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12章 クールな受付嬢も暑さでとろとろに溶けてしまうお話
254:休暇
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その、あまりにも無慈悲な会話が、ついにアシュワース氏の堪忍袋の緒を、ぷつん、と断ち切りました。
「もうよいッ!!」
がたん、と大きな音を立てて椅子から立ち上がったアシュワース氏は、まるで子供のように顔を真っ赤にして叫びました。
「もう仕事など知るか! 私は休暇を取る! 明日からだ!」
「「え?」」
「君たちもだ! リーゼ君、セレス君! 明日の朝、始業と同時にこの執務室に来たまえ! これより三泊四日の緊急海外出張を命じる!」
「「はぁ!?」」
「行き先は、南、常夏の島だ! 異論は認めん!」
そう一方的に宣言すると、アシュワース氏はふん、と鼻を鳴らし、再び椅子にどっかりと腰を下ろしてしまいました。
あまりに突然の展開に、リーゼさんとセレスさんは、ただ呆然と顔を見合わせるばかり。しかし、すぐに二人の頭の中では、高速で計算が始まりました。
(三泊四日の海外出張…? しかも、マスターのお金で…?)
(南の島…ということは、まさか本当に…?)
アストリナの秋風に冷えた身体には、その言葉はあまりにも甘美な響きを持っていました。もちろん、この仕事人間のマスターのことです。近くの温泉街にでも一泊して、美味しいものを食べて終わり、というのが関の山でしょう。それでも、夫に内緒で、上司と旅行。その背徳的な響きは、貞淑な人妻であるはずの二人の心を、抗いがたい期待感で満たすのに十分すぎるほどでした。
「…承知いたしました、マスター」
「お供させていただきますね、マスター♡」
こうして、三人の奇妙な南国への旅が、唐突に決定したのでした。
◇◇◇
翌朝。
約束通りギルドマスターの執務室に集まったリーゼさんとセレスさんは、普段の制服姿とは打って変わって、それぞれが旅を意識した私服に身を包んでいました。
リーゼさんは、胸元が大きく開いた純白のワンピース。その柔らかな生地は、彼女の豊満な身体の曲線を惜しげもなく描き出し、歩くたびにスカートの裾がふわりと揺れて、健康的な太ももをちらつかせます。セレスさんは、身体のラインがくっきりと浮かび上がる、黒のタイトなパンツスタイル。活動的でありながら、どこか禁欲的な色気を漂わせ、その対比が男の支配欲を煽るのでした。
「うむ。二人とも、なかなかいい趣味をしているな」
満足げに頷いたアシュワース氏は、執務室の奥、壁に掛けられた巨大な姿見の前へと二人を促します。それは、彼の背丈ほどもある、黒檀の枠に収められた豪奢な鏡でした。
「マスター? これはいったい…?」
「まあ、見ていたまえ」
アシュワース氏は不敵に笑うと、懐から三つの小さな魔導具を取り出しました。一つは、夜空の闇を閉じ込めたかのような、漆黒の鍵。そして、残りの二つは、日の光と月の光をそれぞれ宿したかのように輝く、対になった水晶です。
彼は、その三つの魔導具を、鏡の枠に設けられた窪みへと、寸分の狂いもなくはめ込んでいきました。
「これは、アシュワース家に代々伝わる古文書をもとに開発した『転移の鏡』。空間座標を固定するための『定位の水晶』二つと、時空の扉を開くための『虚ろの鍵』を、独自開発した魔術回路が刻まれたこの鏡にはめ込むことで、遠く離れた場所に設置した、同調済みの鏡とゲートを繋ぐことができるのだ」
「…マスター。これほどの規模の空間転移魔術は、国家レベルの儀式でしか聞いたことがありませんが…」
セレスさんが、驚きを隠せない声で呟きます。
「ふふん。私の魔導具師としての腕を、甘く見てもらっては困るな、セレス君」
彼が最後の水晶をはめ込み終えた、その瞬間でした。
鏡の表面が、水面のように揺らめき、まばゆい光を放ち始めます。やがて光が収まると、そこに映し出されていたのは、執務室の殺風景な光景ではなく、見たこともないような、楽園の景色でした。
どこまでも続く、乳白色の砂浜。エメラルドグリーンに輝く、穏やかな海。そして、空には、アストリナでは決して見ることのできない、巨大な太陽が燦々と輝いています。画面の向こうから、むわりと熱気を帯びた潮風と、甘く濃厚な南国の花の香りが流れ込んでくるかのようです。
「さあ、行くぞ。我が一族が南方に持つ、ささやかなる別荘へようこそ」
そう言って、アシュワース氏は躊躇なく、光り輝く鏡の中へとその身を投じました。
一瞬の浮遊感の後、リーゼさんとセレスさんの身体は、温かい光に包まれます。
次に目を開けた時、彼女たちが立っていたのは、インクと羊皮紙の匂いがする執務室ではなく、むせ返るような熱気と、生命力に満ち溢れた、常夏の島の、豪華な邸宅のテラスの上だったのでした。
「もうよいッ!!」
がたん、と大きな音を立てて椅子から立ち上がったアシュワース氏は、まるで子供のように顔を真っ赤にして叫びました。
「もう仕事など知るか! 私は休暇を取る! 明日からだ!」
「「え?」」
「君たちもだ! リーゼ君、セレス君! 明日の朝、始業と同時にこの執務室に来たまえ! これより三泊四日の緊急海外出張を命じる!」
「「はぁ!?」」
「行き先は、南、常夏の島だ! 異論は認めん!」
そう一方的に宣言すると、アシュワース氏はふん、と鼻を鳴らし、再び椅子にどっかりと腰を下ろしてしまいました。
あまりに突然の展開に、リーゼさんとセレスさんは、ただ呆然と顔を見合わせるばかり。しかし、すぐに二人の頭の中では、高速で計算が始まりました。
(三泊四日の海外出張…? しかも、マスターのお金で…?)
