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17章 ボクっ娘魔術師奥様が教授と思い出振り返りえっちの報告をするおはなし
392:師弟
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秋も終わりに近づき、港湾要塞都市アストリナを吹き抜ける風は、冬の訪れを予感させる冷気を帯びていた。空はどこまでも高く澄み渡り、その突き抜けるような青さが、かえって物悲しさを誘う。石畳の街路樹は最後の輝きを放つかのように、その葉を燃えるような深紅や黄金色に染め上げ、乾いた風が吹くたびに、カサカサと寂しげな音を立てて路上に舞い落ちるのであった。澄んだ空気には、収穫を終えた畑から運ばれてくる土の匂いと、家々の煙突から立ち上る薪の燃える香ばしい匂いが混じり合い、人々は厚手の上着の襟を立てて足早に行き交っている。
そんな、どこか物寂しい秋の日の午後。ポーション屋「月影の雫」の若き奥様にして、大魔術師アウレリウスが弟子、リノア・ナハティガルは、冒険者ギルドの巨大なホールを、どこか退屈そうに歩いていた。先日の、あの無骨な戦士ガラハッドとのあまりにも濃密すぎた情事は、彼女の身体の奥底に、今もなお、燻るような熱の残滓を留めている。夫テオドアは、あの背徳的な記録の水晶を、それこそ擦り切れるほどに鑑賞しては、彼女の腕の中で、か細く果てた。しかし、リノア自身の、一度目覚めてしまった肉体の疼きは、夫の、あの可愛らしくも頼りない愛撫だけでは、到底満たされるものではなくなってしまっていたのである。ラミアと人魚の血が、もっと強く、もっと圧倒的な雄を求めて、その魂の奥底で、甘く、そして飢えたように囁き続けていた。
(あーあ、なんか、こう、骨のある依頼はないのかねぇ)
依頼が張り出された巨大な掲示板に並ぶのは、ゴブリンの巣の掃討や、街道を荒らす盗賊団の討伐といった、ありふれた依頼ばかり。彼女の強力な魔術の腕を振うには、あまりにも物足りない。そして何より、次の「貸し出し」相手として、彼女の心を昂らせるような、屈強な雄の姿も見当たらなかった。落胆のため息をつき、踵を返そうとした、その時だった。
「リノア・ナハティガル様でいらっしゃいますね」
凛とした、しかしどこか熱を帯びた声に呼び止められ、リノアが振り返ると、そこに立っていたのは、ギルドの受付嬢、「氷のセレス」ことセレスティア・スティルウォーターであった。背中まで届く艶やかな紫色の髪をきっちりとしたポニーテールにまとめ、度の入っていない眼鏡の奥から、氷の様な、しかしどこか物憂げな視線をこちらに向けている。その完璧に着こなされたギルドの制服は、彼女のスレンダーながらも女性的な身体の曲線を、嫌味なく、しかし雄弁に物語っていた。特に、タイトなスカートから伸びる、黒いストッキングに包まれた脚線美は、多くの冒険者の視線を密かに集めている。だが、今の彼女からは、いつものような近寄りがたい冷気だけではなく、まるで熱に浮かされたかのような、微かな甘い香りが漂っていた。頬は上気し、切れ長の瞳は潤み、固く結ばれているはずの唇は、わずかに、そして誘うように開かれている。
そのただならぬ様子に、周囲の冒険者たちも気づいたのだろう。屈強な戦士も、抜け目のない盗賊も、誰もが固唾を飲んで、この対照的な二人の美女の邂逅を見守っている。氷の美女と、妖艶な魔術師。その二人が交わす言葉の響きは、むさ苦しいギルドのホールに、場違いなほどの緊張と官能の匂いを振りまいていた。
「マスターが、執務室でお待ちです」
その声には、単なる業務連絡ではない、何か特別な響きが含まれていた。リノアは、ふ、と口の端を吊り上げると、その挑発に乗るように、セレスの後に続いた。
◇◇◇
冒険者ギルドの最上階にしつらえられた、ギルドマスター執務室。重厚な樫の扉を開けると、上質なインクと古紙の匂いに混じって、濃厚な雄の残り香と、熟れた果実が熟れ爛れるような、二種類の女の甘い匂いが、リノアの鋭敏な嗅覚を刺激した。間違いない、つい先ほどまで、この部屋では、複数人を巻き込んだ、相当に激しい交わりが行われていた。奥の私室へと続く扉の隙間からは、見慣れたプラチナブロンドの髪が、まるで意識を失っているかのように、だらりと覗いている。
「やあ、リノア君。よく来てくれた」
執務机に山と積まれた羊皮紙の報告書の向こう側から、まるで地鳴りのような、しかしどこか上機嫌な声が聞こえてきた。声の主は、このギルドの最高責任者であるディーチェ・アシュワース。恰幅のいいその身体を豪奢な革張りの椅子に深く沈め、抜け目のない瞳でこちらを見つめている。
「だいぶん寒くなってきただろう。そろそろ外での冒険はつらくなってきたのではないかね?」
「世間話なら、他所でやってくれないかな。ボクは、見ての通り、忙しいんだ」
リノアは、わざと素っ気なくそう言って、話を促した。この狸親父の腹の探り合いに、長々と付き合うつもりはない。
「はっはっは、相変わらず、君はせっかちだな。まあ、いいだろう。先日、南の群島国家ソル・マレイで、極めて古い、そして危険な古代遺跡を発見した。ついては、君に、その調査チームへの参加を依頼したい。なんせ常夏の南の島だ。寒がりの君にはまさしく楽園だろう。」
アシュワースは、単刀直入に本題を切り出した。彼は、遺跡の構造、水没した内部、そしてそこに潜むであろう邪悪な魔物の気配と、幾重にも施された古代の封印魔術について、簡潔に、しかし要点を押さえて説明する。その言葉の端々から、彼の魔導具師としての、飽くなき探求心と、支配者としての狡猾さが滲み出ていた。
そんな、どこか物寂しい秋の日の午後。ポーション屋「月影の雫」の若き奥様にして、大魔術師アウレリウスが弟子、リノア・ナハティガルは、冒険者ギルドの巨大なホールを、どこか退屈そうに歩いていた。先日の、あの無骨な戦士ガラハッドとのあまりにも濃密すぎた情事は、彼女の身体の奥底に、今もなお、燻るような熱の残滓を留めている。夫テオドアは、あの背徳的な記録の水晶を、それこそ擦り切れるほどに鑑賞しては、彼女の腕の中で、か細く果てた。しかし、リノア自身の、一度目覚めてしまった肉体の疼きは、夫の、あの可愛らしくも頼りない愛撫だけでは、到底満たされるものではなくなってしまっていたのである。ラミアと人魚の血が、もっと強く、もっと圧倒的な雄を求めて、その魂の奥底で、甘く、そして飢えたように囁き続けていた。
(あーあ、なんか、こう、骨のある依頼はないのかねぇ)
依頼が張り出された巨大な掲示板に並ぶのは、ゴブリンの巣の掃討や、街道を荒らす盗賊団の討伐といった、ありふれた依頼ばかり。彼女の強力な魔術の腕を振うには、あまりにも物足りない。そして何より、次の「貸し出し」相手として、彼女の心を昂らせるような、屈強な雄の姿も見当たらなかった。落胆のため息をつき、踵を返そうとした、その時だった。
「リノア・ナハティガル様でいらっしゃいますね」
凛とした、しかしどこか熱を帯びた声に呼び止められ、リノアが振り返ると、そこに立っていたのは、ギルドの受付嬢、「氷のセレス」ことセレスティア・スティルウォーターであった。背中まで届く艶やかな紫色の髪をきっちりとしたポニーテールにまとめ、度の入っていない眼鏡の奥から、氷の様な、しかしどこか物憂げな視線をこちらに向けている。その完璧に着こなされたギルドの制服は、彼女のスレンダーながらも女性的な身体の曲線を、嫌味なく、しかし雄弁に物語っていた。特に、タイトなスカートから伸びる、黒いストッキングに包まれた脚線美は、多くの冒険者の視線を密かに集めている。だが、今の彼女からは、いつものような近寄りがたい冷気だけではなく、まるで熱に浮かされたかのような、微かな甘い香りが漂っていた。頬は上気し、切れ長の瞳は潤み、固く結ばれているはずの唇は、わずかに、そして誘うように開かれている。
そのただならぬ様子に、周囲の冒険者たちも気づいたのだろう。屈強な戦士も、抜け目のない盗賊も、誰もが固唾を飲んで、この対照的な二人の美女の邂逅を見守っている。氷の美女と、妖艶な魔術師。その二人が交わす言葉の響きは、むさ苦しいギルドのホールに、場違いなほどの緊張と官能の匂いを振りまいていた。
「マスターが、執務室でお待ちです」
その声には、単なる業務連絡ではない、何か特別な響きが含まれていた。リノアは、ふ、と口の端を吊り上げると、その挑発に乗るように、セレスの後に続いた。
◇◇◇
冒険者ギルドの最上階にしつらえられた、ギルドマスター執務室。重厚な樫の扉を開けると、上質なインクと古紙の匂いに混じって、濃厚な雄の残り香と、熟れた果実が熟れ爛れるような、二種類の女の甘い匂いが、リノアの鋭敏な嗅覚を刺激した。間違いない、つい先ほどまで、この部屋では、複数人を巻き込んだ、相当に激しい交わりが行われていた。奥の私室へと続く扉の隙間からは、見慣れたプラチナブロンドの髪が、まるで意識を失っているかのように、だらりと覗いている。
「やあ、リノア君。よく来てくれた」
執務机に山と積まれた羊皮紙の報告書の向こう側から、まるで地鳴りのような、しかしどこか上機嫌な声が聞こえてきた。声の主は、このギルドの最高責任者であるディーチェ・アシュワース。恰幅のいいその身体を豪奢な革張りの椅子に深く沈め、抜け目のない瞳でこちらを見つめている。
「だいぶん寒くなってきただろう。そろそろ外での冒険はつらくなってきたのではないかね?」
「世間話なら、他所でやってくれないかな。ボクは、見ての通り、忙しいんだ」
リノアは、わざと素っ気なくそう言って、話を促した。この狸親父の腹の探り合いに、長々と付き合うつもりはない。
「はっはっは、相変わらず、君はせっかちだな。まあ、いいだろう。先日、南の群島国家ソル・マレイで、極めて古い、そして危険な古代遺跡を発見した。ついては、君に、その調査チームへの参加を依頼したい。なんせ常夏の南の島だ。寒がりの君にはまさしく楽園だろう。」
アシュワースは、単刀直入に本題を切り出した。彼は、遺跡の構造、水没した内部、そしてそこに潜むであろう邪悪な魔物の気配と、幾重にも施された古代の封印魔術について、簡潔に、しかし要点を押さえて説明する。その言葉の端々から、彼の魔導具師としての、飽くなき探求心と、支配者としての狡猾さが滲み出ていた。
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