剣と魔法の世界で冒険はそこそこにして色々なお仕事の女の子達がはちゃめちゃにえっちなことになるお話

アレ

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9章 狩人も冒険ではちゃめちゃになってしまうお話

146:依頼

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帝国と共和国の狭間にあって、常に緊張の空気をまとう港湾要塞都市アストリナ。その心臓部ともいえる冒険者ギルドは、今日も今日とて、一攫千金を夢見る者たちの熱気と欲望でごった返していました。エール酒の酸っぱい匂い、汗と血の鉄錆びた香り、そしてなめされた革と武具を打つ鉄の匂いが混じり合い、むせ返るような喧騒の渦を作り出しています。

その喧騒の只中を、一人の少女が、まるで水面を滑る猫のように静かな足取りで進んでいました。
彼女の名前はシャイラさん。北方の森深くにある集落出身の、獣人族の狩人です。

しなやかに引き締まった身体を包むのは、茶色を基調とした革製の軽装鎧。腰には二振りの短剣、そして背には愛用の弓が、彼女がただの少女ではないことを雄弁に物語っています。肩口で切りそろえられた赤い髪の間からぴょこんと覗く猫の耳は、周囲の怒声や笑い声を拾うたびに、ぴくぴくと小刻みに揺れていました。

「ふぅ…」

シャイラさんは、換金所のカウンターで、ずしりと重い革袋を受け取ると、小さく、しかし安堵の息を漏らしました。数日間にわたる森での死闘の末に仕留めた、大型の魔物「森の捕食者」の素材と牙。その報酬は、彼女のようなソロの冒険者にとっては破格のものでした。革袋の中の金貨が擦れ合う、からん、という乾いた音が、疲れた身体に心地よく響きます。

しかし、その金色の瞳に浮かぶのは、満足の色だけではありません。故郷の集落を襲った厳しい食糧難。その光景が、まぶたの裏に焼き付いて離れないのです。この程度の金額では、集落の皆を冬の間、腹一杯にさせることなど到底できません。もっと、大きな獲物を。もっと、高額な報酬を。彼女の心は、既に次なる狩場を求めていました。

再び喧騒の中へと戻ったシャイラさんは、巨大な依頼掲示板へと向かいます。羊皮紙が何枚も重ねて乱雑に貼り付けられた掲示板は、この街の欲望の縮図そのものです。薬草採集、ゴブリン討伐、商人の護衛。ありふれた依頼を、彼女の金色の瞳は興味なさげに読み飛ばしていきます。彼女が求めるのは、危険度と報酬のバランスが良い、いわゆる「割の良い」依頼ではありません。ただ、絶対的な報酬額。そのためならば、どれほどの危険も厭わない覚悟でした。

その、鋭敏な狩人の視線が、掲示板の片隅に打ち捨てられるように貼られた、一枚の古びた羊皮紙に吸い寄せられました。他の依頼書とは明らかに違う、インクの染みと、幾人もの冒険者が手にしては諦めたであろう、指の跡。そして、その依頼内容と、他の依頼とは桁が一つ違う報酬額に、シャイラさんはごくりと喉を鳴らしました。

【緊急討伐依頼:山岳廃墟の怪異】
【内容:アストリナ北東部の山岳地帯に存在する旧時代の修道院廃墟を根城とする魔物の討伐。詳細不明。複数の討伐失敗パーティーあり】
【特記事項:当該魔物の影響か、周辺地域に深刻な『瘴気汚染』を確認。汚染は拡大傾向にあり、早期解決を要す】
【報酬:金貨三百枚】

金貨三百枚。それは、シャイラさんが故郷の集落を一年間、豊かに養えるほどの金額です。彼女の心臓が、どくん、と大きく高鳴りました。尻尾が、期待にゆっくりと左右に揺れます。
シャイラさんは、ためらうことなくその依頼書を剥ぎ取ると、受付カウンターへと向かいました。

◇◇◇

「この依頼を、アタシが受ける」

ぶっきらぼうな、しかし芯の通った声。シャイラさんが依頼書を差し出したカウンターの向こうで、受付嬢のセレスティアさんが、すっと切れ長の紫の瞳を細めました。
「鉄の処女」とも「氷のセレス」とも揶揄される彼女は、今日もギルドの制服を一切の乱れなく着こなし、その表情からは一切の感情が読み取れません。しかし、差し出された依頼書に視線を落とした瞬間、その完璧なポーカーフェイスに、ごく微かな、しかし確かな苦渋の色が浮かびました。

「…シャイラさん。あなたほどの腕利きであれば、単独の活動も可能でしょう。それは、ギルドも承知しています。ですが、この依頼は…あまりにも危険すぎます」

セレスさんの声は、いつも通り平坦で、感情の起伏がありません。しかし、その言葉の端々には、シャイラさんの身を案じる響きが滲んでいました。

「これまでに、三組、合計十名の冒険者がこの依頼に失敗しています。いずれも腕利きのパーティーでした。幸い、全員命に別条はありませんでしたが…」
そこで一度、セレスさんは言葉を切ります。
「彼らは全員、廃墟の麓の森で、前後不覚の状態で発見されました。身体には一切の外傷がないにもかかわらず、まるで魂を抜かれたかのように虚ろな目で、意味不明な言葉を呟き続けていたそうです。数日経てば正気には戻るのですが、魔物に関する記憶は、例外なくすっぽりと抜け落ちている。唯一、生存者全員が口を揃えて証言したのは、『無数の巨大な眼球に、見つめられていた』…ただ、それだけです」

物理的な攻撃ではなく、精神を直接蝕むタイプの魔物。それは、屈強な戦士であればあるほど、対処が難しい相手であることを意味します。シャイラさんのような、隠密行動を得意とする狩人であっても、その「視線」から逃れることは不可能かもしれません。
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