とある男に惚れた女の末路

雪月花

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第3話 想い人

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「だろ~?」
「ええ、そう思うわ。」
「ハルもそう思うよな!」
「まあ、な。」


俺たちは今、下校中だ。
そこには今日、転校してきたばかりの山田美奈がいる。


「にしても美奈ちゃんもこっちの方向なんだな…。」
「ええ、でも古い家で…。」
「ここら辺の家は全部古いからな!!」
「そうなの?どの家も綺麗で羨ましい限りよ。」
「そんなことないさ。」


近くで見ると、やはりあの子にそっくりだ。
違うところを探すのが大変なくらい…。


「それじゃ、俺はここで曲がるわ、じゃあな。」
「は?」
「ええ、また明日。」
「へ?」


なんで女の子と二人きりにならなきゃいけないのか、と思う。
そもそも、あいつ今まであそこで曲がったことないんだが…?


「……。」
「……。」


会話がない。
もとから俺はノリがいい訳ではない。
加えて、あの子に酷似している山田美奈が隣にいるのだ。
俺の口を閉ざす理由としては十分すぎるほどだ。
しかし、無言で歩くのはさすがに気まずいと思っていた。


「あの…。」
「何。」


彼女から話しかけられたが、素っ気ない返事をしてしまう。
だが、気にした様子もなく彼女は話し続ける。


「私の姉のこと知ってますか?」
「いや、お姉さんがいることも今初めて知ったくらいだしな。」
「もう、亡くなってるんですけど…私によく似た人なんです。」


心当たりがあるといえばある。
それは山田美奈に似ている人を俺は知っているというだけだが。
しかし、どう答えたら良いものか分からなくなり、思わず黙ってしまう。


「私の姉、私が産まれる少し前に亡くなっていて…。」


なるほど、俺の初恋は幽霊だったということか。
この子の言うことを信じれば、だが。


「両親は相当ショックだったらしくて、私にも同じ名前を付けたらしいんです。」


仮に、彼女の言っていることが真だとすると、俺は初恋のあの子の名前も今初めて知ったことになる。


(俺、あの子のこと何も知らなかったんだよな。)


今になって突き刺さる事実が俺を包み込む。


「でも私、幼い頃山の中で見たんです。」
「お姉さんを?」
「はい…。会ったこともないのにって皆信じてくれなかったんですけど、確かに姉だと思いました。だって、私と同じ顔だったんですよ?普通、ありえませんよね。」
「ああ。」

そこで俺は疑問に思った。
なぜその話を俺だけにするのか。
だから、俺はこの疑問を投げかけてみようと試みる。


「でも、見たんです。1回だけですけど…。」
「話の腰を折るようで悪いが、そんな話を何故俺にする?3人で帰っているときに話題にしても良かっただろう?」
「…私が姉を見たとき、言ったんです。長岡ハルも私が見えたって。」


ここまで言われて、さすがの俺も信じる気になった。
なぜかと聞かれると明確な理由はわからないのだが、この感情は恐らく同情に似ているだろう。
もし仮に嘘だとしても、ここまで的確に辻褄を合わせることなど俺の知る高校生では出来なかったからだ。
よって、これまでの話は真実であると直感的にそう思った。


「あの、長岡さんも姉に会ったことありますよね…?」
「山田さんと似ている人とは幼い頃に交流があった。だが、それが本当に山田さんのお姉さんかは分からない。」
「それだけでも充分です!あの、突然の提案で申し訳ないのですけど、明日は学校も休みですし、姉と出会ったところへ連れて行って貰えませんか?」
「あ、ああ。別に構わないが…。」


それから明日の詳細を決めると俺らは別れた。



次の日、待ち合わせの時間より早く到着してしまった俺は、先程母親から受け取った手紙に目を通すことにした。


「ハルちゃーん、手紙が届いているけど…はい。」
「は?今渡すのかよ…。」
「どうせ暇なんだから、読んで待ってなさいよ。」


今朝、母親と交わした会話が脳裏を掠めた。
改めて、渡された手紙に神経を集中させる。
差出人なし。俺の名前と住所だけが書いてあった。
中を開くと3枚程度の紙が入っているだけだ。
その、始めの一文に俺は息を飲んだ。



ハル君へ

この手紙があなたに届く時、一体何歳になったのでしょうか。
この手紙を読んでいるということは、きっと私の妹と知り合っていることでしょう。
そこであなたは、何故私が姿を消したのか、きっと気になっているはずです。
答えは簡単です。
私は大罪を犯したから。
なので、私はハル君が小学生に上がる日に死ぬことになります。
私の大罪とはハル君、あなたが今生きていることと関係しています。
本来あなたは5歳の頃、山へ遊びに行った際、帽子を目深に被った男の人に接触し、私たち死んだものが稀に持つとされる特別な力を譲渡させられるのです。
その特別な力とは殺戮。簡単に言うと見たものを殺してしまいたいという欲望が膨らみ、実際に殺してしまうという恐ろしいものです。
この力は通常、その人の理性によって抑えられれるものですが、まだ幼いあなたにはできない芸当です。
なので、その力を譲渡されたあなたはその欲望に犯され、この村の人を皆殺しにすることになります。
あなたが今そうなっていないのは、ハル君が私に着いてきてくれたからです。
ありがとう。
そういえば私の名前を教えていませんでしたね。
私の名は山田ミナと言います。



ミナと名乗った、俺の初恋の人は俺の知らない未来を知っていた。
俺が人殺しなどできるはずはないが、ミナがこの手紙で嘘を書くとも思えない。
にわかには信じ難いが、それが本来起こりうる現実だったのだろう。
しかし、俺は生きている。
ミナが生かしてくれたお陰で俺は今ここにいるのだ。
感傷に浸っていると、あともう1枚の便箋があるらしかった。



それから、私の妹と名乗る女の人に気をつけてください。
これは私のただの勘ですが、彼女はおそらくーーーー





「ハルさん…待たせてしまったようですね、すみません。」



突然、声を掛けられて心臓が止まるかと思った。


「いや、大丈夫だ。」
「何を読んでいたんですか?」
「なんでも…じゃ、行くか。」


俺は美奈に手紙の内容を見られないように注意しながら乱雑にしまうと歩き出した。
目的地は山田ミナと初めてあった場所。
昨日、美奈が行きたいと言っていた場所だ。



彼女はおそらくーーーー



「ここで出会ったんですね、ハルさんとミナは。」


そこで俺は初めて違和感を覚えた。
彼女は俺の前で姉をミナと呼び捨てにしたことはない。
慌てて後ろを振り返ると共に、喉元に圧迫を感じた。


「俺も、ここで出会ったんだ。初めてな。」


聞き覚えのない声が耳に届き、薄く目を開くとそこには先程までの山田美奈はいなかった。



彼女はおそらく…女じゃない。



「ハル…お前は生きる資格がない。」


目の前が霞んでいく。
山田美奈ではないはずなのだが、面影があった。
近くには長い髪が投げ捨ててある。
きっとカツラだったのだ。


「お、お前は……。」


答えを聞くことが出来ないまま、俺は意識を手放した。


「お前の犯した罪は消えない。」


その言葉を最後に。



彼女はおそらく…女じゃない。
ううん、その前に私には妹なんていないの。
きっと彼は、私の実の兄。
長なんじゃないかな…。
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