6 / 105
006. 粗末な小屋と一筋の光
しおりを挟む
アレクシス・フォン・ヴァルテンベルクとの謁見から戻ったリリアーナは、改めて自分の「住まい」となる小屋と向き合った。昨日、絶望的な気持ちで眺めた時よりも、さらにその酷さが際立って見える。歪んだ木の壁には無数の隙間が空き、そこから容赦なく冷たい風が吹き込んでくる。屋根の一部は抜け落ち、空が見えている始末。床は硬い土間で、申し訳程度に敷かれた藁は薄汚れていて、とても寝床と呼べる状態ではなかった。
(……まずは、ここをなんとかしないと……)
辺境伯の言う通り、まずは自分の足で立つことから始めなければならない。そのためには、最低限、雨風をしのぎ、眠れる場所が必要だった。幸い、体はまだ動く。絶望に打ちひしがれている暇はないのだ。
リリアーナは支給された麻袋から中身を取り出し、空になった袋を使って、小屋の中の埃やゴミを掃き出した。薄汚れた藁も一度外に出し、日に当てて少しでも湿気を取り、叩いて埃を落とす。それだけでも、小屋の中の空気は少しだけましになった気がした。
次に、壁の隙間だ。これをどうにかしないことには、夜の寒さをしのげない。リリアーナは小屋の周囲を歩き回り、使えそうなものを探した。幸い、近くには枯れ草や、比較的柔らかそうな土が固まっている場所があった。前世の記憶の片隅に、泥と藁を混ぜて壁土を作る、という朧げな知識があったのを思い出す。完璧にはできなくても、やらないよりはましだろう。
近くの小川で水を汲み(もちろん、飲むためには煮沸が必要だと、これも前世の知識が教えてくれた)、土と枯れ草を混ぜ合わせる。最初は上手くいかなかったが、試行錯誤を繰り返すうちに、なんとか粘土状の塊を作ることができた。それを、壁の隙間に丁寧に塗り込めていく。冷たい泥の感触に顔をしかめながらも、リリアーナは黙々と作業を続けた。貴族令嬢がするような仕事では到底なかったが、今はそんなことを言っていられる状況ではない。泥まみれになりながら、一つ、また一つと隙間を塞いでいくうちに、不思議と心が落ち着いてくるのを感じた。体を動かし、目の前の問題に集中することで、不安や恐怖が少しだけ遠のくような気がしたのだ。
屋根の穴は、さすがに今日一日でどうにかなるものではなかった。それでも、近くに落ちていた比較的大きな木の枝や葉っぱを拾い集め、できる限り穴を覆うようにしてみた。完璧ではないが、少なくとも雨が直接降り込むことは防げるかもしれない。
日が傾き始める頃には、小屋は昨日とは比べ物にならないほど「住居」らしくなっていた。壁の隙間は粗末ながらも塞がれ、床には少しだけ綺麗になった藁が厚めに敷き詰められた。まだ寒々しいことに変わりはないが、それでも「自分の手で改善した場所」という実感が、リリアーナに小さな達成感を与えてくれた。
しかし、問題はまだ山積みだった。まずは火を起こさなければならない。暖を取るためにも、水を煮沸するためにも、そして何より、料理をするためにも火は不可欠だ。幸い、支給された荷物の中には、火打石と火口(ほくち)になる麻の繊維が入っていた。これも最低限の「保証」ということなのだろう。
リリアーナは小屋の外に出て、風のない場所を選び、火起こしを試みた。火打石を打ち合わせ、火花を火口に移す。前世の知識としては知っていても、実際にやるのは初めてだった。カチ、カチ、と石を打ち合わせるが、なかなか火花が上手く飛ばない。飛んでも、すぐに消えてしまう。指は悴み、腕も疲れてきた。
(……こんなこともできないなんて……)
焦りと自己嫌悪が募る。やはり、自分には何もできないのだろうか。そう思いかけた時、ふと、前世で見たキャンプの映像が頭をよぎった。「火口はよく乾燥させて、細かくほぐすこと」「火花が移ったら、焦らずゆっくりと息を吹きかけること」。そんなアドバイスが聞こえた気がした。
リリアーナは一度手を止め、深呼吸した。麻の繊維をさらに細かくほぐし、乾燥した枯れ葉を近くに用意する。そして、もう一度、集中して火打石を打ち合わせた。
カチッ!
