剣と魔法の世界で冒険はそこそこにして色々なお仕事の女の子達がはちゃめちゃにえっちなことになるお話

アレ

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4章 訳あり人妻さんとたいへんなお使いのお話

58:朝

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港湾要塞都市アストリナの朝は、いついかなる時も、海と鉄と活気が混じり合った匂いから始まる。夜の間に降りた海霧がまだ晴れやらぬ波止場では、沖合に停泊する東方からの大型ガレオン船が、腹の底を揺さぶるような重く低い汽笛を鳴らした。夜明けを告げるその音は、街全体を覆う分厚い城壁に反響し、眠れる者たちを現し世へと引き戻す合図となる。活気に満ちた港の目抜き通りから、魚の内臓を処理する際に染み付いたのであろう、独特の魚醤の匂いが漂う脇道を一本入った石畳の路地裏。そこには、昨夜遅くまで酒を酌み交わしたであろう冒険者や船乗りたちが残した喧騒の残り香が、まだ湿った朝霧に溶け残っている。

その一角に、宿はひっそりと、まるで息を潜めるようにして佇んでいた。「眠れる海竜亭」。海の守護竜を模したであろう木製の看板は、長年の潮風に晒され、彫られた鱗の一枚一枚が黒ずんで剥がれ落ち、もはや竜というよりは巨大な魚の骸にも見える。だが、そのみすぼらしさこそが、この宿がアストリナの歴史と共に在り続けてきた証左であり、風格とすら呼べるものを醸し出していた。

宿の若女将であるアリア・フローライトの一日は、その汽笛の音よりも早く始まる。階下の厨房から微かに漂ってくる、夫のトーマスがパン窯にくべる薪のはぜる乾いた音。そして、小麦粉が焼ける香ばしい匂い。それが、彼女にとっての優しく、そして確かな目覚まし時計だった。

簡素な亜麻の寝間着を滑り脱ぐと、汗ばんだ肌に夜の冷気がまとわりつく。窓から差し込む乳白色の光が、惜しげもなく晒された豊満な肉体を一瞬だけ捉えた。重力に逆らってなお高く持ち上がった乳房、その先端で硬く尖る蕾。滑らかなくびれを経て、丸く張り出した臀部へと続く曲線は、隠そうとしても隠しきれない、熟れた果実のような色香を放っている。彼女はその乳白色の肌を、井戸から汲んだばかりの冷たい水に浸した布で丁寧に清めていく。肌が引き締まるその冷たさが、夜の間に見たであろうとりとめのない夢の残滓を意識の底へと追いやってくれる。

艶やかな金髪を慣れた手つきできっちりと後ろで結い上げると、最後に銀縁の伊達メガネをくい、と持ち上げた。その無機質で冷たい感触は、過去の自分と決別し、現在の「アリア・フローライト」という人格を上書きするための、ささやかなお守りのようでもあった。

「おはよう、トーマス。リリアはまだかい?」
「おう、アリア。おはようさん。リリアはまだ夢の中さ。昨日は遅くまで魔術ギルドの課題図書を読んでいたみたいだからな。あの子の熱心さには敵わんよ」

厨房では、ひょろりとした長身のトーマスが、額に玉の汗を浮かべながら大きなパン生地を捏ねていた。彼は元々、荒波を乗りこなす商船の腕利き料理人であり、その腕に惚れ込んで常連になる客も少なくない。彼が作る、海の幸をふんだんに使った心のこもったシチューや香草焼きは、この場末の安宿が提供できる、ささやかな自慢の一つであった。連れ子である娘の成長を屈託なく語る夫の純粋な笑顔に、アリアは柔和な笑みを返す。だがその瞬間、胸の奥底で、ちくりと冷たい罪悪感の棘が刺さるのを、彼女は確かに感じていた。

この善良な男と、彼のすべてである最愛の娘。二人が与えてくれる温かな日常は、後妻である自分が過去を偽り、作り上げた虚構の上に成り立つ、あまりにも脆い砂上の楼閣に過ぎないのだから。

午前中の業務は、まず一階の酒場兼食堂の掃除から始まる。昨夜の客が残したエールの酸っぱい匂い、滴り落ちた肉汁が染み付いた木製のテーブル、そして床に散らかったパン屑。それらを丁寧に掃き清め、水を含ませた布で丹念に磨き上げていく。彼女の動きには一切の無駄がなく、熟練の職人のように滑らかで、効率的だ。貞淑な妻として、慈愛に満ちた母として、そして有能な女将として。彼女はこの「眠れる海竜亭」での日々に、自らのすべてを捧げているように見えた。周囲の誰もが、彼女を良妻賢母の鑑だと噂していた。

***

「眠れる海竜亭」にはもう一つの顔がある。表通りから隠れたこの宿は、人目を忍んで密会を重ねる男女にとって、格好の隠れ家となっていた。各部屋の分厚い扉には、音を吸収する効果を持つ低級の魔術的付与「静寂のルーン」が、目立たぬように刻まれている。これにより、一夜の熱情が廊下に漏れ、他の客の耳に届く心配はほとんどない。

アリアが汚れたシーツを交換するために二階の客室の扉を開けると、そこには客が使ったのであろう安価な香水と、汗と、そしてもっと生々しい雄と雌の体液が混じり合った、濃密な空気が澱のように溜まっていた。普段ならば無意識に鼻を覆いたくなるその匂いが、その日に限っては、アリアの身体の奥深くを妙に刺激した。

呼吸が、浅くなる。
淑やかな女将の仮面の下で、忘れかけていた感覚が疼き始めた。男の汗の酸っぱさと、女の蜜の甘さが混じり合った、どうしようもなく背徳的な香り。指先が微かに震え、太腿の内側がじわりと熱を帯びる。いけない、と頭では分かっているのに、身体は正直に反応してしまう。アリアは乱れそうになる呼吸を必死で整えながら、手際よく寝台を整え、懐から取り出した安価な「清掃のスクロール」を破り捨てた。

ぱん、と乾いた音と共に清浄な風が巻き起こり、背徳的な夜の痕跡を魔法の力が跡形もなく消し去っていく。まるで、自らの内に芽生えた淫らな感情ごと洗い流すための儀式のようだと、アリアは自嘲気味に思った。
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