聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ

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027. 二匹の(食いしん坊)護衛

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翌朝、リリアーナが目を覚ますと、小屋の中はまだ薄暗かったが、外の吹雪はいくらか収まっているようだった。焚き火は熾き火になり、かろうじて暖かさを保っている。隣で眠っていたはずのフェンはすでに起きていて、静かに毛布の上で眠る黒猫を、複雑な表情で見つめていた。その表情は、警戒心というよりは、どちらかというと「なんでこんなチビが俺様の縄張りにいるんだ?」と言いたげな、戸惑いと若干の不機嫌さが混じっているように見えた。

リリアーナが身を起こす気配に気づくと、フェンはすぐに彼女に歩み寄り、甘えるように鼻先を擦り付けてきた。「おはよう」とでも言うように。
「おはよう、フェン。昨夜はびっくりしたわね」
リリアーナはフェンの頭を撫でながら、そっと黒猫の様子を窺った。小さな体は規則正しく上下し、まだすやすやと眠っている。傷の手当てをした前足も、特に悪化している様子はなさそうだ。

「さて、まずは火を起こさないとね」
リリアーナは手早く焚き火に薪をくべ、再び炎を大きくした。それから、朝食の準備に取り掛かる。今日のスープには、昨日村人から分けてもらったカブと、乾燥させておいた根菜、そして燻製肉の切れ端を入れることにした。温かいスープの匂いが小屋の中に漂い始めると、フェンはそわそわと落ち着かない様子で鍋の周りをうろつき始めた。食いしん坊なのは相変わらずだ。

スープが煮える良い匂いに誘われたのか、毛布の上で眠っていた黒猫が、ぴくりと耳を動かし、ゆっくりと目を開けた。大きな緑色の瞳が、きょろきょろと小屋の中を見回し、リリアーナとフェンの姿を認めると、一瞬、警戒するように身を強張らせた。しかし、昨夜の記憶が蘇ったのか、あるいは空腹を感じたのか、威嚇する様子は見せず、代わりに「にゃあ」と、か細いがどこか気位の高さを感じさせる声で鳴いた。

「あら、起きたのね。おはよう。具合はどう?」
リリアーナが優しく声をかけると、黒猫は答える代わりに、すくりと立ち上がり、優雅な足取りでリリアーナの足元まで歩いてきた。そして、まるで「食事はまだか?」とでも言いたげに、彼女の足に自分の体をすり寄せ、再び「にゃうん」と鳴いた。その仕草は、野良猫というよりは、どこかの高貴な家で飼われていた猫のようだった。

「ふふ、お腹が空いたのね。もうすぐスープができるから、待っててね」
リリアーナが微笑みながら言うと、黒猫は満足げに喉を鳴らし、しかしフェンからは少し距離を取って、焚き火の一番暖かい場所にちょこんと座り込んだ。そのマイペースで、物怖じしない態度に、フェンはますます面白くないという顔をして、ふん、と鼻を鳴らした。

「そうだわ、あなたの名前。まだ決めていなかったわね」
リリアーナは黒猫に話しかけた。フェンの時と同じように、呼び名が必要だ。
「うーん、黒くて、小さくて、でも気位が高そうで……。それに、なんだか不思議な雰囲気だし……。そうね……シー、なんてどうかしら?」

シー。
それは、古い伝承に登場する妖精の一種(あるいは猫の姿をした精霊)の名前だった。この黒猫の神秘的な雰囲気と、どこか人間離れしたような賢そうな瞳から、リリアーナはその名前を思いついたのだ。

「シー?」
リリアーナが呼びかけると、黒猫はぴくりと耳を動かし、緑色の瞳でじっとリリアーナを見返した。そして、まるでその名前を吟味するかのように、しばらく黙っていたが、やがて小さく「にゃ」と鳴き、満足げに尻尾を揺らした。どうやら、気に入ってくれたらしい。首元の小さな銀色の鈴が、ちりん、と微かな音を立てた。(鈴の伏線)

「決まりね! よろしくね、シー」
リリアーナが笑顔で言うと、シーは再び「にゃうん」と応え、早くスープをよこせとばかりにリリアーナを見上げた。その食いしん坊なところは、フェンと良い勝負かもしれない。

やがてスープが出来上がり、リリアーナは自分の分、フェンの分、そしてシーの分の三つの器にスープをよそった。シーには、猫でも食べやすいように、具材を少し細かくしてあげた。
フェンは、いつものように勢いよくスープを飲み始めたが、シーは、まず匂いを丁寧に嗅ぎ、それから少しだけスープを舐めて味を確かめるようにしてから、ゆっくりと、しかし綺麗に食べ始めた。その食べ方にも、どこか品があった。

しかし、スープに入っていた燻製肉の切れ端が、シーの器には少ししか入っていなかったことに気づくと(リリアーナが意図したわけではなく、偶然そうなっただけなのだが)、シーは不満げな顔をし、なんと隣で食べていたフェンの器に素早く前足を伸ばし、フェンがまさに食べようとしていた肉片をかすめ取ってしまったのだ!

