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5章 人妻エルフとえっちな呪いのお話
90:来賓室
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「来賓室、ですか?」
主の威光を映すかのように磨き上げられた重厚なマホガニーのデスクの前で、リーゼはか細い声で問い返した。秋の気配が深まり始めた港湾要塞都市アストリナの、ある日の昼下がり。冒険者ギルドの二階、その最奥に位置するギルドマスター執務室。リーゼは思わず問い返した。
壁一面を埋め尽くすのは、黒檀の書架に整然と並べられた、おびただしい数の魔導書や古文書の類。その背表紙には、もはや解読できる者がほとんどいない古代語や、禁忌とされる魔族の象形文字が、禍々しい金文字で刻まれている。部屋に満ちる古びたインクと羊皮紙の匂いが、この部屋の主がただのギルド経営者ではない、深遠な知識を持つ魔導の研究者でもあることを物語っていた。
『あぁ。リーゼ君。今日は少し嗜好を変えてみようと思ってね』
デスクの主、ギルドマスターのアシュワースは、山と積まれた書類から顔を上げることなく、こともなげに答えた。その指先では、ドワーフ製の精巧な羽ペンが、まるでそれ自体が一個の生き物であるかのように、契約書の上を滑らかに走っている。彼の関心はあくまで目の前の仕事にあり、リーゼとの会話は、その合間の余興に過ぎないと言わんばかりの態度。その揺るぎない支配者の余裕が、リーゼの淫紋をさらに疼かせた。
『あの部屋は声が漏れないから秘め事にはちょうどいい。『静寂のルーン』がびっしりと刻まれているからな。中でどれほどの痴態を繰り広げようと、外には赤子の寝息一つ漏れはしない。そうだろう?』
身体の高ぶりを慰めるため、時折、誰にも知られず来賓室を使っていたリーゼの秘め事。この男には、すべてお見通しだったのだ。その事実が、絶望的な羞恥と共に、背徳的な興奮を彼女にもたらす。
「…はい」
かろうじて肯定の言葉を紡ぐと、スカートの下で、じゅわ、と熱い蜜がまた一筋、溢れ出した。シルクのストッキングが、その粘りつくような感触を、太腿の内側へと生々しく伝えてくる。
『ともかく、今日だけの特別な宿の手配を頼むよ。リーゼ君。最高のサービスを。食事は、長い耳のウサギで頼む』
アシュワースは、ようやく書類から顔を上げ、その抜け目のない目でリーゼをねめつけた。長い耳のウサギ。耳長族の女を指す、下卑た隠語。その言葉が、リーゼの淫紋を直接灼いた。
『来賓室なら夜まで待つこともあるまい。1時間後に来なさい。用意はいろいろとしてある』
「…はい♡」
恍惚に潤んだ瞳で、リーゼは甘く喘ぐように答えた。もはや、彼女に否という選択肢はない。この身を内側から焼き尽くす炎から逃れるには、この男の欲望にその身を委ねるしかないのだ。
『あぁそれとリーゼ君。こちらからリクエストを伝えておこう…』
悪魔の囁きのようなその言葉を聞いたリーゼは、ふらつく足取りで執務室を後にした。
◇◇◇
あれから一月ほどが過ぎた。
リーゼの「特別な出張」は、あの一夜きりでは終わらなかった。淫紋の呪いによりリーゼの身体の熱が高まると、ギルドマスターは見透かしたように彼女に「特別な出張」の指示をするのであった。それは、彼の自邸での奉仕であったり、あるいは、ギルドの息のかかった秘密の宿での逢瀬であったりした。
彼との行為自体を、心待ちにしている自分自身を、もはや否定することはできない。興が乗るまでは極めて紳士的であり、また丁寧な前後対応には好感が持てる。何より、彼との交わりで得られる、脳髄ごと焼き尽くされるかのような歓びは、病に倒れた夫との淡白なそれとは、もはや比較することすらおこがましかった。
今日も、このどうしようもなく高まった身体の熱を、すべてあの人に捧げることができるだろう。その期待に、リーゼの足取りは自然と軽くなる。
◇◇◇
分厚い石壁と『静寂のルーン』によって外界から完全に隔絶された来賓室。その扉を開けたリーゼが見たものは、部屋の隅に置かれた豪奢な椅子に、ぐったりと縛り付けられている夫、グンナルの姿だった。
「…っ!あなた!?さっきロビーにいたはずじゃ?」
驚きに声が上擦る。つい先ほど、事務仕事を淡々とこなす夫の姿を、ギルドのロビーで見かけたばかりだった。
『あぁ、リーゼ君。よくできているだろう』
声のした方を見ると、すでに服を脱ぎ捨てたギルドマスターが、部屋の奥にある豪奢なベッドに腰掛けていた。
『人形だよ。魔力を込めた粘土と、対象者の毛髪、そして私のささやかな魔導具作成技術で作り上げた、ゴーレムさ。本人は君が見た通り、今もロビーで退屈な書類仕事に励んでいる』
見た目も、声も、そして今、リーゼに向けられているその潤んだ瞳から感じる、悲痛な熱までもが、夫本人と寸分違わなかった。その瞳には、妻の裏切りに対する絶望と、それでもなお妻を求める悲しい愛情の色が、あまりにもリアルに再現されていた。
『あぁ…リーゼ…どうして…』
人形の口から、夫と全く同じ声で、絶望に満ちた呟きが漏れる。
『そういうわけで、今日は彼を観客に、たっぷりと楽しませてもらおうじゃないか。来なさい』
