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第二章 ゲーム開始
043 公爵令嬢、どんな場面でも妄想する
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メリーローズは身分差がはっきり存在するこの世界について、改めて思うところがあった。
(命に順番、かあ。自分の命が簡単に見捨てられるのも嫌だけど、『あなたを助けるために他の命を見捨てました』って言われるのも、嫌だなあ)
自分の中に眠る「横田菜摘」の記憶が蘇る。
菜摘の命なんて、まさに掃いて捨てるほどに軽いものだった。
自分が死んだからといって、まあ、何が変わるでなし。
死んだ時期が仕事上の繁忙期だったので、周りの人間は多少困っただろうが、すぐまた他の誰かが自分の穴を埋めただろう。
後は…………
「ヨッちゃん……」
ふとその名を漏らしてしまうと、涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「メリーローズ嬢?」
泣いているメリーローズに驚き、フェリクスが声を掛ける。
「あっ! あっ! お嬢様はフェリクス様のお話に、泣けてしまったようですわ!」
シルヴィアが慌ててメリーローズの顔をハンカチで覆い、ゴシゴシとこすった。
「ほら、涙をお拭きになられませんと!」
「いっ、痛い! そんなに強くこすらないで」
二人のやり取りを見て、フェリクスが思わず吹き出す。
「メリーローズ嬢は、やっぱり優しいですね」
「そんなことは……」
実際、全然そんなことはない。
しかしこれは、流れに乗った方がいいだろうと、シルヴィアは判断した。
「お嬢様は、『ノブレス・オブリージュ』の精神をお持ちです。そのお心は、身分の高低に関わらず、辛い思いをしている方、苦しんでいる方、全てに及ぶのですわ」
……ちと、美化しすぎたか? と思ったが、フェリクスは大いに頷く。
「はい、メリーローズ嬢は、僕の理想そのものです」
フェリクスの中のメリーローズ像の方が、更に上をいっていた。
「そうでしょうか。わたくしなどより、フェリクス様やソーントン先生の方が、大変素晴らしい方々ですわ!」
シルヴィアの手から逃れたメリーローズが発した、謙虚にも聞こえるその言葉を、フェリクスとランドルフは「いや、そんな」と否定する。
が、それを遮って、メリーローズが二人の手を握り、自分の手で包み込んだ。
「わたくしには、お二方のほうこそ、自分の立場より相手の気持ちを思いやる、素晴らしい方々だと思えますの」
その言葉に、フェリクスとランドルフは感じ入った表情になったが、シルヴィアは気づいていた。
(そんなこと言いながら、自分の手の中で二人の手が直接触れ合うようにしていますよね?)
自分が見たいシチュエーションは、自分の手で(物理的に)作り出すメリーローズ。
そんなメリーローズの執着を、垣間見た思いのシルヴィアであった。
「それより、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
シルヴィアが手を挙げた。
「はは、授業みたいだね。では、マコーリーくん」
ランドルフが笑って指名する。
「あの、先ほどのお話の中で、フェリクス様はお小さい頃、健康だった……と、仰っていましたね。わたくしたちが聞いていた話では、フェリクス様はご病弱で学校に通うことができないということでしたが……」
「はい、そうなんです」
これにはフェリクス本人が答えた。
「僕は魔法の力が顕在化するまでは、健康でした。でも、あの魔法の力に目覚めてから、急に体が弱くなってしまったのです」
「まあ……」
「私も剣の指導から外れ、王宮への出入りがなくなってしまったので、詳しいことは知らないのですが、風の噂でよくお熱を出されたとか、咳が発作的に出たりなどされていると聞き、心配していたものです」
「ええ、そうでしょうとも。心配ですわよね、それはもう!」
辛そうな表情のランドルフに、メリーローズがいかにも同情している顔をしているが、シルヴィアにはわかっていた。
(絶対、この二人をネタに、何かBL妄想をしている……)
「僕は熱や貧血で倒れるたびに、アルフレッド兄様が前に仰ったこと、『王族の力を持つ者は魔法の力を持てないし、魔法の力を持っていたら、王族の力を持つことはできない』という言葉を思い出していました」
そんなことは想像もできないフェリクスが悲しげに呟く。
「アルフレッド様は、そういうつもりで仰ったのではないと思いますが……」
ランドルフが訂正しようとするが、フェリクスは顔を横に振った。
「結局、同じだと思うんです。僕は王族ではないのに王族のふりをして、更に魔力まで手に入れてしまった。一人の人間として、力を多く持ち過ぎてしまったのです。体が弱くなったのは、どこかでバランスをとるよう、大精霊に罰を下されたのだと思います」
更に両手で顔を覆い、苦しげに叫ぶ。
「そのうえ、僕はその魔力を、邪なことに使ってしまった! ……人を、傷つけてしまった……!」
「フェリクス!」
後悔の念に震えるフェリクスの両肩を、ランドルフの手が掴んだ。
クルミ程度なら握り潰してしまえそうな、そのたくましい手が、今はそっと優しく細い肩に添えられている。
「フェリクス、それ以上自分を責めてはいけない」
「でも、先生」
「大丈夫。あなたは心根の優しい方だ。他の誰があなたを否定しても、私はそのことを疑わない」
「……ううっ」