「グルァッ!?」
さすがのフェンもこれには驚き、怒りの声を上げた。シーは、奪い取った肉片を口にくわえたまま、素早く身を翻し、フェンの届かない棚の上にひらりと飛び乗った。その動きは、猫特有の俊敏さを遥かに超えており、まるで重力を無視しているかのようだった。(ケットシーらしさの描写)
「フーッ!」
棚の上から、シーは勝ち誇ったようにフェンを威嚇した。

「こら、シー! フェンのを取っちゃだめでしょう!」
リリアーナは慌ててシーを叱ったが、シーは聞く耳を持たず、悠々と肉片を味わっている。フェンは、棚の下で悔しそうに唸り声を上げ、リリアーナに「なんとかしろ!」と訴えるような視線を送ってくる。

「もう……あなたたちったら……」
リリアーナは、ため息をつきながらも、どこかおかしくて笑ってしまった。まるで、やんちゃな兄妹喧嘩を見ているようだ。フェンには可哀想だが、後でこっそり燻製肉を多めにあげよう、と心に決めた。

この一件で、フェンとシーの力関係(あるいは、相性の悪さ)が決定的になったようだった。フェンはシーの素早さと気性の激しさに若干手を焼いているようで、あからさまな敵意は見せないものの、常に距離を置いて警戒している。一方のシーは、フェンのことなど全く意に介さない様子で、マイペースに小屋の中を探検したり、リリアーナに甘えたり(ただし、気が向いた時だけ)、そして何より、リリアーナの作る料理を虎視眈々と狙っていた。

それでも、不思議なことに、二匹の間には奇妙な共存関係が成り立ち始めていた。例えば、リリアーナが薪拾いなどで短時間小屋を空ける時、フェンはいつものように護衛としてついていくが、シーもまた、いつの間にかリリアーナの足元や肩の上(!)に乗り、周囲を鋭い緑色の瞳で警戒していることがあった。シーの小さな体は直接的な戦力にはならないかもしれないが、その異常なまでの感覚の鋭さは、フェンとは違う形で危険を察知するのに役立っているようだった。(護衛としての側面)

ある時など、リリアーナが気づかないうちに、小屋に忍び込もうとしていた雪ネズミ(辺境に生息する、食料を荒らす厄介な小動物)を、シーが目にも止まらぬ速さで捕まえ、得意げにリリアーナの前に差し出したこともあった。その俊敏さと狩りの腕前は、やはりただの猫のものではなかった。

「まあ、シー! ありがとう! 助かったわ」
リリアーナが褒めると、シーは満足げに喉を鳴らし、まるで「これくらい当然だ」と言わんばかりの澄ました顔をした。その隣で、フェンは少しだけ悔しそうな顔をしていたが。

こうして、リリアーナの小屋には、大きくて忠実な銀狼フェンと、小さくて気まぐれだが頼りになる(?)黒猫シーという、二匹の(食いしん坊な)護衛が同居することになった。性格も大きさも正反対の二匹は、相変わらず些細なことでいがみ合ったり、リリアーナの料理を巡って火花を散らしたりすることもあったが、それでも、リリアーナを守る、という一点においては、不思議な連携を見せるようになっていた。

リリアーナは、そんな二匹のやり取りを微笑ましく見守りながら、日々の生活を送っていた。一人と二匹。辺境の厳しい冬の中で、彼らの間には、騒がしくも温かい、家族のような絆が育まれつつあった。

その様子は、依然としてアレクシスにも報告されていたが、彼は「黒猫が加わった」という事実に対して、特に大きな反応は見せなかった。ただ、「クラインフェルト嬢の周りには、奇妙な獣が集まるものだ」と、内心でわずかな呆れと共に呟いただけだった。しかし、彼の関心は、もはやリリアーナの力そのものだけでなく、彼女という人間、そして彼女が築き上げつつある、この辺境での奇妙で温かいコミュニティへと、静かに向けられ始めていたのかもしれない。二匹のもふもふ護衛隊の存在は、凍てついた辺境伯の心にも、さらなる小さな波紋を広げているようだった。
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