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12章 クールな受付嬢も暑さでとろとろに溶けてしまうお話
253:休暇
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秋も深まり、港湾要塞都市アストリナの空は、どこまでも高く澄み渡っていました。石畳を濡らす朝露がきらきらと太陽の光を反射し、乾いた風が運んでくる、収穫を終えた小麦畑の香ばしい匂いと、潮の香りが混じり合って、街全体を包み込んでいます。季節の移ろいは、冒険者たちの欲望と喧騒が渦巻くこの街にも、束の間の穏やかさをもたらしているようでした。
しかし、そんな長閑な空気とはまるで無縁の場所が、アストリナ冒険者ギルドの最上階にしつらえられた、ギルドマスター執務室です。
「うーん……これは、実に、困ったことになったな…」
執務机に山と積まれた羊皮紙の報告書の、その向こう側から、まるで地鳴りのような唸り声が聞こえてきました。声の主は、このギルドの最高責任者であるディーチェ・アシュワース氏。恰幅のいいその身体を普段よりも小さく見せるほどに、豪奢な革張りの椅子に深く沈み込み、節くれだった指でこめかみをぐりぐりと揉んでいます。部屋に満ちているのは、上質なインクと古紙の匂い、そして、彼の尽きることのない頭痛の唸りだけでした。
その、あまりにも分かりやすいため息に、まるで示し合わせたかのように、重厚な樫の扉が控えめに、しかし遠慮なくノックされます。
「マスター、失礼しますよー!」
「失礼いたします」
許可を待たずして室内に滑り込んできたのは、二つの影。ギルドの受付に咲く、対照的な二輪の花でした。
一人は、プラチナブロンドの髪を揺らし、ギルドの制服である黒いプリーツスカートをひらりと翻して、小悪魔的な笑みを浮かべるリーゼさん。彼女が動くたびに、清潔なシャツの生地と甘い花の香りがふわりと香り、書類とインクの匂いしかしない無骨な部屋の空気を、一瞬で華やかに塗り替えていきます。
もう一人は、背中まで届く艶やかな紫色の髪をきっちりとしたポニーテールにまとめ、度の入っていない眼鏡の奥から、氷のように冷たい視線を投げかけるセレスさん。身体のラインを強調するタイトな黒いスカートは、彼女のストイックな印象を際立たせ、一分の隙も感じさせません。
二人はその手に、さらに分厚い羊皮紙の束を抱えていました。そして、アシュワース氏の返事を待つこともなく、彼の机の上にそびえ立つ書類の山に、新たな地層を築き上げていくのです。どすん、どすん、と無慈悲な音を立てて。
「マスター、こちら、先日討伐した『沼地のヒュドラ』の素材買い取りに関する、商人ギルドからの最終確認書です。本日中にマスターの印がないと、支払いが来月にずれ込んでしまいますよ!」
「こちらは、帝国騎士団からの次期合同訓練に関する計画書の修正案です。昨日までに返答するようにと、念を押されておりましたが」
リーゼさんが子供をあやすような口調で、セレスさんが感情の起伏を感じさせない平坦な口調で、矢継ぎ早に報告します。その声は、アシュワース氏の疲弊した精神に、じわじわと、しかし確実にダメージを与えていきました。
「ううむ…分かっている、分かっているとも…」
「もう、マスターったら! そんなことでは、いつまで経ってもお仕事は終わりませんよ! もし、ぜーんぶ終わらせることができたら、このわたし、リーゼお姉さんが、とーっても素敵なご褒美をあげちゃいますからね♡」
リーゼさんはそう言うと、わざとらしく豊満な胸を張り、上目遣いでアシュワース氏に媚を売ります。その瞬間、彼女の下腹部に刻まれた淫紋『蕩婦の嘆き』が、目の前の男の内に秘められたどす黒い欲望に呼応して、ずくん、と熱く疼きました。スカートの下で、太ももの内側を、とろりとした蜜が伝うのを感じ、彼女はきゅっと足を閉じます。
しかし、アシュワース氏はその挑発に乗るどころか、眉間の皺をさらに深くしました。
「マスター。ギルドの長としての立場を自覚なさってください。女遊びも結構ですが、それで業務に支障をきたすのは本末転倒です。ほどほどになさいませんと、理事会に報告が上がることになりますよ」
今度はセレスさんが、眼鏡の位置を中指でくい、と押し上げながら、冷たく言い放ちます。その言葉には、単なる部下からの小言ではない、確かな棘が含まれていました。彼女もまた、この肥え太った上司と、幾度となく「特別な関係」を持ってきた一人なのです。
「……君たちな…」
ぐうの音も出ないアシュワース氏を尻目に、リーゼさんとセレスさんは、顔を見合わせてひそひそと悪巧みを始めました。
「ねぇ、セレスさん。こうなったら、魔術師ギルドのアウレリウス様に頼んで、特製の栄養ドリンクでも融通してもらいましょうか? あの、『賢者の不眠』とかいう、三日三晩眠らずに思考が冴えわたるっていう、アレですよ!」
