99 / 100
第99話 楽園への帰還
しおりを挟む
俺たちが王都を旅立つ日、空は雲一つなく晴れ渡っていた。
王宮の門前には国王陛下をはじめ、アルフォンス副団長率いる王国騎士団が最敬礼をもって俺たちを見送るために整列していた。その光景は俺たちがこの王都に到着した日とは全く違う、心からの敬意と感謝に満ちていた。
「リアム殿、そして英雄の皆様。このご恩は生涯忘れませぬ。どうか、道中ご無事で」
アルフォンスが騎士として力強く、そして少しだけ寂しそうに言った。
「ええ。あなた方も、この国の再建を頑張ってください」
俺は彼と固い握手を交わした。
国王は多くを語らなかった。ただ俺たちの前に立ち、深く、深くその頭を下げただけだった。その無言の礼が何よりも雄弁に彼の感謝の気持ちを物語っていた。
俺たちの周りには黒山の人だかりができていた。王都の民衆が俺たちの旅立ちを一目見ようと集まっていたのだ。彼らはもはや熱狂的な歓声を上げることはなかった。ただ静かに涙を浮かべながら、俺たちに手を振っている。
「聖女様、どうかお元気で」
「リアム様、エデンにいつか遊びに行ってもいいですか?」
その温かい声援の一つ一つに、俺たちは笑顔で応えた。
「――さあ、行こうか」
俺の合図でアイリスがフレアを呼んだ。
広場に舞い降りた真紅の竜の姿に、民衆から最後のため息のような歓声が上がる。
俺たちは次々とフレアの背へと乗り込んでいった。
そして最後に俺が乗り込むと、アイリスが快活な声を上げた。
「みんな、またねー! エデン航空、故郷へ向けて出発進行!」
「グルルルルルッ!」
フレアが喜びの咆哮を上げると、その巨大な翼が力強く風を捉えた。
俺たちの身体はふわりと宙に浮き、見送る人々が見守る中、王都の上空へと舞い上がっていく。
眼下に巨大な王都の全景が広がっていく。
俺が絶望の中で追放された街。
そして仲間たちと共に絶望から救った街。
その光景は俺の心に万感の思いを刻みつけていた。
「……さよならだ」
俺は誰に言うでもなく小さく呟いた。
もう二度とこの場所に戻ってくることはないだろう。
フレアは大きく旋回すると西へ、俺たちの故郷エデンがある方角へとその進路を取った。
王都の喧騒が急速に遠ざかっていく。
代わりに頬を撫でる風の音と、仲間たちの安堵に満ちた声が聞こえてくる。
「はぁー、終わったわね。王都なんて息が詰まる場所だったわ」
ルナリエルが心底うんざりしたように髪をかき上げた。
「ですが、皆さんがご無事で本当によかったですわ。リアム様も、もう無理はなさらないでくださいね」
セレスティアが俺の身体を気遣うように優しく言った。
「早く帰って村のみんなにお土産話をしたいです! ギデオンさんのお店で買った珍しいお菓子もあるんですよ!」
アイリスが子供のようにはしゃいでいる。
「……王都の図書館は実に興味深い蔵書の宝庫でした。いずれ正式な手続きを踏んで閲覧許可を申請してみるのも一興かもしれませんね」
ソフィアが早くも次の知的好奇心に胸を躍らせている。
「……リアム殿。俺はお前についてきて本当によかった」
ダリウスがただ一言、無骨な、しかし心の底からの言葉を漏らした。
俺はそんな仲間たちの声を聞きながら目を閉じた。
戦いは終わったのだ。
これから俺たちを待っているのは銃声も悲鳴も呪いもない、穏やかで温かい日常だけだ。
その事実が俺の心をこれ以上ないほどの幸福感で満たしていた。
半日後。
俺たちの視界の先に見慣れた緑の森が広がってきた。
その中心に、まるで森と一体化するように美しい町並みが夕日に照らされて黄金色に輝いている。
エデンだ。
俺たちの故郷。
フレアが帰還を告げるように高らかな咆哮を上げた。
その声に気づいたのだろう。
町の中心にある鐘楼から、カン、カン、カンと歓迎の鐘の音が高らかに鳴り響いた。
町の門が大きく開かれる。
そしてそこから、村人たちがまるで堰を切ったかのように溢れ出してきた。
フレアがゆっくりと広場へと舞い降りる。
俺たちがその背から地上へと降り立った瞬間。
「「「おかえりなさーい!!」」」
村人たちの心の底からの温かい声が、俺たちを包み込んだ。
村長が、タロウが、ギデオンさんが、そして村の子供たちが。
全員が涙を浮かべ、満面の笑みで俺たちの帰りを迎えてくれたのだ。
「リアム様! ご無事で……!」
「ルナリエル様、かっこよかったって噂で聞きましたよ!」
「アイリスお姉ちゃん! お土産は!?」
人々が俺たちを取り囲み、その無事を心から喜んでくれている。
もみくちゃにされながら、俺はようやく実感した。
帰ってきたのだ、と。
俺が本当に帰りたかった場所へ。
俺は仲間たちと顔を見合わせた。
彼女たちの顔にも俺と同じ最高の笑顔が咲き誇っていた。
ここは王都ではない。
富も名声も地位もここにはない。
