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第25話 奇妙な関係の始まり
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オークジェネラルの巨体が、スローモーションのようにゆっくりと傾ぎ、やがて地響きを立てて倒れ伏した。その瞬間、森を支配していた圧倒的なプレッシャーが嘘のように消え去り、絶対的な静寂が訪れた。
シオンは、浅く速い呼吸を整えながら、刀身についたオークの血を鋭く一振りして払う。その冷たい瞳は、倒したボスではなく、茂みの中からおずおずと姿を現した一人の男に向けられていた。
気まずい沈黙が、二人の間に流れる。健太は、まるで上司に不手際を報告する時のような、引きつった笑顔を顔に貼り付けていた。
「いやはや、お見事な剣技で……。私なんて、腰が抜けちゃいましたよ」
シオンは、その白々しい賛辞を無視した。彼女はまっすぐに健太を見据え、その氷のような声で、核心を突く問いを放った。
「あなた、何者なの?」
以前の、ただ拒絶するだけの冷たさとは違う。そこには、純粋な疑問と、理解不能な存在に対するわずかな警戒心が滲んでいた。
「はて……何者、と申されましても」
健太は、わざとらしく首を傾げた。
「ご覧の通り、しがないサラリーマンですよ。たまたま休日を利用して、健康のために森林浴に来てみたら、とんだ災難に巻き込まれた、というわけでして」
彼は、この期に及んでも、いつもの調子ではぐらかそうとした。それが、彼なりの処世術であり、面倒事を避けるための盾だった。
シオンは、その答えを聞いて、深い、深い溜め息をついた。呆れと、ほんの少しの脱力が入り混じったような溜め息だった。
「……そう」
彼女はそれ以上追及するのをやめた。この男に問いただしても、のらりくらりとかわされるだけだと悟ったのだろう。だが、その視線は健たから外れない。魔法を飲み込み、盾を出現させ、敵の動きを阻害する。そんな芸当ができる「ただのサラリーマン」が、この世にいるはずがない。
シオンは黙ってオークジェネラルの死体に近づき、慣れた手つきで胸部から巨大な魔石を取り出し、戦斧や鎧の一部を剥ぎ取っていく。そして、その戦利品の中から、ちょうど半分ほどの量を無言で健太の前に差し出した。
「えっ、いやいや! 私は何もしていませんから!」
健太は慌てて両手を振って固辞する。
「あなたがいなければ、私は死んでいた」
シオンは、淡々と、しかし紛れもない事実を告げた。
「これは、正当な報酬よ。受け取りなさい」
その有無を言わさぬ口調に、健太は観念して、差し出された素材を受け取った。ずしりと重い金属の感触が、二人の間に生まれた奇妙な貸し借りを物語っているようだった。
「じゃあ」
用事は済んだとばかりに、シオンは背を向けた。そして、数歩歩いてから、ふと足を止める。
「……礼は言わない。あなたのやり方は、やっぱり気に入らないから」
「は、はあ……」
「でも、死なずに済んだのは事実。それだけは、認めてあげる」
振り返ることなく、それだけを言い残すと、彼女は森の奥へと消えていった。
一人残された健太は、手の中にあるオークジェネラルの素材と、シオンが消えていった方向を、ぼんやりと見比べていた。
「気に入らない、か……」
まったく、面倒で、可愛げのない少女だ。だが、その実力と、ほんの少しだけ垣間見えた律儀さに、健太は思わず苦笑いを浮かべていた。
ソロ活動こそが、最も合理的で効率的。そう信じていたはずなのに。
誰かと連携して強敵を打ち破るという、サラリーマン時代のチームでプロジェクトを成功させた時のような、高揚感が胸の内にかすかに残っている。
健太は、この奇妙な出会いが、自分の計画にどんな影響を与えるのか、まだ知らなかった。ただ、一人でいるよりも、ほんの少しだけ、ダンジョン探索が面白くなるかもしれない。そんな予感が、胸をよぎるだけだった。
シオンは、浅く速い呼吸を整えながら、刀身についたオークの血を鋭く一振りして払う。その冷たい瞳は、倒したボスではなく、茂みの中からおずおずと姿を現した一人の男に向けられていた。
気まずい沈黙が、二人の間に流れる。健太は、まるで上司に不手際を報告する時のような、引きつった笑顔を顔に貼り付けていた。
「いやはや、お見事な剣技で……。私なんて、腰が抜けちゃいましたよ」
シオンは、その白々しい賛辞を無視した。彼女はまっすぐに健太を見据え、その氷のような声で、核心を突く問いを放った。
「あなた、何者なの?」
以前の、ただ拒絶するだけの冷たさとは違う。そこには、純粋な疑問と、理解不能な存在に対するわずかな警戒心が滲んでいた。
「はて……何者、と申されましても」
健太は、わざとらしく首を傾げた。
「ご覧の通り、しがないサラリーマンですよ。たまたま休日を利用して、健康のために森林浴に来てみたら、とんだ災難に巻き込まれた、というわけでして」
彼は、この期に及んでも、いつもの調子ではぐらかそうとした。それが、彼なりの処世術であり、面倒事を避けるための盾だった。
シオンは、その答えを聞いて、深い、深い溜め息をついた。呆れと、ほんの少しの脱力が入り混じったような溜め息だった。
「……そう」
彼女はそれ以上追及するのをやめた。この男に問いただしても、のらりくらりとかわされるだけだと悟ったのだろう。だが、その視線は健たから外れない。魔法を飲み込み、盾を出現させ、敵の動きを阻害する。そんな芸当ができる「ただのサラリーマン」が、この世にいるはずがない。
シオンは黙ってオークジェネラルの死体に近づき、慣れた手つきで胸部から巨大な魔石を取り出し、戦斧や鎧の一部を剥ぎ取っていく。そして、その戦利品の中から、ちょうど半分ほどの量を無言で健太の前に差し出した。
「えっ、いやいや! 私は何もしていませんから!」
健太は慌てて両手を振って固辞する。
「あなたがいなければ、私は死んでいた」
シオンは、淡々と、しかし紛れもない事実を告げた。
「これは、正当な報酬よ。受け取りなさい」
その有無を言わさぬ口調に、健太は観念して、差し出された素材を受け取った。ずしりと重い金属の感触が、二人の間に生まれた奇妙な貸し借りを物語っているようだった。
「じゃあ」
用事は済んだとばかりに、シオンは背を向けた。そして、数歩歩いてから、ふと足を止める。
「……礼は言わない。あなたのやり方は、やっぱり気に入らないから」
「は、はあ……」
「でも、死なずに済んだのは事実。それだけは、認めてあげる」
振り返ることなく、それだけを言い残すと、彼女は森の奥へと消えていった。
一人残された健太は、手の中にあるオークジェネラルの素材と、シオンが消えていった方向を、ぼんやりと見比べていた。
「気に入らない、か……」
まったく、面倒で、可愛げのない少女だ。だが、その実力と、ほんの少しだけ垣間見えた律儀さに、健太は思わず苦笑いを浮かべていた。
ソロ活動こそが、最も合理的で効率的。そう信じていたはずなのに。
誰かと連携して強敵を打ち破るという、サラリーマン時代のチームでプロジェクトを成功させた時のような、高揚感が胸の内にかすかに残っている。
健太は、この奇妙な出会いが、自分の計画にどんな影響を与えるのか、まだ知らなかった。ただ、一人でいるよりも、ほんの少しだけ、ダンジョン探索が面白くなるかもしれない。そんな予感が、胸をよぎるだけだった。
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