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2章 人妻魔術師の冒険とはっちゃめちゃになるお話
23:討伐
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レッドキャップどもは、獲物を見つけた飢えた狼のように、あるいは腐肉に群がるハイエナのように、奇声を上げながら、一直線にガラハッドへと殺到した。その動きは、ゴブリン特有の素早さに加え、狂気に満ちた獰猛さを伴っており、油断すれば一瞬で切り刻まれてしまうだろう。
『させません!』
エレナは、恐怖を押し殺し、杖を力強く振り上げた。彼女の足元から、渦巻くように風が巻き起こり、周囲の枯れ葉や砂塵を舞い上げる。マナが、彼女の身体を通じ、杖の先端に集束していく。杖に嵌め込まれた小さな風のエレメンタル・クリスタルが、淡い翠色の光を放ち始めた。
「風よ、集いて刃となり、敵を切り裂け! 」
エレナの凛とした声と共に、杖先から不可視の風の刃が、鋭い呼気を伴って放たれた。シュンッ、と空気を切り裂く音が響き、それはまるで熟練の剣士が放つ斬撃のように、先頭を走っていたレッドキャップの一匹の喉元を正確に捉えた。ブシュッ、と鈍い、湿った音が響き渡る。赤黒い血飛沫が、まるで噴水のように勢いよく舞い上がり、小鬼は奇声すら上げることなく、前のめりに崩れ落ちた。その断面からは、どす黒い血と共に、断ち切られた気管や血管が覗いていた。
『やるじゃねえか、姐さん! 見直したぜ!』
ガラハッドが、獰猛な、しかしどこか満足げな笑みを浮かべて叫んだ。彼は、残りの四匹のレッドキャップどもを真正面から受け止め、その巨体と両手剣で、まるで難攻不落の城壁のように立ち塞がる。ガキンッ! ギャリンッ! ギィンッ! と、レッドキャップどもの錆びた武器が、ガラハッドの分厚い革鎧や、巧みに捌かれる両手剣の腹に弾かれる、甲高い金属音が森の中に響き渡る。ガラハッドは、一歩も引くことなく、その圧倒的な膂力と技量で、複数の敵を同時に相手にしていた。
その隙を見逃さず、茂みに潜んでいたロキが、音もなくレッドキャップどもの背後に回り込んでいた。彼の動きは、まるで影が地面を滑るかのように素早く、そして捉えどころがない。腰の鞘から引き抜かれた二本の短剣――その刃には、おそらく麻痺毒か、あるいは致死性の猛毒が塗られているのだろう、鈍い緑色の光沢が見える――が、闇夜に煌めく毒蛇の牙のように、レッドキャップどもの防御の薄い首筋や、鎧の隙間である脇腹へと、次々と突き立てられていく。
『ハハッ、雑魚が! 俺様の毒の前では、赤子同然だぜ!』
ロキの下卑た笑い声と共に、レッドキャップどもが、甲高い悲鳴とも、苦悶の呻きともつかない声を上げて、次々とその場に崩れ落ちていく。毒が回ったのか、その身体は不自然に痙攣し、口からは泡を吹いていた。
しかし、その時だった。一匹のレッドキャップが、ガラハッドの防御網を巧みにすり抜け、エレナへと向かって突進してきたのだ。その手には、他の個体よりも一回り大きな、血に濡れた鉈が握り締められている。その黄色い瞳は、エレナの白い肌と豊満な身体を捉え、明らかに劣情と残虐な喜びに満ちた光を宿していた。
『危ねえ! エレナ!』
ガラハッドが叫ぶが、距離がある。間に合わない。エレナは、迫り来る醜悪な脅威に一瞬、息を呑んだ。近距離での戦闘は、魔術師にとって最も苦手とするところだ。杖は打撃武器としてはあまりにも非力であり、呪文の詠唱には僅かながら時間が必要となる。
(落ち着いて…! わたくしには、風がある!)
