追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい

夏見ナイ

文字の大きさ
63 / 100

第63話 王家の承認

剣聖ダリウスが仲間に加わり、エデンの守りはさらに強固なものとなった。彼は多くを語ることはなかったが、その実直な人柄と圧倒的な剣技はすぐに村人たちの尊敬を集めた。日中はルナリエルと共に村の若者たちに剣を教え、夜は黙々と防壁の見張りに立つ。その姿はまるで贖罪を求めるかのように、どこまでも献身的だった。

そんな穏やかな日々が一月ほど続いた頃。
エデンに再び王都からの使者が訪れた。

だが今度の使者は、バルカスがよこした代官のような小物ではなかった。
村の門の前に現れたのは、王家の紋章である『獅子と太陽』が刻まれた旗を掲げた、一糸乱れぬ隊列を組む騎士の一団だった。その数およそ三十。彼らが身にまとう白銀の鎧は、王国騎士団の中でも精鋭中の精鋭である王宮騎士の証だった。

見張り台からの報告に村は緊張に包まれた。村人たちは武器を手に広場へと集まり、不安げに門の方を見つめている。

「……王家の騎士団」

村長の顔から血の気が引いていた。
辺境伯を打ち破ったとはいえ、相手は国家そのものだ。もし我々が反乱分子と見なされ、討伐の対象となったのなら今度こそ万事休すだ。

俺はそんな村人たちの不安を鎮めるように静かに言った。

「落ち着いてください。彼らが何のために来たのかまだ分かりません。まずは話を聞きましょう」

俺はセレスティアとソフィアを伴い、門へと向かった。ルナリエルとアイリス、そしてダリウスは万が一に備え、村の各所で待機している。

門の前で、騎士団を率いる団長らしき男が馬上から俺たちを見下ろしていた。歳は四十代半ば。日に焼け、厳しく引き結ばれた口元には歴戦の強者だけが持つ威厳が漂っている。

「私がこの調査団を率いる、王国騎士団副団長アルフォンス・ミラーだ」

男は簡潔に名乗った。その声は鋼を打つように硬質だった。

「我々は国王陛下の勅命により、前辺境伯バルカス・フォン・シュナイダーの反乱、及びその鎮圧に関する調査のために派遣された。この村の責任者は誰か」

その言葉には敵意は感じられなかった。ただ事実を究明しようとする公正な響きがあった。

「俺がこの村のまとめ役をしています。リアムと申します」

俺が名乗り出ると、アルフォンスと名乗った騎士は俺の姿を意外そうな目で見つめた。三百の軍勢を打ち破った村の指導者が、こんなにも若い何の変哲もない青年であることに驚いているのだろう。

「……そうか。ではリアム殿。単刀直入に聞こう。貴殿らがバルカス伯の軍勢を退けたというのは真か」

「はい。我々の村に攻め込んできた彼らを自衛のために迎撃しました。それだけです」

俺のあまりにもあっさりとした答えに、アルフォンスの後ろに控えていた騎士たちがざわめいた。

「馬鹿な……。三百の軍勢をただの村人が……」
「何かからくりがあるに違いない」

アルフォンスはそんな部下たちを手で制すると、馬上からゆっくりと降り立った。そして俺の目の前に立つと、その鋭い瞳で俺の心の奥底まで見透かすようにじっと見つめてきた。

「信じがたい話だ。だが行商人ギデオンの証言と、捕らえられた兵士たちの証言は一致している。この村には我々の常識を超えた『何か』があると」

彼は俺たちの背後に広がる平和で豊かな村の光景を一瞥した。

「リアム殿。我々にその『何か』を見せてはいただけないだろうか。我々は真実を国王陛下にご報告する義務がある」

彼の要求は理にかなっていた。俺は頷いた。

「分かりました。村の中へどうぞ」

俺たちはアルフォンスとその側近数名を教会へと案内した。他の騎士たちは村の外で待機している。

教会の談話室で俺たちは改めて向き合った。

「まず、ご紹介します。こちらはセレスティア。この村の聖女です」
「セレスティアと申します。以後お見知りおきを」

セレスティアが優雅に一礼すると、騎士たちの顔に驚きの色が浮かんだ。聖女がこんな辺境の村にいる。それだけでも尋常なことではない。

「そして、こちらはソフィア。我々の知恵袋です」
「ソフィアです。よろしく」

ソフィアが静かに会釈する。彼女から放たれる底知れない知性のオーラに、アルフォンスは眉をひそめた。この女性もまたただ者ではないと直感したのだろう。

そこへルナリエルとアイリスが、偵察任務を終えて戻ってきた。

「リアム、おかしな連中が村の周りをうろついていたわ。追い払っておいたけど」
「リアムさん! 空から見たら、森の向こうにもまだ兵士が隠れているみたいでしたよ!」

二人は騎士たちの存在に気づくと、ぴたりと足を止めた。

アルフォンスの目が大きく見開かれた。

「……エルフ……。それもその気配はただの森のエルフではないな。そして竜を連れた少女……。竜騎士……だと……!?」

彼の声は驚愕に震えていた。伝説上の存在が次々と彼の目の前に現れるのだ。無理もない。

だがアルフォンスにとって最大の衝撃は、その後に訪れた。

談話室の扉が静かに開いた。そして一人の男が無言で中に入ってきた。

銀灰色の髪。鋼のような肉体。そしてその腰に差された見覚えのある長剣。

「……嘘だろ」

アルフォンスの後ろに控えていた騎士の一人が、呻くように呟いた。

「『音無しの剣聖』……ダリウス……様……!?」

その名にアルフォンスもはっと息を呑んだ。剣聖ダリウス。かつて王国最強のSランクパーティーに所属し、その名を騎士団にまで轟かせていた伝説の剣士。数ヶ月前から行方不明になっていると噂されていた、あの男。

そのダリウスが静かに俺の隣に立つと、アルフォンスに向かって小さく頭を下げた。

「……ご無沙汰しております、ミラー殿」

その一言が全てを決定づけた。

アルフォンスはもはや何も言うことができなかった。彼の頭脳が目の前の信じがたい現実をようやく受け入れたのだ。

聖女、エルフの王女、竜騎士、大賢者、そして剣聖。
これほどの戦力がこの村には集結している。

バルカスの三百の軍勢が敗れたのは必然だったのだ。

調査はその日のうちに終わった。アルフォンスは俺たちの村の防衛設備や豊かな畑、そして何よりも村人たちの幸せそうな笑顔をその目に焼き付けていた。

夕暮れ時、彼は村の門の前で俺に深く頭を下げた。

「……リアム殿。我々の不明を許してほしい。この村は我々が守るべき王国の宝だ。国王陛下にはありのままをご報告させていただく」

その言葉には騎士としての心からの敬意が込められていた。

数週間後。
エデンに再び王家の使者が訪れた。今度の使者は王の側近である文官を長とする正式な勅使だった。

彼らは村の広場に集まった俺たちの前で、国王からの勅書を厳かに読み上げた。

バルカス・フォン・シュナイダーは反逆罪により爵位を剥奪され、その全財産は没収されたこと。
そしてその反乱を鎮圧し、領地の平和を取り戻したエデンの功績は王国にとって計り知れないものであること。

そして勅使は最後の、そして最も重要な決定を告げた。

「よって国王陛下は、エデンの村とその周辺地域を王家直轄の『特別自治領』として、ここに公式に認めるものとする! 今後エデンは、他のいかなる貴族からの干渉も受けることなく、その自治を永久に保証されるであろう!」

その宣言に広場は一瞬の静寂の後、爆発的な大歓声に包まれた。

「うおおおおおおおっ!」
「やった! 俺たちの村が認められたんだ!」

村人たちは抱き合い、涙を流して喜んだ。それは彼らがもはや誰にも脅かされることのない、絶対的な平和と自由をその手にした瞬間だった。

俺は仲間たちと共にその歓喜の輪の中心にいた。

予期せぬ形で手に入れた王家のお墨付き。それは俺たちの楽園を盤石のものとする何よりも強力な盾だった。

だが同時に俺は感じていた。

俺たちの存在はもはや辺境の一村という小さな枠には収まりきれなくなりつつある。

この特別自治領の承認は俺たちの楽園の完成を意味すると同時に、俺たちが世界の大きな流れの中に否応なく組み込まれていくことの始まりの合図でもあったのだ。
感想 1

あなたにおすすめの小説

仲間を勇者パーティーから追放したら、実は有能だったらしい。俺が。〜ざまあされて隠居したいのに、いつの間にか英雄にされていた件〜

果 一@【弓使い】2巻刊行決定!!
ファンタジー
 ラルド=ヤメタイーナは勇者を辞めたい。魔王討伐の使命とか正直面倒くさいし、魔族と戦うのだって怖いし。  しかし、勇者に選ばれてしまった以上、魔王討伐に動かねばならない使命があって―― 「だったら、有能な仲間を追放して、無能勇者としてざまあされればよくね?」  さっそく理由をつけて有能な仲間を追放し、パーティーメンバーの反感を買ってパーティー解散を狙うラルドだったが。  実は追放された有能な仲間は、潜入して命を狙っていた魔族で。  反感を買うつもりが、有能な勇者と勘違いされて周囲からの好感度がどんどん上がっていき――!?  これは、勇者なんて辞めたいダメダメ主人公が、本人の意図せぬ結果を出して最強の勇者に上り詰める、勘違い英雄譚である。 ※本作はカクヨムでも公開しています。

虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!

竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。 でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。 何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。 王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。 僕は邪魔なんだよね。分かってる。 先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。 そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。 だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。 僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。 従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。 だけど、みんな知らなかったんだ。 僕がいなくなったら困るってこと…。 帰ってきてくれって言われても、今更無理です。 2026.03.30 内容紹介一部修正

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

『なでなで』しかできないと追放されたテイマー少女、無自覚に神獣をワンコ化して無双する

葉山 乃愛
ファンタジー
「お前の『なでなで』なんてゴミスキル、戦闘じゃの役にも立たねえんだよ!」 冒険者パーティーを無情にクビにされたテイマーの少女・ミレーヌ。 彼女の持つスキルは、対象を優しく撫でるだけの、攻撃力ゼロ、射程距離ゼロのハズレ枠。 行く当てもなく、命の保証もない『迷いの森』へ迷い込んだ彼女が出会ったのは、一匹の「大きな黒いワンちゃん」だった。 「わあ、フワフワ! よしよし、寂しかったの?」 空腹で死にかけ、ただモフモフに癒やされたかったミレーヌは、持ち前のスキルでその巨体を撫で回す。 だが、彼女は知らなかった。 そのワンちゃんの正体が、かつて世界を終焉に導きかけた伝説の神獣『フェンリル』であることを。 そして、ミレーヌの「なでなで」は、ただの愛撫ではなかった。 どんな凶悪な魔物も一瞬で野生を失い、絶対の忠誠を誓う「神の愛撫」だったのだ! 「次は大きな赤いトカゲさん? 鱗がツヤツヤで綺麗だね!」 伝説の赤竜(レッドドラゴン)さえも「アカくん」と名付けてペットにし、ミレーヌは危険地帯のど真ん中に、世にも恐ろしい(本人は幸せな)モフモフ・スローライフを築き上げていく。 一方、彼女を捨てた元パーティーや、異常事態を察知した王国騎士団は、ミレーヌの背後に控える「終末の軍団(※ただのペット)」を見て、泡を吹いて絶望することになるのだが……。 「みんな、とってもいい子ですよ?」 本人はどこまでも無自覚。 最強の神獣たちを従えた、少女ののんびり無双劇が今、幕を開ける!

「追放軍師、敵国で無双する」 俺を捨てた聖女と王国が、嘘の歴史と一緒にぶっ壊れるまで

やはぎ・エリンギ
ファンタジー
王国を勝利に導いていたのは「神の奇跡」ではない。――俺の策だ。 だが功績は聖女に奪われ、俺は罪を着せられ追放された。 すべてを失った天才軍師は敵国へ。 史実魔術〈ヒストリア・リバイブ〉で戦場を支配し、かつての祖国を叩き潰す。 これは、嘘で塗り固められた歴史と正義を暴き、 俺を捨てた聖女と王国をぶっ壊すまでの物語。

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

追放された宮廷魔導師、実は王国の防衛結界を一人で維持していた

やんやんつけばー
ファンタジー
「成果が見えない者に、宮廷の席は与えられない」――十年間、王国の防衛結界を独力で維持してきた宮廷魔導師ルクスは、無能の烙印を押されて追放された。だが彼が去った翌日から、王都を守る六つの楔は崩壊を始める。魔物が辺境を襲い、大臣たちが混乱する中、ルクスは静かに旅に出ていた。もう結界は自分の仕事ではない。そう決めたはずなのに、行く先々で人々の危機に遭遇し、彼は再び魔法を使う。追放×ざまぁ×再起の王道ファンタジー。

【概念剥奪】でポイ捨て無双。~最弱の収納スキルが覚醒したので、聖剣も魔王もゴミ箱に捨てて伝説の竜姫とスローライフ~

寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ファンタジー
「収納しかできない無能な荷物持ちなど、我がパーティーには不要だ。消えろ、ゴミめ」 勇者パーティーの仲間だと思っていた奴らから突きつけられたのは、冷酷な追放宣告だった。 俺の持つスキルは、物を出し入れするだけの最弱スキル《収納》。 だが、死の淵でその真の力が覚醒する。 それは、物質だけでなく、この世のあらゆる事象を収める――【概念剥奪】。 「……悪いな。お前たちの『才能』も『聖剣』も、全部俺がポイ捨て(収納)しちゃったよ」 奪った概念は自由自在。 魔王の絶大な魔力も、勇者の無敵の加護も、俺の前ではただの不用品。 すべてを奪い取り、俺は辺境の地で伝説の竜姫と悠々自適なスローライフを始めることにした。 一方で、最強の荷物持ちを失った元パーティーは、装備もスキルも枯渇して破滅の道を突き進む。 「頼む、戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう手遅れだ。 俺の収納スペースに、お前たちの居場所なんてこれっぽっちも残っていないんだから。 これは、世界に捨てられた男が、世界そのものを収納して無双する逆転劇。