だが、ここにはそれら全てよりも遥かに尊いものがある。
俺は俺たちを出迎えてくれる愛するべき『家族』たちに向かって、少しだけ照れくさく、しかしはっきりと告げた。
「――ただいま」
その一言に全てが込められていた。
王宮の門前には国王陛下をはじめ、アルフォンス副団長率いる王国騎士団が最敬礼をもって俺たちを見送るために整列していた。その光景は俺たちがこの王都に到着した日とは全く違う、心からの敬意と感謝に満ちていた。
「リアム殿、そして英雄の皆様。このご恩は生涯忘れませぬ。どうか、道中ご無事で」
アルフォンスが騎士として力強く、そして少しだけ寂しそうに言った。
「ええ。あなた方も、この国の再建を頑張ってください」
俺は彼と固い握手を交わした。
国王は多くを語らなかった。ただ俺たちの前に立ち、深く、深くその頭を下げただけだった。その無言の礼が何よりも雄弁に彼の感謝の気持ちを物語っていた。
俺たちの周りには黒山の人だかりができていた。王都の民衆が俺たちの旅立ちを一目見ようと集まっていたのだ。彼らはもはや熱狂的な歓声を上げることはなかった。ただ静かに涙を浮かべながら、俺たちに手を振っている。
「聖女様、どうかお元気で」
「リアム様、エデンにいつか遊びに行ってもいいですか?」
その温かい声援の一つ一つに、俺たちは笑顔で応えた。
「――さあ、行こうか」
俺の合図でアイリスがフレアを呼んだ。
広場に舞い降りた真紅の竜の姿に、民衆から最後のため息のような歓声が上がる。
俺たちは次々とフレアの背へと乗り込んでいった。
そして最後に俺が乗り込むと、アイリスが快活な声を上げた。
「みんな、またねー! エデン航空、故郷へ向けて出発進行!」
「グルルルルルッ!」
フレアが喜びの咆哮を上げると、その巨大な翼が力強く風を捉えた。
俺たちの身体はふわりと宙に浮き、見送る人々が見守る中、王都の上空へと舞い上がっていく。
眼下に巨大な王都の全景が広がっていく。
俺が絶望の中で追放された街。
そして仲間たちと共に絶望から救った街。
その光景は俺の心に万感の思いを刻みつけていた。
「……さよならだ」
俺は誰に言うでもなく小さく呟いた。
もう二度とこの場所に戻ってくることはないだろう。
フレアは大きく旋回すると西へ、俺たちの故郷エデンがある方角へとその進路を取った。
王都の喧騒が急速に遠ざかっていく。
代わりに頬を撫でる風の音と、仲間たちの安堵に満ちた声が聞こえてくる。
「はぁー、終わったわね。王都なんて息が詰まる場所だったわ」
ルナリエルが心底うんざりしたように髪をかき上げた。
「ですが、皆さんがご無事で本当によかったですわ。リアム様も、もう無理はなさらないでくださいね」
セレスティアが俺の身体を気遣うように優しく言った。
「早く帰って村のみんなにお土産話をしたいです! ギデオンさんのお店で買った珍しいお菓子もあるんですよ!」
アイリスが子供のようにはしゃいでいる。
「……王都の図書館は実に興味深い蔵書の宝庫でした。いずれ正式な手続きを踏んで閲覧許可を申請してみるのも一興かもしれませんね」
ソフィアが早くも次の知的好奇心に胸を躍らせている。
「……リアム殿。俺はお前についてきて本当によかった」
ダリウスがただ一言、無骨な、しかし心の底からの言葉を漏らした。
俺はそんな仲間たちの声を聞きながら目を閉じた。
戦いは終わったのだ。
これから俺たちを待っているのは銃声も悲鳴も呪いもない、穏やかで温かい日常だけだ。
その事実が俺の心をこれ以上ないほどの幸福感で満たしていた。
半日後。
俺たちの視界の先に見慣れた緑の森が広がってきた。
その中心に、まるで森と一体化するように美しい町並みが夕日に照らされて黄金色に輝いている。
エデンだ。
俺たちの故郷。
フレアが帰還を告げるように高らかな咆哮を上げた。
その声に気づいたのだろう。
町の中心にある鐘楼から、カン、カン、カンと歓迎の鐘の音が高らかに鳴り響いた。
町の門が大きく開かれる。
そしてそこから、村人たちがまるで堰を切ったかのように溢れ出してきた。
フレアがゆっくりと広場へと舞い降りる。
俺たちがその背から地上へと降り立った瞬間。
「「「おかえりなさーい!!」」」
村人たちの心の底からの温かい声が、俺たちを包み込んだ。
村長が、タロウが、ギデオンさんが、そして村の子供たちが。
全員が涙を浮かべ、満面の笑みで俺たちの帰りを迎えてくれたのだ。
「リアム様! ご無事で……!」
「ルナリエル様、かっこよかったって噂で聞きましたよ!」
「アイリスお姉ちゃん! お土産は!?」
人々が俺たちを取り囲み、その無事を心から喜んでくれている。
もみくちゃにされながら、俺はようやく実感した。
帰ってきたのだ、と。
俺が本当に帰りたかった場所へ。
俺は仲間たちと顔を見合わせた。
彼女たちの顔にも俺と同じ最高の笑顔が咲き誇っていた。
ここは王都ではない。
富も名声も地位もここにはない。
だが、ここにはそれら全てよりも遥かに尊いものがある。
俺は俺たちを出迎えてくれる愛するべき『家族』たちに向かって、少しだけ照れくさく、しかしはっきりと告げた。
「――ただいま」
その一言に全てが込められていた。
31
あなたにおすすめの小説
貴族に無茶苦茶なことを言われたのでやけくそな行動をしたら、戦争賠償として引き抜かれました。
詰んだ
ファンタジー
エルクス王国の魔法剣士で重鎮のキースは、うんざりしていた。
王国とは名ばかりで、元老院の貴族が好き勝手なこと言っている。
そしてついに国力、戦力、人材全てにおいて圧倒的な戦力を持つヴォルクス皇国に、戦争を仕掛けるという暴挙に出た。
勝てるわけのない戦争に、「何とか勝て!」と言われたが、何もできるはずもなく、あっという間に劣勢になった。
日を追うごとに悪くなる戦況に、キースへのあたりがひどくなった。
むしゃくしゃしたキースは、一つの案を思いついた。
その案を実行したことによって、あんなことになるなんて、誰も想像しなかった。
追放された宮廷薬師、科学の力で不毛の地を救い、聡明な第二王子に溺愛される
希羽
ファンタジー
王国の土地が「灰色枯病」に蝕まれる中、若干25歳で宮廷薬師長に就任したばかりの天才リンは、その原因が「神の祟り」ではなく「土壌疲弊」であるという科学的真実を突き止める。しかし、錬金術による安易な「奇跡」にすがりたい国王と、彼女を妬む者たちの陰謀によって、リンは国を侮辱した反逆者の濡れ衣を着せられ、最も不毛な土地「灰の地」へ追放されてしまう。
すべてを奪われた彼女に残されたのは、膨大な科学知識だけだった。絶望の地で、リンは化学、物理学、植物学を駆使して生存基盤を確立し、やがて同じく見捨てられた者たちと共に、豊かな共同体「聖域」をゼロから築き上げていく。
その様子を影から見守り、心を痛めていたのは、第二王子アルジェント。宮廷で唯一リンの価値を理解しながらも、彼女の追放を止められなかった無力な王子だった。
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
聖水が「無味無臭」というだけで能無しと追放された聖女ですが、前世が化学研究者だったので、相棒のスライムと辺境でポーション醸造所を始めます
☆ほしい
ファンタジー
聖女エリアーナの生み出す聖水は、万物を浄化する力を持つものの「無味無臭」で効果が分かりにくいため、「能無し」の烙印を押され王都から追放されてしまう。
絶望の淵で彼女は思い出す。前世が、物質の配合を極めた化学研究者だったことを。
「この完璧な純水……これ以上の溶媒はないじゃない!」
辺境の地で助けたスライムを相棒に、エリアーナは前世の知識と「能無し」の聖水を組み合わせ、常識を覆す高品質なポーション作りを始める。やがて彼女の作るポーションは国を揺るがす大ヒット商品となり、彼女を追放した者たちが手のひらを返して戻ってくるよう懇願するが――もう遅い。
元公務員、辺境ギルドの受付になる 〜『受理』と『却下』スキルで無自覚に無双していたら、伝説の職員と勘違いされて俺の定時退勤が危うい件〜
☆ほしい
ファンタジー
市役所で働く安定志向の公務員、志摩恭平(しまきょうへい)は、ある日突然、勇者召喚に巻き込まれて異世界へ。
しかし、与えられたスキルは『受理』と『却下』という、戦闘には全く役立ちそうにない地味なものだった。
「使えない」と判断された恭平は、国から追放され、流れ着いた辺境の街で冒険者ギルドの受付職員という天職を見つける。
書類仕事と定時退勤。前世と変わらぬ平穏な日々が続くはずだった。
だが、彼のスキルはとんでもない隠れた効果を持っていた。
高難易度依頼の書類に『却下』の判を押せば依頼自体が消滅し、新米冒険者のパーティ登録を『受理』すれば一時的に能力が向上する。
本人は事務処理をしているだけのつもりが、いつしか「彼の受付を通った者は必ず成功する」「彼に睨まれたモンスターは消滅する」という噂が広まっていく。
その結果、静かだった辺境ギルドには腕利きの冒険者が集い始め、恭平の定時退勤は日々脅かされていくのだった。
姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】
小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。
しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。
そして、リーリエルは戻って来た。
政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる