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第89話 魔王の覚悟
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聖剣エクスカリバーが、アリアの手に戻った。
そのニュースは、アストレア連合軍の兵士たちの間に、瞬く間に広まった。伝説の勇者が、伝説の聖剣を手にした。その事実は、兵士たちの士気を、これ以上ないほどに高揚させた。
「勇者様が聖剣を! これで百人力だ!」
「もはや、我らに敵はない!」
連合軍の空気は、楽観的なムードにさえ包まれていた。
だが、その熱狂の中心から、一人、静かに離れていく影があった。
魔王リリアだ。
俺は、城壁の上で一人、沈みゆく夕日を眺めている彼女の元へと向かった。
「どうした、リリア。一人で黄昏て」
「……ユウトか」
彼女は、振り返らずに言った。その横顔は、いつもより、どこか物憂げに見えた。
「別に。勇者崩れが、ようやくただの勇者に戻っただけのこと。浮かれている民の姿が、少し、目障りなだけだ」
「素直じゃないな。本当は、アリアのために喜んでるんだろ?」
「なっ! 誰が、あんな脳筋のために!」
リリアは顔を真っ赤にして否定するが、その動揺は隠せていなかった。
俺は、彼女の隣に立ち、同じように夕日を眺めた。
「……なあ、ユウト」
しばらくの沈黙の後、リリアが、ぽつりと呟いた。
「余は、この戦いで、役に立てるだろうか」
「なんだ、急に。当たり前だろ。お前の魔法がなきゃ、前回の戦いだって勝てなかった」
「だが、今度の敵は五万だ。それに、神聖教団には、不思議な力を持つ幹部がいるという」
リリアの瞳に、珍しく、不安の色が浮かんでいた。
「余の魔法は、広範囲の敵を殲滅するには有効だ。だが、それは、膨大な魔力を消費する。連発はできん。それに、もし、勇者のように、単独で戦局を覆せるほどの強大な敵が現れた場合……余一人では、守り切れんかもしれん」
それは、魔王としての、彼女の偽らざる本音だった。
アリアが、聖剣という絶対的な力を手にしたことで、彼女は逆に、自分の力の限界を感じているのかもしれない。
国を失った、かつての無力感が、彼女の心の奥底で、再び燻り始めている。
俺は、どう声をかけるべきか、迷った。
頑張れ、と言うのは簡単だ。だが、それは、何の解決にもならない。
彼女に必要なのは、気休めの言葉ではない。
本当の意味で、彼女が自信を取り戻せる、何か。
「……リリア」
俺は、意を決して、彼女に向き直った。
「俺は、お前のことを、ただの強力な魔法使いだとは思っていない」
「……何が言いたい」
「君は、魔王だ。かつて、一つの種族を束ね、国を治めていた、本物の王だ。その経験と、カリスマ、そして、民を思う心は、アリアにはない、君だけの力だ。魔法だけが、君の全てじゃない」
俺の言葉に、リリアは、ハッとしたように目を見開いた。
「この戦いは、力と力のぶつかり合いだけじゃない。知恵と、戦略、そして、兵士たちの心を一つにする、王としての器が試される。俺は、君に、その力を貸してほしいんだ。アリアが連合軍の『剣』なら、君は、この軍を導く『頭脳』であり、『心臓』だ」
俺は、彼女の紅い瞳を、まっすぐに見つめた。
「リリア。俺と一緒に、この連合軍を率いてくれ。俺の、隣で」
俺の言葉は、リリアの心に、深く、深く、響いたようだった。
彼女は、しばらくの間、何も言わずに、ただ俺の顔を見つめていた。
やがて、彼女の瞳から、不安の色が消え、いつもの、強く、気高い光が戻ってきた。
彼女は、ふい、と顔を背け、夕日に染まる空を見上げた。
そして、静かに、しかし、揺るぎない覚悟を込めて、言った。
「……ふん。仕方ないな。貴様が、そこまで言うのなら」
彼女は、ゆっくりと、自分の胸に手を当てた。
「よかろう、ユウト。この身に流れる、魔王の血と、その魂の全てを、お前に預けよう。余は、もはや、ただの元魔王ではない。アストレア連合軍の、軍師として、この戦いに、我が全てを捧げる」
その宣言と共に、リリアの身から、これまでとは比較にならないほどの、濃密で、そして気高い魔力が、オーラとなって立ち上った。
それは、破壊のための力ではない。
国を導き、民を守るための、王としての、覚悟の力だった。
勇者の覚醒に続き、魔王もまた、真の覚悟を決めた。
