126 / 404
第三章 BL小説の存在、世に知られる
060 公爵令嬢の小説ファン、行動を起こす
しおりを挟む
生徒会室を出たヘザーは、ミュリエル、エルシー、アデレイドを、生徒会室のある学生棟の裏手に連れて行くと、神妙な顔で切り出した。
「例の本が、保護者の一人と学長に見つかりました」
「ええっ!」
大袈裟に声をあげたのはアデレイドだ。
「あれは、上の人には見つかったらいけないものでしょう? ……というか、えーっと皆さんもアレを読んでいるということですか?」
「『ローザリウム王国物語』ですね。その、わたくしも愛読しています」
モジモジとエルシーがカミングアウトする。
「そうなのね! わたくしもあのシリーズ、だあい好き! でも、ミュリエルさんは意外ですねえ」
「そ、そうでしょうか……」
ミュリエルも恥じらいながら認めた。
「私は、その、同性愛を扱ってはいても、素晴らしい小説だと思っています」
「話がわかりますね!」
キャッキャとはしゃぐアデレイドを、ヘザーが制した。
「今はここで盛り上がっている場合ではありません。これから起こることを想定すると、あの本をどこかに処理しなければいけなくなるかも知れないのです」
「処理? 捨てるってこと? そんなあ……」
大切な愛読書を捨てなければいけないと聞いて、早くも泣きそうな顔のアデレイドだ。
「わたくしだって、あれらの本を捨てるのは忍びないです。しかし万が一『同性愛の小説本』を所持していたとバレたら、わたしくしたち皆、逮捕されてしまいます」
「逮捕……」
「それだけではありません。証拠があるのですから、裁判にかけられれば有罪は確実」
「有罪……」
スカートをぎゅっと握りしめて、アデレイドが呟く。
「有罪は困ります。それでなくても、家では『できそこない娘』と思われているのに……」
「できそこないだなんて、そんな!」
ミュリエルの声に、アデレイドは首を横に振った。
「でも、そうなんです。わたくしは頭も悪くてぼーっとしていて、父からはよく、『アデレイドはメリーローズ様みたいになれないんだなあ』って溜め息をつかれています」
「まあ……」
「貴族令嬢の鑑と言われるメリーローズ様みたいになるようにと言われて取り巻きにはなったものの、全然メリーローズ様みたいにはなれなくて、わたくしなんて、ダメなんです」
「そんなこと、ないですわ!」
いつもは控えめなエルシーが憤慨する。
「アデレイド様には、アデレイド様のいいところがあります! 素直だし、優しいし、可愛らしいし……ちっともダメな方ではありません!」
「私もそう思います!」
「エルシーさん、ミュリエルさん。……ありがとう、わたくし、嬉しいです!」
そこにヘザーが手をパン! パン! と叩いて、皆の気をひく。
「皆さん、女同士の美しい友情を育むのもよろしいですが、今は一刻を争います!」
「そうでした」
「わたくしはまず、今からすぐ姉のところに行きます。姉の出版社と、モリスン書房にあるBL小説を、どこかに隠さなければいけません」
「どこかって、どこですか?」
ミュリエルが不安そうに尋ねた。
「それを、姉と相談するのです。元々出版社の蔵書は、どこかの倉庫を借りてそこに保管しているはずなので、そこに皆さんの本を一緒に隠せないか、聞いてみます」
「じゃあ、捨てなくてもいいのですね?」
エルシーがうれしそうに叫ぶ。
「でも、姉に聞いてみないとわかりません。まずは相談してみないことには……」
「……そうですね」
学生棟の奥には、ヘザーだけの秘密の抜け穴がある。
そこに向かいながら、三人に言った。
「皆さん、自分の手持ちのBL本を、どこかにまとめられるようにしてください。ミュリエル、今日中には戻るので、私の不在をごまかしておいて欲しいのだけど、いい?」
「勿論よ」
返事を聞くと、植木をくぐって姿を消す。
残された三人は無言で目配せすると、寮の部屋に急いで戻った。
「例の本が、保護者の一人と学長に見つかりました」
「ええっ!」
大袈裟に声をあげたのはアデレイドだ。
「あれは、上の人には見つかったらいけないものでしょう? ……というか、えーっと皆さんもアレを読んでいるということですか?」
「『ローザリウム王国物語』ですね。その、わたくしも愛読しています」
モジモジとエルシーがカミングアウトする。
「そうなのね! わたくしもあのシリーズ、だあい好き! でも、ミュリエルさんは意外ですねえ」
「そ、そうでしょうか……」
ミュリエルも恥じらいながら認めた。
