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11章 宿屋娘が憧れの先輩と一緒にとろとろえっちになってしまうお話
222:監視
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前夜…
その夜も、夕食を終えた後の学習の時間がやってきた。
場所は、ユーノ様に与えられた、広々とした私室。壁一面の本棚には、彼が読破したであろう様々な分野の本がぎっしりと並んでいる。
僕、アル・クーパーは、ギルドの地下深く、ひんやりとした監視室で、たった一人、師匠に言いつけられた監視任務を続けていた。夕食は、厨房からくすねてきた、少し硬くなったパンと、塩辛い干し肉だけ。黒水晶に映し出される、領主邸の豪奢な部屋と、そこで繰り広げられる光景を眺めていると、自分の境遇がなんだかひどく惨めに思えてくる。
黒水晶の中では、今日の授業担当であるエレナ先輩が、ユーノくんに地理を教えていた。しばらくして、リリア先輩が「ギルドへの定期報告がありますので」と、優雅に一礼して部屋を出ていくのが見えた。ああ、行ってしまう。僕の女神が。その姿が見えなくなるだけで、この薄暗い監視室が、さらに寒々しく感じられた。師匠との魔術通信だろうか。僕も、リリア先輩と二人きりで、そんな風に話がしてみたい。
リリア先輩がいなくなり、部屋にはエレナ先輩とユーノ様の二人きりになった。僕は、なんだか見てはいけないものを見ているような、妙な罪悪感と、それ以上の興奮を覚えて、ごくりと喉を鳴らした。この任務、正直言って辛いことばかりだけど、憧れの先輩たちの、普段は見られない姿…例えば、寝間着姿や、入浴シーンなんかをこっそり覗けるのは、役得以外の何物でもない。
「ですからユーノ様。こちらの地図をご覧くださいな。この大きな川を渡ると帝国で、山脈を越えたこちら側が共和国ですわ。アストリナは、そのちょうど中間にあるでしょう?」
黒水晶の向こうで、エレナ先輩が、机の上に広げられた大きな羊皮紙の地図を、愛用の樫の木の杖で指し示しながら、根気よく説明を続けている。やはりユーノ様は、どうにも地理というものが苦手なご様子だ。
「うーん…でも、おねえちゃん。この川って、船で渡ればすぐじゃないかな? なんで、こっちの国とこっちの国は、そんなに仲が悪いんですか?」
「それは、長い歴史の中で、色々なことがあったからですわ。そのお話は、また歴史の時間に、ゆっくりと…」
「じゃあ、この山って、鳥さんみたいに飛んで越えちゃえばいいじゃないかな!」
「……ユーノ様。普通の人間は、鳥さんのようには飛べませんのよ?」
そのあまりにも子供らしい、しかし魔術の天才ならではの発想に、エレナ先輩は、ふぅ、と深いため息をついた。ああ、なんてことだ。そのたびに、黒いメイド服の胸元が、豊かに、そして悩ましげに揺れる。あの下には、先日、この水晶越しに見てしまった、蜘蛛の糸のように繊細な黒いレースの下着が隠されているんだ。そのレースが、彼女の汗ばんだ白い肌に擦れる感触を想像しただけで、僕の下腹部が、ずくりと熱くなった。
(くそっ…!なんで、ユーノ様だけが…!)
当のユーノ様は、もうすっかり飽きてしまったご様子で、椅子の背もたれにぐったりと寄りかかっている。その年相応の、可愛らしい姿が、僕の嫉妬の炎に、さらに油を注いだ。
「…仕方ありませんわね。少し、休憩にしましょうか」
エレナ先輩がそう提案すると、ユーノ様の顔が、ぱあっと輝いたのが見えた。
「ほんと!? やったあ! ねぇ、エレナおねえちゃん、ちょっと待ってて! 僕、とっておきのもの、持ってくるから!」
ユーノ様は、弾かれたように椅子から立ち上がると、ぱたぱたと可愛らしい足音を立てて、部屋から駆け出していった。その背中を見送りながら、エレナ先輩は、やれやれと肩をすくめる。その仕草一つさえ、僕の目には、熟れた果実のように甘く、官能的に映った。
やがて、ユーノ様が、満面の笑みで戻ってきた。その小さな両手には、銀のトレイが、大切そうに抱えられている。盆の上に置かれていたのは、見るからに食欲をそそる、つやつやとした飴色の焼き菓子と、大きなガラスの瓶。こんがりと焼かれた生地の上には、粉砂糖が雪のように降りかかり、ミントの葉が愛らしく添えられている。その隣で、ルビーのように透き通った紅色の液体が、ランプの光をその内に閉じ込めて、きらきらと魅惑的に輝いていた。
「まあ、なんて美味しそう。これを、ユーノ様がお作りになったのですか?」
エレナ先輩が感心したように尋ねると、ユーノ様は、えっへん、と得意げに小さな胸を張った。
「うん! 料理長に少しだけ手伝ってもらったけど、僕が作ったんだ! こっちは、お庭で今朝採れた木苺のタルトだよ! それでね、こっちのお酒は、僕が、今年取れたお庭の葡萄で漬けた、特製の果実酒なんだ!」
ユーノ様は、少し照れたようにはにかみながら、紅色の液体が満たされたガラス瓶を指さす。その瓶は、ただのガラスではない。よく見ると、表面には微細なルーン文字がびっしりと刻まれており、魔力を込めて醸造されたことが窺える。おそらくは、酵母の働きを活性化させ、熟成を促進させるための古代魔術なのだろう。アストール家に伝わる、秘伝の醸造法か何かか。
「僕は飲めないから、エレナおねえちゃんに、味見してほしくて…。だめ、かな?」
潤んだ大きな青い瞳で、上目遣いに見つめられて、断れる者など、この世にいるのだろうか。いや、いない。でも、エレナ先輩、あなたには師匠に言われているはずだ。酒を飲まないようにエレナには忠告した、師匠はそう言っていたんだ。
その夜も、夕食を終えた後の学習の時間がやってきた。
場所は、ユーノ様に与えられた、広々とした私室。壁一面の本棚には、彼が読破したであろう様々な分野の本がぎっしりと並んでいる。
僕、アル・クーパーは、ギルドの地下深く、ひんやりとした監視室で、たった一人、師匠に言いつけられた監視任務を続けていた。夕食は、厨房からくすねてきた、少し硬くなったパンと、塩辛い干し肉だけ。黒水晶に映し出される、領主邸の豪奢な部屋と、そこで繰り広げられる光景を眺めていると、自分の境遇がなんだかひどく惨めに思えてくる。
黒水晶の中では、今日の授業担当であるエレナ先輩が、ユーノくんに地理を教えていた。しばらくして、リリア先輩が「ギルドへの定期報告がありますので」と、優雅に一礼して部屋を出ていくのが見えた。ああ、行ってしまう。僕の女神が。その姿が見えなくなるだけで、この薄暗い監視室が、さらに寒々しく感じられた。師匠との魔術通信だろうか。僕も、リリア先輩と二人きりで、そんな風に話がしてみたい。
リリア先輩がいなくなり、部屋にはエレナ先輩とユーノ様の二人きりになった。僕は、なんだか見てはいけないものを見ているような、妙な罪悪感と、それ以上の興奮を覚えて、ごくりと喉を鳴らした。この任務、正直言って辛いことばかりだけど、憧れの先輩たちの、普段は見られない姿…例えば、寝間着姿や、入浴シーンなんかをこっそり覗けるのは、役得以外の何物でもない。
