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4章 訳あり人妻さんとたいへんなお使いのお話
65:夜
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「ドワーフの酒は滋養強壮にいいって言うからね。きっと身体が温まるよ」
そう言って、アリアは小瓶の中身を、まず自分のカップに、そしてリオのカップに半分ずつ注いだ。彼女はこれがただの酒ではないことに、本能のどこかで気づいていたのかもしれない。だが、目の前の若者との間に漂う、この息が詰まるような性的な緊張感をどうにかしたかった。そして何より、自分自身の内側で燃え盛り始めた、この背徳的な興奮を、酒精のせいにしてしまいたかったのだ。
二人は、どちらからともなくカップを掲げ、無言でそれを呷った。
液体が舌に触れた瞬間、アリアは驚きに目を見開いた。それは、花の蜜を極限まで凝縮したかのような、脳髄が痺れるほどの濃厚な甘さ。そして、その甘さが喉を通り過ぎた直後、まるで燃える炭を飲み下したかのような灼熱が、食道から胃の腑へと駆け下り、身体の芯からカッと燃え上がらせた。
「あっ……んッ♡ん゛ん゛♡」
アリアの口から、自分でも意識しないうちに、甘く濡れた吐息が漏れた。違う。これは「深き脈動」のような、じっくりと理性を溶かしていく類のものではない。もっと直接的で、もっと暴力的だ。全身の血が沸騰し、神経という神経が剥き出しにされ、感覚が何十倍にも増幅されていく。暖炉の炎の熱が、肌を直接焼くように感じられる。外で吹き荒れる風の音が、耳元で囁かれる甘い言葉のように鼓膜を震わせる。
そして、隣に座るリオの匂い。汗と若さの匂いが混じり合った、その雄々しい体臭が、アリアの思考を完全に麻痺させた。子宮が、きゅううんと収縮し、蜜壺の奥からじゅわりと熱い泉が湧き出すのが分かった。
「ア、アリア……さん……? なんだか、身体が……あつい……それに、なんだか、すごく……」
リオの声もまた、掠れて熱を帯びていた。彼の瞳は潤み、その焦点は定まらず、ただ目の前のアリアの豊満な肉体を、飢えた獣のように貪っていた。彼の未熟な理性を焼き払った灼熱の奔流は、彼の股間で猛り狂う若々しい雄蕊を、もはや隠しようもないほどに硬く、熱く膨張させていた。
アリアがそのことに気づいた時には、全てが手遅れであった。ドワーフの醸造長が言っていた「女衆に評判がいい」という言葉の意味を、今更ながらに理解する。これは、男を誘惑し、その理性を完全に破壊するための、古代の魔術的な媚薬なのだ。思考が、蕩けていく。夫への罪悪感も、貞淑な女将としての矜持も、灼熱の奔流に押し流されて消えていく。残ったのは、ただ一つ。目の前の若く逞しい雄を、その身の内に受け入れたいという、抗いがたい渇望だけだった。
「リオ……♡」
アリアが、ねっとりと甘い声で彼の名を呼ぶ。それはもはや、「眠れる海竜亭」の女将の声ではなかった。かつての彼女が男を奈落の快楽へと誘う時の、蠱惑的な響きそのものであった。彼女はゆっくりと立ち上がると、リオの目の前で、自らの下着の紐に、ゆっくりと指をかけた。
「あ、アリアさん……? な、何を……」
「ふふっ……♡なぁに、リオ……♡ あたいのこと、そんなにいやらしい目で見てたくせに……♡」
くすくすと喉を鳴らして笑うアリアの顔は、もはや聖母のそれではない。男の欲望を煽り、それを意のままに操ることを至上の悦びとする、妖婦の笑みだった。銀縁のメガネが、暖炉の炎を反射して、妖しくきらめく。
外では世界が終わりを迎えたかのように荒れ狂う暴風雨が、粗末な山小屋を激しく打ち据えている。降りしきる雨音は分厚い絨毯となって全ての音を吸い込み、風が壁の隙間を抜けるたびに、まるで獣の慟哭のような不気味な呻き声が響き渡った。その暴力的な自然の音とは裏腹に、小屋の中は奇妙な静寂と、ぱちぱちと甲高くはぜる暖炉の炎が落とす濃密な影、そして二人の男女が発する息苦しいほどの熱気に満たされていた。
「だめだ……アリアさん、あなたは人妻じゃないか……! ……こんなこと、間違ってる……!」
