愛される王女の物語

ててて

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第1章 家族

兄妹

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ピタっと涙が止まった。というか引っ込んだ。やっぱり『兄』って言った?

急に涙が止まったからレオン様も訝しげに私を見つめた。

「レオン様…今、『兄』って…」

「え、あ。いや、違うんだ。違わないけれど。確かに私達は異母兄妹だ。だから生物学的には兄妹と言っても過言ではないのだけれど、私にはそんなことを言う資格がないというか、そんなことを言ってもいい立場ではないというか。その…」

また、レオン様の長い論理が始まってしまった。手を繋ぐ時もそうだったけれどこれって…

「だいたい私のせいでシルフィオーネが幼い頃からひどい仕打ちをされていた訳で、そんな私に兄妹なんて言える資格がある訳は無くて。それに…」

やっぱり、レオン様はその事を気にしていたのか。

……確かに、話を聞いた時は酷いと思った。でも、結局一番憎いのはあの人達だった訳で。
だからと言って、じゃあレオン様と陛下はと言われたら……。
助けて頂いて、こんなに優しくして頂いて、今の方が前よりも何倍も何十倍も幸福に感じているから。

私はこの人たちまでも憎もうだなんて思えるはずもなくて。

むしろ、その気持ちは反対で。

やっぱり伝えなければ分からないんだ。緑の本の主人公にはなれないけれど、彼女のようにしっかりと伝えよう。

まだ長い論理を説いているレオン様に思いっきり助走をつけて抱きついた。

自分にも勢いをつけるつもりで。

心的には体当たりだったのだが、流石に身体を鍛えているようでビクともしない。

いたたまれないので、そのまま腕の力を強めぎゅーっと抱きつく。

上をぱっと向いてレオン様を見る。
レオン様は顔を赤らめどうしたらいいのか分からないという初めて見る顔をしていた。

「私は、レオン様があの日、庭で見つけて下さったから今ここで幸せを感じています。…私はあのことでレオン様を憎んではいませんし、むしろ感謝しています。あの日、私を助けてくださってありがとうございます。」

言い終わってから恥ずかしさが出てきたのか顔が赤くなったのでレオン様の身体にひっつけて隠す。

すると、後ろに手を回され少しキツめに抱きしめられた。

「シルフィオーネ、ごめんね。本当にごめん。…こんな私を許してくれる?隣に居ることを許してくれるかい?」

「……はい。」

レオン様だってたくさん後悔をしているんだ。きっと私が想像もしないくらい。
だから、今日私を誘うのも、手を繋ぐのも、躊躇していた。怖がっていた。

この人をずっと苦しめたいわけじゃない。長いこと苦しんだのは私だけでいい。そのかわり私は、12年以上の幸せを掴むから。

体を少し離した。

「また、お茶会して下さいますか?」

「喜んで。」

そうして見つめあった私達は穏やかに笑いあった。
レオン様は私を部屋まで送って下さるそうで一緒に歩き始める。

そっと、レオン様の手に触れ手を繋いだ。レオン様はふっと笑うと握り返してくれる。
他愛もない話をしていたらあっという間に部屋に着いてしまった。

「今日はとても楽しかったよ。また次回、ね。」

「はい…」

なんだか寂しい気もするが次回までのお楽しみということにしよう。

「じゃあ、おやすみシルフィオーネ。」

「あ、あの…レオン様!!」

私はまだ聞いていないことがある。大切なことだ。

「ん…?どうしたの?」

レオン様は少し屈んで私と目線を合わせてくれる。緊張するが聞くしかない。でも、先ほどよりは不安な気持ちが薄かった。

「あ、あの…私のことを…い、『妹』だと思ってくださいますか…?」

「………え?……むしろ、私のことを『兄』だと思ってくれるのかい?」

私は恐る恐る、小さく頷いてみる。
そうして、レオン様を見つめるとその青い瞳に水をためながら私の頭をそっと撫でた。

「そうか………ありがとう。君は、私の大切な妹だよ。何よりも大切でとても愛おしい妹だ。シルフィオーネ」

「ありがとうございます。
…えっと、お、おにいさま」

恥ずかしい…けどやっと言えた。
あぁ、でも、やっぱり恥ずかしい。そそくさと部屋に入ろうとした…が。

ガシッと肩を掴まれた。

「シルフィオーネ、もう1回お願い」

「あ、ありがとうございます?」

「その後!もう1回!」

「お、おにいさま…」

「くっ、も、もう1回!」

「おにいさま」

「もう1回!」

このアンコールはしばらく続き、その頃には『お兄様』と呼ぶのにもだいぶ慣れた。本当に。
やっとハンスが「そろそろお夕食のお時間ですので」と止めてくれるまで。

お兄様はまだ足りないっ!と言いながらもお帰りになられた。

私は今日1日でお兄様との距離が少し近づいたのかなと思った。




今日はレオンと王宮内を歩き、読書をしたらしい。ぐっすりと眠るこの子の柔らかな銀髪を撫でる。

別に俺のところに来てもよかったんだがな。

このことをニクロスから聞いたというのがどうにも癪に障るが…

まぁ、剣の(一方的な)撃ち合いをして、その後にしっかりと話し合いをしたからいいか。

頭を撫でてやると少し口元を緩める。
その姿を見て、思わず目を細めた。


「おやすみ、シルフィ」







…ニクロスは今週の休日がなくなりました。



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