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11章 宿屋娘が憧れの先輩と一緒にとろとろえっちになってしまうお話
205:仕事
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秋の長雨が、港湾要塞都市アストリナの石畳を灰色に濡らす、そんな日の午後のことです。街全体が、しっとりとした物悲しい空気に包まれていました。
さて、そんな雨模様の空と同じく、ここアストリナには心に晴れぬ霧を抱えた一人の人妻がいるのでした。彼女の名前は、エレナ・シュミット。風の魔術を操る、美しい魔術師です。夫ニルスの原因不明の病と、それによる鍛冶屋「炎の鉄槌」の経営難は、今日も今日とて彼女の肩に重くのしかかっていました。薬代と日々の生活費を稼ぐため、今日も彼女は重い足取りで、冒険者たちの熱気と欲望が渦巻く、冒険者ギルドの巨大な樫の扉を押し開けたのです。
ギルドホールに満ちるのは、汗と土と鉄、そして安いエールが混じり合った、男たちのむせ返るような匂いです。その喧騒は、ここが野心と一攫千金の夢を抱く者たちの坩堝であることを、何よりも雄弁に物語っています。エレナさんは、その空気に少し気圧されながらも、まっすぐに依頼が張り出された掲示板へと向かいます。しかし、残念ながら、彼女の心を動かすような高額案件は見当たりません。
羊皮紙に走り書きされた依頼の数々を、彼女はため息まじりに目で追います。
(『腐れ沼の巨大ナメクジ討伐』…報酬はそこそこですけれど、足場が悪すぎますわ。わたくしのローブが泥だらけになってしまいます…)
(ゴブリン前哨基地の掃討』…これは戦士向けの仕事。魔術師一人では危険すぎます…)
(『失われた猫探し』…報酬が安すぎますわね…)
どれもこれも、今の彼女の状況を劇的に改善してくれるようなものではありませんでした。以前共に冒険をした、頼りになる戦士ガラハッドと、口は悪いけれども優秀な斥候ロキがいれば、もう少し選択肢も広がるのでしょうが、あいにく二人は別の長期任務で街を離れており、当分戻る予定はないのでした。
焦りが募り、ふと顔を上げたその時です。近くで仲間と談笑していた、筋骨隆々とした戦士の、汗で張り付いたシャツ越しに浮かび上がる分厚い胸板が、不意にエレナさんの目に飛び込んできました。その瞬間、きゅう、と彼女の身体の奥深く、子宮のあたりが甘く疼き、白いブラウスの下で、豊かな双丘の先端が、きゅっと硬く尖ったのです。
(あら…?どうしたのかしら…)
自分でも気づかないうちに、彼女の喉がきゅっと鳴り、太腿の付け根がじわりと熱を帯びていくのを感じます。あのレッドキャップとの戦いの後、ガラハッドとロキにめちゃくちゃにされてしまった夜の経験。それはお酒に酔っていたエレナさんの記憶には露ほども残っていません。でも、普段は理性の奥底に沈めているはずの、あの背徳的な快楽の断片が、男たちの汗の匂いに誘われるようにして、ふと意識の表面に浮かび上がっては消えていきます。しかし、貞淑な人妻であるエレナさんは、その身体の正直すぎる反応の理由に気づくことなく、ただ頬が熱くなるのを感じて、小さくかぶりを振るのでした。
(…疲れているのかしら…)
「…困りましたわ。本当に、どうしましょう…」
途方に暮れて、再び掲示板に視線を落とした、その時でした。
「シュミット様」
凛とした、それでいて温度の感じられない声が、背後から彼女を呼び止めました。振り返ると、そこに立っていたのは、ギルドの制服を寸分の乱れもなく着こなした、紫色の髪の受付嬢、セレスティア・スティルウォーターその人でした。度の入っていない眼鏡の奥から、切れ長の瞳がエレナさんをまっすぐに射抜いています。
