レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第81話:魔王城へ

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王都アルヘイムは俺たちの魔王討伐への出発を前に、国中を挙げた祝賀ムードに包まれていた。王城で開かれた壮行会には王国の有力な貴族や騎士団長たちが一堂に会し、俺たち四人に惜しみない賞賛と激励の言葉を送った。

「カイル殿、貴殿らの武勇伝は今や王国中の希望の光だ。どうか、この世界の未来を頼む」

国王リチャードはそう言うと自ら俺の杯に最高級の葡萄酒を注いでくれた。その隣でシルフィリアはうんざりした顔で貴族たちの自慢話を聞き流し、ヴォルフは騎士たちと腕相撲に興じ、エリナは聖女として貴婦人たちに囲まれ困ったように微笑んでいた。

その光景はどこか現実離れしていて、俺にはまだ馴染めなかった。数ヶ月前まで俺はただのレベル1の荷物持ちだったのだ。それが今や聖騎士として王侯貴族と杯を交わしている。運命とは分からないものだ。

壮行会だけではない。王国は俺たちの旅を全面的に支援してくれた。
王宮の書庫に籠っていたシルフィリアは魔王に関する古代文献を読み解き、奴の弱点や魔王城に関する貴重な情報を手に入れた。
ヴォルフは王国最強と謳われる近衛騎士団長との手合わせを望み、三日三晩に及ぶ死闘の末、彼の剣技をさらに磨き上げた。
エリナもまた王都の大聖堂の協力を得て、古代から伝わる強力な聖具「女神の涙」を授かっていた。それはどんな呪いをも浄化する力を持つという。

そして俺は国王から、旅に必要なありとあらゆる物資を提供された。最高級のポーション、何ヶ月も腐らないという魔法の保存食、魔王の領地までの詳細な地図、そしてあらゆる状況を想定した魔道具の数々。無限の聖剣インフィニティも王国の最高の職人によって調整され、俺の力にさらに馴染むようになっていた。

出発の朝は驚くほど静かに訪れた。
壮行会の喧騒が嘘のように、澄み切った青空が広がっている。俺たちは王城の中庭で、旅立ちの最後の準備を整えていた。

「忘れ物はないか?」
「当たり前でしょ。私の完璧な準備に抜かりなどないわ」
「がっはっは! いつでも行けるぜ、大将!」
「はい。私も大丈夫です」

仲間たちの顔には不安や恐怖の色はなかった。あるのは、これから始まる決戦への揺ぎない覚悟だけだ。

俺たちが見送りのために正門へ向かうと、そこには国王リチャードをはじめ、騎士団長や宰相、そして伝令で駆けつけてくれたらしい懐かしい顔が待っていた。

「よう、小僧。ずいぶんと立派になったじゃねえか」

腕を組み、ニヤリと笑うドワーフ。迷宮都市オラトリアのギルドマスター、バルガンだった。

「バルガンさん……! なぜここに?」
「お前さんたちの壮行会の噂を聞いてな。居ても立ってもいられず駆けつけてきた。俺が見込んだ英雄の晴れ舞台だからな」

彼はそう言うと、俺の肩を力強く叩いた。

「死ぬなよ、と言いたいところだが……。お前さんの場合は『せいぜい効率良くな』だったか。まあ、何にせよ必ず生きて帰ってこい。最高の酒を用意して待ってるからな」

その言葉が、無性に嬉しかった。俺は力強く頷いた。
国王リチャードも、俺たちの前に進み出た。

「カイル殿。世界の運命を君たちだけに背負わせてしまうことを許してほしい。我々も必ず後から援軍を送る。それまで、どうか……」
「ご心配なく、陛下」

俺は国王の言葉を遮った。

「俺たちは必ず魔王を討ち、この世界に平和を取り戻します。それが俺たち聖騎士の誓いですから」

俺の言葉に国王は感極まったように目を潤ませ、深く頷いた。
俺たちは見送る全ての人々に背を向け、王都の巨大な正門をくぐった。門の外には夜明け前から集まっていたのだろう、数え切れないほどの民衆が俺たちの姿を待っていた。

そして俺たちが姿を現した瞬間、地鳴りのような歓声が王都全体を揺るがした。
「英雄万歳!」「世界を救ってください!」
降り注ぐ花びらと声援の嵐。

俺たちはその光景を胸に刻み、魔王が支配するという大陸東部の「奈落の地」へとその一歩を踏み出した。



旅は過酷だった。
王都から東へ進むにつれて景色は一変していった。緑豊かだった大地は次第に色を失い、ひび割れた荒野へと姿を変えていく。空は常にどす黒い雲に覆われ、太陽の光さえも届かない。空気中には硫黄と腐敗の匂いが混じった、不吉な瘴気が漂っていた。

道中、俺たちは何度も魔王軍の残党や瘴気に侵されて凶暴化した魔物たちに襲われた。だが、それらはもはや俺たちの敵ではなかった。

ヴォルフのオリハルコンの大剣が唸りを上げ、敵の前衛を粉砕する。
シルフィリアの古代魔法が後方の敵を一掃する。
エリナの聖なる光が俺たちを護り、力を与え続ける。
そして俺は無限の聖剣インフィニティを振るい、敵将の首を刎ねる。

俺の力が上がるたびにインフィニティもまたその輝きを増していく。最初はただの黒銀だった刀身は、今や俺の闘気に呼応するかのように七色のオーラを纏うようになっていた。

数週間の旅の果て。
俺たちはついに魔王の領地の最深部に到達した。
地平線の彼方に、その城はあった。

「……あれが、奈落の城……」

シルフィリアが息を呑んで呟いた。
それは城というよりも、天に突き刺さる巨大な黒い槍のようだった。大地に刻まれた巨大な亀裂の底から螺旋を描くようにして天を衝く、禍々しい巨塔。その周囲には溶岩の川が紅蓮の光を放ちながら流れ、空には雷雲が絶えず渦を巻いている。

まさしく地獄。
世界の終焉を象徴するかのような、絶望的な光景だった。

城から放たれる圧倒的なまでの邪気。それはこれまで感じたどの魔物の気配とも比較にならない、純粋な悪意の塊だった。

「……すごい邪気だわ。近づくだけで精神が汚染されそう」
「ああ。とんでもねえ場所に来ちまったもんだな」

シルフィリアとヴォルフが顔をしかめる。
エリナも胸の前で聖印を握りしめ、必死に祈りを捧げていた。

俺もまたその邪気に眉をひそめた。だが、それだけではなかった。
その邪気の中に俺は、微かに混じる別の気配を感じ取っていた。

それは忘れようにも忘れられない、忌まわしい気配。
嫉妬と憎悪。そして俺への歪んだ執着。

(……アラン……)

なぜあいつの気配がここからする?
まさか。

俺の脳裏に最悪の可能性がよぎった。

俺は仲間たちへと向き直った。

「行くぞ。最後の戦いだ」

俺の言葉に三人は力強く頷いた。
俺たちは眼前にそびえ立つ絶望の象徴「奈落の城」へと、その最後の歩みを進め始めた。

俺たちの旅の終着点。
そして全ての因縁に決着をつける場所。
その門の前で、一体何が、そして誰が俺たちを待ち受けているのか。

俺は無限の聖剣の柄を、強く、強く握りしめた。
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