限られたある世界と現実

月詠世理

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その他短編

天使 後編

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 天使たち三人はいろいろと話し合って、いや、二人の天使が説得して一人の天使を連れ戻そうとしていた。けれど、根暗天使は、二人の天使の存在が不愉快だとでも言うように指をパチンと鳴らし、彼らをどこかに消してしまった。

「彼らをどこにやったんだ?」

 僕は静かになった空間で根暗天使に尋ねた。

「さあな。子どもが知る必要のないことだ。我らを見ることができる人間は珍しい。だから、子ども、お主はおかしいのだ」
「だから、初対面に対しておかしいって失礼だよ。あれ? これ前も言った気がするな」
「しかれども、子ども。お主が我の友人の生まれ変わりであるなら、我らが見えてもおかしくはないな。――そろそろ、寝るから邪魔をするな」

 ん? 根暗天使が何か妙なことを言ったように思う。あれ? えっ!?

「ぼ、僕が根暗天使の友人の生まれ変わりって!?
 嘘だーーーーーー!!!」

 僕は、近くの長椅子に寝転がっている天使の方へ走った。

「ねぇ、ぼ、僕がお前の友人の生まれ変わりって嘘だよね? 嫌だよ、君の友人になれとか言われたら……」

 僕は彼の体を大きく揺する。案の定、不機嫌そうに彼は眼を細める。

「残念だが……、友人の生まれ変わりであるお主は、すでに我の友人だ。それと、お主は神と言われる存在であった。神は約束を守らないと酷い罰を受けるらしい。だから、神として我と約束したことは守るべきだろうな」

 理不尽すぎる。生まれ変わる前の僕はなんてことをしてくれたんだ。この天使と友人になるのは、避けたいが、酷い罰をうけるのも嫌だ。人間である僕が罰を受けるのかも怪しいが、可能性があるなら、この天使の友人になるということを避けないべきである。

「なぜ、人間に生まれ変わったんだ! もし、人間でなかったら、なんらかの方法を探ってお前とは絶対に友達にはならなかったのに……」
「ふっ、残念なことだな。神であったお主は人間になりたいと言っていて、現在、人間であるお主は神であった方がよかったと言っている。まぁ、またお主が生まれ変わり、それが人間であろうが、神であろうが、動物であろうが、友人にはかわりはない。なぜなら、神であったお主が、途切れることはない永遠の約束を結んだと言っていたからだ」

 今、僕の表情は思いっきり引き攣っていることだろう。永遠の約束って、とても重い契約みたいなものじゃないか。最悪だ。

「これからも、友人としてよろしく頼む。ヨウト」
「前世の僕を恨むけど、そんなことをしていても何も解決しない。はぁ、とても嫌だけど、仕方がない。おまえの友人になるよ。でも、次はまた神様になって、あんたをこき使うことにする」
「ふっ、それができるといいな」
「その愉悦感たっぷりの笑いがムカつく!!」

 収まりようのない、たくさんの感情に支配される。しばらくして、落ち着いたころ、礼拝堂が開いた。

「ヨウト、もうお祈りの時間はとうに終わっていますよ」

 僕はもうそんな時間かと思った。そして、僕を呼び戻しに来た神父様は、不思議なことを言った。

「おや、珍しいものですね。ヨウトは楽しいひと時を過ごしたのでしょう」

 珍しいって神父様は見えているのか? あの天使が……。

「ヨウト」
「なんですか、神父様」

 僕を呼んだ彼はニッコリと笑う。

「友人は大事にするのですよ。――、それでは先に戻りますから、早く戻ってきてくださいね。皆がお腹を空かせて待っていますから、なるべく急いでくださいね」

 僕は、神父様と一緒に今すぐにでも戻ることができるのに彼に置いて行かれた。やっぱり、神父様はあの天使が見えているのだろうか。突然、友人の話がでてきたし……。神父様、謎だ。いろいろ考えてはいたが、急がなければと思い、走って帰ろうとする。ふと、後ろから聞こえてくる声。

「ユウト、またここで会おう。我の名前は――だ。覚えておけ」

 僕は、後ろは振り返らなかった。どうせ、また会えるから。


 走って皆のもとに帰ってくると、遅いと言われたが怒られることはなかった。楽しい食事の時間が始まってから、すぐ神父様に告げられたこと。

「これから、天使様へのお祈りは毎回ヨウトが担当になりましたから、よろしくお願いしますね」

 周りでは不満や喜びの声が出てきていたが、まったく僕の耳には入ってこない。その時、僕は、神父様があの天使を見えていたことを確信した。お世話になっている神父様に頼まれてしまったら、断ることは考えられない。僕は、仕方なく……。

「毎日、お祈りしますよ」

 了承の返事をした。

 今日も僕は、天使である友人のもとへ行く。
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