不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

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第四章:浮遊島の決戦

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第三十一話:天空の遺跡、開幕

 正午。エリュシオン・テラの世界の全ての空に、荘厳なファンファーレが鳴り響いた。それは、待ちに待った大型サーバーイベント《天空の遺跡》の開幕を告げる、始まりの合図だった。
 各都市の中央広場には、巨大な蒼い光を放つ「天空への転移門(アークゲート)」が出現。我こそはと待ち構えていた無数のプレイヤーたちが、鬨の声を上げながら、次々とその光の中へと吸い込まれていく。

「よし、行こうぜ! 乗り遅れるなよ!」
 ゴードンは、新調した盾【イグニス・ウォール】を背負い直し、子供のように目を輝かせた。
「お二人とも、準備は万全ですか?」
 ミモリさんも、緊張と期待が入り混じった表情で、僕たちを見つめている。
「ええ。最高の地質調査になりそうです」
 僕は、新たな相棒【ジオ・ブレイカー】の感触を確かめながら、静かに頷いた。

 僕たち三人も、他のプレイヤーたちに続いて、クラフトヘイムに出現したアークゲートへと足を踏み入れた。
 全身が光の粒子に分解され、再構築されるような、不思議な浮遊感。
 次に目を開けた時、僕たちの目の前に広がっていたのは、まさに神々の領域と呼ぶにふさわしい、圧倒的な絶景だった。

「うおおおお……!」
 ゴードンが、心の底から感嘆の声を漏らした。
 僕たちが立っていたのは、広大な石造りの台座の上。眼下には、どこまでも続く、純白の雲海が広がっている。そして、その雲海から、大小さまざまな無数の島々が、まるで天に浮かぶ庭園のように点在していた。島と島は、光で編まれたかのような「風の橋」で結ばれ、遠くには、ひときわ巨大な、古代の神殿を頂く中央島が、荘厳な姿で鎮座している。

 吹き抜ける風は、下界とは比べ物にならないほど清浄で、そして強い。僕のローブが、激しく風にはためいた。
 周囲には、僕たちと同じように転送されてきた、何千、何万というプレイヤーたちの喧騒が渦巻いていた。誰もが、この幻想的な光景に圧倒され、これから始まる冒険への期待に胸を膨らませている。

【ようこそ、冒険者たちよ! サーバーイベント《天空の遺跡》へ!】

 天から、壮麗な声が響き渡り、全プレイヤーの視界にイベントのルールが表示された。

====================
【イベント名】:天空の遺跡
【目的】:浮遊島群に点在する五つの「風の祭壇」を起動させ、中央島《天空神殿》への道を啓け。
【ルール】:
・各祭壇は、島の守護者であるボスモンスターを討伐することで起動する。
・貢献度(モンスター討伐、ギミック解除、アイテム発見など)に応じて、イベント終了後に報酬が与えられる。
・エリア内でのPK行為にペナルティはない。死亡した場合、スタート地点からのリスタートとなる。
====================

「PKペナルティなし、か。こりゃ、荒れるな」
 ゴードンが、面白そうに呟いた。
 彼の言葉通り、このルールは、プレイヤー間の競争と衝突を激化させるだろう。

 その時だった。
 スタート地点の空気が、一変した。喧騒が、まるで潮が引くように静まり返る。
 プレイヤーたちの視線が、一斉に、アークゲートの一点に集中した。
 そこから、他のプレイヤーとは明らかに違う、圧倒的な威圧感を放つ一団が、姿を現したのだ。

 統一された白銀の鎧。背中に刻まれた、王冠と剣の紋章。その数、実に三百名以上。
 ――《絶対王権》。
 サーバーの絶対王者が、その威容を、全プレイヤーの前に見せつけるように、降臨した。

 彼らは、モーゼの奇跡のように、自然と開かれたプレイヤーたちの人垣の中を、悠然と進み出る。
 そして、その先頭に立つのは、やはり、あの男だった。
 プラチナブロンドの髪を風になびかせ、蒼炎の剣を携えた、ギルドマスター、カイザー。

 彼は、集まった全プレイヤーを見渡すと、そのよく通る声で、高らかに宣言した。
「この地に集いし、全てのプレイヤーに告ぐ。俺は、《絶対王権》が主、カイザー。このイベントは、我々が制覇するために用意された、ただの舞台に過ぎない」
 その言葉は、絶対的な自信に満ち溢れていた。
「我々の進む道を、賢明にも譲る者には、慈悲を与えよう。だが、愚かにも、我々の覇道に立ちはだかる者がいるならば――」

 カイザーの蒼い瞳が、群衆の中に立つ、僕たち三人を、正確に捉えた。
「――この天空から、一片の塵も残さず、叩き落とすことになるだろう。せいぜい、楽しませてくれることを期待しているぞ、『反逆者』よ」

 それは、僕たちに対する、明確な宣戦布告だった。周囲のプレイヤーたちが、ざわめきながら僕たちを見る。
「はっ、上等じゃねえか。やってみろってんだ」
 ゴードンは、一歩も引かずにカイザーを睨みつけた。

 カイザーは、僕たちの反応に満足したようにフッと笑うと、踵を返した。
「行くぞ! 我々の力を、愚民どもに見せつけてやれ!」
 《絶対王権》の軍勢は、完璧に統率された動きで、最初の浮遊島へと続く、最も大きな「風の橋」へと進軍を開始した。

「さて、僕たちも行きましょう」
 僕は、カイザーの挑発を意に介さず、自分のノートを開いた。
「カイザーたちは、最も安全で、最短のルートを進むはずです。僕たちは、別のルートを取りましょう。地質学的に、より興味深い、こちらのルートを」
 僕が指さしたのは、誰もが進むのをためらうような、険しい岩場が続く、マイナーなルートだった。

 僕たちは、小さな風の橋を渡り、最初の浮遊島へと向かった。
 だが、その橋の中ほどで、早速、カイザーからの「試練」が僕たちを待ち受けていた。

「ヒャッハー! 反逆者様のお通りだぜ!」
 橋の向こう側で、道を塞ぐように立っていたのは、《絶対王権》の下位メンバーと思わしき、十数名のプレイヤーだった。彼らは、下卑た笑みを浮かべ、僕たちを挑発してくる。
「この橋を通りたければ、俺たちを倒してみな!」
「うおっ、早速うぜえのがいやがった!」
 ゴードンが盾を構えるが、敵の狙いは、まともな戦闘ではなかった。

 彼らは、橋の欄干を叩いたり、振動系のスキルを使ったりして、僕たちが渡る風の橋を、意図的に、そして執拗に揺らし始めたのだ。
「うわっ!」
 ミモリさんが、体勢を崩してよろめく。
 これは、僕たちを倒すためというよりは、足止めをし、その間に本隊との差を広げるための、嫌がらせだ。

「ちまちまと、うっとうしい!」
 ゴードンが突進しようとするが、揺れる橋の上では、思うように動けない。

 僕は、そんな彼らの妨害工作を、冷静に観察していた。
(なるほど。橋という、一本道で、不安定な足場を利用した戦術か。合理的ではある)
 だが、僕にとって、道とは、誰かが作ったものの上を歩くことだけを意味しない。

「ゴードンさん、ミモリさん。もう、この橋を渡るのはやめにしましょう」
「はあ? じゃあ、どうするんだよ!」
「道を、創ります」

 僕は、僕たちがいる橋のすぐ横に浮かぶ、本来のルートではない、小さな岩の塊に目をつけた。直径十メートルほどの、何の変哲もない浮島だ。
 僕は、その岩塊を《鑑定》し、その内部構造、材質、そして、それを浮かばせているであろうエネルギーコアの安定性を、瞬時に分析した。
(……問題ない。安定性は十分だ)

 僕は、右手を、その小さな浮島へと向けた。
「え? リクさん、何を……?」
 ミモリさんが不思議そうな顔をする。
 橋の上で妨害を続けていた《絶対王権》のメンバーたちも、僕の奇妙な行動に、一瞬だけ動きを止めた。

「【地形編集】――《造成》!」

 僕のスキルに呼応し、僕たちが立っている橋の縁から、岩が、まるで生き物のように伸び始めた。それは、空中に、新たな「道」を構築していく。
 数秒後。僕たちの足元と、先ほどの小さな浮島との間に、頑丈な「岩の橋」が、架けられた。

「なっ……!?」
 橋の上で妨害していた連中が、信じられないものを見る目で、僕が創り出した新たなルートを見つめている。
「ば、馬鹿な! 道が、勝手に……!」

「さあ、行きましょう。こっちの道のほうが、安全なようです」
 僕は、呆然とする彼らを尻目に、ゴードンとミモリさんを促し、自らが創り出した岩の橋を渡り始めた。
 僕たちは、彼らが塞いでいた橋を完全に無視し、独自のルートを開拓して、最初の浮遊島へと、悠々と上陸した。

 その、あまりにも常識外れの光景を、遥か先の浮遊島から、カイザーが、魔法の望遠鏡を通して、じっと見つめていた。
「……道を、創る、か」
 彼の口元に、不敵な、そして、獲物を見つけた狩人のような笑みが、深く刻まれた。
「やはり、面白い。このイベント、退屈せずに済みそうだ」

 絶対王者との、知略と奇策がぶつかり合う、壮大な鬼ごっこ。その火蓋が、今、静かに切って落とされた。
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