追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい

夏見ナイ

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第98話 英雄の要求

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元仲間たちが引きずり出されていった後、祝勝会のホールは気まずい沈黙に包まれていた。華やかだったはずの宴は、あまりにも生々しい人間ドラマを目の当たりにし、その熱を完全に失っていた。

俺はそんな空気にはお構いなしに国王に向き直った。

「陛下。我々がこの戦いに身を投じたのは、あなたからの救援要請に応えたまで。そして、その戦いは今終わりました」

俺のどこか事務的で、しかし有無を言わせぬ口調に、国王はごくりと唾を飲み込んだ。彼は目の前に立つ穏やかな青年が、ただの心優しき聖人などではないことを改めて理解していた。彼は王国全体を救うほどの力と、そしてかつての仲間を容赦なく切り捨てるほどの鋼の意志を併せ持つ、底知れない存在なのだと。

「う、うむ。改めて感謝申し上げる、リアム殿。約束通り、そなたたちには望むだけの褒美を与えよう。何なりと申してみよ」

国王は少しだけ緊張した面持ちでそう言った。
ホールにいる全ての貴族たちが固唾を呑んで俺の言葉を待っていた。この救国の英雄が一体何を要求するのか。領地か、爵位か、それとも莫大な金銀財宝か。

俺は静かに首を横に振った。

「陛下からすでに提示していただいた爵位や財産。それらは全て固辞させていただきます」

その言葉にホールは再びどよめきに包まれた。

「なっ……!?」
「欲がないにもほどがある……!」
「一体何が目的なのだ、あの男は……」

貴族たちの囁き声を俺は無視した。

「ですが、一つだけ。我々エデンが王国に対して要求したいことがございます」

「……申してみよ」

国王の声が緊張に強張る。

俺は背後に立つ仲間たちの顔を一度だけ振り返った。
セレスティアも、ルナリエルも、アイリスも、ソフィアも、ダリウスも。全員が確かな信頼の眼差しで俺に頷き返してくれた。

俺は再び国王に向き直る。
そして、俺たちの唯一にして絶対の要求を、その場にいる全ての者たちに聞こえるように、はっきりと告げた。

「我々の故郷『エデン』の永続的な完全なる自治権。それを国王陛下の名において正式にお認めいただきたい」

完全自治権。
その言葉の持つ本当の重みを、その場にいる貴族たちは誰よりも理解していた。

それは税を納める義務も、王国の法に従う義務も、そして王家からのいかなる干渉も一切受け付けないという宣言だった。
それは実質的に、この王国の中にもう一つの独立した『国家』を認めることに等しい。

あまりにも破格で、そしてあまりにも傲慢な要求。

「……そ、それは……!」

大臣の一人が血相を変えて反論しようとした。だが、その言葉は国王の静かな、しかし重い一言によって遮られた。

「……よかろう」

国王は即決した。

「認めよう。リアム殿。そなたたちのその要求、このアークライト王国国王、アルトリウス・フォン・アークライトの名において正式に受諾する」

その決断にホールは三度、驚愕のどよめきに包まれた。

「へ、陛下! ご正気ですか!?」
「独立を認めるも同然ですぞ!」

貴族たちの慌てふためいた声に、国王は静かに、しかし威厳に満ちた声で答えた。

「黙れ、愚か者どもが」

その声には王としての絶対的な覚悟が宿っていた。

「そなたたちはまだ分からぬか。彼らがその気になれば、この国を滅ぼすことさえ造作もないということを。彼らは我々を救った。そして、その見返りとして我々に何かを奪うのではなく、ただ自分たちの平和な暮らしを誰にも邪魔されるな、とそう言っているだけなのだ」

国王は俺の目をまっすぐに見つめた。

「彼らが求めているのは支配ではない。ただ自由だ。この国を救った英雄たちがそのささやかな願いを口にしているのだ。それを聞き届けずして何が王か」

その言葉に、もはや誰一人として反論する者はいなかった。

「リアム殿。そなたたちの故郷エデンは、本日をもって我が王国の最も大切な盟友として、その完全なる自治を永久に保証しよう。この誓いは王家の名において未来永劫破られることはない」

国王はそう言って深く頭を下げた。

俺もまた彼に対して深く一礼した。
そこに支配者と被支配者の関係はもうなかった。
ただ対等な二つの国の代表として、互いへの敬意だけが存在していた。

こうして俺たちの要求は完全に受け入れられた。
俺たちは爵位も財産も名誉も、その全てを捨てた。

そして、その代わりに何物にも代えがたい、たった一つの『宝物』を手に入れたのだ。

誰にも脅かされることのない、俺たちの、俺たちだけの楽園を。

「……さて、と」

俺は仲間たちに向かって、にっと笑って見せた。

「長居は無用だ。……帰ろうか、みんな。俺たちの家に」

その言葉に仲間たちが今日一番の最高の笑顔で頷き返した。

俺たちの王都での役目は全て終わった。
後はもう懐かしいあの場所に帰るだけだった。
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