今度は、少し大きめの火花が飛んだ。それが、ふわりと火口の繊維に移り、小さな赤い点が灯る。
「……ついた!」
思わず声が出た。リリアーナは慌てて、しかし慎重に、その赤い点に向かってそっと息を吹きかけた。ふぅー、ふぅー、と繰り返すうちに、赤い点は少しずつ大きくなり、やがて小さな炎が立ち上った。
「……やった……!」
燃え上がった炎を見た瞬間、リリアーナは体の底から喜びが込み上げてくるのを感じた。それは、婚約破棄された時や追放を宣告された時の絶望とは全く違う、自分で何かを成し遂げたという、純粋な達成感だった。たかが火起こし。しかし、今の彼女にとっては、それは生きるための大きな一歩だったのだ。
急いで用意しておいた枯れ葉や小枝をくべ、炎を安定させる。パチパチと音を立てて燃える炎は、暖かさだけでなく、不思議な安心感をリリアーナに与えてくれた。暗闇を照らし、寒さを和らげ、危険な獣を遠ざける。火は、まさに文明の光であり、希望の象徴なのかもしれない。
火が安定したところで、リリアーナは小川から汲んできた水を、支給された小さな鉄鍋に入れて火にかけた。鍋は古く、煤けていたが、穴は空いていないようだった。ぐつぐつと湯が沸くのを待つ間、リリアーナは昼間に見つけておいたタンポポの若葉を洗い、支給された干し肉を細かく刻んだ。黒パンも少しだけちぎっておく。
やがて湯が沸き、リリアーナはそこに刻んだ干し肉とタンポポの葉、そしてちぎった黒パンを入れた。塩をほんの少しだけ加えて、木の枝でゆっくりとかき混ぜる。辺りに、干し肉の塩気と野草の青っぽい匂い、そしてパンの香ばしさが混ざった、素朴な香りが漂い始めた。決して豪華な香りではない。むしろ、貧しい食卓を連想させるような匂いだ。
それでも、リリアーナにとっては、それは「料理の香り」だった。自分で火を起こし、自分で食材を用意し、自分で味付けをする。その一連の行為が、彼女の心を少しずつ満たしていく。王都では、侍女や料理人たちが全てやってくれていたこと。しかし、自分の手で作り上げる喜びは、それとは比べ物にならないほど大きかった。
しばらく煮込んで、とろみがついてきたところで、鍋を火から下ろした。出来上がったのは、見た目はあまり良くない、具の少ない、どろりとしたスープのようなものだった。
(……これが、私の最初の辺境料理……)
リリアーナは、木の匙(これも支給品だった)で、そっとスープをすくい、ふーふーと冷ましてから口に運んだ。
温かい。
その温かさが、冷え切った体にじわりと染み渡っていく。
味は、干し肉の塩気と、タンポポのほのかな苦味、そして黒パンの酸味が混ざり合った、素朴で、決して洗練されているとは言えないものだった。王都で食べていたような、繊細で複雑な美味しさはない。
けれど。
その温かさと、素朴な味わいが、不思議とリリアーナの心と体を優しく満たしていくのを感じた。空腹が満たされるだけでなく、体の芯から力が湧いてくるような、そんな感覚。疲労が少し和らぎ、強張っていた筋肉がほぐれていくようだ。
(……美味しい……)
自然と、そんな言葉が口をついて出た。それは、味覚的な美味しさだけではない。自分の手で作ったという達成感、生きるために必要なものを得たという安堵感、そして、温かいものがもたらす根源的な幸福感。それら全てが合わさって、「美味しい」という言葉になったのだ。
(……もしかして、これが……?)