「セレス、さんでしたね…何か、わたくしに御用でしょうか?」
「ええ。先ほど、魔術師ギルドより連絡が。ギルドマスターのアウレリウス様が、至急あなたとお会いしたい、とのことです」
セレスさんは、感情の読めない平坦な口調で、業務連絡のように告げます。
「アウレリウス先生が…?わたくしに…?」
予期せぬ名前に、エレナさんは目を丸くしました。アウレリウスは、彼女がかつて師事した大魔術師。しかし、彼が個人的に自分を呼び出すなど、一体どういう風の吹き回しなのでしょうか。
「理由は伺っておりません。ただ、『高額の報酬を用意して待っている』と」
「…高額、報酬」
その言葉は、乾いた大地に染み込む水のように、エレナさんの心に響きました。今の彼女にとって、それ以上に魅力的な響きを持つ言葉はありません。
「わかりましたわ。すぐに、向かいます」
一も二もなく頷くエレナさんに、セレスさんはわずかに口の端を緩めました。それが嘲笑なのか、それとも同情なのか、判然としない不思議な笑みでした。
「賢明なご判断です。…それと、これは個人的な忠告ですが」
セレスさんは一歩前に出ると、声を潜めてエレナさんの耳元に囁きます。
「あの方からの依頼は、いつだって厄介事と相場が決まっています。…どうぞ、お気をつけて」
その声には、同じく夫のある女としての、奇妙な共感が含まれているようにも感じられました。意味深な言葉を残し、セレスさんは静かに踵を返すと、再び受付カウンターの奥へと戻っていきました。
一人残されたエレナさんは、彼女の言葉の意味を測りかねたまま、しばらくその場に立ち尽くしていました。しかし、今はただ、目の前にぶら下げられた「高額報酬」という蜘蛛の糸にすがるしかありません。
降りしきる雨の中、エレナさんは深くため息をつくと、意を決して、魔術師ギルドがそびえる丘陵地区へと、その歩みを進めるのでした。その足取りは、これから待ち受ける運命を知る由もなく、ただただ、夫の薬代と、まだ見ぬ報酬のことだけを考えていたのです。
さて、そんな雨模様の空と同じく、ここアストリナには心に晴れぬ霧を抱えた一人の人妻がいるのでした。彼女の名前は、エレナ・シュミット。風の魔術を操る、美しい魔術師です。夫ニルスの原因不明の病と、それによる鍛冶屋「炎の鉄槌」の経営難は、今日も今日とて彼女の肩に重くのしかかっていました。薬代と日々の生活費を稼ぐため、今日も彼女は重い足取りで、冒険者たちの熱気と欲望が渦巻く、冒険者ギルドの巨大な樫の扉を押し開けたのです。
ギルドホールに満ちるのは、汗と土と鉄、そして安いエールが混じり合った、男たちのむせ返るような匂いです。その喧騒は、ここが野心と一攫千金の夢を抱く者たちの坩堝であることを、何よりも雄弁に物語っています。エレナさんは、その空気に少し気圧されながらも、まっすぐに依頼が張り出された掲示板へと向かいます。しかし、残念ながら、彼女の心を動かすような高額案件は見当たりません。
羊皮紙に走り書きされた依頼の数々を、彼女はため息まじりに目で追います。
(『腐れ沼の巨大ナメクジ討伐』…報酬はそこそこですけれど、足場が悪すぎますわ。わたくしのローブが泥だらけになってしまいます…)
(ゴブリン前哨基地の掃討』…これは戦士向けの仕事。魔術師一人では危険すぎます…)
(『失われた猫探し』…報酬が安すぎますわね…)
どれもこれも、今の彼女の状況を劇的に改善してくれるようなものではありませんでした。以前共に冒険をした、頼りになる戦士ガラハッドと、口は悪いけれども優秀な斥候ロキがいれば、もう少し選択肢も広がるのでしょうが、あいにく二人は別の長期任務で街を離れており、当分戻る予定はないのでした。