エレナは、込み上げてくる恐怖を、強い意志の力で振り払った。彼女は杖を胸の前に構え直し、残っていたマナを瞬時に練り上げる。
「風よ、渦巻きて障壁となれ! わたくしを守る盾となれ! 」
エレナの周囲に、目には見えない、しかし強力な風の壁が瞬時に形成された。それは、高速で回転する空気の渦であり、物理的な攻撃を弾き返す防御魔術だ。レッドキャップが、奇声を上げながら振り下ろした血塗れの鉈は、見えない壁に阻まれ、ガギンッ、と鈍い金属音を立てて弾き返された。レッドキャップは、予期せぬ抵抗に体勢を崩し、一瞬、動きが止まる。
その致命的な隙を見逃すはずがなかった。ガラハッドの巨体が、まるで怒れる熊のようにレッドキャップに突進し、両手剣を横薙ぎに一閃させた。ゴゥッ、と風を切る音と共に、鋼の刃がレッドキャップの胴体を、まるで熟れた果実を断ち割るかのように、真っ二つに両断した。内臓と血飛沫が周囲に飛び散り、レッドキャップの上半身と下半身は、別々の方向へと吹き飛んでいった。
戦闘は、あっという間に終わった。周囲には、レッドキャップどもの無残な死骸が五つ転がり、むせ返るような血と臓物の生臭い匂いが、森の湿った空気と混じり合って漂っている。エレナは、はぁ、はぁ、と荒い息をつき、杖を握る手に力が入りすぎて、指先が白くなっていることに気づいた。心臓が、まだ激しく鼓動している。
『…ありがとうございます、ガラハッド殿、ロキ殿。お二人がいなければ、危ういところでしたわ』
エレナは、まだ少し震える声で、素直な感謝の言葉を口にした。彼らの実力は確かだった。そして、結果的にではあるが、彼らはエレナを守ってくれたのだ。
ガラハッドは、両手剣についた赤黒い血糊を、近くの木の幹で無造作に拭うと、ぶっきらぼうに答えた。
『ふん、礼には及ばん。仕事だからな。だが、まあ、あんたも思ったよりはやるようだな。あの風の壁は悪くなかった』
その口調は相変わらず無骨だったが、エレナに向けられた眼の光には、先ほどまでのあからさまな不信感は薄れているように見えた。ほんの少しだけ、仲間として認められたような気がして、エレナの心に小さな安堵感が広がった。
一方、ロキは、短剣についた血を、まるで美味なソースでも味わうかのように、ぺろりと舌で舐め取りながら、にやりと下卑た笑みを浮かべた。
『へっへっへ。どういたしまして、エレナのお嬢ちゃん。 あんたみたいな別嬪さんを守るのは、俺たち男の役目ってもんだからな。それにしても、今の風の壁、なかなか見事だったぜ。あんたのその豊かな胸みたいに、しっかり硬くて、頼りになりそうだ。なあ?』
相変わらずの下卑た物言いだったが、その声にはどこか得意げな響きがあった。エレナは、その言葉と、再び彼女の胸元をねっとりと見つめる視線に、顔をしかめ、強い不快感を覚えた。しかし、今は反論する気力も、その必要性も感じなかった。
(…思ったよりも、頼りになるのかもしれないわ。性格は、最低だけれど)
エレナは、二人の男に対する評価を、ほんの少しだけ改めた。確かに、ガラハッドは無骨で口が悪く、ロキは下品で信用ならない。しかし、こと戦闘に関しては、彼らは紛れもなくプロフェッショナルだった。それぞれの役割を的確にこなし、互いの動きを補い合っていた。この二人となら、あるいは、この困難な任務を乗り越えられるかもしれない。そんな淡い、しかし確かな希望の光が、エレナの胸に、ようやく芽生え始めていた。
『させません!』
エレナは、恐怖を押し殺し、杖を力強く振り上げた。彼女の足元から、渦巻くように風が巻き起こり、周囲の枯れ葉や砂塵を舞い上げる。マナが、彼女の身体を通じ、杖の先端に集束していく。杖に嵌め込まれた小さな風のエレメンタル・クリスタルが、淡い翠色の光を放ち始めた。
「風よ、集いて刃となり、敵を切り裂け! 」
エレナの凛とした声と共に、杖先から不可視の風の刃が、鋭い呼気を伴って放たれた。シュンッ、と空気を切り裂く音が響き、それはまるで熟練の剣士が放つ斬撃のように、先頭を走っていたレッドキャップの一匹の喉元を正確に捉えた。ブシュッ、と鈍い、湿った音が響き渡る。赤黒い血飛沫が、まるで噴水のように勢いよく舞い上がり、小鬼は奇声すら上げることなく、前のめりに崩れ落ちた。その断面からは、どす黒い血と共に、断ち切られた気管や血管が覗いていた。
『やるじゃねえか、姐さん! 見直したぜ!』
ガラハッドが、獰猛な、しかしどこか満足げな笑みを浮かべて叫んだ。彼は、残りの四匹のレッドキャップどもを真正面から受け止め、その巨体と両手剣で、まるで難攻不落の城壁のように立ち塞がる。ガキンッ! ギャリンッ! ギィンッ! と、レッドキャップどもの錆びた武器が、ガラハッドの分厚い革鎧や、巧みに捌かれる両手剣の腹に弾かれる、甲高い金属音が森の中に響き渡る。ガラハッドは、一歩も引くことなく、その圧倒的な膂力と技量で、複数の敵を同時に相手にしていた。
その隙を見逃さず、茂みに潜んでいたロキが、音もなくレッドキャップどもの背後に回り込んでいた。彼の動きは、まるで影が地面を滑るかのように素早く、そして捉えどころがない。腰の鞘から引き抜かれた二本の短剣――その刃には、おそらく麻痺毒か、あるいは致死性の猛毒が塗られているのだろう、鈍い緑色の光沢が見える――が、闇夜に煌めく毒蛇の牙のように、レッドキャップどもの防御の薄い首筋や、鎧の隙間である脇腹へと、次々と突き立てられていく。
『ハハッ、雑魚が! 俺様の毒の前では、赤子同然だぜ!』
ロキの下卑た笑い声と共に、レッドキャップどもが、甲高い悲鳴とも、苦悶の呻きともつかない声を上げて、次々とその場に崩れ落ちていく。毒が回ったのか、その身体は不自然に痙攣し、口からは泡を吹いていた。
しかし、その時だった。一匹のレッドキャップが、ガラハッドの防御網を巧みにすり抜け、エレナへと向かって突進してきたのだ。その手には、他の個体よりも一回り大きな、血に濡れた鉈が握り締められている。その黄色い瞳は、エレナの白い肌と豊満な身体を捉え、明らかに劣情と残虐な喜びに満ちた光を宿していた。
『危ねえ! エレナ!』
ガラハッドが叫ぶが、距離がある。間に合わない。エレナは、迫り来る醜悪な脅威に一瞬、息を呑んだ。近距離での戦闘は、魔術師にとって最も苦手とするところだ。杖は打撃武器としてはあまりにも非力であり、呪文の詠唱には僅かながら時間が必要となる。
(落ち着いて…! わたくしには、風がある!)