前世の記憶の断片にあった、温かい料理を食べた人々の笑顔。食べると元気になる、という感覚。自分の作ったこの素朴なスープにも、そんな力が、ほんの少しだけ宿っているのかもしれない。そう思うと、胸が熱くなった。
リリアーナは、夢中になってスープを飲み干した。空になった鍋を見て、ふぅ、と満足のため息をつく。体の中からぽかぽかと温かく、さっきまでの疲労感が嘘のように軽くなっていた。
日が完全に落ち、辺りは再び闇と静寂に包まれた。小屋の中は、まだ燃えている焚き火の明かりだけが頼りだった。夜風は相変わらず冷たく、小屋の隙間から忍び込んでくる。けれど、腹の底に残る温もりと、鍋に残ったスープの香りが、リリアーナの心を確かに支えていた。
(……明日も、頑張ろう)
今日、火を起こせた。小屋を少しだけましにできた。そして、温かいスープを作れた。ほんの小さな一歩かもしれないけれど、確実に前に進んでいる。そう信じることができた。
(……もっと、美味しいものを作れるようになりたいな……)
乏しい食材で、もっと栄養があって、もっと心も体も温まるような料理を。それができれば、もしかしたら、この厳しい辺境で生きていく希望になるかもしれない。自分だけでなく、他の誰かのためにも。
そんなことを考えながら、リリアーナは焚き火のそばで、藁の上に横になった。昨日よりはいくらかましになった寝床と、腹の底の温かさのおかげで、すぐに穏やかな眠気が訪れた。
遠く離れた砦の一室。アレクシスは、部下からの報告書に目を通していた。そこには、リリアーナが一日かけて小屋を修繕し、自力で火を起こし、何かを煮炊きしていた様子が、淡々と記されていた。
「……ほう」
アレクシスは、珍しく微かな声を発した。その氷の瞳に、ほんの一瞬だけ、興味とも驚きともつかない光が宿ったが、すぐに元の無表情へと戻った。彼は報告書を脇に置くと、窓の外に広がる暗い辺境の夜空を見つめた。あの追放された令嬢が、この厳しい土地で一体どこまでやれるのか。それは、彼にとって予想外の、小さな関心事となりつつあった。
リリアーナの小屋から立ち上る、細く頼りない煙は、もう見えなくなっていた。
(……まずは、ここをなんとかしないと……)
辺境伯の言う通り、まずは自分の足で立つことから始めなければならない。そのためには、最低限、雨風をしのぎ、眠れる場所が必要だった。幸い、体はまだ動く。絶望に打ちひしがれている暇はないのだ。
リリアーナは支給された麻袋から中身を取り出し、空になった袋を使って、小屋の中の埃やゴミを掃き出した。薄汚れた藁も一度外に出し、日に当てて少しでも湿気を取り、叩いて埃を落とす。それだけでも、小屋の中の空気は少しだけましになった気がした。
次に、壁の隙間だ。これをどうにかしないことには、夜の寒さをしのげない。リリアーナは小屋の周囲を歩き回り、使えそうなものを探した。幸い、近くには枯れ草や、比較的柔らかそうな土が固まっている場所があった。前世の記憶の片隅に、泥と藁を混ぜて壁土を作る、という朧げな知識があったのを思い出す。完璧にはできなくても、やらないよりはましだろう。
近くの小川で水を汲み(もちろん、飲むためには煮沸が必要だと、これも前世の知識が教えてくれた)、土と枯れ草を混ぜ合わせる。最初は上手くいかなかったが、試行錯誤を繰り返すうちに、なんとか粘土状の塊を作ることができた。それを、壁の隙間に丁寧に塗り込めていく。冷たい泥の感触に顔をしかめながらも、リリアーナは黙々と作業を続けた。貴族令嬢がするような仕事では到底なかったが、今はそんなことを言っていられる状況ではない。泥まみれになりながら、一つ、また一つと隙間を塞いでいくうちに、不思議と心が落ち着いてくるのを感じた。体を動かし、目の前の問題に集中することで、不安や恐怖が少しだけ遠のくような気がしたのだ。
屋根の穴は、さすがに今日一日でどうにかなるものではなかった。それでも、近くに落ちていた比較的大きな木の枝や葉っぱを拾い集め、できる限り穴を覆うようにしてみた。完璧ではないが、少なくとも雨が直接降り込むことは防げるかもしれない。
日が傾き始める頃には、小屋は昨日とは比べ物にならないほど「住居」らしくなっていた。壁の隙間は粗末ながらも塞がれ、床には少しだけ綺麗になった藁が厚めに敷き詰められた。まだ寒々しいことに変わりはないが、それでも「自分の手で改善した場所」という実感が、リリアーナに小さな達成感を与えてくれた。
しかし、問題はまだ山積みだった。まずは火を起こさなければならない。暖を取るためにも、水を煮沸するためにも、そして何より、料理をするためにも火は不可欠だ。幸い、支給された荷物の中には、火打石と火口(ほくち)になる麻の繊維が入っていた。これも最低限の「保証」ということなのだろう。
リリアーナは小屋の外に出て、風のない場所を選び、火起こしを試みた。火打石を打ち合わせ、火花を火口に移す。前世の知識としては知っていても、実際にやるのは初めてだった。カチ、カチ、と石を打ち合わせるが、なかなか火花が上手く飛ばない。飛んでも、すぐに消えてしまう。指は悴み、腕も疲れてきた。
(……こんなこともできないなんて……)
焦りと自己嫌悪が募る。やはり、自分には何もできないのだろうか。そう思いかけた時、ふと、前世で見たキャンプの映像が頭をよぎった。「火口はよく乾燥させて、細かくほぐすこと」「火花が移ったら、焦らずゆっくりと息を吹きかけること」。そんなアドバイスが聞こえた気がした。
リリアーナは一度手を止め、深呼吸した。麻の繊維をさらに細かくほぐし、乾燥した枯れ葉を近くに用意する。そして、もう一度、集中して火打石を打ち合わせた。
カチッ!
今度は、少し大きめの火花が飛んだ。それが、ふわりと火口の繊維に移り、小さな赤い点が灯る。
「……ついた!」
思わず声が出た。リリアーナは慌てて、しかし慎重に、その赤い点に向かってそっと息を吹きかけた。ふぅー、ふぅー、と繰り返すうちに、赤い点は少しずつ大きくなり、やがて小さな炎が立ち上った。
「……やった……!」
燃え上がった炎を見た瞬間、リリアーナは体の底から喜びが込み上げてくるのを感じた。それは、婚約破棄された時や追放を宣告された時の絶望とは全く違う、自分で何かを成し遂げたという、純粋な達成感だった。たかが火起こし。しかし、今の彼女にとっては、それは生きるための大きな一歩だったのだ。
急いで用意しておいた枯れ葉や小枝をくべ、炎を安定させる。パチパチと音を立てて燃える炎は、暖かさだけでなく、不思議な安心感をリリアーナに与えてくれた。暗闇を照らし、寒さを和らげ、危険な獣を遠ざける。火は、まさに文明の光であり、希望の象徴なのかもしれない。
火が安定したところで、リリアーナは小川から汲んできた水を、支給された小さな鉄鍋に入れて火にかけた。鍋は古く、煤けていたが、穴は空いていないようだった。ぐつぐつと湯が沸くのを待つ間、リリアーナは昼間に見つけておいたタンポポの若葉を洗い、支給された干し肉を細かく刻んだ。黒パンも少しだけちぎっておく。
やがて湯が沸き、リリアーナはそこに刻んだ干し肉とタンポポの葉、そしてちぎった黒パンを入れた。塩をほんの少しだけ加えて、木の枝でゆっくりとかき混ぜる。辺りに、干し肉の塩気と野草の青っぽい匂い、そしてパンの香ばしさが混ざった、素朴な香りが漂い始めた。決して豪華な香りではない。むしろ、貧しい食卓を連想させるような匂いだ。
それでも、リリアーナにとっては、それは「料理の香り」だった。自分で火を起こし、自分で食材を用意し、自分で味付けをする。その一連の行為が、彼女の心を少しずつ満たしていく。王都では、侍女や料理人たちが全てやってくれていたこと。しかし、自分の手で作り上げる喜びは、それとは比べ物にならないほど大きかった。
しばらく煮込んで、とろみがついてきたところで、鍋を火から下ろした。出来上がったのは、見た目はあまり良くない、具の少ない、どろりとしたスープのようなものだった。
(……これが、私の最初の辺境料理……)
リリアーナは、木の匙(これも支給品だった)で、そっとスープをすくい、ふーふーと冷ましてから口に運んだ。
温かい。
その温かさが、冷え切った体にじわりと染み渡っていく。
