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第63話:完全な決別
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俺たちが背を向けて去っていく。その姿が、アランの瞳にはスローモーションのように映っていた。カイル、そして彼を信頼し囲むように歩く新しい仲間たち。その中心で、幸せそうに微笑むエリナ。
それは、かつて彼が夢見た理想の勇者パーティの姿そのものだった。
だが、その中心にいるのは自分ではなかった。
「……ま……て……」
喉からかすれた声が漏れる。
待ってくれ。行かないでくれ。俺を一人にしないでくれ。
心の中ではそう叫んでいるのに、声にならない。
「敵として、認識する」
カイルが最後に言い放った言葉が、頭の中で何度も反響する。
それは彼からの完全な拒絶。最後の絆を、彼自身の手で断ち切るという冷徹な宣言だった。
ぷつり、と。
アランの中で何かが切れる音がした。
懇願も後悔も懺悔も、全てが無意味だと悟った瞬間。彼の心を占めていたのは、もはや悲しみではなかった。
「……カイル……」
その口から漏れ出たのは、焼け付くようなドス黒い憎悪だった。
顔を上げたアランの瞳はもはや正気の色を失い、嫉妬と憎悪の炎で赤黒く燃え盛っていた。
(なぜだ……!)
(なぜ、お前ばかりが! 寄生虫だったお前が、なぜ仲間や力を手に入れ、幸せそうに笑っている!?)
(俺は勇者だ! 選ばれた人間だ! お前のようなゴミクズに、全てを奪われてたまるか!)
彼の心は完全に闇に染まっていた。
もはやカイルに追いつきたい、彼を認めさせたいという気持ちはない。
ただ、引きずり下ろしたい。彼が手に入れたもの全てを破壊し、彼を自分と同じ、いや、それ以上の絶望のどん底に叩き落としてやりたい。
その純粋な破壊衝動だけが、彼を突き動かしていた。
アランはふらつく足取りで立ち上がった。
周囲の野次馬たちの視線も、もはや気にならない。彼の世界には憎悪の対象であるカイルしか映っていなかった。
彼は地面に落ちていた聖剣を拾い上げる。
その輝きは完全に失われていた。持ち主の心が闇に染まったことで、聖剣はその力を閉ざしてしまったのだ。
だが、アランはそれに気づきもしなかった。
彼は俺たちが消えていった北の街道を狂気に満ちた目で見つめると、怨嗟に満ちた声で呟いた。
「……覚えていろ、カイル……。次こそは……。次こそは、必ず貴様を殺してやる……!」
彼は誰に言うでもなくそう誓うと、よろめきながらも人混みの中へと消えていった。
その背中は、もはや勇者のものではなかった。
光を失い、闇に囚われた哀れな復讐者の姿だった。
◇
一方、俺たちはザラームの街を後にして、新たな旅路へと足を踏み出していた。アランとの一件は俺たちの心に小さな波紋を残したが、旅の決意を揺るがすものではなかった。
「……よかったの、カイル君。本当に、もう」
隣を歩くエリナが、まだ心配そうに尋ねてくる。
「ああ。俺は俺の道を行くだけだ」
俺はきっぱりと答えた。彼女の優しさは時に危うい。俺がここで揺らいでしまえば、彼女を迷わせてしまうことになる。
「そうね。あの男のことはもう忘れましょう。私たちの未来には、関係のない人間よ」
シルフィリがエリナの肩を抱くようにして言った。彼女なりの励ましの言葉だった。
「がっはっは! そうだぜ、エリナ嬢ちゃん! 過去を振り返ってもろくなことはねえ! 前を向いて、美味い飯と酒のことでも考えようぜ!」
ヴォルフも豪快に笑って場を和ませる。
仲間たちの温かさに、エリナの表情も少しずつ和らいでいった。
「……うん。ありがとう、みんな」
彼女は小さく微笑んだ。
これで、本当によかったのだ。
俺たちはアランという過去と、完全に決別した。
これから先、俺たちの道と彼の道が交わることは、もう二度とないだろう。
……そう、この時の俺たちは信じていた。
俺の『やりなおし』の力が、この世界の理にどれほどの影響を与えているのか。
そして、光を失った勇者の憎悪がどれほど深く、恐ろしい闇を呼び寄せることになるのか。
その運命の歯車がすでに静かに回り始めていたことを、俺たちはまだ知る由もなかった。
俺たちの旅は続く。
四人になったパーティの賑やかな会話が、北へと続く街道に響き渡る。
それは、これから始まるさらに過酷な運命の前触れであるかのような、束の間の平穏だった。
それは、かつて彼が夢見た理想の勇者パーティの姿そのものだった。
だが、その中心にいるのは自分ではなかった。
「……ま……て……」
喉からかすれた声が漏れる。
待ってくれ。行かないでくれ。俺を一人にしないでくれ。
心の中ではそう叫んでいるのに、声にならない。
「敵として、認識する」
カイルが最後に言い放った言葉が、頭の中で何度も反響する。
それは彼からの完全な拒絶。最後の絆を、彼自身の手で断ち切るという冷徹な宣言だった。
ぷつり、と。
アランの中で何かが切れる音がした。
懇願も後悔も懺悔も、全てが無意味だと悟った瞬間。彼の心を占めていたのは、もはや悲しみではなかった。
「……カイル……」
その口から漏れ出たのは、焼け付くようなドス黒い憎悪だった。
顔を上げたアランの瞳はもはや正気の色を失い、嫉妬と憎悪の炎で赤黒く燃え盛っていた。
(なぜだ……!)
(なぜ、お前ばかりが! 寄生虫だったお前が、なぜ仲間や力を手に入れ、幸せそうに笑っている!?)
(俺は勇者だ! 選ばれた人間だ! お前のようなゴミクズに、全てを奪われてたまるか!)
彼の心は完全に闇に染まっていた。
もはやカイルに追いつきたい、彼を認めさせたいという気持ちはない。
ただ、引きずり下ろしたい。彼が手に入れたもの全てを破壊し、彼を自分と同じ、いや、それ以上の絶望のどん底に叩き落としてやりたい。
その純粋な破壊衝動だけが、彼を突き動かしていた。
アランはふらつく足取りで立ち上がった。
周囲の野次馬たちの視線も、もはや気にならない。彼の世界には憎悪の対象であるカイルしか映っていなかった。
彼は地面に落ちていた聖剣を拾い上げる。
その輝きは完全に失われていた。持ち主の心が闇に染まったことで、聖剣はその力を閉ざしてしまったのだ。
だが、アランはそれに気づきもしなかった。
彼は俺たちが消えていった北の街道を狂気に満ちた目で見つめると、怨嗟に満ちた声で呟いた。
「……覚えていろ、カイル……。次こそは……。次こそは、必ず貴様を殺してやる……!」
彼は誰に言うでもなくそう誓うと、よろめきながらも人混みの中へと消えていった。
その背中は、もはや勇者のものではなかった。
光を失い、闇に囚われた哀れな復讐者の姿だった。
◇
一方、俺たちはザラームの街を後にして、新たな旅路へと足を踏み出していた。アランとの一件は俺たちの心に小さな波紋を残したが、旅の決意を揺るがすものではなかった。
「……よかったの、カイル君。本当に、もう」
隣を歩くエリナが、まだ心配そうに尋ねてくる。
「ああ。俺は俺の道を行くだけだ」
俺はきっぱりと答えた。彼女の優しさは時に危うい。俺がここで揺らいでしまえば、彼女を迷わせてしまうことになる。
「そうね。あの男のことはもう忘れましょう。私たちの未来には、関係のない人間よ」
シルフィリがエリナの肩を抱くようにして言った。彼女なりの励ましの言葉だった。
「がっはっは! そうだぜ、エリナ嬢ちゃん! 過去を振り返ってもろくなことはねえ! 前を向いて、美味い飯と酒のことでも考えようぜ!」
ヴォルフも豪快に笑って場を和ませる。
仲間たちの温かさに、エリナの表情も少しずつ和らいでいった。
「……うん。ありがとう、みんな」
彼女は小さく微笑んだ。
これで、本当によかったのだ。
俺たちはアランという過去と、完全に決別した。
これから先、俺たちの道と彼の道が交わることは、もう二度とないだろう。
……そう、この時の俺たちは信じていた。
俺の『やりなおし』の力が、この世界の理にどれほどの影響を与えているのか。
そして、光を失った勇者の憎悪がどれほど深く、恐ろしい闇を呼び寄せることになるのか。
その運命の歯車がすでに静かに回り始めていたことを、俺たちはまだ知る由もなかった。
俺たちの旅は続く。
四人になったパーティの賑やかな会話が、北へと続く街道に響き渡る。
それは、これから始まるさらに過酷な運命の前触れであるかのような、束の間の平穏だった。
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