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2章 人妻魔術師の冒険とはっちゃめちゃになるお話
42:仲間
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朝の柔らかな陽光が、厚いカーテンの隙間から細く差し込み、エレナの瞼を優しく撫でた。ん…と小さく身じろぎをし、彼女はゆっくりと意識を浮上させる。ズキリ、と鈍い痛みが、まるで鉛の塊のように頭の奥で疼いた。身体も、激しい運動をした後のように気怠く、節々が軋むようだ。
(…わたくし、昨夜は、随分と飲んでしまったようですわね…)
ぼんやりとした思考の中で、昨夜の出来事を思い出そうとする。ガラハッド殿とロキ殿との、祝勝の宴。ドワーフ族の強力なエール。猪の丸焼きの力強い味わい。三人で、まるで旧知の友のように笑い合った、楽しい記憶。そこまでは、確かだ。しかし、その後の記憶が、まるで霧の中に消えたかのように、すっぽりと抜け落ちていた。
「…?」
エレナは、重い身体を起こし、周囲を見渡した。見知らぬ、しかし清潔な宿の一室。そして、自分の足元の床に、毛布もかけずに無造作に転がって寝ている、ガラハッドとロキの姿を発見した。ガラハッドは、その巨躯に似合わず、子供のように静かな寝息を立てている。ロキは、爬虫類のように手足をだらしなく伸ばし、時折、ぴくりと指先を動かしていた。
その光景を見て、エレナの心に、温かい感謝の念が込み上げてきた。
(まあ…お二人とも、酔いつぶれたわたくしを、ここまで運んでくださったのね。そして、ご自分たちは、硬い床の上で…)
エレナは、自分が見せたであろう醜態を恥じると同時に、この粗野で、しかし根は優しい仲間たちの不器用な気遣いに、自然と笑みを浮かべた。彼女はそっとベッドから抜け出すと、まだ眠っている二人に聞こえないように、静かな足取りで部屋の隅にある水差しと盥の元へと向かった。
身支度を整え、乱れた髪を指で梳いていると、背後でごそり、と大きな気配が動いた。ガラハッドが目を覚ましたようだった。
「…おはようございます、ガラハッド殿。昨夜は、大変ご迷惑をおかけいたしましたわ。わたくしとしたことが、少し、飲みすぎてしまったようで…」
エレナが、にこやかに、そして少し申し訳なさそうに振り返ると、ガラハッドは一瞬、ぎょっとしたように目を見開き、そして気まずそうに、ぶっきらぼうに顔をそむけた。
『…おう。別に、迷惑なんざ、かかってねえよ』
その声は、いつも以上に低く、そして掠れていた。彼の視線は、エレナの顔をまともに見ることができず、部屋の隅を彷徨っている。やがて、ロキも、もぞもぞと身を起こした。
「ロキ殿も、おはようございます。昨夜は、本当にありがとうございました」
エレナが微笑みかけると、ロキもまた、いつもの下卑た笑みを浮かべようとして、ひきつった、何とも言えない表情になった。
『へっ…へへ…いや、どういたしまして、エレナのお嬢ちゃん。姐さんは、酒が入ると、随分と…その、寝つきが良くなるタチらしいな』
二人のそのぎこちない様子に、エレナは全く気づいていなかった。彼女は、ただただ、彼らの優しさに感謝し、この頼もしい仲間たちとの出会いを、心の底から喜んでいた。
***
宿を出て、朝の活気に満ちたアストリナの街を歩きながら、エレナは晴れやかな気分で二人に提案した。
「ガラハッド殿、ロキ殿。もしよろしければ、今後も、何か良い依頼があれば、ぜひご一緒させていただけませんこと? お二人と一緒なら、どんな困難な任務でも、乗り越えられる気がいたしますわ」
その言葉に、二人は一瞬、複雑な表情を浮かべたが、すぐに、まるで覚悟を決めたかのように頷いた。
『…ああ、そうだな。あんたほどの腕利きの魔術師なら、歓迎しよう。』
『へっへっへ、もちろんだぜ、エレナのお嬢ちゃん。俺たちのパーティーの華として、末永くよろしく頼むぜ?』
ギルドの前で二人と別れ、エレナは真っ直ぐに自宅である鍛冶屋「炎の鉄槌」へと向かった。ずしりと重い金貨の袋が、彼女の心を軽くする。これで、夫を救うことができる。店の経営も、立て直せるかもしれない。希望に満ちた足取りで、彼女は懐かしい我が家の扉を開けた。
店の中は、相変わらず冷たい鉄と石炭の匂いが漂っていたが、エレナの心は温かかった。奥の寝室を覗くと、夫のニルスが、ベッドの上で半身を起こし、窓の外をぼんやりと眺めているのが見えた。
「あなた…! 起きていらしたのですね!」
駆け寄るエレナに、ニルスは力なく、しかし優しい笑みを向けた。彼の顔色は、数日前に比べて明らかに良く、熱も下がっているようだった。小康状態、というやつだろう。
『おかえり、エレナ。…依頼は、どうだった?』
「ええ、あなた! 見てくださいまし、この金貨を! これで、あなたの薬も、心配いりませんわ! 帝都にいるという名医に診ていただくことだってできますのよ!」
エレナは、金貨の袋を夫に見せながら、興奮気味に報告した。オーガとの死闘のこと、そして、頼もしい仲間のことを。ニルスは、妻の無事と、その大きな成果を、心の底から喜び、そして感謝した。
『そうか…よかった…君は、本当に、すごい女性だ。私の、自慢の妻だよ』
ニルスが、そう言って、エレナの手にそっと触れた。その手は、病のせいで、かつての力強さはなく、少しばかり冷たかった。
その瞬間だった。
エレナの脳裏に、まるで雷に打たれたかのように、断片的な映像がフラッシュバックした。
(…この手じゃない…もっと、大きくて、戦傷と硬いタコでごつごつした、無骨な手…♡♡♡ それでいて、岩をも砕くほど力強い、あの逞しい腕…♡♡♡♡♡)
そして、夫の優しい声が、別の、もっと低い、掠れた声と重なった。
(…俺と、どっちが気持ちいいんだ?…)
さらに、夫の背後、部屋の薄暗い隅に、別の男の幻影が見えた気がした。痩身で、爬虫類のような、粘つく視線を向ける男。
(…旦那の、ちっぽけでひ弱な「槌」なんかじゃ、満足できたことなんてねえんだろ?…)
『…エレナ?』
夫の心配そうな声に、エレナははっと我に返った。彼女の顔がほんのりと赤らむ。
「…い、いいえ、何でもありませんわ。少し、疲れただけですの」
エレナは、必死に笑顔を取り繕った。しかし、彼女の身体の奥深く、子宮のあたりが、ずくん、と熱く疼いたのを、確かに感じていた。それは、記憶にはない、しかし、身体が確かに記憶している、二つの巨大で、熱い楔によって、幾度となく貫かれ、そして、その生命の奔流を注ぎ込まれた、抗いがたい快楽の余韻だった。
(…いいえ、気のせいよ。わたくしは、夫のために、必死で戦っただけ… 酔っていたせいで、変な夢でも見たのかしら…)
彼女は、自分自身にそう強く言い聞かせた。しかし、その否定の言葉とは裏腹に、彼女の身体は、決して忘れることのできない、背徳の記憶を、その細胞の隅々にまで、くっきりと刻み込んでしまっていた。
エレナは、夫に優しい笑みを向けながら、心の奥底で、暗く、そして甘美な予感に打ち震えていた。次に、あの二人と会った時、わたくしは、正気でいられるのだろうか、と。アストリナの空は、彼女のそんな葛藤を知る由もなく、ただどこまでも青く澄み渡っていた。
(…わたくし、昨夜は、随分と飲んでしまったようですわね…)
ぼんやりとした思考の中で、昨夜の出来事を思い出そうとする。ガラハッド殿とロキ殿との、祝勝の宴。ドワーフ族の強力なエール。猪の丸焼きの力強い味わい。三人で、まるで旧知の友のように笑い合った、楽しい記憶。そこまでは、確かだ。しかし、その後の記憶が、まるで霧の中に消えたかのように、すっぽりと抜け落ちていた。
「…?」
エレナは、重い身体を起こし、周囲を見渡した。見知らぬ、しかし清潔な宿の一室。そして、自分の足元の床に、毛布もかけずに無造作に転がって寝ている、ガラハッドとロキの姿を発見した。ガラハッドは、その巨躯に似合わず、子供のように静かな寝息を立てている。ロキは、爬虫類のように手足をだらしなく伸ばし、時折、ぴくりと指先を動かしていた。
その光景を見て、エレナの心に、温かい感謝の念が込み上げてきた。
(まあ…お二人とも、酔いつぶれたわたくしを、ここまで運んでくださったのね。そして、ご自分たちは、硬い床の上で…)
エレナは、自分が見せたであろう醜態を恥じると同時に、この粗野で、しかし根は優しい仲間たちの不器用な気遣いに、自然と笑みを浮かべた。彼女はそっとベッドから抜け出すと、まだ眠っている二人に聞こえないように、静かな足取りで部屋の隅にある水差しと盥の元へと向かった。
身支度を整え、乱れた髪を指で梳いていると、背後でごそり、と大きな気配が動いた。ガラハッドが目を覚ましたようだった。
「…おはようございます、ガラハッド殿。昨夜は、大変ご迷惑をおかけいたしましたわ。わたくしとしたことが、少し、飲みすぎてしまったようで…」
エレナが、にこやかに、そして少し申し訳なさそうに振り返ると、ガラハッドは一瞬、ぎょっとしたように目を見開き、そして気まずそうに、ぶっきらぼうに顔をそむけた。
『…おう。別に、迷惑なんざ、かかってねえよ』
その声は、いつも以上に低く、そして掠れていた。彼の視線は、エレナの顔をまともに見ることができず、部屋の隅を彷徨っている。やがて、ロキも、もぞもぞと身を起こした。
