不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

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第三十話:次なる舞台へ

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 大型サーバーイベント《天空の遺跡》の開催まで、あと一週間。
 ETOの世界は、来るべき祭典への期待と興奮で、かつてないほどの熱気に包まれていた。プレイヤーたちは、こぞって装備を新調し、ポーションを買い込み、パーティー編成に奔走している。それは、僕たちが拠点とする《クラフトヘイム》も例外ではなかった。

「リク殿! イベント用の特殊な矢じりなんだが、軽さと強度を両立させるには、どんな金属の配合がいいと思うかね?」
「リクさん! 浮遊島は気圧が低いって聞きましたけど、それに合わせたポーションの調合って、何かヒントはありませんか?」

 僕の工房には、連日、街の職人たちが相談に訪れていた。彼らは、僕の地質学や鉱物学の知識が、自分たちの技術を新たなレベルへと引き上げてくれることを、既に知っているのだ。
 僕は、彼らの質問に答えながら、自らもイベントへの準備を着々と進めていた。

「浮遊島という特殊な環境……。まず、考えられるのは、風の影響です。強風下での行動を安定させるため、ゴードンさんの盾には、空気抵抗を減らすための加工を施しましょう。バルカンさん、この流線型のデザインで……」
「ほう、面白いことを考える。よし、やってみよう」
「ミモリさんのローブには、風属性の魔法耐性を高めるためのルーンを縫い付けます。裁縫ギルドの皆さん、このルーンの配置パターンが、最も効率的に魔力を循環させられるはずです」
「なるほど! さすがはリクさんです!」

 僕の知識は、もはや僕一人の武器ではなかった。それは、《クラフトヘイム》の職人たちの技術と融合し、僕たちのパーティーを、そして街全体を、着実に強化していった。
 僕たちは、いつの間にか、巨大ギルド《絶対王権》に対抗しうる、もう一つの大きな「流れ」の中心となっていたのだ。

 そんなある日の午後。
 工房のテーブルで、僕は、来るべきイベントの舞台となる「浮遊島群」の、地質学的な考察に没頭していた。
「重力に逆らう巨大な岩塊……。考えられる動力源は、魔法的なものか、あるいは未知の超科学か。いずれにせよ、そのエネルギー源を内包する『核』となる鉱物が、島の中心部に存在するはずだ。その鉱物の性質こそが、この謎を解く鍵になる」

 僕は、ノートに、いくつかの仮説を立てて、その構造図を描いていく。その姿は、ゲームのイベントに備えるプレイヤーというよりは、未知のフィールドへ調査に向かう、学者のそれだった。

「リク、また難しい顔してんなあ」
 ソファで新しい盾を磨いていたゴードンが、呆れたように言った。
「イベントなんて、楽しんだもん勝ちだろ! 難しいことは、行ってから考えりゃいいじゃねえか!」
「ゴードンさんの言う通りですよ、リクさん。たまには、休憩も必要です」
 ミモリさんが、紅茶を淹れて、僕の前にそっと差し出してくれた。その紅茶からは、なぜか微かに、焦げたような香りがした。

 僕は、彼女の心遣いに感謝し、一口だけ紅茶を飲むと(味については考えないことにした)、窓の外に目を向けた。
 活気に満ちた《クラフトヘイム》の街並み。工房で槌を振るう職人たち。そして、隣で笑う、かけがえのない仲間たち。
 僕がこの世界で手に入れた、大切なもの。

(僕が戦う理由は、もはや、単なる探求心だけではないのかもしれないな)

 ふと、そんな感傷が胸をよぎった。この平穏を、僕の知識で守りたい。傲慢な王の支配から、この自由な場所を守りたい。そんな思いが、僕の中に芽生え始めているのを感じていた。

 イベント開催の前日。
 僕たちの準備は、万端に整った。
 ゴードンの盾は、風の抵抗を受け流し、さらに防御時にはアンカーのように地面に固定される特殊な機構が追加された。
 ミモリさんのローブは、風属性だけでなく、浮遊島に満ちているとされる未知の魔力粒子からも身を守る、強力な結界を張ることができるようになった。
 そして、僕のつるはし【ジオ・ブレイカー】も、バルカンによって微調整が施され、浮遊島特有の未知の鉱物にも対応できるよう、鑑定機能が強化されている。

「よし! やれることは全部やったな!」
 ゴードンが、満足げに腕を組む。
「あとは、明日の開幕を待つだけだ!」

 その夜。僕は、工房のベッドで、なかなか寝付けずにいた。
 胸が高鳴っていた。それは、地質学者として、前人未到のフィールドに挑む興奮。そして、一人のプレイヤーとして、このゲームで最も強大な敵との、避けられない決戦に臨む、武者震いだった。

 僕のノートの、最後のページ。
 そこには、イベントの予告情報から読み取れる、浮遊島群の全体図と、僕の地質学的な推論が、びっしりと書き込まれている。
 その図の中心には、ひときわ巨大な、古代文明の神殿が浮かぶ中央島。
 その特異な地形、ありえない地質構造。その全てが、僕の探求心を、強く、強く惹きつけていた。

(待っていろ、カイザー。そして、天空の遺跡)

 僕は、心の中で呟いた。
 この戦いは、どちらが強いか、という単純な力比べではない。
 どちらが、この世界の理を、より深く理解し、味方につけることができるか。そういう戦いだ。

 そして、その分野において、僕が誰かに負けることなど、ありえない。

 翌朝。
 ETOの世界に、イベントの開幕を告げる、高らかなファンファーレが鳴り響いた。
 僕たち三人は、工房の前で顔を見合わせ、力強く頷きあう。

「さあ、行こうぜ! 天空の散歩としゃれこもうじゃねえか!」
「お二人とも、準備はいいですか?」
「ええ。最高の調査になりそうです」

 僕たちの、新たな冒険の舞台。
 そして、《絶対王権》との、最初の全面対決の舞台となる、天空の浮遊島群。
 その特異な大地が、僕たちの到着を、静かに待ちわびている。僕たちが、そこで、この世界の常識を、そして空と大地の法則すらも、根底から覆すことになる壮絶な戦いを繰り広げることを、まだ誰も予感してはいなかった。
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