * *
「俺も一緒に死ぬか?」
「え?」
昔のことを思い出していると、いきなりハルが変なことを言い出した。
「だってお前がいないんじゃ、つまらないしな。」
「じゃあ、頼み事してもいい?あの小さいハル君が高校生になって、もし私の妹と接触するようなことになったら、この手紙を届けてほしいの。」
「俺は引き受けるなんて言ってないぞ。」
「その後に死にたいなら死んでいいから!せめてこの手紙を届けてほしいの。」
「……わかったよ。届ければいいんだな。」
「うん、ありがとう。」
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