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第1章 家族
レオン・クラン・カスティリア の疲れた日
しおりを挟む双方、ふたつのピンクの瞳がこちらを見て離さない。
ここまで見られるのもどうなんだろう…
失礼とか考えないのかな。
外面はしっかりしとこうとニコッと笑っておく。すると、ラベンナ王女はみるみるに顔が笑顔になっていった。
そして、私の椅子の隣に立つと腕にしがみついてくる。
「このひと!わたくしのおうじさまですわね!わたくしがけっこんしてあげますわ!
しあわせにしてくださいな!」
そうニコニコと笑う姿は一見、小さいこながらの可愛らしさがあるかもしれない。が、
いくら私と一つ年下の4歳だからといって、ここまで教育がなされていないのはどうなんだろうか。
この子、仮にも私の妹で王女なんだよね?
人の服をグイグイ引っ張るなんて言語道断。しかも、王族がそんな軽々しく結婚だなんて……どこか上から目線だし。
どんな教育をしているんだ。とドミニカ様に視線を向ければ、ドミニカ様は口を歪め笑っていた。
「あらまぁ、ラベンナ。大胆ね……。でも、結婚だなんて…素敵ね。」
思わず、背中に悪寒が走った。
「そうですわよね!おかあさま!
さぁ、おうじさま。わたくしをしあわせにするとちかってくださいませ!
まえに、おかあさまからききましたわ!
ちかいをするとぜったいにまもってくれるんですわ!」
そういって無邪気に笑いながら私の腕を引っ張るこの子に私は驚きが隠せなかった。
今、なんて言った…?
誓いだって?
確かに、この国には婚約者になる人、自分にとって何者にも変えられない大切な人、または恋人に永遠の思いや幸せにすることを伝える『誓い』がある。それは王族だって同じで、むしろ、王族はそれが撤回できない。
一度やったらそれが決まりだ。
法律と同じように規範で決まっており、破れないのだ。
それをまだおよそ4歳の少女が知っている。
確かに、女性は憧れるだろう。だが、4歳児が結婚なんて考えるものなのか?
私はその瞬間、あるひとつの疑問が浮上した。
ラベンナは言ったのだ。お母様から聞いたと。
ドミニカ様は、私とこの子を結婚させようとでも考えているんだろうか。
まさか…そんな……ね?
そのあと、どうにか『誓い』はできない。とラベンナ王女に伝え、その後散々泣きじゃくられた。
そうして、ラベンナ王女が落ち着いたと思ったら、そこからドミニカ様とラベンナ様の他愛もない(どうでもいい)話が始まる。
私が王宮に帰れたのは日が大分傾いた時だった。
私はその日1日が一番長く感じた。
ラベンナ王女は落ち着きがなく、気品もなかった。後宮でどれほど甘やかされたのかよく分かった。
ドミニカ様は……時折、特にラベンナ王女が私に抱きついたり引っ付いたりと、スキンシップが激しい時のあの歪んだ笑い口。
そして、卑しいほどの目。
私は忘れられなかった。
その日以降、私は父上と母上の言いつけな関係なく後宮に自分から近づこうとは一切しなかった。
「レオン。…どうだった、後宮は。」
あれから数日が経ち、今は歴史を学んでいるときだった。
父上が勉学の時間に私の部屋に来るなんて初めてのことだった。
きっと、やっと空いた時間にわざわざいらっしゃったのだろう。呼んでくれれば私が足を運ぶのに。
家庭教師は恐れおののき、挨拶をして部屋からさがる。
「そうですね…」
あの日、ドミニカ様と会って話したこと、聞いた事。そして、見た物を丁寧に伝えた。
父上は椅子に座り腕を組みそれを静かに聞いていた。その目には何が映っているのか。
「そうか。レオン、アイツの娘には会ったか?」
「はい。出会いましたが……あの子は本当に王族ですか?」
私はずっと不信感を抱いていた。あの無邪気に笑うピンクの瞳。あれはカスティリア王族であればありえないことだ。
我々、カスティリア王族には代々続く瞳の色がある。それは透き通るような青色。
王族特有のもので、象徴とも言える。
父上も、もちろん私もその青の瞳だ。
だが、彼女はピンク色だった。先祖返りか…そんなことがありえるのか。
「…私は、あの女を抱いた…いや、あの女と子作りした覚えはないぞ。だから、お前の想像通りだ。」
やはり、そうか。
ということは、あの子は王族でもなんでもないんだな。
そう思うと良かったと安心してしまう自分がいた。それほど、私はあの子もあの人も苦手になっていたんだな…
「そのままでいいのですか?…いくらこちらが放置しているとはいってもそんな不貞は許されないのでは?」
「いや、面倒だ。なにより俺はあの女も、あの女が勝手に作った子供も大嫌いだ。関わりたくもない。金はやっている。後は、好きにすればいい。…何も無ければ、このままさ。」
「…わかりました。」
父上はそう返事する私に、少し口角を上げ適当に頭を撫でる。
この人は世間では恐ろしいといわれ、他国では魔王とも呼ばれているような人だ。
だが、私はとても優しい人なのだと思う。
そして、数ヶ月後、私の母上は呆気なく亡くなってしまったのだ。
病で。
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