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2章 人妻魔術師の冒険とはっちゃめちゃになるお話
24:討伐
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エルムウッド村に到着した時、三人は言葉を失い、ただ立ち尽くすしかなかった。かつては、豊かな畑に囲まれ、家畜の鳴き声が響く、のどかな農村であっただろうその場所は、見るも無残な地獄絵図へと変わり果てていたのだ。
家々の茅葺き屋根は引き剥がされ、無残な骨組みを晒している。土壁は打ち壊され、家財道具が破壊されて散乱していた。畑は、まるで巨大な獣に踏み荒らされたかのようにめちゃくちゃにされ、収穫間近だったであろう作物が無残に折れ伏している。そして、そこかしこに、赤黒い血痕が生々しくこびりついていた。それは、壁に飛び散った飛沫であったり、地面にできた大きな染みであったり、あるいは、引きずられたような跡であったりした。空気には、血の鉄臭い匂いと、何かが燻り続ける焦げ臭い匂い、そして、死体が腐敗し始めたかのような、甘ったるく、それでいて鼻をつく死の匂いが混じり合って漂っていた。風が吹くたびに、その不快な臭気が三人の鼻腔を刺激する。
村の広場と思われる場所には、かろうじて生き残った村人たちが、ぼろ切れのような衣服をまとい、身を寄せ合うように集まっていた。その数は、エレナがギルドで事前に聞いていた村の人口よりも、明らかにずっと少ない。誰もが、虚ろな瞳で地面を見つめ、あるいは怯えた表情で森の方角を睨んでいる。幼い子供が、母親の胸に顔を埋めてすすり泣く声だけが、この絶望的な静寂の中で、やけに大きく響いていた。
『…ひどい有様だな。まるで、オークの襲撃を受けた後のようだ』
ガラハッドが、苦々しげに吐き捨てた。彼の顔には、珍しく、そして明らかに、強い怒りの色が浮かんでいる。その眼が鋭い光を放っていた。
ロキも、いつもの下卑た笑みを完全に消し、険しい表情で周囲を鋭く警戒していた。彼の斥候としての本能が、この村に未だ漂う危険な気配を敏感に感じ取っているのだろう。
村の長老らしき、腰の曲がった老人が、震える足取りで三人に近づいてきた。その顔は深い皺に覆われ、目には絶望の色が浮かんでいる。
『おお…冒険者様! よくぞ、よくぞご無事で…! どうか、どうか我らをお助けくだされ…! あの、忌まわしい赤帽子どもから…!』
老人は、枯れ木のような手をエレナのローブの裾に伸ばし、涙ながらに訴えかけてきた。彼の話によれば、レッドキャップの襲撃は、昨夜の未明から断続的に続いており、村の若者たちで組織された自警団は、鍬や猟銃で必死に抵抗したものの、多大な犠牲を払い、もはや抵抗する力も武器も残っていないという。そして、レッドキャップどもの数は、当初ギルドに報告されたよりも遥かに多く、さらに、奴らを率いていると思われる、山のように巨大な影の存在も、複数の村人が目撃しているとのことだった。
『巨大な影…? まさか…』
エレナの胸に、先ほど森で感じたものよりも、さらに強く、そして明確な嫌な予感がよぎる。レッドキャップが、より強力な魔物を使役したり、共生したりすることは、稀にあると魔物図鑑で読んだ記憶があった。
その予感は、最悪の形で現実のものとなった。村の外れ、鬱蒼とした森との境界あたりから、突如として、地響きが起こったのだ。ドドドドド…と、まるで巨大な何かが大地を踏みしめるような、重々しい振動が地面を伝わってくる。そして、おびただしい数のレッドキャップどもが、鬨の声を上げながら、森の中から津波のように溢れ出してきたのだ。その数は、ざっと見積もっても三十匹は下らないだろう。先ほど森で遭遇した個体よりも、さらに大きく、凶暴そうな雰囲気を漂わせている。
そして、そのレッドキャップの群れの中心に、ひときわ巨大な影がそびえ立っていた。
『…オーガだ! 』
ガラハッドが、忌々しげに、そして僅かな焦りの色を滲ませて叫んだ。
身の丈は、ガラハッドの倍近く、いや、三倍近くはあるだろうか。緑色の分厚い皮膚は、まるで苔むした岩肌のように硬質で、ところどころに古い傷跡や、おそらくは敵から奪ったであろう粗末な金属片が埋め込まれている。その筋骨隆々とした巨躯は、圧倒的な破壊力を感じさせた。その手には、まるで攻城兵器の破城槌のように、大木をそのまま引き抜いて先端に鉄の鋲を打ち付けたかのような、巨大な棍棒が握られている。頭には、ねじくれた黒い二本の角が天を突き、豚のように醜悪な顔には、残忍な光を宿した小さな赤い目が、まるで血走ったように爛々と輝いていた。ゴォォォォォッ、と腹の底から響くような咆哮を上げると、周囲の空気がビリビリと震え、村人たちの悲鳴が上がる。
「キシャァァァァァッ!」 「ウガァァァァッ!」
オーガの咆哮に呼応するように、レッドキャップどもが一斉に狂ったような雄叫びを上げ、村の広場へと、雪崩を打って突進してきた。その勢いは、もはや単なる略奪ではなく、完全な殲滅を目的とした、組織的な軍事行動のようであった。
『エレナ! 後方から援護しろ! レッドキャップの数を減らすんだ! ロキ、奴の注意を引きつけろ! 攪乱しろ! 俺が奴を食い止める!』
ガラハッドが、戦場での経験に裏打ちされた的確な指示を飛ばし、両手剣を構え直し、オーガへと真正面から立ち向かっていく。その姿は、絶望的な状況にも怯むことなく、仲間と村人を守ろうとする、英雄のそれであった。
『へっ、オーガたぁ、ちと骨が折れそうだが、その分、ボーナスもたんまり期待できそうだぜ! 死ぬなよ、旦那! それから、姐さんもな!』
ロキは、不敵な、しかしどこか覚悟を決めたような笑みを浮かべると、その痩身を風のように躍らせ、レッドキャップの群れの中へと、まるで踊るように飛び込んでいった。彼の動きは予測不可能で、次々とレッドキャップの急所を的確に突き、あるいは巧みな動きで攻撃をかわし、敵の陣形を掻き乱していく。
家々の茅葺き屋根は引き剥がされ、無残な骨組みを晒している。土壁は打ち壊され、家財道具が破壊されて散乱していた。畑は、まるで巨大な獣に踏み荒らされたかのようにめちゃくちゃにされ、収穫間近だったであろう作物が無残に折れ伏している。そして、そこかしこに、赤黒い血痕が生々しくこびりついていた。それは、壁に飛び散った飛沫であったり、地面にできた大きな染みであったり、あるいは、引きずられたような跡であったりした。空気には、血の鉄臭い匂いと、何かが燻り続ける焦げ臭い匂い、そして、死体が腐敗し始めたかのような、甘ったるく、それでいて鼻をつく死の匂いが混じり合って漂っていた。風が吹くたびに、その不快な臭気が三人の鼻腔を刺激する。
村の広場と思われる場所には、かろうじて生き残った村人たちが、ぼろ切れのような衣服をまとい、身を寄せ合うように集まっていた。その数は、エレナがギルドで事前に聞いていた村の人口よりも、明らかにずっと少ない。誰もが、虚ろな瞳で地面を見つめ、あるいは怯えた表情で森の方角を睨んでいる。幼い子供が、母親の胸に顔を埋めてすすり泣く声だけが、この絶望的な静寂の中で、やけに大きく響いていた。
『…ひどい有様だな。まるで、オークの襲撃を受けた後のようだ』
ガラハッドが、苦々しげに吐き捨てた。彼の顔には、珍しく、そして明らかに、強い怒りの色が浮かんでいる。その眼が鋭い光を放っていた。
ロキも、いつもの下卑た笑みを完全に消し、険しい表情で周囲を鋭く警戒していた。彼の斥候としての本能が、この村に未だ漂う危険な気配を敏感に感じ取っているのだろう。
村の長老らしき、腰の曲がった老人が、震える足取りで三人に近づいてきた。その顔は深い皺に覆われ、目には絶望の色が浮かんでいる。
『おお…冒険者様! よくぞ、よくぞご無事で…! どうか、どうか我らをお助けくだされ…! あの、忌まわしい赤帽子どもから…!』
老人は、枯れ木のような手をエレナのローブの裾に伸ばし、涙ながらに訴えかけてきた。彼の話によれば、レッドキャップの襲撃は、昨夜の未明から断続的に続いており、村の若者たちで組織された自警団は、鍬や猟銃で必死に抵抗したものの、多大な犠牲を払い、もはや抵抗する力も武器も残っていないという。そして、レッドキャップどもの数は、当初ギルドに報告されたよりも遥かに多く、さらに、奴らを率いていると思われる、山のように巨大な影の存在も、複数の村人が目撃しているとのことだった。
『巨大な影…? まさか…』
エレナの胸に、先ほど森で感じたものよりも、さらに強く、そして明確な嫌な予感がよぎる。レッドキャップが、より強力な魔物を使役したり、共生したりすることは、稀にあると魔物図鑑で読んだ記憶があった。
その予感は、最悪の形で現実のものとなった。村の外れ、鬱蒼とした森との境界あたりから、突如として、地響きが起こったのだ。ドドドドド…と、まるで巨大な何かが大地を踏みしめるような、重々しい振動が地面を伝わってくる。そして、おびただしい数のレッドキャップどもが、鬨の声を上げながら、森の中から津波のように溢れ出してきたのだ。その数は、ざっと見積もっても三十匹は下らないだろう。先ほど森で遭遇した個体よりも、さらに大きく、凶暴そうな雰囲気を漂わせている。
そして、そのレッドキャップの群れの中心に、ひときわ巨大な影がそびえ立っていた。
『…オーガだ! 』
ガラハッドが、忌々しげに、そして僅かな焦りの色を滲ませて叫んだ。
身の丈は、ガラハッドの倍近く、いや、三倍近くはあるだろうか。緑色の分厚い皮膚は、まるで苔むした岩肌のように硬質で、ところどころに古い傷跡や、おそらくは敵から奪ったであろう粗末な金属片が埋め込まれている。その筋骨隆々とした巨躯は、圧倒的な破壊力を感じさせた。その手には、まるで攻城兵器の破城槌のように、大木をそのまま引き抜いて先端に鉄の鋲を打ち付けたかのような、巨大な棍棒が握られている。頭には、ねじくれた黒い二本の角が天を突き、豚のように醜悪な顔には、残忍な光を宿した小さな赤い目が、まるで血走ったように爛々と輝いていた。ゴォォォォォッ、と腹の底から響くような咆哮を上げると、周囲の空気がビリビリと震え、村人たちの悲鳴が上がる。
「キシャァァァァァッ!」 「ウガァァァァッ!」
オーガの咆哮に呼応するように、レッドキャップどもが一斉に狂ったような雄叫びを上げ、村の広場へと、雪崩を打って突進してきた。その勢いは、もはや単なる略奪ではなく、完全な殲滅を目的とした、組織的な軍事行動のようであった。
『エレナ! 後方から援護しろ! レッドキャップの数を減らすんだ! ロキ、奴の注意を引きつけろ! 攪乱しろ! 俺が奴を食い止める!』
ガラハッドが、戦場での経験に裏打ちされた的確な指示を飛ばし、両手剣を構え直し、オーガへと真正面から立ち向かっていく。その姿は、絶望的な状況にも怯むことなく、仲間と村人を守ろうとする、英雄のそれであった。
『へっ、オーガたぁ、ちと骨が折れそうだが、その分、ボーナスもたんまり期待できそうだぜ! 死ぬなよ、旦那! それから、姐さんもな!』
ロキは、不敵な、しかしどこか覚悟を決めたような笑みを浮かべると、その痩身を風のように躍らせ、レッドキャップの群れの中へと、まるで踊るように飛び込んでいった。彼の動きは予測不可能で、次々とレッドキャップの急所を的確に突き、あるいは巧みな動きで攻撃をかわし、敵の陣形を掻き乱していく。
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