「私は、その、同性愛を扱ってはいても、素晴らしい小説だと思っています」
「話がわかりますね!」
キャッキャとはしゃぐアデレイドを、ヘザーが制した。
「今はここで盛り上がっている場合ではありません。これから起こることを想定すると、あの本をどこかに処理しなければいけなくなるかも知れないのです」
「処理? 捨てるってこと? そんなあ……」
大切な愛読書を捨てなければいけないと聞いて、早くも泣きそうな顔のアデレイドだ。
「わたくしだって、あれらの本を捨てるのは忍びないです。しかし万が一『同性愛の小説本』を所持していたとバレたら、わたしくしたち皆、逮捕されてしまいます」
「逮捕……」
「それだけではありません。証拠があるのですから、裁判にかけられれば有罪は確実」
「有罪……」
スカートをぎゅっと握りしめて、アデレイドが呟く。
「有罪は困ります。それでなくても、家では『できそこない娘』と思われているのに……」
「できそこないだなんて、そんな!」
ミュリエルの声に、アデレイドは首を横に振った。
「でも、そうなんです。わたくしは頭も悪くてぼーっとしていて、父からはよく、『アデレイドはメリーローズ様みたいになれないんだなあ』って溜め息をつかれています」
「まあ……」
「貴族令嬢の鑑と言われるメリーローズ様みたいになるようにと言われて取り巻きにはなったものの、全然メリーローズ様みたいにはなれなくて、わたくしなんて、ダメなんです」
「そんなこと、ないですわ!」
いつもは控えめなエルシーが憤慨する。
「アデレイド様には、アデレイド様のいいところがあります! 素直だし、優しいし、可愛らしいし……ちっともダメな方ではありません!」
「私もそう思います!」
「エルシーさん、ミュリエルさん。……ありがとう、わたくし、嬉しいです!」
そこにヘザーが手をパン! パン! と叩いて、皆の気をひく。
「皆さん、女同士の美しい友情を育むのもよろしいですが、今は一刻を争います!」
「そうでした」
「わたくしはまず、今からすぐ姉のところに行きます。姉の出版社と、モリスン書房にあるBL小説を、どこかに隠さなければいけません」
「どこかって、どこですか?」
ミュリエルが不安そうに尋ねた。
「それを、姉と相談するのです。元々出版社の蔵書は、どこかの倉庫を借りてそこに保管しているはずなので、そこに皆さんの本を一緒に隠せないか、聞いてみます」
「じゃあ、捨てなくてもいいのですね?」
エルシーがうれしそうに叫ぶ。
「でも、姉に聞いてみないとわかりません。まずは相談してみないことには……」
「……そうですね」
学生棟の奥には、ヘザーだけの秘密の抜け穴がある。
そこに向かいながら、三人に言った。
「皆さん、自分の手持ちのBL本を、どこかにまとめられるようにしてください。ミュリエル、今日中には戻るので、私の不在をごまかしておいて欲しいのだけど、いい?」
「勿論よ」
返事を聞くと、植木をくぐって姿を消す。
残された三人は無言で目配せすると、寮の部屋に急いで戻った。
1
あなたにおすすめの小説
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい
藤原遊
ファンタジー
悪役令嬢×婚約者の策略ラブコメディ!
「アイリス・ルクレール、その波乱の乙女ゲーム人生――」
社交界の華として名を馳せた公爵令嬢アイリスは、気がつくと自分が“乙女ゲーム”の悪役令嬢に転生していることに気づく。しかし破滅フラグなんて大した問題ではない。なぜなら――彼女には全力で溺愛してくれる最強の味方、「お父様」がいるのだから!
婚約者である王太子レオナードとともに、盗賊団の陰謀や宮廷の策略を華麗に乗り越える一方で、かつて傲慢だと思われた行動が実は周囲を守るためだったことが明らかに……?その冷静さと知恵に、王太子も惹かれていき、次第にアイリスを「婚約者以上の存在」として意識し始める。
しかし、アイリスにはまだ知らない事実が。前世で推しだった“お父様”が、実は娘の危機に備えて影で私兵を動かしていた――なんて話、聞いていませんけど!?
さらに、無邪気な辺境伯の従兄弟や王宮の騎士たちが彼女に振り回される日々が続く中、悪役令嬢としての名を返上し、「新たな人生」を掴むための物語が進んでいく。
「悪役令嬢の未来は破滅しかない」そんな言葉を真っ向から覆す、策略と愛の物語。痛快で心温まる新しい悪役令嬢ストーリーをお楽しみください。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる