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第四十九話:潜入計画、キメラの巣へ
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世界の裏側で蠢く陰謀の輪郭が見え始め、俺たちは受動的な立場から脱却し、能動的に動き出すことを決意した。目標はアトラス・コーポレーション。彼らが開発を進める生体兵器『キメラ』、特に俺の『法則干渉』能力を模倣、あるいは対抗するために作られたであろう個体の情報を掴み、可能ならその計画を妨害する。
「まずは情報だ。敵の本拠地に乗り込む前に、どこを叩くべきか、正確に知る必要がある」
研究工房で作戦会議を開き、俺は切り出した。解析作業は一時中断し、全員がモニターの前に集まる。
「セバスチャン、例の情報屋グレイに再度接触を。アトラス社の研究施設、特に『特殊プロジェクト部』が関与していそうな場所、あるいは『キメラ』の実験が行われている可能性のある場所について、心当たりを探ってくれ。報酬は惜しまない」
「承知いたしました。すぐに手配を」
セバスチャンは頷き、すぐに通信を開始した。彼の持つ裏社会へのコネクションは、こういう時に頼りになる。
数時間後、グレイからの返答があった。セバスチャンが、暗号化された通信内容を要約して報告する。
「…グレイによれば、アトラス社はフロンティア郊外に、表向きは地質調査研究所と偽装した、大規模な地下研究施設を保有しているとのことです。そこでは、ダンジョン由来の特殊鉱石の研究と並行して、非合法な生体実験が行われているという噂が絶えません。警備は極めて厳重で、最新の魔力センサー、生体認証システム、そして武装した警備兵に加え、実験体と思われるモンスターや改造生物が配備されている可能性が高い、と」
「偽装研究所…ビンゴの可能性が高いな。キメラの実戦テストも、そこで行われているかもしれない」
俺は頷き、地図データ上にその施設の位置をマークする。
「リンドバーグ家の情報網でも、その施設の存在は確認できております。ですが、内部構造や警備システムの詳細までは、アトラス側の厳重な情報統制により、掴めておりません。潜入は極めて困難かつ危険を伴うでしょう」
セバスチャンは、警告を付け加える。
「危険は承知の上だ。問題は、どうやって潜入し、目的を達成するか…」
俺たちは、モニターに映し出された施設の推定構造図(リンドバーグ家の情報部が作成したものだ)と、グレイから得た断片的な警備情報を元に、具体的な作戦計画を練り始めた。
「潜入ルートは…おそらく、換気ダクトか、あるいは地下の排水路を利用するのが現実的だろう。正面ゲートや通常の搬入口は、警備が厳重すぎる」
「換気ダクトは狭く、センサーも多いでしょう。排水路の方が、隠密性は高いかもしれませんが、汚染や罠のリスクも考えられますな」
セバスチャンが指摘する。
「どちらのルートを使うにせよ、センサーや監視カメラは避けられない。俺のステルスフィールドと、セバスチャンの隠密技術でどこまで欺瞞できるか…」
「物理的なロックや電子ロックも多数あるはずだ。俺の『法則操作』で解除できる可能性はあるが、時間がかかれば発見されるリスクも高まる」
「内部に入ってからは、警備兵や、場合によってはキメラとの戦闘も覚悟しなければならない」
レンが、戦闘を想定した視点から意見を述べる。
議論を重ね、俺たちは作戦の骨子を固めた。
**作戦名:『プロジェクト・キメラ』ハック**
1. **潜入:** 地下排水路を利用して施設内部へ侵入。セバスチャンの隠密技術と俺のステルスフィールドで可能な限り気配を消す。
2. **ナビゲート&ハッキング:** 俺が『現象観測』で内部構造をマッピングし、センサーやトラップの位置を特定。『法則操作』を用いて電子ロック解除、監視カメラ無効化、トラップ解除を行う。
3. **戦闘・陽動:** 遭遇した警備兵やモンスターは、レンとセバスチャンが主力となって迅速に制圧。必要に応じて、ミナが魔法で援護、栞が回復を担当。俺は基本的にはハッキングに専念するが、状況に応じて戦闘にも参加。
4. **情報奪取&破壊工作:** 目標は、キメラに関する研究データが保管されていると思われるサーバー室、あるいは研究セクション。データをコピー、あるいは破壊する。可能であれば、キメラ本体や関連施設への破壊工作も行う。
5. **脱出:** 事前に設定した脱出ルート(非常用通路など)を使用し、速やかに施設から離脱する。
「各員の役割は明確だな?」
俺は最終確認をする。
「譲が頭脳と潜入の要。俺とセバスチャンが剣と盾。栞とミナが後方支援、か。悪くない」
レンが、自信に満ちた表情で頷く。
「回復と、皆さんの精神状態の安定は、私にお任せください」
栞も、静かだが力強い意志を瞳に宿している。
「わ、私も、足を引っ張らないように頑張ります!」
ミナはまだ少し緊張しているが、以前のような怯えは見られない。
「エリーゼ様からの支援も最大限に活用します。外部からのハッキングによる陽動や、脱出時のサポートも可能です」
セバスチャンは、タブレット端末を操作しながら補足した。
「よし。作戦開始は、明日の深夜0時。それまでに、各自、最終準備を済ませておくように」
作戦会議は終了し、俺たちはそれぞれの準備に取り掛かった。
俺は、この作戦のために新たに開発・改良した装備を入念にチェックした。
『ステルスフィールド発生器 改良型』:持続時間と隠蔽効果を向上。MP消費は依然として大きいが、短時間ならかなりの効果が期待できる。
『指向性EMPブラスター』:出力を調整可能にし、対人・対機械モードを切り替えられるように改良。非殺傷での制圧も可能。
『法則干渉ツール(仮称)』:電子ロックや魔力トラップに対し、コード解析や強制解除を試みるための専用デバイス。『クロノスの刻印』から得た情報を一部応用している。
『小型センサー・ドローン』:偵察用の小型ドローン。ステルス機能付き。『現象観測』の範囲を広げ、遠隔操作で情報を収集する。
これらの装備に加え、魔晶光線銃、小型魔力爆薬、擬似生体金属装甲なども万全の状態に整備した。
レンは、魔力剣の手入れに余念がない。その剣は、彼が橘家から持ち出したという秘匿物の一部なのかもしれない。以前よりも明らかに魔力が増しており、彼の覚悟を物語っているようだった。
栞とミナは、回復薬や補助魔法の触媒を準備し、精神統一を行っている。彼女たちの存在は、この危険な作戦において、精神的な支柱ともなるだろう。
セバスチャンは、リンドバーグ家のネットワークを通じて、最新の施設周辺情報や、アトラス社の内部動向などをチェックし、作戦の精度を高めていた。
準備を進める中で、俺はふと、レンに声をかけた。
「レン。今回の作戦、危険だぞ。お前の家の問題もあるんだろう? 無理に参加する必要はない」
俺なりの、配慮のつもりだった。
だが、レンは俺の目を真っ直ぐに見返し、フッと笑った。
「馬鹿言うな、譲。俺が行かないでどうする。アトラス社は、俺にとっても因縁のある相手だ。それに…お前だけに、いい格好はさせられんからな」
その言葉には、ライバルとしての対抗心と、そして仲間としての信頼が、確かに感じられた。
「…そうか。なら、頼りにさせてもらう」
俺も、素直にそう返した。
作戦開始時刻が近づく。工房には、出発前の独特な緊張感が満ちていた。俺たちは互いに視線を交わし、無言で頷き合う。
「時間だ。行くぞ」
俺の言葉を合図に、俺たちは工房を後にした。偽装された輸送車両に乗り込み、深夜のフロンティアを抜け、ターゲットであるアトラス社の偽装研究所へと向かう。
車窓から見える夜景は、いつもと同じはずなのに、どこか違って見えた。これから始まるのは、単なるダンジョン攻略ではない。巨大な組織の懐に飛び込み、その秘密を暴き、そして反撃の狼煙を上げるための、危険な賭けだ。
車両が目的地に近づくにつれ、俺の『現象観測』は、施設から放たれる強力な魔力シールドや、周囲に張り巡らされた高度なセンサー網の存在を捉え始めていた。
(…やはり、一筋縄ではいかないか)
車両は、施設から少し離れた森の中に停車した。俺たちは息を殺し、闇に紛れて降車する。目の前には、月明かりに照らされた、静かで不気味な研究所のシルエットが見える。
「…さて、と」
俺は、潜入ポイントである地下排水路の入り口を睨みつけ、呟いた。
「パーティーの時間だ。派手に、そしてスマートに、法則(ルール)を書き換えてやろうぜ」
第二部「加速する世界」は、ここからさらにその速度を上げていく。キメラの巣への潜入作戦。その結果が、俺たちの、そして世界の未来を、どのように変えていくのか。今はまだ、誰も知らない。
「まずは情報だ。敵の本拠地に乗り込む前に、どこを叩くべきか、正確に知る必要がある」
研究工房で作戦会議を開き、俺は切り出した。解析作業は一時中断し、全員がモニターの前に集まる。
「セバスチャン、例の情報屋グレイに再度接触を。アトラス社の研究施設、特に『特殊プロジェクト部』が関与していそうな場所、あるいは『キメラ』の実験が行われている可能性のある場所について、心当たりを探ってくれ。報酬は惜しまない」
「承知いたしました。すぐに手配を」
セバスチャンは頷き、すぐに通信を開始した。彼の持つ裏社会へのコネクションは、こういう時に頼りになる。
数時間後、グレイからの返答があった。セバスチャンが、暗号化された通信内容を要約して報告する。
「…グレイによれば、アトラス社はフロンティア郊外に、表向きは地質調査研究所と偽装した、大規模な地下研究施設を保有しているとのことです。そこでは、ダンジョン由来の特殊鉱石の研究と並行して、非合法な生体実験が行われているという噂が絶えません。警備は極めて厳重で、最新の魔力センサー、生体認証システム、そして武装した警備兵に加え、実験体と思われるモンスターや改造生物が配備されている可能性が高い、と」
「偽装研究所…ビンゴの可能性が高いな。キメラの実戦テストも、そこで行われているかもしれない」
俺は頷き、地図データ上にその施設の位置をマークする。
「リンドバーグ家の情報網でも、その施設の存在は確認できております。ですが、内部構造や警備システムの詳細までは、アトラス側の厳重な情報統制により、掴めておりません。潜入は極めて困難かつ危険を伴うでしょう」
セバスチャンは、警告を付け加える。
「危険は承知の上だ。問題は、どうやって潜入し、目的を達成するか…」
俺たちは、モニターに映し出された施設の推定構造図(リンドバーグ家の情報部が作成したものだ)と、グレイから得た断片的な警備情報を元に、具体的な作戦計画を練り始めた。
「潜入ルートは…おそらく、換気ダクトか、あるいは地下の排水路を利用するのが現実的だろう。正面ゲートや通常の搬入口は、警備が厳重すぎる」
「換気ダクトは狭く、センサーも多いでしょう。排水路の方が、隠密性は高いかもしれませんが、汚染や罠のリスクも考えられますな」
セバスチャンが指摘する。
「どちらのルートを使うにせよ、センサーや監視カメラは避けられない。俺のステルスフィールドと、セバスチャンの隠密技術でどこまで欺瞞できるか…」
「物理的なロックや電子ロックも多数あるはずだ。俺の『法則操作』で解除できる可能性はあるが、時間がかかれば発見されるリスクも高まる」
「内部に入ってからは、警備兵や、場合によってはキメラとの戦闘も覚悟しなければならない」
レンが、戦闘を想定した視点から意見を述べる。
議論を重ね、俺たちは作戦の骨子を固めた。
**作戦名:『プロジェクト・キメラ』ハック**
1. **潜入:** 地下排水路を利用して施設内部へ侵入。セバスチャンの隠密技術と俺のステルスフィールドで可能な限り気配を消す。
2. **ナビゲート&ハッキング:** 俺が『現象観測』で内部構造をマッピングし、センサーやトラップの位置を特定。『法則操作』を用いて電子ロック解除、監視カメラ無効化、トラップ解除を行う。
3. **戦闘・陽動:** 遭遇した警備兵やモンスターは、レンとセバスチャンが主力となって迅速に制圧。必要に応じて、ミナが魔法で援護、栞が回復を担当。俺は基本的にはハッキングに専念するが、状況に応じて戦闘にも参加。
4. **情報奪取&破壊工作:** 目標は、キメラに関する研究データが保管されていると思われるサーバー室、あるいは研究セクション。データをコピー、あるいは破壊する。可能であれば、キメラ本体や関連施設への破壊工作も行う。
