聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ

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053. 辺境開発計画始動

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アレクシス・フォン・ヴァルテンベルクの中で、「リリアーナを守りたい」という想いは、もはや揺るぎない決意となっていた。しかし、それは単に彼女個人を物理的に保護するという意味だけではなかった。彼が守りたいのは、彼女の笑顔であり、彼女がもたらした温もりであり、そして彼女が大切に育もうとしている、この辺境の未来そのものだった。そのためには、辺境領自体がもっと豊かに、もっと強くならなければならない。外部からの圧力や干渉に屈しない、確固たる地盤を築く必要があった。

そして、その鍵を握るのが、リリアーナが進める農業計画であると、彼は確信していた。彼女の持つ知識と力は、この痩せた土地を、文字通り「黄金の地」へと変える可能性を秘めている。

(彼女の力を、辺境全体の希望とするのだ)

決意を固めたアレクシスは、再びリリアーナを執務室へと呼び出した。リリアーナは、また何かあったのだろうかと不安げな表情で現れたが、アレクシスは彼女を真っ直ぐに見据え、静かに、しかし力強い口調で切り出した。

「クラインフェルト嬢。貴官が進めている畑作りの計画だが、その進捗と成果は、私の予想を遥かに超えるものだ」
彼はまず、彼女の功績を率直に認めた。それは、彼にしては珍しい、直接的な称賛の言葉だった。リリアーナは驚いて目を見開いたが、彼の真剣な眼差しに、ただならぬ雰囲気を感じ取った。

「貴官の知識と、その……人々をまとめ、動かす力は、もはや個人的な活動の域を超えている。私は、その力を、この辺境領全体の、公式な『開発計画』として、本格的に始動させたいと考えている」
「……辺境領、全体の……開発計画……?」
リリアーナは、その言葉のスケールの大きさに息を呑んだ。自分が始めたささやかな畑作りが、領全体の計画になるというのか。

「そうだ」アレクシスは頷いた。「単なる食料増産ではない。貴官の持つ知識――土壌改良、輪作、寒冷地に適した作物の導入、保存技術、さらには薬草栽培や、もしかしたら……他の新たな産業にも繋がるかもしれん。それらを体系的に導入し、この辺境を、自給自足が可能で、外部の脅威にも揺るがない、豊かな土地へと変貌させる。それが、私の目指すところだ」
彼の言葉には、領主としての強い意志と、辺境の未来への明確なビジョンが込められていた。

「そして、その計画の中心に立つのは、貴官だ、リリアーナ・フォン・クラインフェルト」
アレクシスは、はっきりと彼女の名前を呼び、続けた。
「貴官の知識と指導力を、辺境伯として正式に認め、この計画の全権に近い権限を委ねたい。必要な人員、資材、情報は、私が責任を持って供給する。貴官には、思う存分、その力を振るってもらいたい」

それは、驚くべき提案だった。追放された令嬢に、辺境領の未来を左右するような大計画を委ねるというのだ。リリアーナは、あまりのことに言葉を失い、ただアレクシスの顔を見つめることしかできなかった。自分に、そんな大役が務まるのだろうか。失敗したらどうしよう。その重圧に、押し潰されそうになる。

しかし、アレクシスの瞳には、疑いや試すような色はなく、ただひたすらに真剣な、そして彼女の力を信じているかのような光が宿っていた。彼は、自分のことを、単なる不思議な力を持つ娘としてではなく、辺境の未来を託すに値するパートナーとして見ているのかもしれない。その事実は、リリアーナの心を強く打ち、不安を打ち消すほどの、熱い決意を呼び覚ました。

(……辺境伯様が、信じてくださるなら……。わたくしにできることなら、全力で応えたい……!)

「……わたくしのような者に、そのような大役が務まるかどうか……自信は、ありません」
リリアーナは、正直な気持ちを口にした。
「ですが……もし、辺境伯様が、わたくしを信じてくださるというのなら……。この辺境のために、皆さんのために、わたくしの持てる知識と力の全てを、捧げたいと思います。お受けいたします、その計画を」
彼女の声は、最初は震えていたが、最後には確かな覚悟を持って響いた。

アレクシスは、彼女の答えを聞き、満足げに、そしてほんのわずかに安堵したような表情を見せた。
「……感謝する。貴官ならば、必ず成し遂げられると信じている」
彼は、珍しく、素直な信頼の言葉を口にした。それは、二人の間に新たな関係性が築かれつつあることを示す、象徴的な瞬間だった。

その日から、「辺境開発計画」は、アレクシスの号令のもと、領全体を巻き込む形で本格的に始動した。まず、リリアーナが計画した畑は大幅に拡張され、砦の兵士たちが交代で開墾作業に参加することになった。騎士たちは、リリアーナのため、そして辺境の未来のためとあって、文句一つ言わずに汗を流した。彼らにとって、鍬を持つことは剣を振るうこととは違う疲労をもたらしたが、リリアーナが差し入れる栄養ドリンク(もちろん、量は以前より格段に増えた)と、彼女の明るい励ましが、彼らの力となった。

村人たちも、総出で計画に参加した。堆肥作りは村全体の共同作業となり、子供たちは水運びや小さな苗の世話を手伝った。リリアーナは、人々にてきぱきと指示を出しながらも、常に笑顔を絶やさず、一人一人の声に耳を傾けた。彼女の指導は的確で、人々を自然とやる気にさせる不思議な力があった。

もちろん、フェンとシーも大忙しだった。フェンは、その優れた嗅覚で、開墾に適した土地や、水脈のありかを探し当てるのに貢献した。時には、作業中に土の中から出てくる危険な魔物の幼生などを、素早く始末することもあった。シーは、相変わらず気まぐれだったが、その俊敏さを活かして、畑に忍び寄る害獣を追い払ったり、リリアーナが落とした小さな道具を見つけてきたりと、意外なところで役立っていた。二匹のもふもふ達は、もはや辺境開発に欠かせないマスコット兼実働部隊となっていた。

アレクシスは、領主として計画全体を統括し、必要な物資の調達や、人員の配置、そして外部(特に王都)からの干渉に対する防御策などを、冷静かつ迅速に進めていった。彼は、以前よりも頻繁に畑や村を訪れ、リリアーナと直接、計画の進捗や課題について話し合うようになった。その議論は、常に真剣で、時には意見がぶつかることもあったが、互いの知識と立場を尊重し合いながら、より良い方向性を探っていく、建設的なものだった。二人は、領主と追放者という関係を超え、辺境の未来を共に創造する「同志」としての絆を、着実に深めていっていた。

辺境の地に、新たな活気が満ち溢れていた。人々は、厳しい冬を乗り越え、自分たちの手で未来を切り開こうという希望に燃えていた。辺境開発計画の始動。それは、単なる農業改革ではなく、辺境領そのものの再生と、そこに生きる人々の心の変革をもたらす、大きなうねりの始まりだった。リリアーナとアレクシス、そして辺境の人々が手を取り合って進むその先には、きっと、これまでにない豊かで輝かしい未来が待っている。そんな確かな予感を、誰もが感じ始めていた。
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