「ですからユーノ様。こちらの地図をご覧くださいな。この大きな川を渡ると帝国で、山脈を越えたこちら側が共和国ですわ。アストリナは、そのちょうど中間にあるでしょう?」
黒水晶の向こうで、エレナ先輩が、机の上に広げられた大きな羊皮紙の地図を、愛用の樫の木の杖で指し示しながら、根気よく説明を続けている。やはりユーノ様は、どうにも地理というものが苦手なご様子だ。
「うーん…でも、おねえちゃん。この川って、船で渡ればすぐじゃないかな? なんで、こっちの国とこっちの国は、そんなに仲が悪いんですか?」
「それは、長い歴史の中で、色々なことがあったからですわ。そのお話は、また歴史の時間に、ゆっくりと…」
「じゃあ、この山って、鳥さんみたいに飛んで越えちゃえばいいじゃないかな!」
「……ユーノ様。普通の人間は、鳥さんのようには飛べませんのよ?」
そのあまりにも子供らしい、しかし魔術の天才ならではの発想に、エレナ先輩は、ふぅ、と深いため息をついた。ああ、なんてことだ。そのたびに、黒いメイド服の胸元が、豊かに、そして悩ましげに揺れる。あの下には、先日、この水晶越しに見てしまった、蜘蛛の糸のように繊細な黒いレースの下着が隠されているんだ。そのレースが、彼女の汗ばんだ白い肌に擦れる感触を想像しただけで、僕の下腹部が、ずくりと熱くなった。
(くそっ…!なんで、ユーノ様だけが…!)
当のユーノ様は、もうすっかり飽きてしまったご様子で、椅子の背もたれにぐったりと寄りかかっている。その年相応の、可愛らしい姿が、僕の嫉妬の炎に、さらに油を注いだ。
「…仕方ありませんわね。少し、休憩にしましょうか」
エレナ先輩がそう提案すると、ユーノ様の顔が、ぱあっと輝いたのが見えた。
「ほんと!? やったあ! ねぇ、エレナおねえちゃん、ちょっと待ってて! 僕、とっておきのもの、持ってくるから!」
ユーノ様は、弾かれたように椅子から立ち上がると、ぱたぱたと可愛らしい足音を立てて、部屋から駆け出していった。その背中を見送りながら、エレナ先輩は、やれやれと肩をすくめる。その仕草一つさえ、僕の目には、熟れた果実のように甘く、官能的に映った。
やがて、ユーノ様が、満面の笑みで戻ってきた。その小さな両手には、銀のトレイが、大切そうに抱えられている。盆の上に置かれていたのは、見るからに食欲をそそる、つやつやとした飴色の焼き菓子と、大きなガラスの瓶。こんがりと焼かれた生地の上には、粉砂糖が雪のように降りかかり、ミントの葉が愛らしく添えられている。その隣で、ルビーのように透き通った紅色の液体が、ランプの光をその内に閉じ込めて、きらきらと魅惑的に輝いていた。
「まあ、なんて美味しそう。これを、ユーノ様がお作りになったのですか?」
エレナ先輩が感心したように尋ねると、ユーノ様は、えっへん、と得意げに小さな胸を張った。
「うん! 料理長に少しだけ手伝ってもらったけど、僕が作ったんだ! こっちは、お庭で今朝採れた木苺のタルトだよ! それでね、こっちのお酒は、僕が、今年取れたお庭の葡萄で漬けた、特製の果実酒なんだ!」
ユーノ様は、少し照れたようにはにかみながら、紅色の液体が満たされたガラス瓶を指さす。その瓶は、ただのガラスではない。よく見ると、表面には微細なルーン文字がびっしりと刻まれており、魔力を込めて醸造されたことが窺える。おそらくは、酵母の働きを活性化させ、熟成を促進させるための古代魔術なのだろう。アストール家に伝わる、秘伝の醸造法か何かか。
「僕は飲めないから、エレナおねえちゃんに、味見してほしくて…。だめ、かな?」
潤んだ大きな青い瞳で、上目遣いに見つめられて、断れる者など、この世にいるのだろうか。いや、いない。でも、エレナ先輩、あなたには師匠に言われているはずだ。酒を飲まないようにエレナには忠告した、師匠はそう言っていたんだ。
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