不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

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第十九話 王の決断と崩落の策

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 死が、光の奔流となって僕に迫る。
 火竜が放った最後のブレスは、これまでとは比較にならないほどの密度と熱量を宿していた。直撃すれば、レベル25の僕など、光の粒子に分解される時間すらなく、一瞬で蒸発するだろう。

 だが、僕の心は、不思議なほど凪いでいた。
 僕の視線は、迫りくるプラズマではない。この空間全体、その構造の歪み、そして、ただ一点の「脆さ」に集中していた。

「――《破壊》!」

 僕の最後のMPが、スキルへと変換される。
 それは、火竜を倒すための一手ではない。カイザーを助けるための一手でもない。僕たち三人が、この絶望的な状況を生き延び、そして勝利を手にするための、唯一解。

 僕のスキルが狙ったのは、僕と火竜の間にある空間ではない。僕が立っているこの足場、そのさらに下。先ほど僕がラバチューブの調査中に発見していた、もう一つの、より小規模な空洞との境界線だ。

 ほぼ同時に、僕の頭上、ラバチューブの入り口の上部に立つカイザーが、その蒼炎の剣を自らの足元へと深々と突き立てた。彼の顔には、狂気と歓喜が入り混じった、王者の笑みが浮かんでいた。
「面白い! 貴様の狂気に、乗ってやろう!」

 二つの破壊が、同時に、そして完璧なタイミングで連鎖した。

 まず、僕の足元が、音もなく崩れ落ちた。僕は、迫りくるブレスから逃れるように、下の階層へと落下していく。灼熱のプラズマは、僕がいた空間を虚しく薙ぎ払い、背後の岩壁を溶かして巨大なクレーターを穿った。

 そして、次に。
 カイザーの一撃と、僕が仕込んでいた天井部分への《破壊》スキルが相乗効果を引き起こし、ラバチューブの入り口全体が、ミシミシと悲鳴を上げた。
 巨大な亀裂が走り、天井を構成していた何百トンもの岩盤が、巨大な一つの「蓋」となって、ゆっくりと、しかし確実に、下方へと崩落していく。

 ゴゴゴゴゴ!

 凄まじい地響きと轟音。火竜は、迫りくる巨大な岩盤の天井に気づき、最後の抵抗とばかりに咆哮したが、もう遅い。
 ラバチューブの入り口は、巨大な岩盤によって完全に塞がれ、僕たちがいた空間は、外界から完全に遮断された、暗黒の墓標と化した。

 僕は、落下しながらもミモリさんがかけてくれた浮遊魔法のおかげで、下の階層に軟着陸していた。ゴードンとミモリさんが、すぐに駆け寄ってくる。
「リク! 無事か!」
「よかった……本当に、よかった……!」

 僕たちが安堵したのも束の間、完全な闇が訪れた。光源であった溶岩湖は、今はもう分厚い岩盤の向こう側だ。

「ちっ、真っ暗で何も見えねえ!」
 ゴードンの焦った声が響く。その時、頭上から、静かだが威厳のある声が聞こえた。
「慌てるな。明かりくらい、どうとでもなる」

 声の主は、カイザーだった。彼と彼のギルドメンバーたちも、崩落の衝撃を乗り越え、この暗闇の中で体勢を立て直していた。彼らの持つ魔法のアイテムか、あるいはスキルか、ぼんやりとした光がいくつか灯り、周囲の様子がうっすらと見えてくる。

 巨大な洞窟と化したラバチューブ。その中央には、閉じ込められたことに気づき、怒りと混乱で暴れ狂う火竜のシルエットが浮かび上がっている。
「グオオオオ!」
 ヤツはブレスを吐き、翼を広げようとするが、狭い洞窟ではその巨体が仇となり、壁や天井にぶつかって動きを阻害されている。そして何より、エネルギー源であった溶岩湖から切り離されたことで、その体表を覆う炎の勢いが、明らかに弱まっていた。

「見事だ、地質学者の小僧」
 カイザーの声には、初めて、純粋な賞賛の色が混じっていた。
「貴様の言う通り、ヤツは弱体化している。これならば、狩れる」

「ですが、この暗闇では、あなた方も万全ではないでしょう」
 僕は、静かに返した。そして、懐から、先ほど採掘した『灼炎石』を一つ取り出す。
「明かりなら、僕が用意します」

 僕は、スキルで壁の一部に小さな窪みを作り、そこに灼炎石をはめ込んだ。すると、石は周囲の魔力に反応したのか、たいまつのように、安定したオレンジ色の光を放ち始めた。
「なっ……! あれは、伝説の灼炎石!?」
 《絶対王権》のメンバーの一人が、驚きの声を上げる。

 僕は構わず、洞窟内の壁の数か所に、同じように灼炎石を設置していく。やがて、洞窟全体が、まるで古代の神殿のように、荘厳な光で満たされた。戦場は、完全に整った。

 カイザーは、僕の用意した照明を見つめ、そして、僕の顔を見つめた。その瞳には、もはや理解不能なものを見る色はなかった。代わりに、一つの獲物を見るような、強い独占欲と執着の光が宿り始めていた。
「どこまで、俺を驚かせれば気が済むのだ、貴様は……」

 彼はそう呟くと、蒼炎の剣を構え直し、全軍に号令した。
「総員、最終戦闘準備! タンクは前へ! ヒーラーは陣を組め! アタッカーは、俺の合図で一斉に叩き込む! この神話に、我々が終止符を打つのだ!」

 「オオオ!」と、《絶対王権》の雄叫びが洞窟に響き渡る。
 ゴードンも、僕の隣でタワーシールドを構えた。
「へっ、あいつらだけにいい格好はさせられねえな。リク、指示をくれ。どこで受け止めりゃいい?」
「中央です。僕が、時々足場を崩してヤツの体勢を乱します。その隙を突いてください」
「了解だ!」

 僕とゴードン、ミモリさん。そして、カイザーと《絶対王権》。
 本来なら決して交わることのなかった二つの力が、今、一つの目的のために共闘する。

 カイザーの号令で、最後の戦いが始まった。
 弱体化したとはいえ、火竜の力は絶大だ。だが、狭い洞窟内では、その攻撃は単調にならざるを得ない。ゴードンと《絶対王権》のタンク部隊が形成した分厚い壁は、その猛攻を完璧に受け止めてみせた。

 ミモリさんと《絶対王権》のヒーラー部隊が、寸分の隙なく回復魔法を飛ばし、戦線を支える。
 そして、僕が、戦いの流れを決定づける。
「――今です!」
 火竜が大きく振りかぶった瞬間、僕はヤツの軸足の下の岩盤を《破壊》した。体勢を崩し、巨大な隙を晒す火竜。

「全軍、攻撃開始!」
 その隙を、カイザーが見逃すはずがなかった。
 無数の魔法と矢が、そして剣士たちの斬撃が、火竜の弱点である腹部に集中する。

 僕が戦場を創り、タンクが耐え、ヒーラーが癒し、アタッカーが仕留める。
 それは、あまりにも完璧で、美しくさえある、破壊の連鎖だった。

 そして、最後の時が来た。
「これで、終わりだ!」
 カイザーは、自ら最前線に躍り出ると、蒼炎の剣に全ての魔力を込めて、火竜の心臓めがけて突き立てた。

 バキィィィン!

 甲高い音と共に、火竜の巨体が大きく痙攣し、その瞳から完全に光が消えた。
 伝説の終焉。

 静寂が訪れる。そして、次の瞬間、ETOの世界にログインしている全てのプレイヤーの視界に、金色のテロップが流れた。

【サーバーアナウンス】
『灼熱の渓谷』の主、古龍アグニ・ヴァリトラが、ギルド《絶対王権》および、プレイヤー『リク』『ゴードン』『ミモリ』によって討伐されました! 討伐者たちに、最大の栄誉と祝福を!

 アナウンスが消えた後、カイザーは静かに僕の前へと歩み寄ってきた。
 彼は、僕の目をじっと見つめると、ゆっくりと口を開いた。
「リク、と言ったな。貴様、俺のものになれ」

 それは、感謝でも、賞賛でも、勧誘でもない。
 まるで、希少なアイテムを手に入れるかのように、当たり前の所有権を主張する、王の言葉だった。
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