悪役令嬢はBL作家「処刑覚悟で萌えますわ!」~婚約者の王子様ごめんなさい、あなたをネタに小説書いてます~

すえつむ はな

文字の大きさ
75 / 404
第二章 ゲーム開始

036 公爵令嬢のライバル令嬢、泣く

しおりを挟む
「ちょっとあなた方、うるさいですわよ!」

 メリーローズたちのグループが座っているテーブルの前に、堂々たる仁王立ちの少女がいる。
 縦ロールにしたダークブラウンの髪と青い瞳の、いかにも気が強そうな美少女だ。

 そう。何を隠そう、この少女こそメリーローズのライバル、ブロムリー公爵令嬢…………ではなく、その取り巻きをしているクローディア・パクストン伯爵令嬢である。

 当のブロムリー公爵令嬢ミルドレッドは、彼女の後ろで小さく震えていた。
 ミルドレッドはプラチナブロンドの髪に明るい琥珀色の瞳で、見た目の色彩も薄いが、存在感も薄い。

「何が『ノブレス・オブリージュ』でございますかしら。公共の場であるカフェテラスでこんなに騒がしくしておいて、よくもまあ偉そうですこと!」

 声が大きく――シルヴィアは(どちらがうるさいんだか)と内心で突っ込みを入れていた――態度も大きいクローディアに対し、ミルドレッドはその後ろにひっそりと立ち、泣きそうな顔をしながら、聞こえるか聞こえないかの声で、クローディアの袖を引っ張っている。

「お願い……クローディア……やめて……お願い……」


 その時、クローディアの立ち位置からは陰になって見えにくい席に座っていた、漆黒の巻き毛の少年が立ち上がった。

 先ほどまでは、女性だけのグループに見えるほど、きゅるんとした愛らしい笑顔で溶け込んでいたフェリクスは、今や瞳の奥に剣呑な光を宿し文句をつけてきた相手を睨んでいる。
 男性としては小柄であるが、さすがにクローディアの前に立つと、頭半分近く背が高い。

 その迫力と、相手が誰なのかに気づいたクローディアが、たじろいで後退った。

「君、僕らのことを騒がしいと言ったかい? 変だな。それほど大きな声で会話していた記憶は、ないんだけど」

 ニッコリと口元は笑っているけれど、目は笑っていない。
 むしろ怒ってる。怖い。
 実際に睨まれていないメリーローズでも怖いのだから、クローディアは相当恐ろしいだろう。

「あ、あ……あのっ……」

「それとも、話していた内容が、耳障りだったのかな? 君の後ろで震えている彼女ミルドレッドの、ライバルと目されるメリーローズ嬢を、褒め称えていたしね?」

「いやっ、そんな、その……」

 図星を刺されたクローディアの、声が震えた。
 後ろのミルドレッドは、くすん、くすんと既に泣き出している。

(さすがに、これはヤバい)

 自分でもまたフェリクスを恐れていたメリーローズだったが、勇気を振り絞って声を掛けた。

「フフ……フェリクス様。もう、その辺で」

 つい噛んでしまったのは、見逃して欲しい。
 あと、笑ったわけではない。

「ミルドレッド様が泣いていらっしゃいますわ。お可哀想に。……それから、クローディア様」

「な、何…………じゃない、は、はい」

 クローディアは、メリーローズに対しては強気で構えようとしていたが、フェリクスにジロリと見られて素直に返事をした。

 そんなクローディアに、メリーローズは小さく頭を下げる。

「ありがとうございます」

「……へ?」

 これにはクローディアだけでなく、その場にいた皆が驚いた。

「実はわたくしも、あまりに皆様からお褒めの言葉をいただき過ぎて、少々恥ずかしかったのですわ。その流れを止めていただき、お礼を申し上げます」

「あ、そ、えっと、……い、いいってことですわよ」

 メリーローズに難癖をつけたのに、逆に礼を言われるとは思っていなかったのだろう。
 どう対応したらいいのか、わからなくなっているらしい。

 そこに、ミルドレッドが再びクローディアの袖を引っ張って囁いた。

「もう……お部屋に帰りましょう……。……ね? ……お願い……」

「わ、わかりましたわ」

 ミルドレッドは改めてフェリクスに告げる。

「お騒がせして……本当に、……本当に、……申し訳、ございませんでした…………」

 小声で謝罪すると、クローディアを伴ってカフェテリアから退出した。

 この一連の流れの間、シルヴィアはじっくりと観察していた。
 疑惑のあるミュリエルやヘザー、アデレイド、そして何より危険人物のフェリクスを。

 ランズダウン家でメイドとして働きだして、すでに六年のキャリアがある。
 メイドは主人の表情を読み、彼らが望むものを、命令が出る前に素早く用意する能力を求められるものだ。

 最近では、メリーローズのBL小説を読みはじめ、その中での登場人物の感情の動きと、それに伴う表情や仕草などを知るにつれ、ある程度他人の心が掴めるようになっていた。
 更にシルヴィアには『気を読む』という能力もある。

 これにより、その場の誰も気づいていない、ある人物の感情に気がついたのだった。


「間違いありません。フェリクス殿下は、お嬢様にひとかたならぬ感情、はっきり申し上げて『恋情』を抱いていると確信しました」

「は……はあああ?」

 寮に戻り、シルヴィアからそう告げられたメリーローズは、素っ頓狂な声をあげる。

 なにしろフェリクスと言えば、ミュリエルを恋い慕うあまり、彼女の敵と判断した相手を、闇に葬るヤバキャラなのだ。
 なけなしの勇気を振り絞ってあの場を収めたメリーローズは、ソファに体を投げ出しながら笑った。

「そんなフェリクスが、わたくしを?……ないない! ありえない!」

 そう否定したメリーローズだったが、その考えを改めざるを得ない事件が起こる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい

藤原遊
ファンタジー
悪役令嬢×婚約者の策略ラブコメディ! 「アイリス・ルクレール、その波乱の乙女ゲーム人生――」 社交界の華として名を馳せた公爵令嬢アイリスは、気がつくと自分が“乙女ゲーム”の悪役令嬢に転生していることに気づく。しかし破滅フラグなんて大した問題ではない。なぜなら――彼女には全力で溺愛してくれる最強の味方、「お父様」がいるのだから! 婚約者である王太子レオナードとともに、盗賊団の陰謀や宮廷の策略を華麗に乗り越える一方で、かつて傲慢だと思われた行動が実は周囲を守るためだったことが明らかに……?その冷静さと知恵に、王太子も惹かれていき、次第にアイリスを「婚約者以上の存在」として意識し始める。 しかし、アイリスにはまだ知らない事実が。前世で推しだった“お父様”が、実は娘の危機に備えて影で私兵を動かしていた――なんて話、聞いていませんけど!? さらに、無邪気な辺境伯の従兄弟や王宮の騎士たちが彼女に振り回される日々が続く中、悪役令嬢としての名を返上し、「新たな人生」を掴むための物語が進んでいく。 「悪役令嬢の未来は破滅しかない」そんな言葉を真っ向から覆す、策略と愛の物語。痛快で心温まる新しい悪役令嬢ストーリーをお楽しみください。

処理中です...