味は、干し肉の塩気と、タンポポのほのかな苦味、そして黒パンの酸味が混ざり合った、素朴で、決して洗練されているとは言えないものだった。王都で食べていたような、繊細で複雑な美味しさはない。
けれど。
その温かさと、素朴な味わいが、不思議とリリアーナの心と体を優しく満たしていくのを感じた。空腹が満たされるだけでなく、体の芯から力が湧いてくるような、そんな感覚。疲労が少し和らぎ、強張っていた筋肉がほぐれていくようだ。
(……美味しい……)
自然と、そんな言葉が口をついて出た。それは、味覚的な美味しさだけではない。自分の手で作ったという達成感、生きるために必要なものを得たという安堵感、そして、温かいものがもたらす根源的な幸福感。それら全てが合わさって、「美味しい」という言葉になったのだ。
(……もしかして、これが……?)
前世の記憶の断片にあった、温かい料理を食べた人々の笑顔。食べると元気になる、という感覚。自分の作ったこの素朴なスープにも、そんな力が、ほんの少しだけ宿っているのかもしれない。そう思うと、胸が熱くなった。
リリアーナは、夢中になってスープを飲み干した。空になった鍋を見て、ふぅ、と満足のため息をつく。体の中からぽかぽかと温かく、さっきまでの疲労感が嘘のように軽くなっていた。
日が完全に落ち、辺りは再び闇と静寂に包まれた。小屋の中は、まだ燃えている焚き火の明かりだけが頼りだった。夜風は相変わらず冷たく、小屋の隙間から忍び込んでくる。けれど、腹の底に残る温もりと、鍋に残ったスープの香りが、リリアーナの心を確かに支えていた。
(……明日も、頑張ろう)
今日、火を起こせた。小屋を少しだけましにできた。そして、温かいスープを作れた。ほんの小さな一歩かもしれないけれど、確実に前に進んでいる。そう信じることができた。
(……もっと、美味しいものを作れるようになりたいな……)
乏しい食材で、もっと栄養があって、もっと心も体も温まるような料理を。それができれば、もしかしたら、この厳しい辺境で生きていく希望になるかもしれない。自分だけでなく、他の誰かのためにも。
そんなことを考えながら、リリアーナは焚き火のそばで、藁の上に横になった。昨日よりはいくらかましになった寝床と、腹の底の温かさのおかげで、すぐに穏やかな眠気が訪れた。
遠く離れた砦の一室。アレクシスは、部下からの報告書に目を通していた。そこには、リリアーナが一日かけて小屋を修繕し、自力で火を起こし、何かを煮炊きしていた様子が、淡々と記されていた。
「……ほう」
アレクシスは、珍しく微かな声を発した。その氷の瞳に、ほんの一瞬だけ、興味とも驚きともつかない光が宿ったが、すぐに元の無表情へと戻った。彼は報告書を脇に置くと、窓の外に広がる暗い辺境の夜空を見つめた。あの追放された令嬢が、この厳しい土地で一体どこまでやれるのか。それは、彼にとって予想外の、小さな関心事となりつつあった。
リリアーナの小屋から立ち上る、細く頼りない煙は、もう見えなくなっていた。
864
あなたにおすすめの小説
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。
人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。
それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。
嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。
二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。
するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー
『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』
ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。
現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる