不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

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第十五話 ラバチューブと火竜の巣

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 イグニス・サラマンダーが黒い岩の塊と化した後、僕たち三人はしばらくの間、その場に座り込んでいた。MPも体力も、そして精神も、限界近くまですり減っていたからだ。

「はー……疲れた。あんな戦い、二度とごめんだぜ」
 ゴードンは、タワーシールドを枕にして大の字に寝転がりながら、心底うんざりしたように言った。しかし、その口元には、強敵を打ち破った満足げな笑みが浮かんでいる。

「お二人とも、お怪我はありませんか?」
 ミモリさんは、残ったわずかなMPで僕たちに最後のヒールをかけると、ほっとしたように息をついた。彼女の額には、玉のような汗が光っている。

 僕もまた、ユニークスキルを連続使用したことで、頭がずきずきと痛むような疲労感に襲われていた。だが、それ以上に、僕の作戦が完璧に機能したことへの高揚感が勝っていた。地質学の知識が、また一つ、この世界の理を覆したのだ。

「さてと、お楽しみの戦利品タイムといくか!」
 しばらくして回復したゴードンが、子供のように目を輝かせながら、サラマンダーの亡骸に近づいた。ボスクラスモンスターのドロップアイテムは、プレイヤーにとって最大の報酬だ。
 僕たちの目の前に、入手アイテムのウィンドウが表示される。

【イグニスの心臓】×1
【灼熱の鱗】×20
【サラマンダーの溶岩核】×3
【古びた宝の地図】×1
【称号:炎を制す者】を獲得しました。

「おお! 心臓が出たか! こいつは武具の素材として高く売れるんだぜ!」
 ゴードンは換金アイテムに大喜びしている。ミモリさんも、珍しいアイテムの数々に目を輝かせていた。

 だが、僕の目は、全く別のものに釘付けになっていた。
「この鱗……素晴らしい……」
 僕は、【灼熱の鱗】を一枚、手に取った。それは黒曜石のような光沢を持ちながらも、驚くほど軽く、そして信じられないほどの硬度と耐熱性を秘めている。
「これは、単なる生物の鱗じゃない。マグマに含まれるケイ酸塩鉱物が、サラマンダーの体内で生体濃縮され、極めて特殊な圧力と温度下で再結晶化したものだ。この層状構造……天然のセラミック複合材とでも言うべきか。現実世界でも、再現は不可能に近い代物だぞ……」

 僕がいつもの調子で熱く語り始めると、ゴードンは「よくわからんが、とにかくスゲーってことだな!」と、僕の肩を叩いて笑った。ミモリさんは「リクさん、鉱石の話をしている時、本当に楽しそうですね」と、微笑ましそうに僕を見ている。この二人といると、僕の専門知識が孤立しない。それが、何よりも心地よかった。

 称号【炎を制す者】は、火属性攻撃への耐性を上昇させるという、この先に進む上で非常に有用なものだった。僕たちは、ここで一度しっかりと休憩を取ることにした。ミモリさんが例の物体X(手作りクッキー)を取り出しかけたが、僕とゴードンは顔を見合わせ、丁重に、しかし断固としてそれを断った。

 体力が全快した僕たちは、渓谷のさらに奥へと足を進めた。サラマンダーを倒したことで、道中の雑魚モンスターの数は明らかに減っている。
 僕は、歩きながらも周囲の調査を怠らなかった。《鑑定》と《測量》を駆使し、この火山地帯全体の地下構造を、頭の中の三次元マップに落とし込んでいく。

「どうやら、この火山の地下には、広範囲にわたって『溶岩洞(ラバチューブ)』が網の目のように広がっているようですね」
「らばちゅーぶ?」
 ゴードンが、初めて聞く単語に首を傾げる。
「溶岩が流れた後にできる、天然のトンネルのことです。表面が冷えて固まっても、内部の熱い溶岩は流れ続け、やがて流れ去った後には、巨大な空洞が残る。それがラバチューブです」
「へえ、そんなもんがあるのか。面白いな!」

 この発見は、後に重要な意味を持つことになる。僕のノートには、新たな情報がびっしりと書き加えられていった。

 そして、数時間後。僕たちは、ついにこの渓谷の最深部と思われる場所にたどり着いた。
 目の前に広がっていたのは、息を呑むほどに雄大で、そして絶望的な光景だった。

 直径が数キロメートルはあろうかという、巨大なカルデラ。そして、そのカルデラの底は、一面が深紅の溶岩で満たされた、広大な「溶岩湖」となっていた。湖の中心には、巨大な岩山が島のように浮かんでおり、そこから時折、天を突くような火柱が上がっている。おそらく、あそこが火竜の巣だ。

「……嘘だろ」
 ゴードンが、絶句した。
「どうやって、あそこまで行けってんだよ……。空でも飛べなきゃ、無理じゃねえか」
 彼の言う通りだった。溶岩の川とは規模が違う。ここを渡る手段は、常識的には存在しない。

 ミモリさんも、不安そうな顔で、広大な溶岩湖を見つめている。
「リクさん……何か、方法はありますか……?」
 彼女は、もはや僕が何か非常識な解決策を提示することを、期待しているようだった。その信頼に応えなければならない。

「ええ、道はあります。ただし、湖の上ではありません」
 僕は、きっぱりと告げた。
「この、下にです」

 僕は、僕たちが立っている断崖絶壁の足元を指さした。
「先ほど話した、ラバチューブ。僕の調査によれば、この溶岩湖の真下を、巨大なラバチューブが貫いているはずです。おそらく、この湖を形成した大噴火の際にできたものでしょう。それを使えば、安全に、そして誰にも気づかれずに、対岸の島までたどり着けるはずです」

「湖の下を、トンネルで進む……だと……?」
 ゴードンは、僕の作戦のスケールに、もはや驚くことを通り越して、呆れたような顔をしている。
「リク、あんたの頭の中は、一体どうなってんだ……」

 僕は、彼の言葉をスルーし、ラバチューブへの入り口を探し始めた。壁面をくまなく《鑑定》し、内部に空洞が存在する、構造的に脆い部分を探し当てる。

「ここです。この壁の向こうが、ラバチューブに繋がっています」
 僕は、黒曜鋼のつるはしを構えた。
「【地形編集】で、入り口を啓けます」
「おお、待ってました!」
 ゴードンは、もはや僕の行動を止める気はないらしい。むしろ、これから何が起こるのか、ワクワクしているようにさえ見える。

 僕がつるはしで岩盤の弱点を一突きすると、スキルが発動し、壁に人が通れる大きさの、滑らかなトンネルが音もなく開いた。トンネルの奥からは、ひんやりとした空気が流れ出してくる。

「行きましょう。中は暗いでしょうが、僕が先導します」
 僕たちは、その天然の地下道へと、足を踏み入れた。
 内部は、僕の予想通り、巨大な洞窟になっていた。天井や壁は、溶岩が冷え固まった独特の、なめらかな形状をしている。時折、天井から溶岩の雫が固まった「溶岩鍾乳」が垂れ下がり、幻想的な光景を作り出していた。

「す、すごいです……! こんな場所が、地下にあったなんて……!」
 ミモリさんは、周囲を興味深そうに見回している。

 僕もまた、興奮を隠せなかった。こんな見事なラバチューブを調査できる機会など、現実ではまずありえない。僕は壁面を《鑑定》し、溶岩が流れた痕跡や、冷却される過程で形成された鉱物の結晶などを、夢中でノートに記録していった。

 その時、僕の鑑定スキルが、壁の一部に埋もれた、異質な鉱脈を捉えた。
【名称】:灼炎石(しゃくえんせき)
【種別】:希少鉱石
【概要】:マグマの熱と魔力が、特定の条件下で融合して生まれる伝説の鉱石。極めて高い耐熱性と、魔力伝導性を併せ持つ。武具や装飾品に加工すれば、最上級の性能を発揮する。

「これは……! なんという代物だ……!」
 僕は、つるはしで慎重にその鉱石を掘り出した。手のひらに乗るほどの大きさだが、内側から淡い炎が揺らめいているように見える。この鉱石の存在は、おそらくまだ誰にも知られていないだろう。これは、とんでもない発見だ。

 僕たちが、このラバチューブの調査と、思いがけない発見に心を躍らせていた、その時だった。

 グオオオオオオォォン!

 トンネルの遥か先、出口の方角から、地を揺るがすような、巨大な竜の咆哮が響き渡ってきた。
 間違いない。火竜だ。

 そして、それだけではなかった。
 咆哮に混じって、微かに、しかし確かに聞こえてくる。
 爆発音。金属音。そして、人々の怒号。

「……誰か、先に戦っているのか?」
 ゴードンが、険しい表情で呟いた。

 どうやら、この灼熱の渓谷に挑んでいる物好きは、僕たちだけではなかったらしい。
 そして、この高難易度エリアに、僕たちとほぼ同じタイミングでたどり着けるパーティーなど、ごく限られている。

 僕の脳裏に、一つの名前が浮かび上がっていた。
 このサーバーに君臨し、全てを支配しようとする、最大手ギルド。

「――《絶対王権》か……」

 ゴードンの呟きが、僕の推測を裏付けた。
 僕たちは、顔を見合わせる。この先に待つのは、伝説の火竜だけではない。もしかしたら、それ以上に厄介な、人間という名の敵かもしれない。
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