焦りが募り、ふと顔を上げたその時です。近くで仲間と談笑していた、筋骨隆々とした戦士の、汗で張り付いたシャツ越しに浮かび上がる分厚い胸板が、不意にエレナさんの目に飛び込んできました。その瞬間、きゅう、と彼女の身体の奥深く、子宮のあたりが甘く疼き、白いブラウスの下で、豊かな双丘の先端が、きゅっと硬く尖ったのです。
(あら…?どうしたのかしら…)
自分でも気づかないうちに、彼女の喉がきゅっと鳴り、太腿の付け根がじわりと熱を帯びていくのを感じます。あのレッドキャップとの戦いの後、ガラハッドとロキにめちゃくちゃにされてしまった夜の経験。それはお酒に酔っていたエレナさんの記憶には露ほども残っていません。でも、普段は理性の奥底に沈めているはずの、あの背徳的な快楽の断片が、男たちの汗の匂いに誘われるようにして、ふと意識の表面に浮かび上がっては消えていきます。しかし、貞淑な人妻であるエレナさんは、その身体の正直すぎる反応の理由に気づくことなく、ただ頬が熱くなるのを感じて、小さくかぶりを振るのでした。
(…疲れているのかしら…)
「…困りましたわ。本当に、どうしましょう…」
途方に暮れて、再び掲示板に視線を落とした、その時でした。
「シュミット様」
凛とした、それでいて温度の感じられない声が、背後から彼女を呼び止めました。振り返ると、そこに立っていたのは、ギルドの制服を寸分の乱れもなく着こなした、紫色の髪の受付嬢、セレスティア・スティルウォーターその人でした。度の入っていない眼鏡の奥から、切れ長の瞳がエレナさんをまっすぐに射抜いています。
「セレス、さんでしたね…何か、わたくしに御用でしょうか?」
「ええ。先ほど、魔術師ギルドより連絡が。ギルドマスターのアウレリウス様が、至急あなたとお会いしたい、とのことです」
セレスさんは、感情の読めない平坦な口調で、業務連絡のように告げます。
「アウレリウス先生が…?わたくしに…?」
予期せぬ名前に、エレナさんは目を丸くしました。アウレリウスは、彼女がかつて師事した大魔術師。しかし、彼が個人的に自分を呼び出すなど、一体どういう風の吹き回しなのでしょうか。
「理由は伺っておりません。ただ、『高額の報酬を用意して待っている』と」
「…高額、報酬」
その言葉は、乾いた大地に染み込む水のように、エレナさんの心に響きました。今の彼女にとって、それ以上に魅力的な響きを持つ言葉はありません。
「わかりましたわ。すぐに、向かいます」
一も二もなく頷くエレナさんに、セレスさんはわずかに口の端を緩めました。それが嘲笑なのか、それとも同情なのか、判然としない不思議な笑みでした。
「賢明なご判断です。…それと、これは個人的な忠告ですが」
セレスさんは一歩前に出ると、声を潜めてエレナさんの耳元に囁きます。
「あの方からの依頼は、いつだって厄介事と相場が決まっています。…どうぞ、お気をつけて」
その声には、同じく夫のある女としての、奇妙な共感が含まれているようにも感じられました。意味深な言葉を残し、セレスさんは静かに踵を返すと、再び受付カウンターの奥へと戻っていきました。
一人残されたエレナさんは、彼女の言葉の意味を測りかねたまま、しばらくその場に立ち尽くしていました。しかし、今はただ、目の前にぶら下げられた「高額報酬」という蜘蛛の糸にすがるしかありません。
降りしきる雨の中、エレナさんは深くため息をつくと、意を決して、魔術師ギルドがそびえる丘陵地区へと、その歩みを進めるのでした。その足取りは、これから待ち受ける運命を知る由もなく、ただただ、夫の薬代と、まだ見ぬ報酬のことだけを考えていたのです。
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