365 / 370
15章 宿屋娘が憧れの先輩と一緒にどろどろえっちになってしまうお話
358:死者
しおりを挟む
部屋の隅の椅子では、ご主人様であるユーノくんが、何事もなかったかのように、分厚い魔導書を熱心に読みふけっておりました。二人が身じろぎしたことに気づくと、彼はぱたんと本を閉じ、とたとたと可愛らしい足音を立てて駆け寄ってきます。その小さな手には、緑色に輝く液体で満たされたポーションの小瓶が二本、握られておりました。
「あ、おねえちゃんたち、おはよ! すごく頑張ってくれたから、疲れちゃったでしょ? これ、飲んでね」
差し出されたのは、どうやら普通の、しかし極めて品質の高い治癒のポーションのようでした。二人は、まだ夢現つの頭でそれを受け取ると、こくこくと一気に飲み干し、ようやく一つ、安堵のため息をついたのでした。
「……それにしても、ユーノ様」
しばらくして、落ち着きを取り戻したエレナさんが、少し考え込むようにして、口火を切りました。
「わたくしから提案しておいて、なんといいますか、ユーノ様の、その、夜間の付き添いというのは、少々、無理があるように思いますわ。あなた様はあまりお気になさっていないようですが、このままでは、わたくしたち、本当に懐妊してしまいます。…ですが、あの死霊魔術の気配も、やはり無視することはできません」
「だから、お願いです。教えていただけませんか? あの、冷たくて、知的な魔力の気配の、本当の原因を」
真剣な眼差しでそう問いかけるエレナさんに、ユーノくんは、こてん、と不思議そうに首を傾げました。
「だから、あれはやっぱり、夢の中のひいじいちゃんの、特訓なんだってば!」
納得しない二人の様子に、ユーノくんは、やれやれ、とでも言うように、しかたないなぁ、と呟きました。そして、部屋の中央に立つと、すう、と息を吸い込んで魔力を集中させ、まるで近所のおじいちゃんを呼ぶかのように、天井に向かって呼びかけたのです。
「おーい、ひいじいちゃーん! ちょっと、出てきてよー!」
その瞬間、部屋の空気が、まるで真冬の氷のように、一瞬で凍りつきました。床、壁、天井の至る所に、エレナさんですら見たこともない、古代帝国の紋様を思わせる、禍々しくも美しい幾何学模様の魔法陣が、紫色の燐光を放ちながら次々と浮かび上がります。濃厚な、墓所の奥から漂ってくるような死の匂いと、圧倒的な魔力の圧力が、二人の柔肌をひりひりと刺しました。やがて、魔法陣の中心から、まるで闇そのものが人の形をとったかのように、一体のアンデッドが、ゆっくりと姿を現したのです。それは、かつて「アストリナの怪物」と恐れられた、リッチと化した先々代領主、その人でした。
「やかましいわ、ユーノ! 何度言ったらわかるんじゃ! 昼間に儂を呼び出すなと! ただでさえ無駄に魔力を使うというのに! どうしてもと言うなら、そこの女どもとの子作りが終わった、夜に呼べと言っておるじゃろうが!」
開口一番、先々代領主は、ひ孫であるユーノくんに、がみがみと小言を垂れ始めました。その、あまりにも俗物的な物言いに、エレナさんとリリアさんは、ただあっけにとられて、声も出せないのでした。
「ごめんごめん。でも、このおねえちゃんたちが、ひいじいちゃんに用事があるみたいなんだ」
「ほう? 儂にか? ……なるほどのう。お主ら、ユーノの側室になったのか。よかろう。儂に頼み事があるなら聞くが、どうせ不死化でもしてほしいのじゃろう? よいよい、そのくらい、訳はないわ」
そう言って、リッチはカカカ、と骨の顎を鳴らして笑いました。
その言葉で、エレナさんとリリアさんは、すべてを理解いたしました。ユーノくんに、あの悪魔的な古代魔術の知識を授けていたのは、このリッチと化した先々代領主だったのです。死霊魔術の気配は、彼の指導に伴うものだったのでございましょう。幸い、彼らに世界をどうこうしようというような、邪悪な意図はなさそうです。二人に課せられた本来の任務は、これで一応、完了したことになります。
エレナさんは、そっとリリアさんへと視線を送りました。リリアさんもまた、眼鏡の奥の潤んだ瞳で、静かに先輩を見つめ返します。言葉はなくとも、二人の心は通じ合っておりました。本来の任務は終わった。しかし、この城を去るという選択肢は、もはやどちらの心にも存在しない。互いの瞳に、同じ背徳的な決意の色と、若きご主人様への抗いがたい思慕の光が宿っているのを確認すると、二人はどちらからともなく、小さく、しかし確かな頷きを交わしたのでした。共犯者としての、新たな、そしてより深い絆が結ばれた瞬間でございました。