「…はい♡」
罪悪感と、それを遥かに上回る倒錯的な期待に、心臓が早鐘を打つ。リーゼは、まるで夢遊病者のように、ふらふらとした足取りでベッドに近づいた。
主の威光を映すかのように磨き上げられた重厚なマホガニーのデスクの前で、リーゼはか細い声で問い返した。秋の気配が深まり始めた港湾要塞都市アストリナの、ある日の昼下がり。冒険者ギルドの二階、その最奥に位置するギルドマスター執務室。リーゼは思わず問い返した。
壁一面を埋め尽くすのは、黒檀の書架に整然と並べられた、おびただしい数の魔導書や古文書の類。その背表紙には、もはや解読できる者がほとんどいない古代語や、禁忌とされる魔族の象形文字が、禍々しい金文字で刻まれている。部屋に満ちる古びたインクと羊皮紙の匂いが、この部屋の主がただのギルド経営者ではない、深遠な知識を持つ魔導の研究者でもあることを物語っていた。
『あぁ。リーゼ君。今日は少し嗜好を変えてみようと思ってね』
デスクの主、ギルドマスターのアシュワースは、山と積まれた書類から顔を上げることなく、こともなげに答えた。その指先では、ドワーフ製の精巧な羽ペンが、まるでそれ自体が一個の生き物であるかのように、契約書の上を滑らかに走っている。彼の関心はあくまで目の前の仕事にあり、リーゼとの会話は、その合間の余興に過ぎないと言わんばかりの態度。その揺るぎない支配者の余裕が、リーゼの淫紋をさらに疼かせた。
『あの部屋は声が漏れないから秘め事にはちょうどいい。『静寂のルーン』がびっしりと刻まれているからな。中でどれほどの痴態を繰り広げようと、外には赤子の寝息一つ漏れはしない。そうだろう?』
身体の高ぶりを慰めるため、時折、誰にも知られず来賓室を使っていたリーゼの秘め事。この男には、すべてお見通しだったのだ。その事実が、絶望的な羞恥と共に、背徳的な興奮を彼女にもたらす。
「…はい」
かろうじて肯定の言葉を紡ぐと、スカートの下で、じゅわ、と熱い蜜がまた一筋、溢れ出した。シルクのストッキングが、その粘りつくような感触を、太腿の内側へと生々しく伝えてくる。
『ともかく、今日だけの特別な宿の手配を頼むよ。リーゼ君。最高のサービスを。食事は、長い耳のウサギで頼む』
アシュワースは、ようやく書類から顔を上げ、その抜け目のない目でリーゼをねめつけた。長い耳のウサギ。耳長族の女を指す、下卑た隠語。その言葉が、リーゼの淫紋を直接灼いた。
『来賓室なら夜まで待つこともあるまい。1時間後に来なさい。用意はいろいろとしてある』
「…はい♡」
恍惚に潤んだ瞳で、リーゼは甘く喘ぐように答えた。もはや、彼女に否という選択肢はない。この身を内側から焼き尽くす炎から逃れるには、この男の欲望にその身を委ねるしかないのだ。
『あぁそれとリーゼ君。こちらからリクエストを伝えておこう…』
悪魔の囁きのようなその言葉を聞いたリーゼは、ふらつく足取りで執務室を後にした。
◇◇◇
あれから一月ほどが過ぎた。
リーゼの「特別な出張」は、あの一夜きりでは終わらなかった。淫紋の呪いによりリーゼの身体の熱が高まると、ギルドマスターは見透かしたように彼女に「特別な出張」の指示をするのであった。それは、彼の自邸での奉仕であったり、あるいは、ギルドの息のかかった秘密の宿での逢瀬であったりした。
彼との行為自体を、心待ちにしている自分自身を、もはや否定することはできない。興が乗るまでは極めて紳士的であり、また丁寧な前後対応には好感が持てる。何より、彼との交わりで得られる、脳髄ごと焼き尽くされるかのような歓びは、病に倒れた夫との淡白なそれとは、もはや比較することすらおこがましかった。
今日も、このどうしようもなく高まった身体の熱を、すべてあの人に捧げることができるだろう。その期待に、リーゼの足取りは自然と軽くなる。
◇◇◇
分厚い石壁と『静寂のルーン』によって外界から完全に隔絶された来賓室。その扉を開けたリーゼが見たものは、部屋の隅に置かれた豪奢な椅子に、ぐったりと縛り付けられている夫、グンナルの姿だった。
「…っ!あなた!?さっきロビーにいたはずじゃ?」
驚きに声が上擦る。つい先ほど、事務仕事を淡々とこなす夫の姿を、ギルドのロビーで見かけたばかりだった。
『あぁ、リーゼ君。よくできているだろう』
声のした方を見ると、すでに服を脱ぎ捨てたギルドマスターが、部屋の奥にある豪奢なベッドに腰掛けていた。
『人形だよ。魔力を込めた粘土と、対象者の毛髪、そして私のささやかな魔導具作成技術で作り上げた、ゴーレムさ。本人は君が見た通り、今もロビーで退屈な書類仕事に励んでいる』
見た目も、声も、そして今、リーゼに向けられているその潤んだ瞳から感じる、悲痛な熱までもが、夫本人と寸分違わなかった。その瞳には、妻の裏切りに対する絶望と、それでもなお妻を求める悲しい愛情の色が、あまりにもリアルに再現されていた。
『あぁ…リーゼ…どうして…』
人形の口から、夫と全く同じ声で、絶望に満ちた呟きが漏れる。
『そういうわけで、今日は彼を観客に、たっぷりと楽しませてもらおうじゃないか。来なさい』
「…はい♡」
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