レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第55話:追跡者

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オリハルコン製の大剣が完成する約束の前日。
俺たちの滞在していた鉱山都市グランツに、招かれざる客が訪れた。

その日、俺たちはいつものように四人で街を歩いていた。完成した暁にはヴォルフの新しい相棒のお披露目も兼ねてささやかな祝宴を開こうと、食材の買い出しに来ていたのだ。

「それにしても、ドワーフの爺さんの腕は確かだろうな? 俺の全霊を預けるに足る剣じゃなきゃ承知しねえぞ」
「心配ないわ。あの人の工房から感じられる魔力は本物よ。きっと伝説級の武具が生まれるわ」

ヴォルフとシルフィリアがそんな会話を交わしている。エリナもその隣で楽しそうに微笑んでいた。
そんな和やかな雰囲気の中、俺の鋭敏な聴覚が周囲の喧騒の中から、聞き慣れた、そして聞きたくない単語を拾い上げた。

「……おい、聞いたか? あの『暁の剣』がこの街に来てるらしいぜ」
「本当かよ!? 勇者アランのパーティか!」

俺は思わず足を止めた。
暁の剣。アラン。その名を聞いただけで、腹の底から冷たいものがせり上がってくる。
エリナもその名を耳にしたのだろう。彼女の顔からさっと血の気が引いた。

「どうしたの、二人とも?」

事情を知らないシルフィリアが不思議そうに俺たちを見る。
ヴォルフも俺の険しい表情を察し、警戒するように周囲に視線を巡らせた。

「……アラン君たちが……この街に……?」

エリナが信じられないといった様子で呟く。
なぜだ。なぜあいつらがこんな北の果ての街にいる? エリナを探しているのか? それともただの偶然か?

俺が思考を巡らせていると、前方の広場がにわかに騒がしくなった。人々が道を開け、何者かの行列がこちらへ向かってくる。

その中心にいたのは、見間違えるはずもなかった。
輝く銀の鎧を身に纏い、腰には聖剣。自信に満ちた、しかしどこか焦りの色を浮かべた表情。

勇者、アラン・ゲイル。
そしてその後ろには、仏頂面のゴードンと、うんざりした顔のレナが続いている。だが、そこにエリナの姿はない。彼らのパーティは明らかに精彩を欠き、その装備もどこか薄汚れていた。

追跡者。
彼らはエリナを追って、ここまで来たのだ。

「……まずいな」

俺は舌打ちした。最悪のタイミングで過去と再会してしまった。
エリナはアランの姿を認めるなり、恐怖と動揺で体が固まってしまっている。俺は咄嗟に彼女の前に立ち、その小さな体を背中で庇った。

「カイル?」
「ヴォルフ。シルフィリア。こいつらが俺を追放した連中だ」

俺の低い声に、二人は全てを察したようだった。
シルフィリアの翠色の瞳に、氷のような冷たい光が宿る。
ヴォルフは無言で鉄の大剣の柄を握りしめた。その肩が怒りでわずかに震えている。

やがて、アランのパーティも俺たちの存在に気づいた。
アランの目が大きく見開かれる。まず俺の隣に立つシルフィリアとヴォルフの姿に驚き、次に俺の背後に隠れるように立つエリナの姿を認め、その表情が驚愕から怒りへと変わっていった。

「……エリナ」

アランが絞り出すような声で彼女の名を呼んだ。

「こんな所にいたのか。ずっと探したんだぞ」

その声には安堵と、そして所有物を発見したかのような独善的な響きがあった。
彼は俺のことなど最初から目に入っていないかのように、エリナにだけ視線を注いでいる。

「さあ、戻るぞ、エリナ。お前がいないとパーティが成り立たない」

彼は何の悪びれもなく手を差し伸べてきた。まるで家出をした子供を連れ戻しに来たかのように。

その傲慢な態度に、エリナは恐怖を振り払うように強く首を横に振った。

「……嫌」
「何?」
「私はもう戻りません。私の居場所はここです」

エリナは俺の背中から一歩踏み出すと、震えながらもはっきりとそう言い放った。
その言葉に、アランの顔がみるみるうちに怒りで赤く染まっていく。

「……お前の居場所だと? こいつらと一緒にか? 特に、そこの……カイルと?」

アランはそこで初めて、俺の全身を侮蔑に満ちた目で見下ろした。
そして、鼻で笑う。

「ふん。まだ生きていたのか、寄生虫が。エリナを誑かして新しい寄生先を見つけたとでもいうわけか。相変わらず汚い真似をする」

その言葉に、俺の背後でシルフィリアとヴォルフの殺気が膨れ上がるのが分かった。
だが、俺は冷静だった。

もはや彼の言葉で俺の心が揺らぐことはない。

「……久しぶりだな、アラン」

俺は静かに、そして冷たく言い放った。

「お前こそ、ずいぶんとみすぼらしい格好になったじゃないか、勇者様」

俺の挑発に、アランの額に青筋が浮かぶ。
広場の空気は一触即発の緊張感に満ちていた。

追放された者と、追放した者。
失われた過去と、手に入れた現在。
二つの運命が、この北の都市グランツで今、再び交差しようとしていた。
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