「ロキ殿も、おはようございます。昨夜は、本当にありがとうございました」
エレナが微笑みかけると、ロキもまた、いつもの下卑た笑みを浮かべようとして、ひきつった、何とも言えない表情になった。
『へっ…へへ…いや、どういたしまして、エレナのお嬢ちゃん。姐さんは、酒が入ると、随分と…その、寝つきが良くなるタチらしいな』
二人のそのぎこちない様子に、エレナは全く気づいていなかった。彼女は、ただただ、彼らの優しさに感謝し、この頼もしい仲間たちとの出会いを、心の底から喜んでいた。
***
宿を出て、朝の活気に満ちたアストリナの街を歩きながら、エレナは晴れやかな気分で二人に提案した。
「ガラハッド殿、ロキ殿。もしよろしければ、今後も、何か良い依頼があれば、ぜひご一緒させていただけませんこと? お二人と一緒なら、どんな困難な任務でも、乗り越えられる気がいたしますわ」
その言葉に、二人は一瞬、複雑な表情を浮かべたが、すぐに、まるで覚悟を決めたかのように頷いた。
『…ああ、そうだな。あんたほどの腕利きの魔術師なら、歓迎しよう。』
『へっへっへ、もちろんだぜ、エレナのお嬢ちゃん。俺たちのパーティーの華として、末永くよろしく頼むぜ?』
ギルドの前で二人と別れ、エレナは真っ直ぐに自宅である鍛冶屋「炎の鉄槌」へと向かった。ずしりと重い金貨の袋が、彼女の心を軽くする。これで、夫を救うことができる。店の経営も、立て直せるかもしれない。希望に満ちた足取りで、彼女は懐かしい我が家の扉を開けた。
店の中は、相変わらず冷たい鉄と石炭の匂いが漂っていたが、エレナの心は温かかった。奥の寝室を覗くと、夫のニルスが、ベッドの上で半身を起こし、窓の外をぼんやりと眺めているのが見えた。
「あなた…! 起きていらしたのですね!」
駆け寄るエレナに、ニルスは力なく、しかし優しい笑みを向けた。彼の顔色は、数日前に比べて明らかに良く、熱も下がっているようだった。小康状態、というやつだろう。
『おかえり、エレナ。…依頼は、どうだった?』
「ええ、あなた! 見てくださいまし、この金貨を! これで、あなたの薬も、心配いりませんわ! 帝都にいるという名医に診ていただくことだってできますのよ!」
エレナは、金貨の袋を夫に見せながら、興奮気味に報告した。オーガとの死闘のこと、そして、頼もしい仲間のことを。ニルスは、妻の無事と、その大きな成果を、心の底から喜び、そして感謝した。
『そうか…よかった…君は、本当に、すごい女性だ。私の、自慢の妻だよ』
ニルスが、そう言って、エレナの手にそっと触れた。その手は、病のせいで、かつての力強さはなく、少しばかり冷たかった。
その瞬間だった。
エレナの脳裏に、まるで雷に打たれたかのように、断片的な映像がフラッシュバックした。
(…この手じゃない…もっと、大きくて、戦傷と硬いタコでごつごつした、無骨な手…♡♡♡ それでいて、岩をも砕くほど力強い、あの逞しい腕…♡♡♡♡♡)
そして、夫の優しい声が、別の、もっと低い、掠れた声と重なった。
(…俺と、どっちが気持ちいいんだ?…)
さらに、夫の背後、部屋の薄暗い隅に、別の男の幻影が見えた気がした。痩身で、爬虫類のような、粘つく視線を向ける男。
(…旦那の、ちっぽけでひ弱な「槌」なんかじゃ、満足できたことなんてねえんだろ?…)
『…エレナ?』
夫の心配そうな声に、エレナははっと我に返った。彼女の顔がほんのりと赤らむ。
「…い、いいえ、何でもありませんわ。少し、疲れただけですの」
エレナは、必死に笑顔を取り繕った。しかし、彼女の身体の奥深く、子宮のあたりが、ずくん、と熱く疼いたのを、確かに感じていた。それは、記憶にはない、しかし、身体が確かに記憶している、二つの巨大で、熱い楔によって、幾度となく貫かれ、そして、その生命の奔流を注ぎ込まれた、抗いがたい快楽の余韻だった。
(…いいえ、気のせいよ。わたくしは、夫のために、必死で戦っただけ… 酔っていたせいで、変な夢でも見たのかしら…)
彼女は、自分自身にそう強く言い聞かせた。しかし、その否定の言葉とは裏腹に、彼女の身体は、決して忘れることのできない、背徳の記憶を、その細胞の隅々にまで、くっきりと刻み込んでしまっていた。
エレナは、夫に優しい笑みを向けながら、心の奥底で、暗く、そして甘美な予感に打ち震えていた。次に、あの二人と会った時、わたくしは、正気でいられるのだろうか、と。アストリナの空は、彼女のそんな葛藤を知る由もなく、ただどこまでも青く澄み渡っていた。
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