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14章 ドジっ子くのいち娘が遊郭っぽい施設でたいへんえっちになるおはなし
332:情報
しおりを挟む帰り支度を終えたユーゴは、部屋の窓辺に腰掛け、窓から見えるエンブレスの朝の風景を眺めながら、満足そうに紫煙をくゆらせていました。その横顔は、靄がかかっていてもなお、生来人を支配する貴族の威厳に満ちています。
「いやぁ、昨日は本当に最高の夜だったぜ、ユキ。お前さん、噂には聞いていたが、これほどとはな」
男は、心の底から感心したように言いました。その言葉に、小雪さんの胸がきゅう、と甘く締め付けられます。
「もったいないお言葉でございます。わたくしこそ、ユーゴ様のお優しさに、身も心も蕩かされてしまいましたわ…♡」
媚びるように、潤んだ瞳でそう答えると、男は楽しそうに笑いました。
「はは、口がうめえな。だが、お世辞抜きで、だ。黒蝶楼のNo.1だってのも頷ける。正直、エンブレスの女は、ほとんど試したつもりでいたが、お前さんは別格だ」
そして、彼は、まるで遠い昔を懐かしむかのような、夢見るような瞳で、こう続けたのです。
「あの『カナ』との一夜に匹敵する、素晴らしい夜だった」
その名を聞いた瞬間、小雪さんの心臓が、どくん、と大きく跳ねました。
カナ。
その名前には、聞き覚えがありました。このエンブレスの街で情報収集をする中で、何度か噂として耳にした名前です。この街を牛耳る盗賊団の頭領が、その寵愛を一身に集めているという、伝説の遊女。誰もその姿を見たことがなく、一夜を共にするには、小さな城が一つ買えるほど莫大な対価が必要になるという、幻の女。
「…カナ、様、でございますか?」
小雪さんは、シノビとしての探求心と、女としての嫉妬が入り混じった、複雑な感情を隠しながら、努めて冷静に問いかけました。
「おお、知ってるのか。まあ、この街で知らねえ奴はモグリだがな」
ユーゴ様は、自慢げに鼻を鳴らしました。
「あいつは、ただの女じゃねえ。エンブレスの頭領、この街の王様だけの特別な華だ。俺も、親父に無理言って、一晩だけ会わせてもらったことがある」
男は、淡々と、しかしその瞳の奥には、抗いがたいほどの熱を宿して語り始めました。彼が言うには、カナという女は、ただ美しいだけではない、と。その身には、特殊な魔力を宿しており、一度肌を重ねれば、どんな男でもその魔力の虜となり、身も心も、そして魂ごと、その女に支配されてしまうのだというのです。その快感は、もはや人間の領域を超えた、神々の戯れにも等しいものだと、彼は言いました。
「頭領は、そのカナの魔力で、この街に集まる権力者たちを骨抜きにして、裏から操っているのさ。とんだ魔女だよ、全く」
小雪さんは、ごくり、と息を飲みました。これが、この街の核心。自分が追い求めていた、人身売買組織の、その中枢に関わる情報でした。
「そ、そのような素晴らしい方が、いったいどちらに…?」
小雪さんは、声を震わせながら尋ねます。すると、ユーゴ様は、あっさりと、そしてこともなげに、その場所を口にしたのです。
「ああ、あいつがいるのは、こんな華やかな場所じゃねえのさ。街の西のはずれ、昔の火山活動でできた古い溶岩洞窟をくり抜いて作った、ただのでかい倉庫みたいな場所の奥だ。誰も、あそこが頭領とカナの閨だなんて、夢にも思わねえだろうよ」
西のはずれの、倉庫に見せかけた、溶岩洞窟。
その言葉は、まるで雷のように、小雪さんの脳髄を撃ち抜きました。これまで彼女が調査してきたのは、この歓楽街の中心部と、地下に張り巡めぐらされた秘密の通路だけでした。街のはずれにある、ただの倉庫など、完全にノーマークでした。
(…見つけた)
心の奥で、シノビとしての血が、歓喜に打ち震えます。しかし、それと同時に、この男に対する、どうしようもない罪悪感と、そして断ち切ることのできない甘い情が、彼女の胸を締め付けるのでした。
◇◇◇
「じゃあな、ユキ。また必ず、お前さんを指名しに来る。それまで、他の男に骨抜きにされんじゃねえぞ」
ユーゴは、そう言うと、小雪さんの唇に、名残惜しそうに、しかしどこまでも優しい口づけを一つ残して、部屋を出ていきました。
一人残された部屋に、朝の静寂が戻ってきます。
小雪さんは、しばらくの間、男が残していった温もりと、その甘い残り香に包まれながら、呆然と立ち尽くしていました。
しかし、やがて、その潤んだ瞳に、再び、氷のように冷徹な、シノビとしての光が宿ります。
(…行かなければ)
新たなる任務の始まりを告げる、静かな、しかしどこまでも固い決意が、彼女の心を支配していました。男に蕩かされたこの淫らな身体を、そして彼との偽りの恋の記憶を、シノビとしての使命を果たすための、ただの道具として利用する。それが、このどうしようもない裏切りに対する、自分自身への、そして彼への、唯一の贖罪であるかのように。
小雪さんは、窓から差し込む朝の光をその身に浴びながら、静かに、次の戦いへと、その身も心も切り替えていくのでした。
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