エレナは、込み上げてくる恐怖を、強い意志の力で振り払った。彼女は杖を胸の前に構え直し、残っていたマナを瞬時に練り上げる。
「風よ、渦巻きて障壁となれ! わたくしを守る盾となれ! 」
エレナの周囲に、目には見えない、しかし強力な風の壁が瞬時に形成された。それは、高速で回転する空気の渦であり、物理的な攻撃を弾き返す防御魔術だ。レッドキャップが、奇声を上げながら振り下ろした血塗れの鉈は、見えない壁に阻まれ、ガギンッ、と鈍い金属音を立てて弾き返された。レッドキャップは、予期せぬ抵抗に体勢を崩し、一瞬、動きが止まる。
その致命的な隙を見逃すはずがなかった。ガラハッドの巨体が、まるで怒れる熊のようにレッドキャップに突進し、両手剣を横薙ぎに一閃させた。ゴゥッ、と風を切る音と共に、鋼の刃がレッドキャップの胴体を、まるで熟れた果実を断ち割るかのように、真っ二つに両断した。内臓と血飛沫が周囲に飛び散り、レッドキャップの上半身と下半身は、別々の方向へと吹き飛んでいった。
戦闘は、あっという間に終わった。周囲には、レッドキャップどもの無残な死骸が五つ転がり、むせ返るような血と臓物の生臭い匂いが、森の湿った空気と混じり合って漂っている。エレナは、はぁ、はぁ、と荒い息をつき、杖を握る手に力が入りすぎて、指先が白くなっていることに気づいた。心臓が、まだ激しく鼓動している。
『…ありがとうございます、ガラハッド殿、ロキ殿。お二人がいなければ、危ういところでしたわ』
エレナは、まだ少し震える声で、素直な感謝の言葉を口にした。彼らの実力は確かだった。そして、結果的にではあるが、彼らはエレナを守ってくれたのだ。
ガラハッドは、両手剣についた赤黒い血糊を、近くの木の幹で無造作に拭うと、ぶっきらぼうに答えた。
『ふん、礼には及ばん。仕事だからな。だが、まあ、あんたも思ったよりはやるようだな。あの風の壁は悪くなかった』
その口調は相変わらず無骨だったが、エレナに向けられた眼の光には、先ほどまでのあからさまな不信感は薄れているように見えた。ほんの少しだけ、仲間として認められたような気がして、エレナの心に小さな安堵感が広がった。
一方、ロキは、短剣についた血を、まるで美味なソースでも味わうかのように、ぺろりと舌で舐め取りながら、にやりと下卑た笑みを浮かべた。
『へっへっへ。どういたしまして、エレナのお嬢ちゃん。 あんたみたいな別嬪さんを守るのは、俺たち男の役目ってもんだからな。それにしても、今の風の壁、なかなか見事だったぜ。あんたのその豊かな胸みたいに、しっかり硬くて、頼りになりそうだ。なあ?』
相変わらずの下卑た物言いだったが、その声にはどこか得意げな響きがあった。エレナは、その言葉と、再び彼女の胸元をねっとりと見つめる視線に、顔をしかめ、強い不快感を覚えた。しかし、今は反論する気力も、その必要性も感じなかった。
(…思ったよりも、頼りになるのかもしれないわ。性格は、最低だけれど)
エレナは、二人の男に対する評価を、ほんの少しだけ改めた。確かに、ガラハッドは無骨で口が悪く、ロキは下品で信用ならない。しかし、こと戦闘に関しては、彼らは紛れもなくプロフェッショナルだった。それぞれの役割を的確にこなし、互いの動きを補い合っていた。この二人となら、あるいは、この困難な任務を乗り越えられるかもしれない。そんな淡い、しかし確かな希望の光が、エレナの胸に、ようやく芽生え始めていた。
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