堪えきれないように、メリーローズが泣き出した。
フェリクスの苦しみに心を寄り添ってくれているのだ……と、ランドルフは思った。
大間違いだった。
(命に順番、かあ。自分の命が簡単に見捨てられるのも嫌だけど、『あなたを助けるために他の命を見捨てました』って言われるのも、嫌だなあ)
自分の中に眠る「横田菜摘」の記憶が蘇る。
菜摘の命なんて、まさに掃いて捨てるほどに軽いものだった。
自分が死んだからといって、まあ、何が変わるでなし。
死んだ時期が仕事上の繁忙期だったので、周りの人間は多少困っただろうが、すぐまた他の誰かが自分の穴を埋めただろう。
後は…………
「ヨッちゃん……」
ふとその名を漏らしてしまうと、涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「メリーローズ嬢?」
泣いているメリーローズに驚き、フェリクスが声を掛ける。
「あっ! あっ! お嬢様はフェリクス様のお話に、泣けてしまったようですわ!」
シルヴィアが慌ててメリーローズの顔をハンカチで覆い、ゴシゴシとこすった。
「ほら、涙をお拭きになられませんと!」
「いっ、痛い! そんなに強くこすらないで」
二人のやり取りを見て、フェリクスが思わず吹き出す。
「メリーローズ嬢は、やっぱり優しいですね」
「そんなことは……」
実際、全然そんなことはない。
しかしこれは、流れに乗った方がいいだろうと、シルヴィアは判断した。
「お嬢様は、『ノブレス・オブリージュ』の精神をお持ちです。そのお心は、身分の高低に関わらず、辛い思いをしている方、苦しんでいる方、全てに及ぶのですわ」
……ちと、美化しすぎたか? と思ったが、フェリクスは大いに頷く。
「はい、メリーローズ嬢は、僕の理想そのものです」
フェリクスの中のメリーローズ像の方が、更に上をいっていた。
「そうでしょうか。わたくしなどより、フェリクス様やソーントン先生の方が、大変素晴らしい方々ですわ!」
シルヴィアの手から逃れたメリーローズが発した、謙虚にも聞こえるその言葉を、フェリクスとランドルフは「いや、そんな」と否定する。
が、それを遮って、メリーローズが二人の手を握り、自分の手で包み込んだ。
「わたくしには、お二方のほうこそ、自分の立場より相手の気持ちを思いやる、素晴らしい方々だと思えますの」
その言葉に、フェリクスとランドルフは感じ入った表情になったが、シルヴィアは気づいていた。
(そんなこと言いながら、自分の手の中で二人の手が直接触れ合うようにしていますよね?)
自分が見たいシチュエーションは、自分の手で(物理的に)作り出すメリーローズ。
そんなメリーローズの執着を、垣間見た思いのシルヴィアであった。
「それより、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
シルヴィアが手を挙げた。
「はは、授業みたいだね。では、マコーリーくん」
ランドルフが笑って指名する。
「あの、先ほどのお話の中で、フェリクス様はお小さい頃、健康だった……と、仰っていましたね。わたくしたちが聞いていた話では、フェリクス様はご病弱で学校に通うことができないということでしたが……」
「はい、そうなんです」
これにはフェリクス本人が答えた。
「僕は魔法の力が顕在化するまでは、健康でした。でも、あの魔法の力に目覚めてから、急に体が弱くなってしまったのです」
「まあ……」
「私も剣の指導から外れ、王宮への出入りがなくなってしまったので、詳しいことは知らないのですが、風の噂でよくお熱を出されたとか、咳が発作的に出たりなどされていると聞き、心配していたものです」
「ええ、そうでしょうとも。心配ですわよね、それはもう!」
辛そうな表情のランドルフに、メリーローズがいかにも同情している顔をしているが、シルヴィアにはわかっていた。
(絶対、この二人をネタに、何かBL妄想をしている……)
「僕は熱や貧血で倒れるたびに、アルフレッド兄様が前に仰ったこと、『王族の力を持つ者は魔法の力を持てないし、魔法の力を持っていたら、王族の力を持つことはできない』という言葉を思い出していました」
そんなことは想像もできないフェリクスが悲しげに呟く。
「アルフレッド様は、そういうつもりで仰ったのではないと思いますが……」
ランドルフが訂正しようとするが、フェリクスは顔を横に振った。
「結局、同じだと思うんです。僕は王族ではないのに王族のふりをして、更に魔力まで手に入れてしまった。一人の人間として、力を多く持ち過ぎてしまったのです。体が弱くなったのは、どこかでバランスをとるよう、大精霊に罰を下されたのだと思います」
更に両手で顔を覆い、苦しげに叫ぶ。
「そのうえ、僕はその魔力を、邪なことに使ってしまった! ……人を、傷つけてしまった……!」
「フェリクス!」
後悔の念に震えるフェリクスの両肩を、ランドルフの手が掴んだ。
クルミ程度なら握り潰してしまえそうな、そのたくましい手が、今はそっと優しく細い肩に添えられている。
「フェリクス、それ以上自分を責めてはいけない」
「でも、先生」
「大丈夫。あなたは心根の優しい方だ。他の誰があなたを否定しても、私はそのことを疑わない」
「……ううっ」
堪えきれないように、メリーローズが泣き出した。
フェリクスの苦しみに心を寄り添ってくれているのだ……と、ランドルフは思った。
大間違いだった。
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