「いえ、リーゼさん。あれは副作用で味覚と理性が失われると聞きます。それよりは、『巨人の霊薬』の方がよろしいのでは? 一時的に筋力と精神力が向上します。ああ、でも、代わりに一週間ほど、性欲が十倍になるそうですが」
「あ、それいいですねぇ♡ マスター、たくましくなっちゃうかも♡」
しかし、そんな長閑な空気とはまるで無縁の場所が、アストリナ冒険者ギルドの最上階にしつらえられた、ギルドマスター執務室です。
「うーん……これは、実に、困ったことになったな…」
執務机に山と積まれた羊皮紙の報告書の、その向こう側から、まるで地鳴りのような唸り声が聞こえてきました。声の主は、このギルドの最高責任者であるディーチェ・アシュワース氏。恰幅のいいその身体を普段よりも小さく見せるほどに、豪奢な革張りの椅子に深く沈み込み、節くれだった指でこめかみをぐりぐりと揉んでいます。部屋に満ちているのは、上質なインクと古紙の匂い、そして、彼の尽きることのない頭痛の唸りだけでした。
その、あまりにも分かりやすいため息に、まるで示し合わせたかのように、重厚な樫の扉が控えめに、しかし遠慮なくノックされます。
「マスター、失礼しますよー!」
「失礼いたします」
許可を待たずして室内に滑り込んできたのは、二つの影。ギルドの受付に咲く、対照的な二輪の花でした。
一人は、プラチナブロンドの髪を揺らし、ギルドの制服である黒いプリーツスカートをひらりと翻して、小悪魔的な笑みを浮かべるリーゼさん。彼女が動くたびに、清潔なシャツの生地と甘い花の香りがふわりと香り、書類とインクの匂いしかしない無骨な部屋の空気を、一瞬で華やかに塗り替えていきます。
もう一人は、背中まで届く艶やかな紫色の髪をきっちりとしたポニーテールにまとめ、度の入っていない眼鏡の奥から、氷のように冷たい視線を投げかけるセレスさん。身体のラインを強調するタイトな黒いスカートは、彼女のストイックな印象を際立たせ、一分の隙も感じさせません。
二人はその手に、さらに分厚い羊皮紙の束を抱えていました。そして、アシュワース氏の返事を待つこともなく、彼の机の上にそびえ立つ書類の山に、新たな地層を築き上げていくのです。どすん、どすん、と無慈悲な音を立てて。
「マスター、こちら、先日討伐した『沼地のヒュドラ』の素材買い取りに関する、商人ギルドからの最終確認書です。本日中にマスターの印がないと、支払いが来月にずれ込んでしまいますよ!」
「こちらは、帝国騎士団からの次期合同訓練に関する計画書の修正案です。昨日までに返答するようにと、念を押されておりましたが」
リーゼさんが子供をあやすような口調で、セレスさんが感情の起伏を感じさせない平坦な口調で、矢継ぎ早に報告します。その声は、アシュワース氏の疲弊した精神に、じわじわと、しかし確実にダメージを与えていきました。
「ううむ…分かっている、分かっているとも…」
「もう、マスターったら! そんなことでは、いつまで経ってもお仕事は終わりませんよ! もし、ぜーんぶ終わらせることができたら、このわたし、リーゼお姉さんが、とーっても素敵なご褒美をあげちゃいますからね♡」
リーゼさんはそう言うと、わざとらしく豊満な胸を張り、上目遣いでアシュワース氏に媚を売ります。その瞬間、彼女の下腹部に刻まれた淫紋『蕩婦の嘆き』が、目の前の男の内に秘められたどす黒い欲望に呼応して、ずくん、と熱く疼きました。スカートの下で、太ももの内側を、とろりとした蜜が伝うのを感じ、彼女はきゅっと足を閉じます。
しかし、アシュワース氏はその挑発に乗るどころか、眉間の皺をさらに深くしました。
「マスター。ギルドの長としての立場を自覚なさってください。女遊びも結構ですが、それで業務に支障をきたすのは本末転倒です。ほどほどになさいませんと、理事会に報告が上がることになりますよ」
今度はセレスさんが、眼鏡の位置を中指でくい、と押し上げながら、冷たく言い放ちます。その言葉には、単なる部下からの小言ではない、確かな棘が含まれていました。彼女もまた、この肥え太った上司と、幾度となく「特別な関係」を持ってきた一人なのです。
「……君たちな…」
ぐうの音も出ないアシュワース氏を尻目に、リーゼさんとセレスさんは、顔を見合わせてひそひそと悪巧みを始めました。
「ねぇ、セレスさん。こうなったら、魔術師ギルドのアウレリウス様に頼んで、特製の栄養ドリンクでも融通してもらいましょうか? あの、『賢者の不眠』とかいう、三日三晩眠らずに思考が冴えわたるっていう、アレですよ!」
「いえ、リーゼさん。あれは副作用で味覚と理性が失われると聞きます。それよりは、『巨人の霊薬』の方がよろしいのでは? 一時的に筋力と精神力が向上します。ああ、でも、代わりに一週間ほど、性欲が十倍になるそうですが」
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