リオは、燃え盛る欲望の奔流に抗う最後の防波堤であるかのように、か細く、しかしはっきりとした拒絶の言葉を紡いだ。その声は、自らの内に燃え盛る業火の中でかき消されそうな、儚い風前の灯火のようだった。彼の言葉は正論であり、倫理であり、彼自身がかつて村の広場で吟遊詩人から聞かされた、高潔な騎士道物語の教えそのものであった。だが、その脆い理性は、『妖精の吐息』という古代ドワーフの叡智と魔術の結晶が生み出す、抗いがたい本能の洪水の前では、あまりにも無力であった。
この希少な酒精は、単に人の理性を麻痺させ、興奮作用をもたらすだけではない。その真の恐ろしさは、飲んだ者の五感を極限まで鋭敏に研ぎ澄ませ、精神と肉体の結びつきを強制的に引き剥がすことにある。脳は倫理と道徳を叫び、社会的な規範に則るよう警告を発する。しかし、肉体は目の前の対象への純粋な渇望を訴え、その触れ合いから得られる快感を何十倍にも増幅して、悲鳴を上げる精神へと容赦なくフィードバックするのだ。さらに、醸造の最終工程で触媒として用いられる「惑い蝶の鱗粉」と呼ばれる極めて希少な魔力素材は、対象への原始的な性的欲望を、あたかも崇高な恋愛感情であるかのように誤認させる、強力な幻惑効果を秘めていた。つまり、飲んだ者は自らが抱く底なしの欲望を「愛」であると錯覚し、いかなる背徳行為にも一切の罪悪感を抱かなくなるのである。アリアにとって夫への罪悪感も、貞淑な妻としての矜持も、この灼熱の奔流の前では、もはや遠い過去の残骸でしかなかった。
「……♡ふふっ、間違ってることって、なぁに……♡? リオはさ、あたいのこと、嫌いかい……?」
アリアは、震える子犬を慈しむように、ゆっくりと彼の身体ににじり寄った。その動きはしなやかで、まるで水が流れるように一切の無駄がない。下着一枚になった彼女の豊満な肉体から放たれる熱と、発情した雌だけが発する甘くむせ返るような匂いが、リオのなけなしの理性をちりぢりに蝕んでいく。暖炉の揺らめく炎に照らされた彼女の乳白色の肌は、きめ細やかな白磁のように滑らかで、じっとりと滲んだ汗によって艶かしい光沢を帯びている。その身体の至る所から立ち上る湯気が、この世の者とは思えぬほどの幻想的で蠱惑的な雰囲気を醸し出していた。
そう言って、アリアは小瓶の中身を、まず自分のカップに、そしてリオのカップに半分ずつ注いだ。彼女はこれがただの酒ではないことに、本能のどこかで気づいていたのかもしれない。だが、目の前の若者との間に漂う、この息が詰まるような性的な緊張感をどうにかしたかった。そして何より、自分自身の内側で燃え盛り始めた、この背徳的な興奮を、酒精のせいにしてしまいたかったのだ。
二人は、どちらからともなくカップを掲げ、無言でそれを呷った。
液体が舌に触れた瞬間、アリアは驚きに目を見開いた。それは、花の蜜を極限まで凝縮したかのような、脳髄が痺れるほどの濃厚な甘さ。そして、その甘さが喉を通り過ぎた直後、まるで燃える炭を飲み下したかのような灼熱が、食道から胃の腑へと駆け下り、身体の芯からカッと燃え上がらせた。
「あっ……んッ♡ん゛ん゛♡」
アリアの口から、自分でも意識しないうちに、甘く濡れた吐息が漏れた。違う。これは「深き脈動」のような、じっくりと理性を溶かしていく類のものではない。もっと直接的で、もっと暴力的だ。全身の血が沸騰し、神経という神経が剥き出しにされ、感覚が何十倍にも増幅されていく。暖炉の炎の熱が、肌を直接焼くように感じられる。外で吹き荒れる風の音が、耳元で囁かれる甘い言葉のように鼓膜を震わせる。
そして、隣に座るリオの匂い。汗と若さの匂いが混じり合った、その雄々しい体臭が、アリアの思考を完全に麻痺させた。子宮が、きゅううんと収縮し、蜜壺の奥からじゅわりと熱い泉が湧き出すのが分かった。
「ア、アリア……さん……? なんだか、身体が……あつい……それに、なんだか、すごく……」
リオの声もまた、掠れて熱を帯びていた。彼の瞳は潤み、その焦点は定まらず、ただ目の前のアリアの豊満な肉体を、飢えた獣のように貪っていた。彼の未熟な理性を焼き払った灼熱の奔流は、彼の股間で猛り狂う若々しい雄蕊を、もはや隠しようもないほどに硬く、熱く膨張させていた。
アリアがそのことに気づいた時には、全てが手遅れであった。ドワーフの醸造長が言っていた「女衆に評判がいい」という言葉の意味を、今更ながらに理解する。これは、男を誘惑し、その理性を完全に破壊するための、古代の魔術的な媚薬なのだ。思考が、蕩けていく。夫への罪悪感も、貞淑な女将としての矜持も、灼熱の奔流に押し流されて消えていく。残ったのは、ただ一つ。目の前の若く逞しい雄を、その身の内に受け入れたいという、抗いがたい渇望だけだった。
「リオ……♡」
アリアが、ねっとりと甘い声で彼の名を呼ぶ。それはもはや、「眠れる海竜亭」の女将の声ではなかった。かつての彼女が男を奈落の快楽へと誘う時の、蠱惑的な響きそのものであった。彼女はゆっくりと立ち上がると、リオの目の前で、自らの下着の紐に、ゆっくりと指をかけた。
「あ、アリアさん……? な、何を……」
「ふふっ……♡なぁに、リオ……♡ あたいのこと、そんなにいやらしい目で見てたくせに……♡」
くすくすと喉を鳴らして笑うアリアの顔は、もはや聖母のそれではない。男の欲望を煽り、それを意のままに操ることを至上の悦びとする、妖婦の笑みだった。銀縁のメガネが、暖炉の炎を反射して、妖しくきらめく。
外では世界が終わりを迎えたかのように荒れ狂う暴風雨が、粗末な山小屋を激しく打ち据えている。降りしきる雨音は分厚い絨毯となって全ての音を吸い込み、風が壁の隙間を抜けるたびに、まるで獣の慟哭のような不気味な呻き声が響き渡った。その暴力的な自然の音とは裏腹に、小屋の中は奇妙な静寂と、ぱちぱちと甲高くはぜる暖炉の炎が落とす濃密な影、そして二人の男女が発する息苦しいほどの熱気に満たされていた。
「だめだ……アリアさん、あなたは人妻じゃないか……! ……こんなこと、間違ってる……!」
リオは、燃え盛る欲望の奔流に抗う最後の防波堤であるかのように、か細く、しかしはっきりとした拒絶の言葉を紡いだ。その声は、自らの内に燃え盛る業火の中でかき消されそうな、儚い風前の灯火のようだった。彼の言葉は正論であり、倫理であり、彼自身がかつて村の広場で吟遊詩人から聞かされた、高潔な騎士道物語の教えそのものであった。だが、その脆い理性は、『妖精の吐息』という古代ドワーフの叡智と魔術の結晶が生み出す、抗いがたい本能の洪水の前では、あまりにも無力であった。
この希少な酒精は、単に人の理性を麻痺させ、興奮作用をもたらすだけではない。その真の恐ろしさは、飲んだ者の五感を極限まで鋭敏に研ぎ澄ませ、精神と肉体の結びつきを強制的に引き剥がすことにある。脳は倫理と道徳を叫び、社会的な規範に則るよう警告を発する。しかし、肉体は目の前の対象への純粋な渇望を訴え、その触れ合いから得られる快感を何十倍にも増幅して、悲鳴を上げる精神へと容赦なくフィードバックするのだ。さらに、醸造の最終工程で触媒として用いられる「惑い蝶の鱗粉」と呼ばれる極めて希少な魔力素材は、対象への原始的な性的欲望を、あたかも崇高な恋愛感情であるかのように誤認させる、強力な幻惑効果を秘めていた。つまり、飲んだ者は自らが抱く底なしの欲望を「愛」であると錯覚し、いかなる背徳行為にも一切の罪悪感を抱かなくなるのである。アリアにとって夫への罪悪感も、貞淑な妻としての矜持も、この灼熱の奔流の前では、もはや遠い過去の残骸でしかなかった。
「……♡ふふっ、間違ってることって、なぁに……♡? リオはさ、あたいのこと、嫌いかい……?」
アリアは、震える子犬を慈しむように、ゆっくりと彼の身体ににじり寄った。その動きはしなやかで、まるで水が流れるように一切の無駄がない。下着一枚になった彼女の豊満な肉体から放たれる熱と、発情した雌だけが発する甘くむせ返るような匂いが、リオのなけなしの理性をちりぢりに蝕んでいく。暖炉の揺らめく炎に照らされた彼女の乳白色の肌は、きめ細やかな白磁のように滑らかで、じっとりと滲んだ汗によって艶かしい光沢を帯びている。その身体の至る所から立ち上る湯気が、この世の者とは思えぬほどの幻想的で蠱惑的な雰囲気を醸し出していた。
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