聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ

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097. 王国の復興と新体制

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英雄たちの帰還を祝う熱狂が少し落ち着き、ヴァルテンベルク辺境領には、活気に満ちた、それでいて穏やかな日常が戻っていた。春から初夏へと移り変わる季節の中で、リリアーナが心血を注いできた畑は、まさに黄金の輝きを見せ始めていた。

黄金色の穂を垂れる雑穀、大地の下で丸々と太ったジャガイモやカブ、蔓に鈴なりに実った豆類。それは、これまでの辺境では考えられなかったほどの、圧倒的な豊穣だった。収穫作業には、村人だけでなく、砦の騎士たちも交代で加わり、領全体が一体となって、この恵みを分かち合っていた。

「すごいぞ! 去年の何倍も採れてる!」
「これだけあれば、冬は安泰だな!」
「リリアーナ様のおかげだ!」
人々の顔には、労働の汗と共に、満ち足りた笑顔が輝いていた。

リリアーナも、収穫の輪の中で、村人たちと共に汗を流していた。彼女が開発した特産品――ジャム、ハーブティー、ビスケット、そして治癒軟膏――の生産も軌道に乗り、辺境に新たな収入と雇用を生み出し始めていた。彼女はもはや、単なる「辺境伯の婚約者」ではなく、この地の豊かさを創造する、かけがえのない中心人物となっていた。

アレクシスは、そんなリリアーナの活躍と、辺境領全体の目覚ましい発展を、深い満足感と共に(しかし表情にはあまり出さずに)見守っていた。彼は、領主として、彼女の活動を全面的にバックアップし、必要な資源や情報を的確に供給し続けていた。二人は、公私にわたる最高のパートナーとして、辺境の未来を力強く牽引していたのだ。

そんな充実した日々が続く中、再び王都から、今度は正式な使節団が辺境領を訪れた。率いるのは、あの老宰相だったが、以前のような憔悴しきった様子はなく、その表情にはいくらかの落ち着きと、未来への決意のようなものが窺えた。

使節団がもたらしたのは、王都の復興が着実に進んでいるという報告と、そして、今後の王国運営に関する、重要な提案だった。

「辺境伯アレクシス殿、そしてリリアーナ様」
宰相は、二人の前で深く頭を下げた。「あなた方のお力添えなくして、王都の再生はありえませんでした。国王陛下、そして新たに王太子となられたエドワード殿下(アレクシスの叔父にあたる、穏健派の王族だった)も、心からの感謝と共に、今後の王国運営において、辺境領、そしてあなた方お二人のご協力を、改めてお願いしたい、と申されております」

国王は、エドガーとマリアの責任を問い、彼らを完全に政治の舞台から排除することを決定した。そして、自らは病身を理由に一線を退き、弟であるエドワードを新たな王太子とし、彼に実権を委ねる体制を整えたのだという。新王太子エドワードは、アレクシスの能力と公正さを高く評価しており、辺境領との協調路線を強く望んでいる、と宰相は語った。

具体的には、アレクシスに対して、新設される最高統治評議会(国王と新王太子を補佐し、国政の重要事項を決定する機関)の主要メンバーとして、その指導力を発揮してほしい、という要請だった。辺境伯としての地位はそのままで、定期的に王都を訪れるか、あるいは信頼できる代理人を派遣する形での参加が求められた。

そして、リリアーナに対しては、「王国食料・医療顧問」という新たな役職が提案された。彼女の持つ農業技術、食品加工技術、そして癒しの力を、王国全体の食糧安定と民衆の健康増進のために役立ててほしい、というのだ。もちろん、辺境での活動を妨げるものではなく、彼女の知識や技術を、王都の専門家たちと共有し、指導する役割が期待されていた。

それは、辺境領とリリアーナの功績と価値を、王国が正式に認め、敬意を払っていることの証だった。かつて虐げられ、見捨てられた辺境が、今や王国の再生に不可欠な存在として、中心的な役割を求められているのだ。

アレクシスとリリアーナは、顔を見合わせた。彼らは、王都の政治に深く関わることや、再び注目を集めることに、必ずしも積極的ではなかった。彼らの望みは、あくまでこの辺境の地で、穏やかに暮らすことだったからだ。

しかし、彼らは同時に、自分たちが持つ力と責任の重さも理解していた。王国の安定なくして、辺境の平和もない。苦しんでいる人々がいる限り、自分たちの力を役立てるべきではないか。そして、この機会は、辺境領の地位を確固たるものにし、二度と王都の都合で振り回されることのない、自立した未来を築くための、大きなチャンスでもある。

「……お受けいたします」
熟慮の末、アレクシスが静かに答えた。「ただし、あくまでヴァルテンベルク辺境伯として、辺境領の利益と安寧を最優先するという立場は変わらない。それを理解していただけるのであれば、王国の復興に、我々の力を貸しましょう」

リリアーナも、隣で力強く頷いた。
「わたくしも、お受けいたします。わたくしの知識や経験が、王国全体の食卓を豊かにし、人々の健康を取り戻す一助となるのであれば、喜んで協力させていただきます。ただし、わたくしの活動の基盤は、あくまでこの辺境にあります」

二人の答えに、宰相は安堵と感謝の表情を浮かべ、再び深く頭を下げた。
「ありがとうございます……! そのお言葉、必ずや陛下と殿下にお伝えいたします。あなた方のご協力があれば、王国は必ずや、より良き国へと生まれ変わることができるでしょう!」

こうして、王国の新たな統治体制に、辺境領が正式な形で、しかも極めて重要な役割を担って関与していくことが決定した。それは、歴史的な転換点であり、アレクシスとリリアーナの存在が、もはや辺境だけの希望ではなく、王国全体の未来を照らす光となっていることを示すものだった。

二人は、新たな責任の重さを感じながらも、互いを支え合い、前を向いた。辺境での穏やかな暮らしを大切にしながら、王国全体の復興にも力を尽くす。それは、多忙で困難な道のりになるだろう。しかし、二人で手を取り合えば、きっと乗り越えていける。

王都の復興と新体制の構築。それは、辺境の力なくしては成し得ない、壮大なプロジェクトの始まりだった。アレクシスとリリアーナは、その中心で、それぞれの役割を果たしながら、愛する辺境の地と共に、新たな時代を築いていくことになるのだろう。彼らの物語は、個人の幸福を超え、国全体の運命をも動かす、大きなうねりへと発展し始めていた。
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