【二度目の異世界、三度目の勇者】魔王となった彼女を討つために

南風

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エピローグⅣ イサム/メルル

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■ ■ ■

 この匂いは――真夜中の校庭。
 現代に、帰還したんだ。

 天を仰ぎ、おもむろに目蓋を開く。
 砂金を黒の幕に散りばめたような、星々煌めく夜空――とはいかなかったけれど、強く輝く星が、ひとつだけ見えていた。

 あれ――? ソラが、滲んでいる。
 輝く星の輪郭が、ぼんやりと広がっている。
 まるで、ピントの外れたカメラを覗いているみたいだ。

 変だな――って、目を擦った。そしたらたくさん、涙が出てきた。

 思ってもないことを――いや、思いたくないことを、思ってしまった。

 あんなに、頑張ったのに。必死に頑張ったのに!
 ――なんで、俺はこんなにも、苦しいんだよ。

 仲間たちの顔が、心に浮かび上がった。
 それで、彼女の顔だけが、消えない。

 雪原の光みたいな髪を靡かせた、碧色が消えない。

「会いたい――! 君に、会いたい――!!」
 
 いつの間にか、声に出していた。
 大声で叫んでいた。
 抑えたくても、抑えられなかった。


 そんな時に、空気を読まず、神様の声が頭に響いてくる。
 なんなんだよもう。

『感想戦とはいかないが、すまないね。とにかくお疲れさま』

 …………。

『これが最後の会話になるからさ、ちょっとは我慢してよ。――本来、時の因果を超えるなんて、許していないんだ。かつての世界では、不正をした奴らがいたから。でもキミも、あっちのキミも頑張ってたからさ、特別サービスをしようと思って。お陰様で神力も溜まったし』

『――頑張った奴が報われないなんて、俺は許せないんだ。でも、最後のお願いだけど、絶対……絶ッ対に!! 他の奴に言うんじゃないぞ!? 『探索者』を名乗る奴とか、名探偵とか、怪しい組織の奴とかに! あと、僕/オレへの信仰心も忘れないように! 一番の信者になれよ! 絶対だぞ!』

『ああ、それとね。君の彼女のことだけど、彼女は間違いなく、神の領域に辿り着いた。さっき喋ったもん。まったく……特別感があるから、俺はこの領域に居るのに。ま、礼を言われたのは気分が良かった。ちゃんと褒めときなよ。――じゃあ、これからも、頑張って』

 ソラで強く輝いていた星が突如、光を増す。
 耐えきれないとでも言うように、光が弾けた。
 一本の光の柱を、地に落とす。
 雷撃のような轟音を伴い、柱は俺の背後へと降り立った。

 ――――それはまるで、魔法のようで。

 驚いて振り向いた。
 光柱は次第に細まり、ソラへと還っていく。

 そこに立っていたのは、メルルだった。

「マジ、か」

 無意識に、呟きが漏れた。

 メルルは自分の手足を確かめるように動かして、全身を触った。
 そして、俺を見た。
 俺の顔を見て、力が抜けたように、彼女はぺたんとへたり込む。

 視線が交錯した。
 刹那、彼女の目から涙が零れた。

「良かったぁ……また会えたぁ……」

 その声に応えるように、駆け出した。
 ――彼女を抱きしめるために、駆け出した。

 俺たちは、強く、強く抱きしめる。
 その腕の中で、笑い合う。

 結局、俺は大人になれなかった。
 成長の実感も無い。

 だけど。

 ――明日からはきっと、退屈しない日になる。そう思えた。
 
【二度目の異世界、三度目の勇者】完。
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