5. **脱出:** 事前に設定した脱出ルート(非常用通路など)を使用し、速やかに施設から離脱する。
「各員の役割は明確だな?」
俺は最終確認をする。
「譲が頭脳と潜入の要。俺とセバスチャンが剣と盾。栞とミナが後方支援、か。悪くない」
レンが、自信に満ちた表情で頷く。
「回復と、皆さんの精神状態の安定は、私にお任せください」
栞も、静かだが力強い意志を瞳に宿している。
「わ、私も、足を引っ張らないように頑張ります!」
ミナはまだ少し緊張しているが、以前のような怯えは見られない。
「エリーゼ様からの支援も最大限に活用します。外部からのハッキングによる陽動や、脱出時のサポートも可能です」
セバスチャンは、タブレット端末を操作しながら補足した。
「よし。作戦開始は、明日の深夜0時。それまでに、各自、最終準備を済ませておくように」
作戦会議は終了し、俺たちはそれぞれの準備に取り掛かった。
俺は、この作戦のために新たに開発・改良した装備を入念にチェックした。
『ステルスフィールド発生器 改良型』:持続時間と隠蔽効果を向上。MP消費は依然として大きいが、短時間ならかなりの効果が期待できる。
『指向性EMPブラスター』:出力を調整可能にし、対人・対機械モードを切り替えられるように改良。非殺傷での制圧も可能。
『法則干渉ツール(仮称)』:電子ロックや魔力トラップに対し、コード解析や強制解除を試みるための専用デバイス。『クロノスの刻印』から得た情報を一部応用している。
『小型センサー・ドローン』:偵察用の小型ドローン。ステルス機能付き。『現象観測』の範囲を広げ、遠隔操作で情報を収集する。
これらの装備に加え、魔晶光線銃、小型魔力爆薬、擬似生体金属装甲なども万全の状態に整備した。
レンは、魔力剣の手入れに余念がない。その剣は、彼が橘家から持ち出したという秘匿物の一部なのかもしれない。以前よりも明らかに魔力が増しており、彼の覚悟を物語っているようだった。
栞とミナは、回復薬や補助魔法の触媒を準備し、精神統一を行っている。彼女たちの存在は、この危険な作戦において、精神的な支柱ともなるだろう。
セバスチャンは、リンドバーグ家のネットワークを通じて、最新の施設周辺情報や、アトラス社の内部動向などをチェックし、作戦の精度を高めていた。
準備を進める中で、俺はふと、レンに声をかけた。
「レン。今回の作戦、危険だぞ。お前の家の問題もあるんだろう? 無理に参加する必要はない」
俺なりの、配慮のつもりだった。
だが、レンは俺の目を真っ直ぐに見返し、フッと笑った。
「馬鹿言うな、譲。俺が行かないでどうする。アトラス社は、俺にとっても因縁のある相手だ。それに…お前だけに、いい格好はさせられんからな」
その言葉には、ライバルとしての対抗心と、そして仲間としての信頼が、確かに感じられた。
「…そうか。なら、頼りにさせてもらう」
俺も、素直にそう返した。
作戦開始時刻が近づく。工房には、出発前の独特な緊張感が満ちていた。俺たちは互いに視線を交わし、無言で頷き合う。
「時間だ。行くぞ」
俺の言葉を合図に、俺たちは工房を後にした。偽装された輸送車両に乗り込み、深夜のフロンティアを抜け、ターゲットであるアトラス社の偽装研究所へと向かう。
車窓から見える夜景は、いつもと同じはずなのに、どこか違って見えた。これから始まるのは、単なるダンジョン攻略ではない。巨大な組織の懐に飛び込み、その秘密を暴き、そして反撃の狼煙を上げるための、危険な賭けだ。
車両が目的地に近づくにつれ、俺の『現象観測』は、施設から放たれる強力な魔力シールドや、周囲に張り巡らされた高度なセンサー網の存在を捉え始めていた。
(…やはり、一筋縄ではいかないか)
車両は、施設から少し離れた森の中に停車した。俺たちは息を殺し、闇に紛れて降車する。目の前には、月明かりに照らされた、静かで不気味な研究所のシルエットが見える。
「…さて、と」
俺は、潜入ポイントである地下排水路の入り口を睨みつけ、呟いた。
「パーティーの時間だ。派手に、そしてスマートに、法則(ルール)を書き換えてやろうぜ」
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