幸い家庭教師という大義名分は、まだまだ使うことができます。死霊魔術の気配の理由は、魔術師ギルドマスターアウレリウスには「不明のまま」と報告し、この甘美で背徳的な日常を、もう少しだけ続けることにしたのでした。
「あ、おねえちゃんたち、おはよ! すごく頑張ってくれたから、疲れちゃったでしょ? これ、飲んでね」
差し出されたのは、どうやら普通の、しかし極めて品質の高い治癒のポーションのようでした。二人は、まだ夢現つの頭でそれを受け取ると、こくこくと一気に飲み干し、ようやく一つ、安堵のため息をついたのでした。
「……それにしても、ユーノ様」
しばらくして、落ち着きを取り戻したエレナさんが、少し考え込むようにして、口火を切りました。
「わたくしから提案しておいて、なんといいますか、ユーノ様の、その、夜間の付き添いというのは、少々、無理があるように思いますわ。あなた様はあまりお気になさっていないようですが、このままでは、わたくしたち、本当に懐妊してしまいます。…ですが、あの死霊魔術の気配も、やはり無視することはできません」
「だから、お願いです。教えていただけませんか? あの、冷たくて、知的な魔力の気配の、本当の原因を」
真剣な眼差しでそう問いかけるエレナさんに、ユーノくんは、こてん、と不思議そうに首を傾げました。
「だから、あれはやっぱり、夢の中のひいじいちゃんの、特訓なんだってば!」
納得しない二人の様子に、ユーノくんは、やれやれ、とでも言うように、しかたないなぁ、と呟きました。そして、部屋の中央に立つと、すう、と息を吸い込んで魔力を集中させ、まるで近所のおじいちゃんを呼ぶかのように、天井に向かって呼びかけたのです。
「おーい、ひいじいちゃーん! ちょっと、出てきてよー!」
その瞬間、部屋の空気が、まるで真冬の氷のように、一瞬で凍りつきました。床、壁、天井の至る所に、エレナさんですら見たこともない、古代帝国の紋様を思わせる、禍々しくも美しい幾何学模様の魔法陣が、紫色の燐光を放ちながら次々と浮かび上がります。濃厚な、墓所の奥から漂ってくるような死の匂いと、圧倒的な魔力の圧力が、二人の柔肌をひりひりと刺しました。やがて、魔法陣の中心から、まるで闇そのものが人の形をとったかのように、一体のアンデッドが、ゆっくりと姿を現したのです。それは、かつて「アストリナの怪物」と恐れられた、リッチと化した先々代領主、その人でした。
「やかましいわ、ユーノ! 何度言ったらわかるんじゃ! 昼間に儂を呼び出すなと! ただでさえ無駄に魔力を使うというのに! どうしてもと言うなら、そこの女どもとの子作りが終わった、夜に呼べと言っておるじゃろうが!」
開口一番、先々代領主は、ひ孫であるユーノくんに、がみがみと小言を垂れ始めました。その、あまりにも俗物的な物言いに、エレナさんとリリアさんは、ただあっけにとられて、声も出せないのでした。
「ごめんごめん。でも、このおねえちゃんたちが、ひいじいちゃんに用事があるみたいなんだ」
「ほう? 儂にか? ……なるほどのう。お主ら、ユーノの側室になったのか。よかろう。儂に頼み事があるなら聞くが、どうせ不死化でもしてほしいのじゃろう? よいよい、そのくらい、訳はないわ」
そう言って、リッチはカカカ、と骨の顎を鳴らして笑いました。
その言葉で、エレナさんとリリアさんは、すべてを理解いたしました。ユーノくんに、あの悪魔的な古代魔術の知識を授けていたのは、このリッチと化した先々代領主だったのです。死霊魔術の気配は、彼の指導に伴うものだったのでございましょう。幸い、彼らに世界をどうこうしようというような、邪悪な意図はなさそうです。二人に課せられた本来の任務は、これで一応、完了したことになります。
エレナさんは、そっとリリアさんへと視線を送りました。リリアさんもまた、眼鏡の奥の潤んだ瞳で、静かに先輩を見つめ返します。言葉はなくとも、二人の心は通じ合っておりました。本来の任務は終わった。しかし、この城を去るという選択肢は、もはやどちらの心にも存在しない。互いの瞳に、同じ背徳的な決意の色と、若きご主人様への抗いがたい思慕の光が宿っているのを確認すると、二人はどちらからともなく、小さく、しかし確かな頷きを交わしたのでした。共犯者としての、新たな、そしてより深い絆が結ばれた瞬間でございました。
幸い家庭教師という大義名分は、まだまだ使うことができます。死霊魔術の気配の理由は、魔術師ギルドマスターアウレリウスには「不明のまま」と報告し、この甘美で背徳的な日常を、もう少しだけ続けることにしたのでした。
0
あなたにおすすめの小説
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる