不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

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第十八話 王への見せ札、地質学者の誘導路

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 僕たち三人と、一体の神話。
 広大な溶岩湖を背にした火竜が、その灼熱の瞳で僕たちを新たな敵として認識した。その巨体から放たれるプレッシャーは、先ほどまでの比ではない。カイザーという最大の敵がいなくなったことで、その怒りの矛先が、完全に僕たちへと集中しているのだ。

「グオオオッ!」

 咆哮と共に、火竜が動いた。狙いは、最も前にいる僕。その口から、プラズマの奔流が一直線に放たれる。

「させるかよ!」
 僕の前に、鋼鉄の壁が割り込んだ。ゴードンだ。彼は僕を背後にかばい、タワーシールドを構えてブレスを受け止める。
「リク! ミモリ! 約束通り、こいつは俺が引きつける! あんたは、好きにやれ!」
「お願いします!」

 僕はゴードンの広い背中に全幅の信頼を寄せると、すぐさま行動を開始した。
 誘導作戦。口で言うのは簡単だが、相手は空を飛ぶこともできる伝説の竜だ。小手先の挑発で、素直に僕たちの後をついてきてくれる保証はない。
 ヤツを、この「陸地」に縛り付け、そして僕たちが望むルートを通らせる。そのためには、ヤツにとって「魅力的」で、かつ「それしか選べない」道筋を提示する必要があった。

「ミモリさん、ゴードンさんへの回復支援を! そして、僕の足元に注意してください!」
「はい!」

 僕は、ラバチューブの入り口へと背を向け、広大な溶岩湖へと向き直った。そして、右手を湖面へと突き出す。
「ユニークスキル【地形編集】――《造成》!」

 僕のスキルに呼応し、溶岩湖の表面が、ごぼりと音を立てて盛り上がった。摂氏千度を超える溶岩が、まるで生き物のように蠢き、僕の目の前に、黒い岩の足場を形成していく。
 これは、溶岩の表面が冷えて固まった薄い層――溶岩クラストを、スキルによって強制的に冷却・増厚させたものだ。脆く、不安定で、長くはもたない。だが、一時的な「道」としては、これで十分だった。

「リク、お前、何を!?」
 ゴードンが、驚愕の声を上げる。
「退路を断つんです! そして、火竜に『こちらへ来るしかない』と思わせる!」

 僕は、僕たちが今立っている島と、ラバチューブの入り口とを繋ぐ最後の陸地を、あえて《破壊》スキルで崩落させた。これで、僕たちも火竜も、この孤立した岩の上に取り残されたことになる。

 僕の意図を察したのか、火竜の瞳に、人間のような理知の光が宿った。翼を広げ、空から攻撃すればいいものを、ヤツはあえてそうしなかった。それは、僕たちという矮小な存在が、自分の領域で小賢しい真似をすることへの、王としてのプライドなのかもしれない。

 火竜は、僕が創り出した不安定な足場へと、その巨大な前足を一歩、踏み出した。
「ゴードンさん、ミモリさん、行きますよ!」
 僕は、次々と新たな足場を溶岩湖の上に生成しながら、ラバチューブの入り口へと向かって走り出した。ゴードンとミモリさんも、慌てて僕の後に続く。

 僕たちの背後から、地響きを立てて火竜が追ってくる。僕が作った足場は、火竜の巨体を支えきれず、一歩踏みしめるごとに端から崩落していく。まさに、綱渡りのような逃走劇だった。

「リク、足場が! 早すぎんだろ!」
「計算通りです! ヤツに、考える暇を与えない!」

 僕は、逃げながらも常に周囲の地形を《鑑定》し、最短かつ、最も効果的なルートを構築していく。島の岩壁の脆い部分を《破壊》して新たな通路を作り、火竜が通り抜けた瞬間に、その通路を再び《造成》で塞いで退路を断つ。

 誘導。それは、僕が戦場全体を巨大なパズルとして捉え、リアルタイムでそのピースを組み替えていく、神の視点にも似た作業だった。

 一方、その常識外れの光景を、ラバチューブの入り口から見下ろす者たちがいた。
「……馬鹿な。溶岩の上に、道を創っているだと?」
「あれは魔法なのか? いや、違う。もっと根源的な、世界の理に干渉しているような……」
「信じられん。あの男、一体何者なのだ……」

 《絶対王権》の精鋭たちが、言葉を失って僕の行動を見つめている。彼らの常識では、到底理解できない現象。それは、僕が持つ地質学という「異世界の知識」と、それを具現化する【地形編集】というユニークスキルが融合して初めて成しえる、唯一無二の奇跡だった。

 カイザーは、腕を組んだまま、黙してその光景を見つめていた。彼の蒼い瞳には、もはや侮蔑の色はない。あるのは、純粋な驚愕と、理解を超えた存在に対する、わずかな焦り。そして、その奥底には、自分以外の者が世界の理を支配することへの、暗い嫉妬の炎が揺らめいていた。

「くっ……!」
 逃走の最中、火竜の尻尾によるなぎ払いが、ゴードンのシールドを弾き、僕のすぐそばの岩壁を砕いた。その破片の一つが、僕の肩を掠める。

【リクは250のダメージを受けた】
「リクさん!」
 ミモリさんのヒールが即座に飛んできて、HPが回復する。彼女がいなければ、一瞬のミスも許されない。僕たちは、完璧な信頼関係の上で、この危険な綱渡りを続けていた。

 そして、ついに。
 僕たちの目の前に、ラバチューブの巨大な入り口が見えてきた。ゴールは目前だ。

「火竜め、俺たちのテリトリーに誘い込んでやるぜ!」
 ゴードンが挑発するように叫び、トンネルの中へと飛び込む。ミモリさんもそれに続いた。

 だが、火竜は、最後の最後で警戒心を見せた。暗く、狭い洞窟。そこが、自分にとって不利な場所であることを、本能で感じ取ったのだ。ヤツは入り口の前で立ち止まり、僕を睨みつけながら、再びその口に灼熱のプラズマを溜め込み始めた。

 まずい。ここで最大級のブレスを撃たれれば、僕だけでなく、トンネル内にいるゴードンやミモリさん、そして待ち構えている《絶対王権》のメンバーたちも無事では済まない。

 僕は、最後の切り札を切る覚悟を決めた。
「カイザーさん!」
 僕は、入り口の上で戦況を見守る王に向かって叫んだ。
「あなた方が立っているその足場! それごと、この入り口を塞いでください!」

「……何だと?」
 カイザーが、怪訝な声を上げる。
「このラバチューブの入り口は、元々一つの巨大な岩盤でした。あなた方が立っているのは、その上半分。つまり、天井部分です! そこを崩落させれば、火竜を完全に閉じ込めることができる!」

 それは、僕だけでなく、カイザーたち自身をも危険に晒す、諸刃の剣の作戦だった。
 カイザーは、一瞬、僕の真意を測りかねるように目を細めた。だが、彼はすぐに決断を下した。この男は、勝利のためなら、リスクを厭わない。

「面白い! 貴様の狂気に、乗ってやろう!」
 カイザーは、不敵な笑みを浮かべると、彼の持つ蒼炎の剣を、自らの足元へと突き立てた。
「全軍、衝撃に備えろ! この竜を、ここで狩るぞ!」

 その言葉を合図にするかのように、火竜が最後のブレスを僕に向かって放った。
 僕は、迫り来る死の光を前にして、最後のスキルを発動する。

「【地形編集】――《破壊》!」

 僕が狙ったのは、火竜でも、カイザーでもない。
 この空間全体を支える、地質学的な「キーストーン」。
 僕の最後の一手が、神話の戦いに、終止符を打つ引き金となる。
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