アストレア連合軍は、最強の「剣」と、最高の「頭脳」を、同時に手に入れたのだ。
決戦の日は、もう、すぐそこまで迫っていた。
そのニュースは、アストレア連合軍の兵士たちの間に、瞬く間に広まった。伝説の勇者が、伝説の聖剣を手にした。その事実は、兵士たちの士気を、これ以上ないほどに高揚させた。
「勇者様が聖剣を! これで百人力だ!」
「もはや、我らに敵はない!」
連合軍の空気は、楽観的なムードにさえ包まれていた。
だが、その熱狂の中心から、一人、静かに離れていく影があった。
魔王リリアだ。
俺は、城壁の上で一人、沈みゆく夕日を眺めている彼女の元へと向かった。
「どうした、リリア。一人で黄昏て」
「……ユウトか」
彼女は、振り返らずに言った。その横顔は、いつもより、どこか物憂げに見えた。
「別に。勇者崩れが、ようやくただの勇者に戻っただけのこと。浮かれている民の姿が、少し、目障りなだけだ」
「素直じゃないな。本当は、アリアのために喜んでるんだろ?」
「なっ! 誰が、あんな脳筋のために!」
リリアは顔を真っ赤にして否定するが、その動揺は隠せていなかった。
俺は、彼女の隣に立ち、同じように夕日を眺めた。
「……なあ、ユウト」
しばらくの沈黙の後、リリアが、ぽつりと呟いた。
「余は、この戦いで、役に立てるだろうか」
「なんだ、急に。当たり前だろ。お前の魔法がなきゃ、前回の戦いだって勝てなかった」
「だが、今度の敵は五万だ。それに、神聖教団には、不思議な力を持つ幹部がいるという」
リリアの瞳に、珍しく、不安の色が浮かんでいた。
「余の魔法は、広範囲の敵を殲滅するには有効だ。だが、それは、膨大な魔力を消費する。連発はできん。それに、もし、勇者のように、単独で戦局を覆せるほどの強大な敵が現れた場合……余一人では、守り切れんかもしれん」
それは、魔王としての、彼女の偽らざる本音だった。
アリアが、聖剣という絶対的な力を手にしたことで、彼女は逆に、自分の力の限界を感じているのかもしれない。
国を失った、かつての無力感が、彼女の心の奥底で、再び燻り始めている。
俺は、どう声をかけるべきか、迷った。
頑張れ、と言うのは簡単だ。だが、それは、何の解決にもならない。
彼女に必要なのは、気休めの言葉ではない。
本当の意味で、彼女が自信を取り戻せる、何か。
「……リリア」
俺は、意を決して、彼女に向き直った。
「俺は、お前のことを、ただの強力な魔法使いだとは思っていない」
「……何が言いたい」
「君は、魔王だ。かつて、一つの種族を束ね、国を治めていた、本物の王だ。その経験と、カリスマ、そして、民を思う心は、アリアにはない、君だけの力だ。魔法だけが、君の全てじゃない」
俺の言葉に、リリアは、ハッとしたように目を見開いた。
「この戦いは、力と力のぶつかり合いだけじゃない。知恵と、戦略、そして、兵士たちの心を一つにする、王としての器が試される。俺は、君に、その力を貸してほしいんだ。アリアが連合軍の『剣』なら、君は、この軍を導く『頭脳』であり、『心臓』だ」
俺は、彼女の紅い瞳を、まっすぐに見つめた。
「リリア。俺と一緒に、この連合軍を率いてくれ。俺の、隣で」
俺の言葉は、リリアの心に、深く、深く、響いたようだった。
彼女は、しばらくの間、何も言わずに、ただ俺の顔を見つめていた。
やがて、彼女の瞳から、不安の色が消え、いつもの、強く、気高い光が戻ってきた。
彼女は、ふい、と顔を背け、夕日に染まる空を見上げた。
そして、静かに、しかし、揺るぎない覚悟を込めて、言った。
「……ふん。仕方ないな。貴様が、そこまで言うのなら」
彼女は、ゆっくりと、自分の胸に手を当てた。
「よかろう、ユウト。この身に流れる、魔王の血と、その魂の全てを、お前に預けよう。余は、もはや、ただの元魔王ではない。アストレア連合軍の、軍師として、この戦いに、我が全てを捧げる」
その宣言と共に、リリアの身から、これまでとは比較にならないほどの、濃密で、そして気高い魔力が、オーラとなって立ち上った。
それは、破壊のための力ではない。
国を導き、民を守るための、王としての、覚悟の力だった。
勇者の覚醒に続き、魔王もまた、真の覚悟を決めた。
アストレア連合軍は、最強の「剣」と、最高の「頭脳」を、同時に手に入れたのだ。
決戦の日は、もう、すぐそこまで迫っていた。
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