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10章 危ないお店に潜入したら当然のごとくぐちょぐちょえっちになってしまうお話
190:売人
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赤煙亭で働き始めて、早くも十日が過ぎようとしていた。
夜闇を溶かし込んだような艶やかな黒髪、雪のように白い肌、そして薄汚れた酒場には不釣り合いなほど整った顔立ち。小雪――今はユキと名乗る彼女は、その存在だけで男たちの目を釘付けにした。しかし、彼女が放つのは、媚びるような甘さではなく、氷のような冷たさであった。
小雪自身、その冷淡な態度が、かえって男たちの歪んだ欲望を煽っていることには薄々気づいていた。夜ごと繰り返される「特別室」での陵辱は、日を追うごとに激しさを増していく。男たちは、小雪の澄ました顔が快楽に歪む瞬間を執拗に求め、その抵抗心を打ち砕くことに悦びを見出していた。身体の奥深くに刻み込まれる屈辱と快感の記憶。それは、小雪のプライドを少しずつ、しかし確実に蝕んでいく。
それでも、小雪は接客態度を変えようとはしなかった。それは、盗賊団の手に落ちた娘たちを救い出すという、シノビとして背負った任務を遂行するための意地であり、かつての自分を保つための最後の砦でもあった。しかし、心の奥底では、別の感情が渦巻いていることも自覚している。若き主君が作り出した妙薬。その原液を呷ってしまった彼女の身体は、生命力の根源から変質させられていた。魔力循環は常に暴走寸前の活性状態にあり、全身の神経網は剥き出しになったかのように過敏になっている。度重なる陵辱によって開発されてしまった身体は、男たちの荒々しい支配を、背徳的な快楽を、心のどこかで期待してしまっているのだ。めちゃくちゃにされることへの恐怖と、それを渇望する倒錯した感情。その矛盾が、小雪の心を複雑に引き裂いていた。
その日も、赤煙亭の店内はむせ返るような熱気に満ちていた。汗と安いエールの酸っぱい匂い、脂の焼ける香ばしさ、そしてヤニの臭いが混然一体となり、雄たちの獣じみた欲望の魔力が渦巻いている。男たちの粘つくような視線が、肌の露出が多いウェイトレスのユニフォームの上からでも、容赦なく突き刺さる。視線が胸元や太ももを舐めるたびに、子宮の奥がきゅう、と疼き、じわりと熱を持つのを感じた。硬く尖った乳首が、安っぽい擬似絹布のサテン生地と擦れ合い、びりびりと痺れるような感覚を送ってくる。客の注文を取り、酒を運ぶ。そのたびに、男たちの手が「偶然」を装って腰や尻に触れてくる。ぬるりとした汗ばんだ感触が走るたび、喉の奥から甘い声が漏れそうになるのを、必死で奥歯を噛みしめて堪えた。
「♡ん゛ぅ…っ♡」
吐息とも呻きともつかない微かな声が漏れる。任務のため、平静を装わなければ。しかし、身体は正直だった。下腹部は熱く疼き、秘裂からはすでに、ぬるりとした蜜が滲み始めている。このままでは、いつ理性の箍が外れてしまうかわからない。そんな焦燥感と、背徳的な興奮が、小雪の思考を鈍らせていく。
「おい、ユキちゃんよぉ、今日もつれないねぇ。そんな顔してると、夜にたっぷり可愛がりたくなるぜ?」
脂ぎった顔の常連客が、にやにやしながら声をかけてくる。小雪は内心の動揺を押し殺し、冷たく言い放った。
「お客様、ご注文は以上でよろしいでしょうか。他のお客様がお待ちです」
「へっ、つれねぇなぁ。だが、そのツンとしたところがたまらねぇんだよ」
男は小雪の態度を楽しんでいるようだった。周囲の男たちからも、囃し立てるような声が上がる。彼らは知っているのだ。このクールな女給が、夜になれば金次第でどんな男にも身体を開き、快楽に喘ぐことを。だからこそ、昼間のこの気取った態度が、彼らの嗜虐心をくすぐるのだった。
別のテーブルでは、酔った男が小雪の腕を掴んだ。
「ユキちゃん、一杯付き合えよ。金ならいくらでもあるぜ」
「お客様、お触りはご遠慮ください。手を放していただけませんか」
小雪の声は、氷のように冷たい。しかし、掴まれた腕から伝わる男の体温に、身体の奥がじくりと熱くなる。
「なんだとぉ? この俺の酒が飲めねぇってのか!」
男は逆上し、声を荒らげる。小雪は怯むことなく、男の目を真っ直ぐに見据えた。
「申し訳ございませんが、勤務中です。他のお客様にご迷惑がかかりますので」
その毅然とした態度に、男は一瞬たじろいだが、すぐに舌打ちをして手を放した。
「ちっ…覚えてやがれよ。今夜、たっぷり礼してやるからな…」
男の捨て台詞に、小雪の背筋がぞくりと震えた。今夜もまた、あの「特別室」で、屈辱的な夜が待っているのだろう。恐怖と、それに反する期待感が、再び小雪の心を掻き乱した。
◇◇◇
夜の闇が、港湾要塞都市アストリナのスラム街をインクのように塗りつぶす頃、安酒場「赤煙亭」の喧騒もようやく最後の残り火のように弱まっていた。脂とヤニと安酒の匂いが染みついた店内では、酔いつぶれた日雇い労働者たちが汚れた床に折り重なるように転がり、獣じみた鼾をかいている。残った数人の客も、もはや言葉を交わす気力もなく、虚ろな目でテーブルの傷を見つめているだけだ。小雪もまた、今日の長く過酷な仕事がようやく終わるのだと、張り詰めていた心の糸をわずかに緩め、安堵の息をつきかけた。その、刹那であった。
ギィ、と錆び付いた蝶番が悲鳴のような音を立てて、店の扉が開かれた。流れ込んできたのは、どぶ川と腐敗の匂いが混じり合った、スラム特有の冷たい夜気。そして、その闇を背負うように立っていたのは、一人の大柄な男であった。年の頃は四十代半ばだろうか。幾多の戦いを経て黒ずんだリベットが打ち込まれた硬化革の鎧に身を包み、腰には北方の傭兵団が好んで用いる、鞘に鈍い光を放つ無骨な長剣を帯びている。月光を反射しないその剣は、魔物の血脂を吸い尽くしている証左であった。
夜闇を溶かし込んだような艶やかな黒髪、雪のように白い肌、そして薄汚れた酒場には不釣り合いなほど整った顔立ち。小雪――今はユキと名乗る彼女は、その存在だけで男たちの目を釘付けにした。しかし、彼女が放つのは、媚びるような甘さではなく、氷のような冷たさであった。
小雪自身、その冷淡な態度が、かえって男たちの歪んだ欲望を煽っていることには薄々気づいていた。夜ごと繰り返される「特別室」での陵辱は、日を追うごとに激しさを増していく。男たちは、小雪の澄ました顔が快楽に歪む瞬間を執拗に求め、その抵抗心を打ち砕くことに悦びを見出していた。身体の奥深くに刻み込まれる屈辱と快感の記憶。それは、小雪のプライドを少しずつ、しかし確実に蝕んでいく。
それでも、小雪は接客態度を変えようとはしなかった。それは、盗賊団の手に落ちた娘たちを救い出すという、シノビとして背負った任務を遂行するための意地であり、かつての自分を保つための最後の砦でもあった。しかし、心の奥底では、別の感情が渦巻いていることも自覚している。若き主君が作り出した妙薬。その原液を呷ってしまった彼女の身体は、生命力の根源から変質させられていた。魔力循環は常に暴走寸前の活性状態にあり、全身の神経網は剥き出しになったかのように過敏になっている。度重なる陵辱によって開発されてしまった身体は、男たちの荒々しい支配を、背徳的な快楽を、心のどこかで期待してしまっているのだ。めちゃくちゃにされることへの恐怖と、それを渇望する倒錯した感情。その矛盾が、小雪の心を複雑に引き裂いていた。
その日も、赤煙亭の店内はむせ返るような熱気に満ちていた。汗と安いエールの酸っぱい匂い、脂の焼ける香ばしさ、そしてヤニの臭いが混然一体となり、雄たちの獣じみた欲望の魔力が渦巻いている。男たちの粘つくような視線が、肌の露出が多いウェイトレスのユニフォームの上からでも、容赦なく突き刺さる。視線が胸元や太ももを舐めるたびに、子宮の奥がきゅう、と疼き、じわりと熱を持つのを感じた。硬く尖った乳首が、安っぽい擬似絹布のサテン生地と擦れ合い、びりびりと痺れるような感覚を送ってくる。客の注文を取り、酒を運ぶ。そのたびに、男たちの手が「偶然」を装って腰や尻に触れてくる。ぬるりとした汗ばんだ感触が走るたび、喉の奥から甘い声が漏れそうになるのを、必死で奥歯を噛みしめて堪えた。
「♡ん゛ぅ…っ♡」
吐息とも呻きともつかない微かな声が漏れる。任務のため、平静を装わなければ。しかし、身体は正直だった。下腹部は熱く疼き、秘裂からはすでに、ぬるりとした蜜が滲み始めている。このままでは、いつ理性の箍が外れてしまうかわからない。そんな焦燥感と、背徳的な興奮が、小雪の思考を鈍らせていく。
「おい、ユキちゃんよぉ、今日もつれないねぇ。そんな顔してると、夜にたっぷり可愛がりたくなるぜ?」
脂ぎった顔の常連客が、にやにやしながら声をかけてくる。小雪は内心の動揺を押し殺し、冷たく言い放った。
「お客様、ご注文は以上でよろしいでしょうか。他のお客様がお待ちです」
「へっ、つれねぇなぁ。だが、そのツンとしたところがたまらねぇんだよ」
男は小雪の態度を楽しんでいるようだった。周囲の男たちからも、囃し立てるような声が上がる。彼らは知っているのだ。このクールな女給が、夜になれば金次第でどんな男にも身体を開き、快楽に喘ぐことを。だからこそ、昼間のこの気取った態度が、彼らの嗜虐心をくすぐるのだった。
別のテーブルでは、酔った男が小雪の腕を掴んだ。
「ユキちゃん、一杯付き合えよ。金ならいくらでもあるぜ」
「お客様、お触りはご遠慮ください。手を放していただけませんか」
小雪の声は、氷のように冷たい。しかし、掴まれた腕から伝わる男の体温に、身体の奥がじくりと熱くなる。
「なんだとぉ? この俺の酒が飲めねぇってのか!」
男は逆上し、声を荒らげる。小雪は怯むことなく、男の目を真っ直ぐに見据えた。
「申し訳ございませんが、勤務中です。他のお客様にご迷惑がかかりますので」
その毅然とした態度に、男は一瞬たじろいだが、すぐに舌打ちをして手を放した。
「ちっ…覚えてやがれよ。今夜、たっぷり礼してやるからな…」
男の捨て台詞に、小雪の背筋がぞくりと震えた。今夜もまた、あの「特別室」で、屈辱的な夜が待っているのだろう。恐怖と、それに反する期待感が、再び小雪の心を掻き乱した。
◇◇◇
夜の闇が、港湾要塞都市アストリナのスラム街をインクのように塗りつぶす頃、安酒場「赤煙亭」の喧騒もようやく最後の残り火のように弱まっていた。脂とヤニと安酒の匂いが染みついた店内では、酔いつぶれた日雇い労働者たちが汚れた床に折り重なるように転がり、獣じみた鼾をかいている。残った数人の客も、もはや言葉を交わす気力もなく、虚ろな目でテーブルの傷を見つめているだけだ。小雪もまた、今日の長く過酷な仕事がようやく終わるのだと、張り詰めていた心の糸をわずかに緩め、安堵の息をつきかけた。その、刹那であった。
ギィ、と錆び付いた蝶番が悲鳴のような音を立てて、店の扉が開かれた。流れ込んできたのは、どぶ川と腐敗の匂いが混じり合った、スラム特有の冷たい夜気。そして、その闇を背負うように立っていたのは、一人の大柄な男であった。年の頃は四十代半ばだろうか。幾多の戦いを経て黒ずんだリベットが打ち込まれた硬化革の鎧に身を包み、腰には北方の傭兵団が好んで用いる、鞘に鈍い光を放つ無骨な長剣を帯びている。月光を反射しないその剣は、魔物の血脂を吸い尽くしている証左であった。
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