(南の島…ということは、まさか本当に…?)
アストリナの秋風に冷えた身体には、その言葉はあまりにも甘美な響きを持っていました。もちろん、この仕事人間のマスターのことです。近くの温泉街にでも一泊して、美味しいものを食べて終わり、というのが関の山でしょう。それでも、夫に内緒で、上司と旅行。その背徳的な響きは、貞淑な人妻であるはずの二人の心を、抗いがたい期待感で満たすのに十分すぎるほどでした。
「…承知いたしました、マスター」
「お供させていただきますね、マスター♡」
こうして、三人の奇妙な南国への旅が、唐突に決定したのでした。
◇◇◇
翌朝。
約束通りギルドマスターの執務室に集まったリーゼさんとセレスさんは、普段の制服姿とは打って変わって、それぞれが旅を意識した私服に身を包んでいました。
リーゼさんは、胸元が大きく開いた純白のワンピース。その柔らかな生地は、彼女の豊満な身体の曲線を惜しげもなく描き出し、歩くたびにスカートの裾がふわりと揺れて、健康的な太ももをちらつかせます。セレスさんは、身体のラインがくっきりと浮かび上がる、黒のタイトなパンツスタイル。活動的でありながら、どこか禁欲的な色気を漂わせ、その対比が男の支配欲を煽るのでした。
「うむ。二人とも、なかなかいい趣味をしているな」
満足げに頷いたアシュワース氏は、執務室の奥、壁に掛けられた巨大な姿見の前へと二人を促します。それは、彼の背丈ほどもある、黒檀の枠に収められた豪奢な鏡でした。
「マスター? これはいったい…?」
「まあ、見ていたまえ」
アシュワース氏は不敵に笑うと、懐から三つの小さな魔導具を取り出しました。一つは、夜空の闇を閉じ込めたかのような、漆黒の鍵。そして、残りの二つは、日の光と月の光をそれぞれ宿したかのように輝く、対になった水晶です。
彼は、その三つの魔導具を、鏡の枠に設けられた窪みへと、寸分の狂いもなくはめ込んでいきました。
「これは、アシュワース家に代々伝わる古文書をもとに開発した『転移の鏡』。空間座標を固定するための『定位の水晶』二つと、時空の扉を開くための『虚ろの鍵』を、独自開発した魔術回路が刻まれたこの鏡にはめ込むことで、遠く離れた場所に設置した、同調済みの鏡とゲートを繋ぐことができるのだ」
「…マスター。これほどの規模の空間転移魔術は、国家レベルの儀式でしか聞いたことがありませんが…」
セレスさんが、驚きを隠せない声で呟きます。
「ふふん。私の魔導具師としての腕を、甘く見てもらっては困るな、セレス君」
彼が最後の水晶をはめ込み終えた、その瞬間でした。
鏡の表面が、水面のように揺らめき、まばゆい光を放ち始めます。やがて光が収まると、そこに映し出されていたのは、執務室の殺風景な光景ではなく、見たこともないような、楽園の景色でした。
どこまでも続く、乳白色の砂浜。エメラルドグリーンに輝く、穏やかな海。そして、空には、アストリナでは決して見ることのできない、巨大な太陽が燦々と輝いています。画面の向こうから、むわりと熱気を帯びた潮風と、甘く濃厚な南国の花の香りが流れ込んでくるかのようです。
「さあ、行くぞ。我が一族が南方に持つ、ささやかなる別荘へようこそ」
そう言って、アシュワース氏は躊躇なく、光り輝く鏡の中へとその身を投じました。
一瞬の浮遊感の後、リーゼさんとセレスさんの身体は、温かい光に包まれます。
次に目を開けた時、彼女たちが立っていたのは、インクと羊皮紙の匂いがする執務室ではなく、むせ返るような熱気と、生命力に満ち溢れた、常夏の島の、豪華な邸宅のテラスの上だったのでした。
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