限られたある世界と現実

月詠世理

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その他短編

現実に起こった夢

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 白の羽がはらはらと落ちてくる。上を見上げると白い翼を持った者。あれはきっと天使だろう。人々は口々に言った。天使が舞い降りる、と。全身が真っ白な天使様の閉じていた目が開く。人々を見下ろしている天使様は衝撃的な内容を口にした。

「滅びは近い。我らはお主たちを助けることなどないと思え!」

 天使様の言葉が合図だったかのように、突然ドンっと大きな音が鳴り響いた。地上に落ちる大きな岩のような塊の数々。勢いよく落ちてくるそれに地は耐えられず、割れた。岩は形を残した物もあれば、衝撃で砕け散った物もある。地上には大きな穴ができていた。岩が落ちてくる様子を見ていた人々は混乱状態。その場にいた人々は悲鳴を上げて逃げ惑うばかり。中には落ちてきた塊に潰された人もいた。

「我々は世界を滅ぼす者。人間よ、罰を受けよ!!」

 ビリビリと空気が揺れた。逃げている足が止まりそうになった。だが、それをしたら死ぬと思い、精一杯走る。一体何が起こっているんだろうか。まだ状況を理解できていない僕たちは逃げようとも恐怖に支配されたまま。

「さぁ~、It’s showtime!  愚かな人間よ。神の眷属である我らの玩具となれ! あはははははは!!! ひひひひひひひ!!!」

 不気味な笑い声が聞こえた。ふと、真っ白な天使を見てしまう。空に手を向けていた。たらりと冷や汗が流れる。嫌な予感。僕はゾッとした。収まることのない混乱の最中に、再び巨大な岩がやってきたから。大きな大きな物で、ここらに落ちたらひとたまりもない。僕たちは死んでしまうだろう。

「ほらほら逃げなさい! 逃げて逃げて逃げて逃げなさい!! どんなに逃げたって潰されちゃうけどさ」

 どんどん迫ってくる物。逃げることさえ無駄だと思うくらいにそれは大きかった。逃げ道なんてない。奇跡的に生きられるか、それとも死んでしまうか。僕は足を止めた。もうどんなに逃げたところであれが落ちてくるのは止められやしない。僕は諦めた。生きることを――。ああ、僕は死ぬのか。俯いて自分の死を待つ。

 ぎゅっと目をつぶってどれくらい経っただろうか。もうあの世に着いたのかな。痛みもなく、逝けたのかな。そんなことを考えていた。

「あ、あんた! 何してんのよーーーーっ!!!」

 突然、スパーンとどこからか音が聞こえた。驚きとともに目を開ける。たしか、上から聞こえてきたような……。恐る恐る上を見る。そこには白い天使と金色の翼を持つ天使、かもしれない者がいた。

「人間滅ぼそうとすんなーー!! 勝手なことをするな!!」

 金色の翼を持った者は白い天使に説教をしている。しかもどこから取り出してきたのかわからないハリセンでバシバシ頭叩いてるし。とても痛そうだ。

「神様! 我らは勝手なことはしていません。神様は言われました。人間って面倒だな。滅ぼしちゃえば世界なんて管理しなくて楽だな。よし、君たち、人間で遊んでいいよー、と」
「え、そんなこと言ったかな?」
「はい、おっしゃいました。録音テープあるので聴きますか?」

 へぇ~、人間の世界じゃないけど、録音できる道具あるんだ。天の世界も科学が発展してるのだろうか。あっ! それより、人間滅亡を推奨するって正気か?

「……な、へ、ほ、あ? あ、あ、あぁぁぁ……うん、流さないでね。流しちゃだめだからね」

 うわ、すごい焦ってるな。神様。両手を前に突き出して、遠慮してるし。

「はい、ポチッとな!」
「うわーーー!!!」

 白い天使は四角いのにある赤いボタンを押した。それを見た神様がきっと何かをしたんだろう。ボンっと爆発した。プスプスと音が立ち、粉々になった機械。

「ふぅ~、危ない危ない。あのね、ちょっとお酒飲んで酔ってたのよ。人間の数の管理、世界に異常はないかの確認などなど、天井につきそうなくらいの紙束が数えきれないくらい机にあるのよ。そんな書類仕事でストレス溜まりまくってたの。やー、だからね――」
「神様、言い訳は無用です。お酒を飲んで吐いた言葉はあなたの本心です。人間はクソ。さっさと滅んでしまったら、こんなクソみたいな大量の仕事せずに楽できる。それなのに、どうしてこんなに紙があるの? 人間なんていなければ……」
「はい、ちょっと静かにしてようね~。そんなこと一っ言も言ったことないよー。うんうん、ないない」

 これは、神様、言ったことあるな。反応がわかりやすすぎる。もし言ってないなら、白い天使の口を塞いで、そっぽ向かなくていいと思うし。

「いや~、人間の諸君! 迷惑かけたね。ああ、君たち人間はここで起こったことの全てを忘れる。それじゃあ、せいぜい根強く生き残ってねー!!」

 あ、消えた。天使も一緒にいなくなってるし。なんだろう。夢でも見たのかな。いや、これは現実だ。そう思ったが、なんだか眠気が襲ってくる。僕は抗うことはできず、そのまま眠りについた。

「もう、時間巻き戻すの大変なんだからね! 今後はこんな暴挙一切しないでよ。また処理する書類が増えるんだからーー!!」

 どこからか悲痛な叫びが聞こえてきたような気がするけど、気のせいだよな。はぁ、変な夢も見たし。内容は、天使が人間滅ぼそうと襲ってきて、それを神様が止めるというもの。もともと人間滅亡は酔っ払った神様のせいで起こったことらしいけど。なんか、リアルな夢見たな~。

「まあ、現実にそんなこと起こるわけないよな。よし、さっさと出かける準備でもするか」


※※※

「我の給料が……8割減らされている!? どうやって生きていけばいいんだ! あの酔っ払い!! よし、神様に物申す!!……あの~、減給はなかったことにして……」
「しないよ。ほら、これ人間管理部ね。これは世界秩序部。これは時間管轄部。それでこれとこれは………………。はい、持ってって」

 ペンを持ち机にある紙を処理していた金色の翼を持つ者。その者はお願いに来た白い天使にドサドサと大量の紙を渡した。天使はヨロヨロになり、潰れそうになっている。

「落としちゃダメだよ。落としたら、今後しばらく給料なしね」
「そんなことになったら、生きていけない!!」

 必死に紙を抱える天使は、さっと部屋を出ていった。そして、紙の重さに耐えきれなくなったのか、紙の量が多いせいか、神様のいないところでたくさんの紙を落とした。散らばる紙を前に呆然と立つ天使がいたようだ。
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