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第二章 ゲーム開始
036 公爵令嬢のライバル令嬢、泣く
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「ちょっとあなた方、うるさいですわよ!」
メリーローズたちのグループが座っているテーブルの前に、堂々たる仁王立ちの少女がいる。
縦ロールにしたダークブラウンの髪と青い瞳の、いかにも気が強そうな美少女だ。
そう。何を隠そう、この少女こそメリーローズのライバル、ブロムリー公爵令嬢…………ではなく、その取り巻きをしているクローディア・パクストン伯爵令嬢である。
当のブロムリー公爵令嬢ミルドレッドは、彼女の後ろで小さく震えていた。
ミルドレッドはプラチナブロンドの髪に明るい琥珀色の瞳で、見た目の色彩も薄いが、存在感も薄い。
「何が『ノブレス・オブリージュ』でございますかしら。公共の場であるカフェテラスでこんなに騒がしくしておいて、よくもまあ偉そうですこと!」
声が大きく――シルヴィアは(どちらがうるさいんだか)と内心で突っ込みを入れていた――態度も大きいクローディアに対し、ミルドレッドはその後ろにひっそりと立ち、泣きそうな顔をしながら、聞こえるか聞こえないかの声で、クローディアの袖を引っ張っている。
「お願い……クローディア……やめて……お願い……」
その時、クローディアの立ち位置からは陰になって見えにくい席に座っていた、漆黒の巻き毛の少年が立ち上がった。
先ほどまでは、女性だけのグループに見えるほど、きゅるんとした愛らしい笑顔で溶け込んでいたフェリクスは、今や瞳の奥に剣呑な光を宿し文句をつけてきた相手を睨んでいる。
男性としては小柄であるが、さすがにクローディアの前に立つと、頭半分近く背が高い。
その迫力と、相手が誰なのかに気づいたクローディアが、たじろいで後退った。
「君、僕らのことを騒がしいと言ったかい? 変だな。それほど大きな声で会話していた記憶は、ないんだけど」
ニッコリと口元は笑っているけれど、目は笑っていない。
むしろ怒ってる。怖い。
実際に睨まれていないメリーローズでも怖いのだから、クローディアは相当恐ろしいだろう。
「あ、あ……あのっ……」
「それとも、話していた内容が、耳障りだったのかな? 君の後ろで震えている彼女の、ライバルと目されるメリーローズ嬢を、褒め称えていたしね?」
「いやっ、そんな、その……」
図星を刺されたクローディアの、声が震えた。
後ろのミルドレッドは、くすん、くすんと既に泣き出している。
(さすがに、これはヤバい)
自分でもまたフェリクスを恐れていたメリーローズだったが、勇気を振り絞って声を掛けた。
「フフ……フェリクス様。もう、その辺で」
つい噛んでしまったのは、見逃して欲しい。
あと、笑ったわけではない。
「ミルドレッド様が泣いていらっしゃいますわ。お可哀想に。……それから、クローディア様」
「な、何…………じゃない、は、はい」
クローディアは、メリーローズに対しては強気で構えようとしていたが、フェリクスにジロリと見られて素直に返事をした。
そんなクローディアに、メリーローズは小さく頭を下げる。
「ありがとうございます」
「……へ?」
これにはクローディアだけでなく、その場にいた皆が驚いた。
「実はわたくしも、あまりに皆様からお褒めの言葉をいただき過ぎて、少々恥ずかしかったのですわ。その流れを止めていただき、お礼を申し上げます」
「あ、そ、えっと、……い、いいってことですわよ」
メリーローズに難癖をつけたのに、逆に礼を言われるとは思っていなかったのだろう。
どう対応したらいいのか、わからなくなっているらしい。
そこに、ミルドレッドが再びクローディアの袖を引っ張って囁いた。
「もう……お部屋に帰りましょう……。……ね? ……お願い……」
「わ、わかりましたわ」
ミルドレッドは改めてフェリクスに告げる。
「お騒がせして……本当に、……本当に、……申し訳、ございませんでした…………」
小声で謝罪すると、クローディアを伴ってカフェテリアから退出した。
この一連の流れの間、シルヴィアはじっくりと観察していた。
疑惑のあるミュリエルやヘザー、アデレイド、そして何より危険人物のフェリクスを。
ランズダウン家でメイドとして働きだして、すでに六年のキャリアがある。
メイドは主人の表情を読み、彼らが望むものを、命令が出る前に素早く用意する能力を求められるものだ。
最近では、メリーローズのBL小説を読みはじめ、その中での登場人物の感情の動きと、それに伴う表情や仕草などを知るにつれ、ある程度他人の心が掴めるようになっていた。
更にシルヴィアには『気を読む』という能力もある。
これにより、その場の誰も気づいていない、ある人物の感情に気がついたのだった。
「間違いありません。フェリクス殿下は、お嬢様にひとかたならぬ感情、はっきり申し上げて『恋情』を抱いていると確信しました」
「は……はあああ?」
寮に戻り、シルヴィアからそう告げられたメリーローズは、素っ頓狂な声をあげる。
なにしろフェリクスと言えば、ミュリエルを恋い慕うあまり、彼女の敵と判断した相手を、闇に葬るヤバキャラなのだ。
なけなしの勇気を振り絞ってあの場を収めたメリーローズは、ソファに体を投げ出しながら笑った。
「そんなフェリクスが、わたくしを?……ないない! ありえない!」
そう否定したメリーローズだったが、その考えを改めざるを得ない事件が起こる。
メリーローズたちのグループが座っているテーブルの前に、堂々たる仁王立ちの少女がいる。
縦ロールにしたダークブラウンの髪と青い瞳の、いかにも気が強そうな美少女だ。
そう。何を隠そう、この少女こそメリーローズのライバル、ブロムリー公爵令嬢…………ではなく、その取り巻きをしているクローディア・パクストン伯爵令嬢である。
当のブロムリー公爵令嬢ミルドレッドは、彼女の後ろで小さく震えていた。
ミルドレッドはプラチナブロンドの髪に明るい琥珀色の瞳で、見た目の色彩も薄いが、存在感も薄い。
「何が『ノブレス・オブリージュ』でございますかしら。公共の場であるカフェテラスでこんなに騒がしくしておいて、よくもまあ偉そうですこと!」
声が大きく――シルヴィアは(どちらがうるさいんだか)と内心で突っ込みを入れていた――態度も大きいクローディアに対し、ミルドレッドはその後ろにひっそりと立ち、泣きそうな顔をしながら、聞こえるか聞こえないかの声で、クローディアの袖を引っ張っている。
「お願い……クローディア……やめて……お願い……」
その時、クローディアの立ち位置からは陰になって見えにくい席に座っていた、漆黒の巻き毛の少年が立ち上がった。
先ほどまでは、女性だけのグループに見えるほど、きゅるんとした愛らしい笑顔で溶け込んでいたフェリクスは、今や瞳の奥に剣呑な光を宿し文句をつけてきた相手を睨んでいる。
男性としては小柄であるが、さすがにクローディアの前に立つと、頭半分近く背が高い。
その迫力と、相手が誰なのかに気づいたクローディアが、たじろいで後退った。
「君、僕らのことを騒がしいと言ったかい? 変だな。それほど大きな声で会話していた記憶は、ないんだけど」
ニッコリと口元は笑っているけれど、目は笑っていない。
むしろ怒ってる。怖い。
実際に睨まれていないメリーローズでも怖いのだから、クローディアは相当恐ろしいだろう。
「あ、あ……あのっ……」
「それとも、話していた内容が、耳障りだったのかな? 君の後ろで震えている彼女の、ライバルと目されるメリーローズ嬢を、褒め称えていたしね?」
「いやっ、そんな、その……」
図星を刺されたクローディアの、声が震えた。
後ろのミルドレッドは、くすん、くすんと既に泣き出している。
(さすがに、これはヤバい)
自分でもまたフェリクスを恐れていたメリーローズだったが、勇気を振り絞って声を掛けた。
「フフ……フェリクス様。もう、その辺で」
つい噛んでしまったのは、見逃して欲しい。
あと、笑ったわけではない。
「ミルドレッド様が泣いていらっしゃいますわ。お可哀想に。……それから、クローディア様」
「な、何…………じゃない、は、はい」
クローディアは、メリーローズに対しては強気で構えようとしていたが、フェリクスにジロリと見られて素直に返事をした。
そんなクローディアに、メリーローズは小さく頭を下げる。
「ありがとうございます」
「……へ?」
これにはクローディアだけでなく、その場にいた皆が驚いた。
「実はわたくしも、あまりに皆様からお褒めの言葉をいただき過ぎて、少々恥ずかしかったのですわ。その流れを止めていただき、お礼を申し上げます」
「あ、そ、えっと、……い、いいってことですわよ」
メリーローズに難癖をつけたのに、逆に礼を言われるとは思っていなかったのだろう。
どう対応したらいいのか、わからなくなっているらしい。
そこに、ミルドレッドが再びクローディアの袖を引っ張って囁いた。
「もう……お部屋に帰りましょう……。……ね? ……お願い……」
「わ、わかりましたわ」
ミルドレッドは改めてフェリクスに告げる。
「お騒がせして……本当に、……本当に、……申し訳、ございませんでした…………」
小声で謝罪すると、クローディアを伴ってカフェテリアから退出した。
この一連の流れの間、シルヴィアはじっくりと観察していた。
疑惑のあるミュリエルやヘザー、アデレイド、そして何より危険人物のフェリクスを。
ランズダウン家でメイドとして働きだして、すでに六年のキャリアがある。
メイドは主人の表情を読み、彼らが望むものを、命令が出る前に素早く用意する能力を求められるものだ。
最近では、メリーローズのBL小説を読みはじめ、その中での登場人物の感情の動きと、それに伴う表情や仕草などを知るにつれ、ある程度他人の心が掴めるようになっていた。
更にシルヴィアには『気を読む』という能力もある。
これにより、その場の誰も気づいていない、ある人物の感情に気がついたのだった。
「間違いありません。フェリクス殿下は、お嬢様にひとかたならぬ感情、はっきり申し上げて『恋情』を抱いていると確信しました」
「は……はあああ?」
寮に戻り、シルヴィアからそう告げられたメリーローズは、素っ頓狂な声をあげる。
なにしろフェリクスと言えば、ミュリエルを恋い慕うあまり、彼女の敵と判断した相手を、闇に葬るヤバキャラなのだ。
なけなしの勇気を振り絞ってあの場を収めたメリーローズは、ソファに体を投げ出しながら笑った。
「そんなフェリクスが、わたくしを?……ないない! ありえない!」
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