悪役令嬢はBL作家「処刑覚悟で萌えますわ!」~婚約者の王子様ごめんなさい、あなたをネタに小説書いてます~

すえつむ はな

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第二章 ゲーム開始

058 公爵令嬢、前世のあれこれを思い出す

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「悔しいけど、結構よくできてるわ、この本……」

 寮の自室に帰ったメリーローズは、キンバリーから参考にともらってきたアルブレヒト攻本を読み終わり、小さく息をついた。

「あんなに怒っていらしたのに、よく読みますね」

 お茶の用意をしたシルヴィアが、ショートブレッドを添えてテーブルに置く。

「文句を言うなら、一応ちゃんと読んでからじゃないとと思ってね。シルヴィア、あなたも読む?」

「あ、いえ、わたくしは……」

「わたくしに遠慮はしないで。読んだら感想を聞きたいわ」

 そう言いながら、メリーローズは何やら考え込む。

「何か、ございますか?」

「ええ、ちょっとだけ、気になることがあって……」

 デスクに置いたアルブレヒト攻本を、指でトン、トン、と鳴らしながら少しずつ話し始めた。

「この世界の人名や地名ってね、『英語』なのよ。話している言語は日本語なんだけど」

「ナツミ様が元いた世界の国の名前ですね。確かイゲレス……とか?」

「イギリスよ。あなたの名前のシルヴィアも、お兄様のメルヴィン、アルフレッド様、アーネスト様、ミュリエルやヘザー、エルシー、他の人たちのもそうだわ。わたくしも本を書くときは、極力英語名にこだわって登場人物の名前をつけたの。アルバートやエドウィン、メアリーとかね」

「はい」

「でもこの本の主人公『アルブレヒト』は英語じゃないわ」

「……そうですね。確かにエキゾチックな印象を受けました」

 心を落ち着かせるため、メリーローズはカップを取って、お茶を含む。
 アールグレイの香りが広がるのを感じ、それに励まされて次の言葉を口にした。

「英語なら本来は『アルバート』という名前になるはずなのよ」

「ああ、お嬢様の本に出てくる登場人物の名前ですね」

「『アルブレヒト』は、英語をドイツ語読みにした名前。……あちらの世界での、別の国の名前なの。本来この世界にはない名前のはず。それを敢えて名づけたというのは、『アル』で始まる名前にこだわったからだと思うのよ」

「…………ということは」

「ええ、この本の作者こそ、わたくしと同じ『転生者』である可能性が高いわ」

 メリーローズはお茶に続き、お茶請けのショートブレッドを齧った。
 そのままリスのようにがじがじと齧ったので、ショートブレッドの欠片が散らばる。

「お行儀の悪い食べ方はお止めください」

「いいじゃない! 甘いものが食べたい気分なのよう!」

「食べてもいいですから、カスが落ちないよう気をつけてください! ……それで何でしたっけ?」

「今度こそ確実に、わたくし以外の転生者がいるって話!」

 先日まで、もしかしたらゲームヒロインであるミュリエルは転生者かも知れないと疑っていたが、今のところ彼女にその気配を感じることはない。

 他にも怪しい動きをしていたヘザーの正体はキンバリーの妹で、BL本をこっそり売ったりはしているものの、それ以外はむしろ平凡な少女である。

 また一番の危険人物と目されていたフェリクスも、実は女王陛下の血を引いていなかった、とか魔力を持っている、という秘密を抱えてはいるものの、この世界の範疇に収まるキャラクターで、転生者とは考えにくい。

 身近にいる人々の謎が解けていき、少し気を抜きかけていたところで、今回の事態を迎えた。

「なかなか、安心させてはくれないわねえ」

「お嬢様がBL小説を書いている間は、安心なんてできません」

「それもそっか。てへ」

 一瞬だけおちゃらけた表情を見せた後、再びメリーローズは考え込む。

「……他にも、何か?」

「あ、ううん。他っていうか…………違うかも知れないけど、このアルブレヒト攻本の作者に、心当たりがある気がするのよね……」

「ええっ?」

 メリーローズは前世の「同人誌即売会」のことを思い出していた。

 当時アルフレッド総受本で人気を博していた自分たちのサークルにとって一番のライバル、アルフレッド本を次々と発行していたサークルの、中心人物のことを。
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